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最高のセールス営業マンになる方法
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はじめに
まず本書に投資していただいたことに感謝申し上げたいと思います。
本書にはあなたがセールスの世界で成功者になる為の秘訣を全て集約したつもりです。
ここにある情報を活用すれば必ず成功出来る、私はそう確信しています。
そしてあなたは本書に投資していただいたことで、すでに最初の一歩を踏み出しています。
この第一歩をあなたは後ほど振り返って、必ず本当に重要な第一歩だったと思うはずです。
ここで私はあなたに成功を築く為のツールを提供しますが、それはあくまでもツールを提供するだけであって、どう活かすかをあなたに強要することは出来ません。
けれどもこれからお話しすることに対して心を傾け、一生懸命取り組んでいただきたいと思います。
それがあなたを成功に導きます。
「優れたセールスマン」には一流の風格が備わっています。
これはセールスマンに限らずあらゆる分野において一流の域に達した人というのは、その物腰、言葉などに一流だという風格が備わるものです。
例えばテレビに登場する人間国宝といわれる人などを見ると、違いがはっきり分かります。
もちろん実際にこの域に到達出来る人はほんの一握りですし、セールスマンは人間国宝までなる必要はありません。
優れたセールスマンになる方法というのは、大学に行っても学ぶことは出来ません。
事実これまで私が出会った最高のセールスマンには大学どころか、高校の卒業証書すら持っていない人もいました。
セールスの世界では学歴がものを言うのではない、つまり大学の学位によって稼げる額が決まるものではないのです。
そもそも大学卒がまだ珍しかった昭和初期ならともかく、現代の様に誰もが大学に行く様になって、その結果分数計算もまともに出来ない大学卒がいる時代では、大学卒の肩書きそのものがあまり役にはたちませんね。
セールスマンの世界で成功するのは「人柄」、「センス」そして「努力」です。
それが備わっている人は学歴などには関係無く成功を納めることが出来ます。
一応成功と言えるレベルまで到達すれば、セールスマンほど良い仕事はありません。
あなたはこれまでフルタイムで働いても給料が今ひとつだと感じたことはありませんか?
私も1週間身を粉にして働いても、4~5万円ほどしか稼げない頃がありました。
月給に換算すれば16~20万円というところですから、あまり多いとはいえませんね。
私の場合仕事内容と給料がマッチしていないと感じたので、上司にもっと給料の高いポジションをお願いしたのですが、そこにはいつも大学学位の壁が立ちはだかりました。
それではあなたがセールスマンになればいくら稼げるのでしょうか?
それをお教えすることは私には出来ません。
なぜならばセールスマンの報酬は売上に応じて支払われる歩合給が基本ですので、下はゼロから上は青天井になるからです。
サラリーマンではなく1人1人が個人事業主のアメリカと違って、日本のセールスマンの場合は社員として会社に所属するのが一般的ですので、低い額ですが一応固定給も支払われることが多い様です。
ですから最低でも収入がゼロということはありませんが、ただ毎月固定給だけで歩合級がゼロのセールスマンは生活が出来ませんし、それにいたたまれないので辞めて行きます。
例えば昔生命保険のセールスレディと言えば主に家庭の主婦の仕事でしたが、入社した新人セールスレディが3ヵ月を過ぎるとほとんど辞めてしまうのはその為ですね。
セールスマンという仕事はその仕事の内容によっては、自分の好きな時間に働けるものもあります。
と言うよりもオール歩合級の場合は通常その会社との関係は「業務委託」になりますので、会社の勤務時間には縛られないのが当然です。
雇用関係の無い人間に対して毎日8時間勤務を要求し、他の固定給のサラリーマンと同じ出勤、退社時間を守りなさいというのはおかしいですよね。
ですからセールスマンは基本的には自営業者ですから自由勤務です。
私も週に1日だけ8時間ほど仕事をして30万円近くも稼いだことがあります。
ただその時は翌週までに全部使い切ってしまうという、悪い習慣が付いてしまいました。
週休6日は最高ではありますが働いている感覚が無くなりますので、あなたにはあまりお勧め出来ません。
同じ意味からはひと頃大きな問題になった「日雇い派遣」も、長く続けるものではありませんね。
もっとも日雇い派遣というのは法律で禁じられる方向に向かっている様ですが・・・・・・。
やはりその会社とは雇用関係の無い歩合給セールスマンでも、毎日コツコツと地道に働きましょう。
その努力が近い将来の売上にも活きて来ます。
実際にトップセールスマンと言われる様な人の1ヵ月当りの労働時間を聞くと、普通のサラリーマンで言えば毎月100時間近い残業をしているのと同じ位働いています。
なにしろ彼は個人商店の店主と同じで、仕事の都合次第では土日・祝祭日も働いていますから・・・・・。
但し、誰かから強制されて働いているのではなく、自分の意思で働いているところは普通のサラリーマンとは違います。
同じ様に長時間働くにしても誰かから強制されて働くのと、自分の意思で働くのでは疲労感が全く違って来ます。
品質の良い優れた商品であれば、自然と人は買ってくれると思っているセールスマンは多い様です。
これは間違っているとは言いませんが、しかし必ずしも正解とも言えません。
そもそもあなたはどうやってお客さんにその商品の品質が優れていることを理解してもらいますか?
「自分が商品をよく理解して一生懸命説明をする」・・・・・?
そんなことはあなたのライバルのセールスマンも同じことをしています。
現代は様々な商品が市場に溢れて飽和状態になっている時代です。
しかもその商品を作っているメーカーは皆大変な開発費を掛けて商品を開発し、品質にはそれぞれ自信を持っています。
ものがあれば多少品質が悪くても売れた終戦直後と違って、今の世の中では商品の品質が良いのは顧客にとっては当り前のことなのです。
つまり品質だけではお客さんの購買意欲は刺激されません。
ではどうすれば良いのでしょうか?
それは商品ではなくあなたを買ってもらうのです。
ですからあなたは商品と同時にあなた自身を売り込まなくてはなりません。
同じ商品が数ある中からあなたの勧める商品をお客さんが買ってくれたのは、お客さんは商品ではなくてあなたというセールスマンを買ってくれたのです。
そしてお客さんは優れたセールスマンのことはいつまでも覚えてくれます。
私もずいぶん前に出会ったのに今でも覚えてくれている、そんなお客さんに時々出くわします。
この様に商品を売るということは知識や理屈では無い部分が多々あるのですが、ただそうかと言ってセールスマンに学習は必要無いかと言えばそんなことはありません。
商品知識はもちろんのこと、セールスの基礎に付いてもきちんと学んでおく必要があります。
セールスの基礎となるのは一種の心理学の分野になります。
つまりある事に対する人の脳の働きと、その反応について知っておくことが大変重要になります。
昔から消費者の購買行動の心理についてはいろいろと研究されていて、有名なところでは「アイドマ(AIDMA)の法則」というものがあります。
これはセールスマン研修などではよく出て来る法則ですので、ご存知の方も多いと思います。
アイドマ(AIDMA)の法則というのは人間が商品を購入するまでの心の動きを時系列的に表したもので、次の様な心の動きの頭文字をとったものです。
A(Attention:アテンション=注意を引く)
I (Interest:インタレスト=興味をもつ)
D(Desire:デザイア=欲求をもつ)
M(Memory:メモリー=記憶する)
A(Action:アクション=行動、購買する)
ただこの様な人間の心の動きも時代と共に変化し、インターネットが普及した現代では「Desire:デザイア=欲求をもつ」と「Memory:メモリー=記憶する」が無くなって、そのふたつの部分が「S(Search:サーチ=HP検索、評価チェック)」となり、更に最後に「S(Sher:シェア=意見共有)が加わって、「AIDMA」が「AISAS」になると言う説もあります。
つまり次の様になるわけです。
A(Attention:アテンション=注意を引く)
I (Interest:インタレスト=興味をもつ)
S(Search:サーチ=HP検索、評価チェック)
A(Action:アクション=行動、購買する)
S(Sher:シェア=意見共有)
本書では顧客の潜在意識に働きかけるテクニックについてもお話して行きます。
実はあなたのちょっとした行動やミスでも、お客さんの購買心理に非常に大きな影響を与えることがあります。
例えば契約をまとめる段階になって契約書を取り出して必要事項を書こうとしたら、ボールペンのインクが切れていたなんてことがあったとします。
うっかりしているとよくあることですが、たったそれだけのことで、ここまで順調に進んで来た取引が危うくなってしまうことを、あなたは知っていますか?
あなたがそこでお客さんに「ボールペンのインクが切れているので、すみませんがボールペンを貸していただけませんか?」とお願いしたとします。
お客さんは多分快く承知してボールペンを取りに奥の部屋に入って行くと思いますが、問題なのはここでそれまでとは異なるアクションを取ることで、お客さんが冷静になってしまうことです。
多くの場合お客さんはボールペンを持って戻っては来たものの、「すみませんがやはり今夜一晩もう一度考えてみますので、契約書は置いて行ってください」ということになってしまいます。
この時の「一晩考えてみます」はお客さんの逃げ口上で、多くの場合はもう購買意欲は無くなっています。
セールスマンの最大の敵、それは恐れと不安です。
何が恐ろしくて不安なのかというとそれは「断られること」です。
私もセールスを始めた頃は断られるのが怖くてビクビクしながら、相手に買ってくださいと頼んでいました。
しかし断られてもがっかりしてはいけません。
立場を変えてよく考えてみてください。
お客様からすればあなたは今日初めて会った赤の他人です。
警戒されるのが当り前で、にっこり笑って「よく来てくれました」と歓迎してくれたら、その方がおかしいのです。
断られるのが好きな人間はいませんがあなたがもしセールスマンを職業として選ぶのであれば、まずこのお客さんの断りを乗り越えて行かなくてはなりません。
私はお客さんの断り文句に対処する方法を覚えた時からセールスマンの仕事が楽しくなり、同時に成績も上がって来ました。
あなたもセールスマンとして、相手のNOの言葉を好きになることをまず学びましょう。
自信を持って言えますが私のセールスの90%は、まずNOを言われることから始まっています。
私がセールスマンとして働いていた会社(掃除機メーカー)ではNOを1千回聞かされても、それはまだ本当のNOでは無いと言われていました。
人というのは自然の反応として、どんな事にもまずはNOと言うものです。
それはNOという言葉がYESと言うよりはずっと簡単だからです。
YESという言葉は相手と何等かの約束をする言葉で、約束をすればそれを果たす義務が生じて来ます。
当然それは負担であり煩わしいことなので、取りあえずはNOと言っておこうと考えるのが人間の自然な心理です。
つまり人は約束することを自然と恐れる生き物なのです。
相手のNOを恐れるのはNOと言われることで、自分が不安な気持ちになるからです。
人間は仲間外れを嫌う動物でもあります。
これは太古の昔肉食獣が横行する世界でひ弱な人間が生きて行く為には、仲間と力を合わせるしか選択肢が無かったからです。
その時代の仲間外れは即、死を意味していました。
ですから人間は自分が仲間である人間から拒否されたり否定されたりすることを、本能的に恐れます。
あなたが制服の無い小学校に通っていた頃を思い出してみましょう。
服装を自然とまわりに合わせていませんでしたか?
派手で目立つ洋服などは多分着なかったのではありませんか?
それは周りの友人の中で浮いた存在になるのが嫌だったからではないでしょうか?
どんな形であれ人は拒否の言葉は聴きたくないものです。
本書では顧客が投げて来るあらゆる否定的な言葉をも、乗り越える方法についてもお話しして行きます。
相手のNOを好きになることを学びましょう。
私はどんなに否定的な言葉を投げかけられても、最後はそれをお客さんの購買に結び付ける自信があります。
なぜならお客さんに否定的な意見を全て言わせてしまえば、後は買わない口実は無くなるからです。
一般的に人は何かを売り込まれるのが好きではありません。
例えば売場にやって来て品定めをしているお客さんに、店員が話しかけるタイミングが難しいと言われるのはその為です。
私がぜんそく患者に対してその治療薬を販売するとしても、あまりに売り込めば逆に相手は買う意欲を失ってしまいます。
私は「無駄を省く」テクニックをここから編み出しました。
これはテクニックというよりもコンセプトと言うべきでしょう。
セールス全体のステップにわたって適用されるもので、どのように実行していくかは本書で説明して行きます。
非常にシンプルな方法ですが効果は絶大です。
簡単に言うとセールスに際しては出来るだけ少ない言葉で筋道を立て話し、確信を突く話術です。
「売り込む時にはまず打ち解ける為に他愛のない世間話から」、こう考えているセールスマンは多く、私もセールスマンになったばかりの頃はそう信じていました。
セールスをしながら相手の家族全員の名前や職業、休暇中の出来事などはを聞き出して全て把握していました。
ところがそれでお客さんと打ち解けてはみたものの、いざ実際に買ってもらう段階になっても、それを契約に結び付けることが出来ませんでした。
お客さんと親しくなったからといって売れるわけではない、つまり多くのセールスマンが信じているほど、これは役に立つ方法ではないのです。
たったひとつの真実を申し上げましょう。
あなたを優れたセールスマンに出来るのは、あなたしかいないということです。
私はこれから成功に必要な情報を提供していきますが、それをどう活かすかは最終的にはあなた次第です。
有能なセールスマンになる為には何も口が達者になる必要はありません。
ポジティブな態度、それさえあれば十分です。
ポジティブの持つ力
お客さんの家を訪問する、電話をかけようと受話器を取り上げる、あるいはセールスコピーを書く、あなたは毎日様々な販売活動をすると思います。
これは売上を伸ばす為にセールスマンが必ずしなければいけないことで、とても大事なことです。
しかしそれよりも大切なのがポジティブな発想、つまり「ポジティブシンキング」です。
ポジティブシンキングというのは、いかなる時でも自分の能力を最大限に発揮出来る様にしておく為の、自己暗示のテクニックです。
強気の発想、落ち込まない発想、プレッシャーに負けない発想などがこのポジティブシンキングで、その逆の弱気の発想、すぐに落ち込む、プレッシャーに負けるなどは「ネガティブシンキング」といいます。
つまり何時もプラスの発想をするのがポジティブシンキングで、マイナスの発想をするのがネガティブシンキングですね。
但し、人間はどんなにプラス思考で取り組んでも失敗することがあります。
失敗をした時はそれを反省して次に同じ失敗をしないことが大事で、失敗しても全く反省しないのはポジティブシンキングではありません。
世の人はそれを「能天気」と言います。
セールスマンは能天気では困りますが、ポジティブシンキングのトレーニングは常に心掛ける様にしましょう。
優れたセールスマンは毎日をポジティブな姿勢で仕事に臨みます。
しかし一般的に新人のセールスマンはこのことをあまり重視しません。
私もその1人でしたが、ある時予期せずに成功するセールスマンのパターンを見ることが出来ました。
そのセールスマンはいつも明るくニコニコとして、非常にポジティブだったのです。
それは私が初めてセールスマンになった、新人教育の時のことでした。
その時のことは今でもはっきりと覚えています。
その時私達5人の新人は教育係のリーダーが運転するマイクロバスである住宅団地に行き、4時間近くも家々のドアをノックし続けました。
これは新人セールスマンが必ずくぐり抜けなければいけない第一の関門です。
それでなくても初めての経験で緊張している新人セールスマンにとって、見ず知らずの他人のお家の玄関に立って呼び鈴をピンポンと鳴らして面会を求めるのは足がすくみます。
出来ればこのまま逃げ出したいと思いますが、それを我慢してこの第一関門を潜り抜けなければ、一人前のセールスマンになることは出来ません。
ただ慣れないことなので精神的にも肉体的にもとても疲れます。
私達もご多分にもれず誰もがもうへとへとで、ギブアップ寸前になりました。
ところが1人だけ違う新人セールスマンがいたのです。
仮に彼の名前をA君としましょう。
彼は全ての家のドアをノックする意気込みで実際に自ら率先して車から飛び降り、並びの家全てに挑み始めたのです。
これはベテランセールスマンでもなかなか出来ない行動ですので、私は驚いてしまいました。
そこで慣れないセールストークに悪戦苦闘していた私は、いったい彼はどんな話をしているのだろうかと考えて、リーダーにお願いしてA君に同行させてもらいました。
ところが一緒にドア先に立って彼のセールストークを聞いてみると、何とも控えめな口調でこれと言った特徴はありません。
服装もいわゆるストリート系でとてもプロには見えませんでしたし、「セールスでやってはいけない」と言われていたことばかりを実践しています。
私は心の中でこれは絶対にうまく行かない、売れるわけがないと思ったものです。
その後私達は別のブロックに移動しました。
他のメンバーは別の場所を回っていましたから、この区域の売上はリーダーとA君そして私に掛かっていました。
リーダーが車を止めて「さあ、誰がこのブロックを担当する?」と聞いたとたんA君は電光石火で車を飛び出しました。
それを見たリーダーがこう言うのです。
「彼は売るよ」と。
私は自分の耳を疑いました。
一体どうやって?
彼のセールス方法でもし売れると言うなら、これまで私が良いセールスマンになる為に学んで来たことは、全て間違いだということになってしまいます。
しかしリーダーの予想は見事に的中しました。
A君は2軒の家に入れてもらえただけでなく、見事に掃除機も2台売って来ました。
その夜私は眠れなくなりました。
これまでパーフェクトなセールスマンになる為に学んで来た自分の知識が果たして正しかったのかどうか、全く自信が持てなくなったのです。
自分がこれまで学んで来たことは全て間違いで、役に立たない知識ばかりなのではないかとそう思い始めました。
翌日リーダーに尋ねました。
「A君はどう見てもセールスマンの常識から外れた売り方をしているのに、どうして彼が売ると分かったのか」と。
するとリーダーは私を見てこう言いました。
「それはね、彼がずっとポジティブだったからだよ」。
正にその時私は優れたセールスマンという完成したパズルの断片を手に入れた気持ちになりました。
そして分かったことは、A君以外は誰も商品を売ることが出来なかったのは、私達は「難しい」、「恥ずかしい」、「疲れた」という様なネガティブな感情によって、知らず知らずの内に「売れるわけが無い」という様に洗脳されていたのではないかということです。
そのネガティブな考えは自然に外部に現れ、それがお客さんにも伝わっていたのです。
いかにも自信なさげなセールスマンから商品を買ってくれるお客さんはいませんね。
売れなかったのが当り前です。
それ以来私は何事にもポジティブに取り組もうと決めました。
実際ポジティブな気持ちが成功に結び付いた話は、セールスマンの逸話としてたくさんあります。
その中で代表的な話を二つご紹介しましょう。
その1は「エスキモーと冷蔵庫」の話です。
エスキモーと言えば北極圏に近い寒冷地に住む民族です。
彼等は夏でも永久凍土が消えない極北の地に住んでいますので、長い間エスキモーには冷蔵庫は不要のものだと考えられていました。
当然ですね。
なにしろ彼等が住んでいる地域全体が天然の冷蔵庫なのですから。
その為アメリカには絶対に出来ないことを例える言葉として、「エスキモーに冷蔵庫を売る様なものだ」という言葉があったくらいです。
ところがあるアメリカの家電メーカーのセールスマンが、このエスキモーに冷蔵庫を勧めたら売れるのではないかと考え、実際に彼はエスキモーに冷蔵庫を熱心に売り込みました。
なぜそう考えたのかは後で説明しますが彼の予想は見事に的中し、冷蔵庫はエスキモーに爆発的に売れました。
この話は実話でセールスマンも実在の人物だそうです。
それが証拠に現在ではアメリカ各州の内最も冷蔵庫の普及率が高いのは、エスキモーが多く住むアラスカ州だと言われています。
何しろ一家に複数台の冷蔵庫があるのも珍しくありませんから。
ではなぜエスキモーに冷蔵庫が爆発的に売れたのでしょうか?
彼等が住んでいる極寒の極北の地では少し気温が下がると、肉や野菜などの食料品は全て凍り付いてしまいます。
ところが冷蔵庫は庫内温度が常に氷点下以上に調整されていますので、食料品は当然のことながら凍り付きません。
それがエスキモー達がこのセールスマンの勧める冷蔵庫に飛び付いた理由です。
これは日本でも北海道の寒い地方に住んでいる人などは、よくお分かりになると思います。
しかしながら当時エスキモーに冷蔵庫を売ろうなどと常識外れの発想をしたセールスマンは、多分人並み外れてポジティブな発想をする人だったのでしょうね。
その2は「靴と2人のセールスマン」の話です。
これも有名な話ですので過去に聞かれた人も多いと思います。
それはこんな話です。
昔2人の靴のセールスマンが会社から命じられて、アフリカのある新興国に市場調査に行きました。
2人が現地に着いてその国の人々を見たところ、大人も子供も男も女も皆裸足で歩いていました。
それを見た1人のセールスマンは「この国では靴は売れない。なぜなら人々は皆裸足で歩いているから」と本社に報告しました。
ところがもう1人のセールスマンは「この国は有望市場だ。なぜならば人々は皆裸足で歩いているから」と報告しました。
つまり同じ「人々は皆裸足で歩いている」と事実を見ているにも関わらず、それをネガティブな目で見れば「靴は売れない」という結論になり、逆にポジティブな目でみれば「靴は売れる」という結論になったのです。
では事実はどうなったかと言えば、現在ではアフリカの新興国の人々でも裸足で歩いている人は少ないので、ポジティブなセールスマンの報告が正しかったのでしょうね。
ただこの話は実話なのかどうかは定かではありません。
以上の二つの逸話はいずれもセールスマンにとって、ポジティブな発想が如何に大事かということを言い表わしたものです。
常にポジティブな発想をするということは、優れたセールスマンになる為の大切な要素です。
どんなに優れたセールスマンでも、ネガティブな気持ちでは売上につなげることは出来ません。
この二つの逸話はもう一つ大事なことを言っています。
それは「先入観を持つな」ということです。
先入観を持つと、それに捉われて発想が狭く貧困になります。
先入観を持つとどうしても考え方がネガティブになりがちですね。
私達はよく会話の中で「そんなことが出来るはずはない」と言いますが、その根拠がどこにあるかといえばたいていは過去の失敗事例です。
人間にとって過去の経験は大事です。
私達の先祖はその経験の積み重ねの中から今日の文明を築いて来ました。
しかし経験というのは始末が悪いことに成功の経験を記憶すると同時に、失敗の経験も記憶してしまいます。
成功の経験だけを脳に刻み込んで失敗の経験などはすぐに忘れてしまえば良いのですが、残念なことに一流ではない普通の人は、そう都合良く失敗の経験だけを忘れることは出来ません。
その為失敗の経験を何時までも引きずっていて、それが何かに直面した時にネガティブな感情となって表面に出て来ます。
人生には様々な事が起こるものですが、セールスの段階ではそれまでの問題は心の中から取り除きましょう。
セールスマンの仕事は人間を相手にする仕事です。
人間にはいろいろな人がいますので、仕事では嫌な相手に出会うことは珍しくありません。
中には高飛車な態度で接して来る人もいて、不愉快な気持ちになることもあります。
しかしそれは次のお客さんに接するまでの数分間の間に忘れてしまいましょう。
不愉快な気持ちが少しでも残っていたら、それは必ず次のお客さんに伝わります。
問題に立ち向かうなと言っているのではありません。
それはセールスが終わった後に行えば良いのです。
ポジティブという現象について今は上手に説明出来ないのですが、いつか山深い所へ旅に出てスピリチュアルな導師に啓発してもらいたいと思っています。
その時までは私はこの気持ちを抱き続けながら、ポジティブという魔法が機能する様子を見て行くつもりです。
あなたも最高のセールスマンになりたければ、1日をスタートさせる時に心の中からネガティブな気持ちを払拭するように心がけましょう。
セールストークの切り出し方
「第一印象が全てである」、あなたはこの言葉を様々な場面で聞いたことがあると思います。
セールスマンはどのような相手に対しても、きちんとした第一印象を与えることが大切です。
以後のお客さんの反応は第一印象によって、その99%が決まると言っても過言ではありません。
あなたは「ハロー効果」という言葉を聞いたことはありませんか。
ハローと言うのは天使の頭の上で光っている黄色い輪のことです。
仏教の仏様の場合は頭の後ろに光っている「後光(ごこう)がさす」の後光です。
ですからハロー効果を後光効果ということもあります。
人間は第一印象で相手に良い感情を持つと、以後その人の話すことやすることなどの全てが好ましく見えるという心理が働きます。
男女の関係で言えばいわゆる「一目惚れ」の心理です。
この心理は他の動物には無い、人間だけの不思議な心理だと言われています。
ハロー効果に対して「逆ハロー効果」という言葉もあります。
これは文字を見ても想像が出来る様にハロー効果の逆、つまり第一印象の悪かった相手に対しては以後その人の全てを否定的に見る心理です。
言うまでもありませんがセールスマンの場合はお客さんにハロー効果を与えることが大事で、逆ハロー効果を与えたらおしまいですね。
セールスマンの第一印象はまず身だしなみ、つまり外観が大事です。
身だしなみは一にも二にも相手に真面目な印象を与える様に、スーツの色、清潔なカッターシャツ、きちんと整髪された髪、などを心掛けます。
夏などは時間が経つと汗でカッターシャツの襟が黄色くなって来ますので、車の中などに替えのシャツを用意しておき、汚れて来たと思ったら着替える様にします。
これは政治家が選挙運動の時によくしていることですね。
身だしなみを整えたら、次はいよいよセールスマンにとって最も大事なセールストークです。
セールスマンはセールストークの切り出し方が上手か否かによって、契約への道のりが変わってきます。
弱々しい切り出し方では当然そのハードルは高くなりますから、※ロールプレーイングなどで事前に必ず練習しておくことが大切です。
(注記)ロールプレーイングとはセールストークを磨く為のセールスマン教育技法の一つ。
やり方はまずセールスマンが2人1組になり、その2人の内1人がお客さんになる。
そしてもう1人のセールスマン役が一生懸命商品を売り込むのに対して、ありとあらゆる断り文句を並べて買うのを拒む。
それを他のセールスマン達が見ていて、セールストークの問題点を指摘しアドバイスする。
セールスマンがお客さんを初めて訪問する時は、お互いに相手のことを全く知らない状態で顔を合わせることになります。
ですから玄関を入って最初の挨拶が最も大事です。
ここであなたに対するお客さんの第一印象はほぼ決まります。
「何だセールスか」という印象を持たれたら以後お客さんはまともに話を聞いてくれず、頭の中では「どう言って追い返してやろうか」とばかり考えています。
では普通あなたはどの様に挨拶をするのでしょうか?
あなたは緊張していると思いますが、それでも教科書通り顔には笑みを浮かべながら頭を下げて、「初めまして、私○○会社の××と申します」と自己紹介をすると思います。
普通はこれが一般的なパターンですね。
このパターンそのものは基本的な礼儀ですから特に変える必要はありません。
ただここで非常に大事なことがひとつあります。
それは頭を下げた時のあなたの目線です。
あなたが頭を下げた時にあなたの目線はどこを向いていますか?
ひょっとしたら相手の顔を確認する為に頭を下げながら、上目遣いに相手の顔を見ていませんか?
この動作をするセールスマンは結構大勢いますが、これは相手にとても不愉快な感じを与えます。
それは立場を変えてみれば分かりますね。
あなたが逆の立場に立った時、セールスマンから上目遣いに顔を見られたらどんな気分がしますか?
自分が品定めをされている様な気がして、きっと嫌な気分になると思いますよ。
この頭を下げながら上目遣いに相手の顔を確かめるという動作はある意味本能の様なもので、気を付けないと知らず知らずの内にこの動作をしています。
挨拶をする時は特別に大きな声を出す必要はありませんが、はっきりした言葉で挨拶をしましょう。
口の中でモゴモゴとしゃべるのは禁物です。
小さな声はお客さんが聞き取り難いだけでなく、あなたの自信の無さと受取られてしまいます。
お客様に呼びかける時は相手が既婚者の場合は「ご主人」、「奥さん」と少しくだけて呼びかけた方が良いです。
「ご主人様」、「奥様」は丁寧過ぎてかえって雰囲気が緊張してしまいます。
但し、セールスウーマンの場合は女性ですから丁寧に「~様」でも良いかも知れません。
とにかくお客さんとは出来るだけ早く友達になることが大切です。
挨拶と自己紹介が終わったら、その先はあまり余計なことは言ってはいけません。
お客さんに商品やサービスについて説明する時は遠回しな言い方はNGです。
できるだけはっきりと率直に言いましょう。
私は相手の家に入る際にはまず、自分は商品を売るためにやって来たことを伝えます。
これには正しい伝え方と間違った伝え方があるのですが、ここで次の対話を読んで、どちらがふさわしい方法かを考えてみましょう。
シナリオその1
お客さん:こんにちは。
セールスマン:こんにちは、今日はこの商品についてお話を聞いて頂きたくて参りました。
もし興味をお持ちになり買ってみたいという場合は、私の話の途中でも構いませんのでそうおっしゃって下さい。
シナリオその2
お客さん:こんにちは。
セールスマン:こんにちは、今日はこの商品についてお話を聞いて頂きたくて参りました。
あなたに聞く義務はありません、でももしこれを気に入って下さった場合、たったの20万円の投資であなたのものになります。
2番目のシナリオを選んだあなた、正解です!
1番目のシナリオには重大な欠陥があります。
「買う」という単語には、潜在意識に「不必要にお金を使う」というニュアンスがすり込まれてしまう為、決して使ってはいけません。
2番目のシナリオではこれを「投資する」という言葉に置き換えることで、お金を払っても利得があるというイメージになっています。
あなたも今日から「買う」「購入する」という言葉の代わりに、「投資する」を使う様にしましょう。
又、2番目のシナリオではセールスマンが成功のキーとなる言葉を使っていることに注目してください。
セールストークを始めるとすぐに値段を提示しています。
これが「無駄を省く」テクニックの非常に大切な部分です。
反対するセールスマンもいるのですが、前にもお話しした様に世間話を長々と続けても思ったほどうまくは行きません。
初めに値段を提示しておけば、最後の段階で価格を話す必要が無くなります。
長々と時間を掛けて商品説明をしお客さんとも和やかな雰囲気になっていたのに、最後に値段を言ったとたんに商談が壊れることはよくあります。
初めに価格をきちんと出しておけば、後はなぜ商品にそれだけの価値があるのかを納得してもらう方向で話を進められます。
値段を聞いて拒否反応を示すお客さんもいますが、それでがっかりしてはいけません。
ここではただにっこりと笑って、トークやデモンストレーションをスタートさせましょう。
価格を言われた瞬間にお客さんの頭の中では請求書、子供の給食費、賃貸料、車のローンなどが駆け巡り、そしてとっさにNOという反応を示すのです。
最初に価格を出しておくことで、そのショックをこれから和らげていく為の時間が十分に取れます。
逆に最後に値段で相手にショックを与えてしまうと、それを乗り越えるのが大変になります。
セールストークには理詰めでお客さんの頭に働きかけるアプローチもありますが、それよりも感性に訴えるトークも交えた方が効果がある場合があります。
特に女性を相手にするセールスでは理詰めのトークよりも、感性に訴えるトークの方が訴求効果が高いと言われています。
感性に訴える一番簡単な話法は話の中に「実はこんな話があります」という様な具合にエピソードを交えることです。
又、「ご近所さんでもお使い頂いています」というトークも、使い方によっては効果があります。
もちろんこの場合は嘘を言ってもすぐにバレますから、本当にご近所で買ってもらった後からしか使えませんが、住宅団地やマンションなどの場合は結構効果的です。
この様な住宅団地やマンションの場合、収入などの生活レベルがほぼ同じ人が住んでいるので、他の人が使っているというと競争意識が働くのでしょうか?
セールストークでは専門用語は出来るだけ使わない様にしてください。
お客さんは皆さん理数系に強いわけではありません。
専門用語使う必要がある時は出来るだけ「例え」を使うとよく理解してもらえます。
専門用語を使って説明した後、「これは例えば○○の様なことです」という様な要領でうまくたとえ話を持って来るようにすれば、難しい専門用語もよく理解してもらえます。
例え話をする時は、出来るだけ相手がよく知っている話に例えれば良いと言われています。
例えば相手が建築のお仕事をしておられる方なら、専門用語を建築の何かに例えるという様な具合です。
一度自分がいつも使っているセールストークを書き出してみて、その中に出て来る分かり難い専門用語に付いて、自分なりにいくつかの例え話のパターンを作っておくのも良いかと思います。
又、ベテランのセールスマンはトークをする時に、出来るだけ相手が質問をする様に話を持って行きます。
一方的に話すのとお客さんに質問させてそれに答えるのとでは、どちらが購買に結び付く確率が高いかは説明するまでもありませんね。
セールスマンの一番の悩みは何かと言えば、皆が言うのは「ドアを開けてもらえないこと」です。
最近はほとんどの家にインターホンが付いていますので、セールスマンが訪問するとおおむね次の様なパターンになります。
「パターン」
セールスマン:「ピンポーン(呼出し音)」。
お客さん:「はい、どちら様でしょうか?」。
セールスマン:「初めまして、私○○会社の××と申します。本日はこの地区へ私共の新商品の宣伝に参りました」。
お客様:「ああ、家(うち)は間に合っています」、ガチャン(受話器を置く音)。
これで終わりです。
行く先々でこれが延々と続きます。
セールスマンはお客さんと対面しなければ、そこから先に進めませんね。
ではどうしたらドアを開けてもらえるのでしょうか?
昔からよく言われている「消防署の方から参りました」はもう古いですよ。
昼間インターホンに出るのはたいてい奥さんですが、今時こんな陳腐な手に引っ掛かる奥さんはいません。
それにそもそもこの様に公の機関と紛らわしい名前を使ったり、「お届け物を持って参りました」などと宅配便と紛らわしいトークでドアを開けさせるのは悪徳セールスの手口ですから、あなたにお勧めすることは出来ません。
やはり真っ当な手段でドアを開けてもらわなくてはいけませんが、一番良いのは何と言っても事前にアポイントを取ることです。
アポイントを取る時はNTTが地域に配布している電話帳などを利用して電話しますが、話し方次第ではそこそこ話を聞いてもらえます。
例えば以前はよく「コンピュータ電話」で片っ端から電話して、「もしYESなら1を押してください」式のアンケートと称するセールステクニックを使う業者がいました。
もちろんアンケートに答えた相手には今度は人間が電話してアポイントを取るのですが、大勢の中にはこのコンピュータ電話によるアンケートでも、結構真面目に答えてくれる人がいるのです。
ですから根気良く電話をすれば話を聞いてくれる人はいます。
電話でアポイントを取る時に日時を決めるのに、「いつお尋ねすればよろしいでしょうか?」と相手に日時を決めさせたら駄目ですよ。
相手は一応面会は承知したもののまだ出来れば断りたいのですから、相手に訪問日時を決めさせようとしてもグズグズ言って決めてくれません。
電話の様子で「これは会えるな」と思ったら、例えば「10月2日の11時頃と、10月3日の14時頃のどちらがご都合よろしいでしょうか?」と言う様にこちらから訪問日時を提示します。
この時のコツは必ず複数の日時を提示するところです。
人間の心理として複数の日時を提示されると、両方とも都合が悪いと言って断り難くなるものです。
もし両方とも都合が悪いと言われたら、その時は「それでは10月5日の11時頃はいかがでしょうか?」とたたみ掛けます。
「そんな図々しいこと」と思うかも知れませんが、ほとんどの人はセールスマンには来て欲しくないのですから、この程度の図々しさが無ければアポイントは取れません。
自分で電話をする時間が無ければアルバイトのアポインターを雇うのも一つの方法です。
アポイント作戦が出来ない場合は「予告作戦」があります。
要するに近い内に自分が訪問することをそれとなく予告しておくのです。
例えばあるブロックを決めてそこに1週間程度のサイクルで手製のチラシをポスティングしておき、それを2ヵ月位続けた後でそのブロックを訪問します。
チラシには自己紹介と共に「近じかこの地域を訪問させて頂きます」と予告しておき、出来ればポケットティッシュでも良いので粗品を付けておきます。
似顔絵が得意な人はチラシに自己紹介と共に似顔絵を描いておけば、印象がより強くなります。
この方法も覚えてくれている人が結構いて、全く何にも無しに飛び込みで訪問するより効果があります。
昼間住宅団地などでセールス活動をする場合、面談するのはたいていの場合奥さんです。
つまり女性です。
ですからあなたが男性の場合、最初は玄関のドアを開けておくのがエチケットです。
そしてカタログなどを広げる為に玄関に座ることになったら、お客さんに断ってからドアを閉める様にします。
セールストークを始めてからドアが開いていたら気が散りますから。
「セールスマンは商品を売るのではなく自分を売れ」とよく言われます。
腕のいいセールスマンであれば、お客さんは契約が成立した後で「私はあなたを買ったんですよ」と言って褒めてくれます。
確かにその通りなのですが、ここで私は「いいえ、あなたは商品を買って下さったのです」と返しています。
さあ、あなたもこれからトップレベルのセールスマンになるのです。
最高のセールスマンになるにはこの心理トリガーなるものをきちんと理解し、効果的に相手を購入へと誘導する手段を知っておきましょう。
顧客の心を見抜く
最高のセールスマンになる為に不可欠なことは何でしょうか?
それはセールストークをスタートさせる前にお客さんの心を正確に見抜くことです。
相手の個性や考えていることを素早く察知し、どんな事が相手の心に響くのかを特定すれば、「無駄を省く」テクニックを優位に進めて行くことが出来ます。
逆に相手の個性を無視した教科書通りのセールストークでは訴求力が無いだけでなく、時にはお客さんの反感を買って全てをぶち壊してしまいます。
私はお客さんと接触したらまずこの人の個性はどのタイプに属するかを、区分する様にしています。
プライドが高い、心配性だ、思いやりがあるなどです。
もちろんわずか数分前に初対面の挨拶をしたばかりの相手ですし人間の性格は複雑ですから、必ずしも私の性格分析が当っているとは限りません。
しかし何も考えずに闇雲にセールストークをするよりも、はるかに効果的であることは間違いありません。
ですから私は最初にお客さんの性格分析をすることにしているのです。
性格分析出来たら、今度はセールストークのどんな部分が相手の感情に響くのかを考えます。
例えば相手は恐れの感情に最も敏感だと分析した場合はそこに焦点を当てて、その商品を持っていないことが生活上の何かしらの妨げになる点を強調します。
その場合は多少話を大げさにしますが、これは大げさ過ぎて悪いことは何もありません。
この場合商品を持たなかった人が大変な目にあったというストーリーを、少なくとも2つすると効果があります。
恐れの感情は私がターゲットとする中でも特に好きなものです。
人は何かを恐れる時に買い物をするものです。
アメリカでは9.11事件の直後テロに備えようという触れ込みで、ガスマスクのキットを売り込んで大成功した人がいます。
なぜうまくいったかと言えば、「次は自分がテロリストに攻撃されるかも知れない・・・」というお客さんの恐れに訴えたからです。
ただこの時売れたガスマスクの内99.9%は買った後30年は、タンスの肥やしになるだけでしょうね。
相手が知らなかった知識をネガティブな方法で知らせる、これが上手なテクニックです。
例えば私が掃除機を販売していた頃は必ずセールストークでイエダニの存在と、それがアレルギーやぜんそくを引き起こす原因であることを顧客に伝えました。
今日ではテレビのCMなどを見て多くの人はイエダニの存在とそれが引き起こす害は知っていますが、当時はお客さんのほとんどが、こういった有害な害虫が自分の家のタタミやカーペットの中などに潜んでいたことを知りませんでした。
ですから大変効果がありました。
特に赤ちゃんや幼児がいる家では効果てき面でした。
ただここでひとつ注意して欲しいことがあります。
それは「でっち上げ(嘘)」はいけないということです。
例えば以前全国的に問題になった、「シロアリ駆除」に関する悪徳セールスの話があります。
ご存知の方も多いと思いますがシロアリというのは乾燥した材木の中に巣を作ることを好むアリの仲間で、よく木造住宅の柱など構造材の中に巣を作ります。
このシロアリが住み着くと木材の内部がボロボロにされて、最悪の場合は家が倒壊してしまいます。
なかなかしぶといアリなので素人が殺虫剤を撒く位では駆除出来ず、駆除するには専門の業者に依頼する必要があります。
問題になったのはこのシロアリ駆除専門会社のセールスマンが、個人宅を訪問して無料点検と称して床下に入り込み、そこで自分がビンに入れてポケットに隠し持っていたシロアリを取り出して、「奥さん見てください、お宅の床下には既にシロアリが巣を作っています」と嘘を言って契約を取ったからです。
この手口が全国的に頻発したので一種の社会問題になり、何十年も前からシロアリ駆除を専門にして来た良心的な業者までが信用を失って倒産しました。
先に私が掃除機を売り込む為に使ったイエダニのトークは、多少オーバーに言っていますが嘘ではありません。
どんなに毎日几帳面に掃除をしている家でも、タタミの中やカーペットの中には必ずイエダニがいます。
だから私はいないものをいると言っているわけでは無いのに対して、このシロアリの場合はいないものをいると言って、その上小細工までしているのです。
こういう虚偽の事実でお客さんを脅かして契約を取った場合は後ほど詳しく説明しますが、「クーリングオフ」の対象になります。
又、特に悪質だと判断された場合は犯罪行為として刑罰の対象にもなります。
「相手の感情が高ぶっている時が購入を勧める時」、これは真理ですのでセールスマンは常に覚えておきましょう。
顧客の恐れがピークになったと感じたらセールストークは手短に切り上げ、すばやく購入手続きの書類の準備にかかります。
人の感情というのは顔に表れますから、顧客の言葉ではなく表情で判断するようにしましょう。
言葉では嘘を付いていてもボディー・ランゲージは正直です。
相手の感情を読み取れる瞬間がたくさんあるはずです。
又、優れたセールスマンになるためには自分の勘も信じましょう。
お客さんのプライドの高さもうまく扱えば良い結果に導けます。
恐れの感情よりも多少コツがいるのですが、プライドの高い人が商品を買うのはだいたい次のような理由からです。
・その商品を買う余裕があることを示したいから。
・最新の流行に乗りたいから。
・近所の人や友達に買ったことを自慢したいから。
非常にプライドが高い人に売り込む際は、相手を徹底的に持ち上げます。
つまり「私もいつかあなたのようになりたい」、こちらがそう思っていると感じさせるのです。
私の場合は「素敵なお宅ですね、私もいつかこんな家を持ちたいものです」などといつも言うようにしています。
すると相手は自分自身や自分の生活を羨ましく感じている他人がいることで、大いにプライドをくすぐられます。
これでたいていの場合、その後の商談がスムーズに進むことになります。
電話でのセールスの場合は「既にあなたならご存じだと思いますが」という言葉に続けて、本題のセールストークをする様にしています。
これはつまり「あなたのことを賢い人だと信じています」とほのめかしているのですね。
簡単に言えばとにかくまずは相手をおだてること、これがプライドの高いお客さんを攻めるキーになります。
こういうタイプの人は自分のことを快く思っている時に購入しますから、ひたすらおだてて相手を引き立て気分良くさせましょう。
電話の場合は相手が質問をしてくるたびにこう言いましょう。
「私がこれまで電話したお客様の中で、その事をご存じの方はほとんどいませんでした」と。
ちょっとした言葉のあやですが結構これが効果的で、時には大きな成功につながります。
もう一つ私が注目しているのは、相手を非常に気遣うタイプのお客さんです。
セールスマンを人間として気にかけてくれる結果、その勧める商品を購入してくれます。
ちょっと考えると女性にこのタイプのお客さんが多いと思われるかも知れませんが、実は男性にもこのタイプのお客さんは多いのです。
男性の場合は自分も常日頃お客さん相手に仕事で苦労している人が多いので、特に若いセールスマンが一生懸命商品説明をしているのを見ると、つい同情的になってしまうのかも知れませんね。
顧客にこの特徴が見えたら、それがそれ以上余計なことを言うのを止める時です。
その感情にすぐに付け込みましょう。
セールストークではあなたがいかにオーバーワークな上に薄給なのか不満を伝えます。
仮に商品を1つ販売したらあなたが10万円稼げるとしても、ここでは報酬が少ないことを強調しましょう。
家の中でデモンストレーションをしている場合は汗をかきながら行い、食べ物や飲み物は決して受け付けない様にします。
普段の生活について話をするなど、個人的な面も見せる様にします。
もしあなたの過去に暗い部分がある場合は、どのようにしてここまで成長したのかを必ず伝えましょう。
商品の購入を迷っている相手の決断を、大きく揺さぶるきっかけとなります。
決断してくれたら声を和らげ、(たとえあなたに家族がいないとしても)どんなに家族を養う助けになるかを知らせましょう。
これで相手はあなたを助けてあげたのだ、と良い気持ちになるのです。
ただこの戦術は若い内しか使えません。
中年のセールスマンが相手の同情を引こうとするのは、わざとらしく見えて逆効果になります。
これまで長々とお話して来ましたが、あなたはその間ずっと「そんなことを言ったって、初対面の相手の個性や考えていることがどうして分かるのだ?」と思っていませんでしたか?
当然の疑問ですね。
人というのは長年の友人でもなかなか心の中は分からないのですから、ましてや数分前に初対面の挨拶をしたばかりの相手の心の中など分かるはずが無いと思うのが当然です。
しかし長年セールスマンをしていてそれまでに無数の人に会っていると、結構これが分かるものです。
但し、神様ではありませんから「黙って座ればピタリと当る」というわけには行きません。
お客さんを様々な角度から観察して、そこから経験に照らし合せて判断しているのです。
お客さんの個性や考え方を知る方法はいろいろな心理学の本などに書かれていますが、あまり専門的ではなく誰もがすぐに使える方法を幾つかお話しましょう。
最初のひとつは「とにかくお客さんに喋らせること」です。
新米セールスマンの仕事振りを見ていますと自分が教科書通りのセールストークを一方的に喋りまくり、その間お客さんはただ黙って聞いているだけというスタイルをよく見掛けます。
これではお客さんの心の中は分かりません。
しかし人間というのは話をすると、その人の「クセ」が表に出て来ます。
この話し方のクセによってある程度その人の個性や考え方などが分かります。
以下に話し方のクセと個性や考え方の関連性をご説明します。
「口グセ編」
・「ちょっと」をよく使う人
人の話の理解が遅いところがあります。
とは言っても別に頭が悪いわけではなく、単に思考のテンポが人よりゆっくりしているだけです。
このタイプの人は相手の早口も苦手ですから、話をする時はテンポに気を付けます。
・「なるほど」を良く使う人
人の話も良く聞き理解力もあるタイプです。
感情に訴えるよりも理詰めのトークの方が効果があります。
但し、単に話をよく聞いてくれて人当たりも良いだけで、買う気は全く無い場合もあるので適当なところで見極めが必要です。
・「絶対」をよく使う人
頑固で自説を曲げず感情的な人がこの「絶対」をよく使います。
このタイプの人は自分の意見を否定されることが大嫌いですので、話をする時は注意しましょう。
・「べつに」をよく使う人
最近某有名女優がインタビューで、この「べつに」を連発して話題になりましたね。
何事もマイペースで協調性に欠ける人がこの言葉をよく使います。
このタイプの人は理屈っぽくプライドも高いので、プライドを傷付けない様にする必要があります。
但し、逆にプライドをくすぐられると弱いので、うまくおだてれば商談に成功します。
・「とにかく」をよく使う人
「とにかく」をよく使う人は自己防衛本能が強い人です。
このタイプの人の意見に真っ向から反論すると、自分の殻に閉じこもってしまいます。
ですから反論する時はいわゆる「イエス・バット法(YES・BUT法)」を使います。
イエス・バット法というのは「確かにおっしゃる通りです」とまずは肯定した後、「しかし・・・・・」という様にやんわりと反論する応酬話法のテクニックです。
・一応をよく使う人
自分の意見を曲げない頑固者です。
人にリードされることを嫌いますので、特に契約書にサインをさせるタイミングに注意してください。
・「何しろ」をよく使う人
理屈っぽく自分の意見は絶対に正しいと思っているので、他人の言うことはなかなか聞こうとしません。
反面論理的な話には弱いので、理詰めのセールストークが効果的です。
・「どうせ」をよく使う人
「べつに」をよく使う人と同じ自己中心型でマイペースです。
プライドを傷付けると感情的になりますから注意が肝要です。
・「わりと」をよく使う人
この言葉をよく使う人には義理人情に厚い、いわゆる親分タイプの人が多い様です。
自分を「親分」と立ててくれる相手が大好きで、うまく味方に付けるとお客さんを紹介してくれたりします。
口グセと個性や考え方の関連性はまだいろいろありますがこの辺で止めておいて、次に巷でよく言われる血液型と個性の関連についてちょっと考えてみましょう。
血液型と人の個性の関連というのは、例えばA型は几帳面で神経質、B型は情熱的、O型はのんびり屋さんなどというあれです。
あなたは人間の血液型と個性の間に関連性があると思われますか?
それとも思われませんか?
結論から言えば血液型と人間の個性の間には何の関連もありません。
単なる迷信で外国の人にそんなことを言ったら、「こいつは馬鹿か」という様な顔をされます。
ただ韓国や台湾では日本人と同じ様に、「血液型性格分類」を信じている人がいる様です。
そもそも血液型と人間の個性を関連付ける研究を熱心に進めていたのは、旧大日本帝国陸軍です。
陸軍には歩兵、砲兵、騎兵、工兵などの兵科がありますが、兵科によってそれぞれ兵士に求められる資質が違って来ます。
そこで何とか合理的で尚且つ簡単に招集された兵士の個性を見極め、配属を決めることが出来ないかと考えたのが血液型性格分類です。
血液型で兵士の個性が分かるのなら極めて簡単ですから、毎年招集される大勢の兵士の配属に頭を悩ましていた当時の陸軍幹部が、この研究に飛び付いたわけです。
しかし結果ははかばかしく無く結局は研究を止めてしまいました。
ただその後も民間で研究を進めた学者はいたのですが、これも学問的な証明は出来ませんでした。
もし血液型でお客さんの性格が分かるのなら、セールスマンにとってこんな楽なことはありません。
お客さんの血液型をそれとなく聞き出す位のことは、セールスマンなら誰でも出来ますから。
しかし残念ながら血液型性格分類というのは、全く根拠がありません。
従って、血液型からお客さんの個性をしることは出来ません。
セールスマンはお客さんの個性や考え方を知ると共に、今向かい合って話をしているお客さんの心理状態を知ることも大事ですね。
お客さんのちょっとした仕草とその時の心理状態について、幾つかの代表的な例をあげてみましょう。
「仕草編」
・「腕組み」をする
人が警戒をしている時の仕草だと言われています。
あなたがセールストークをしている間お客さんが腕組みをしている場合は、お客さんは無意識の内にあなたを警戒しています。
最初は腕組みをしていたお客さんが腕組みを解いたら、警戒心が解けて来た証拠です。
・「貧乏ゆすり」をする
貧乏ゆすりをしているときの心理状態は、今置かれている状況から逃げ出したいという心理です。
ですからお客さんが貧乏ゆすりを始めたらトークを変えるなどして、お客さんの興味を呼び戻す工夫をする必要があります。
・鼻をさわる
人が嘘を付く時によくする仕草です。
嘘をつく時は、ついこの動作をしてしまうと言われています。
以上人の心を見抜くことに関していろいろ語って来ました。
相手の心を見抜くことは相手の個性を正しく分析することです。
どんな感情が相手に買おうという気持ちにさせるのか、これを知ることはセールスマンにとって非常に大切です。
人はしばしば感情に流されて購買行動を起こしますから、相手の感情をいかにうまく引き出して買う衝動に持って行けるか、ここがセールスマンの腕の見せどころなのです。
購入を切り出すタイミング
全てのセールスマンに共通する問題があります。
それはお客さんに商品の購入を切り出すタイミングをいつにするかという問題です。
このタイミングは非常に重要で、タイミングを間違うとそれまで時間を掛けて築き上げてきた流れが、全て白紙に戻ってしまいます。
様々なセールスマン向けの書籍などにはこの問題に付いての記述がありますが、実践になるとお客さんにはそれぞれの個性がありますので、なかなかタイミングが掴めません。
ですからセールスマンは相当なベテランでも、お客さんに購入を切り出す場面では緊張します。
特に新人セールスマンはなかなか購入を切り出すことが出来ずに何時までもセールストークを続けた結果、お客さんの熱が冷めてしまって「考えておきます」の一言で商談は幕引きということがよくあります。
なぜなかなかお客さんに購入を切り出すことが出来ないのでしょうか?
それは私達人間の習性として他人から拒絶されることを、無意識の内に恐れてしまうからです。
しかしセールスマンは「売ってなんぼ」の仕事ですから、お客さんに購入を切り出すことが出来なければ何も仕事をしていないのと同じですね。
ですから優れたセールスマンになる為にはどうしてもこの恐れの感情を乗り越えなくてはなりません。
ではどうすればこの恐れの感情を乗り越えられるのでしょうか?
それをこれから学んでいきましょう。
最初に結論を申し上げますと、この恐れは現実のものではなくあなた自身が頭の中で作り上げたものだということです。
つまりあなたの意思で消すことが出来るものなのです。
ほとんどの人は論理的な購買行動をするのではなく、その時の感情に支配されて購買行動を起こすものです。
この感情に支配された購買行動がいわゆる「衝動買い」と言われるものですが、これは多分あなたも経験されたことがあると思います。
例えばデパートなどのバーゲンセールに行った時、終わってみたら購入予定だった商品の他にどっさり買い込んでいて、結局大幅な予算オーバーになっていたなどということはありませんか?
もし「そんなことは一度も無い」とおっしゃるのなら、あなたは並外れて沈着冷静な方です。
しかし普通の人はその場の雰囲気に突き動かされて、あまり深くは考えずに購買行動を起こしてしまいます。
あなたがお客さんと話をしている時、必ず1度や2度は購入を切り出すタイミングがあります。
まさにこの時が相手に購入を頼むベストなタイミングです。
あなたはお客さんの買おうという感情を呼び起こす為にセールストークをしているのですから、ここで失敗すると売上につなげることが出来なくなります。
一般的にお客さんの購買意欲は曲線を描くと言われています。
この曲線はセールストークに時間を掛ければ高まるものではありません。
もしこの曲線がセールストークの時間軸と関連が深いなら、出来るだけ丁寧にセールストークをすれば良いのでことは簡単なのですが、実はこの曲線は時間軸とは全く関係ありません。
お客さんの購買意欲の曲線は何かのきっかけで急速に高まり、そして短時間で急速に下がってしまいます。
ですから、うっかりしていると見逃してしまいます。
この曲線は一度下がってしまうと、もう一度盛り上げるのは至難の技だと言われています。
セールス用語のひとつに「オーバートーク」という言葉があります。
この言葉の意味は「話し過ぎ」という意味です。
新米のセールスマンはよくこのオーバートークの罠に陥ります。
つまりお客さんの購買意欲の曲線のピークに気付かなかったばかりに、話せば話すほどお客さんの購入曲線が下がっているという悲惨なパターンです。
その内にお客さんに電話が掛かって来たり、子供が「ママ~」と言ってやって来たらそれでTHE ENDです。
セールスマンの中にはセールストークは抜群に上手いのになかなか売上に結び付かない人がいますが、そういう人はお客さんに購入を切り出すタイミングを掴むのが苦手な人です。
その逆に短時間のセールストークで注文を取って来るセールスマンもいますが、こういう人はお客さんの心理を読むのに優れている人ですね。
ではこのお客さんの購買意欲が高まって来たことを知るには、どうすれば良いのでしょうか?
基本的にはセールスマンの経験です。
例えばこんな事例があります。
先に述べた様なセールストークは抜群に上手いのにそれが注文に結び付かなかったセールスマンが、ある時やっと一つの注文をもらって来ました。
そのとたんに次から次へと連続して注文が取れる様になり、見る見る内にトップセールスマンになってしまいました。
実際にこの様な形である日突然「一皮むける」セールスマンは多いのですが、彼等は多分一つ注文が取れたことでお客さんに購入を切り出すタイミングを掴んだのでしょう。
もちろん売れないことによる焦りから抜け出したことも大きいですね。
そうなればこのセールスマンは元々セールストークは抜群に上手いのですから、あっという間にトップセールスマンの階段を駆け上がることも難しくありません。
この様にお客さんの購買意欲の曲線がピークになったタイミングを掴むのは自分で覚えなければいけないのですが、ただお客さんは購買意欲が高まって来ると様々なシグナルを出します。
それは次の様なシグナルだと言われていますので覚えておきましょう。
・カタログをじっと見る
通常お客さんはセールスマンがいくら熱心に話していても「ふ~ん」という感じで、気持ちの中では人事です。
だから買う気が無い内はカタログもぼんやりと見る程度です。
それがじっとカタログを見詰める様になるのは、頭の中では欲しい気持ちが高まって来た証拠です。
しかしまだ迷いが残っています。
ですからここでセールスマンが一押しすれば、お客さんは購入を決心します。
・話を聞きながら斜め上を見て考える
お客さんの頭の中では今電卓がパチパチと動いています。
欲しい気持ちと予算が頭の中で葛藤している時のポーズです。
・ため息をつく
ため息をつくのは買う決断をする寸前の状態ですが、まだ自分から「買う」とは言えないギリギリの心理状態です。
ここでひとつお客さんの背中を押せば、ほぼ100%お客さんは買う決心をします。
・「この近くで誰か買った?」と質問する
買いたい気持ちは一杯だがまだ少し不安があり、それを近所の誰かが買ったことで安心させようという心理です。
そもそも買う気が全く無いなら、近所の人が買おうと買うまいと関係ありませんね。
・再度値段を確認する
はい、おめでとうございます。
注文1件いただきです。
先に聞いている値段を確認するのは、心の中ではもう買うことを決めている証拠です。
但し、出来れば少し値切ってやろうと考えているのかも知れません。
・「今日決めなければいけないの?」と聞く
90%買う気になっているのに、残りの10%だけがまだ決心が付かない心理状態です。
性格的に柔弱不断な人にこのタイプが多い様です。
この場合絶対にゆっくり考える時間を与えてはいけません。
99.9%「実はよく考えてみたが・・・・・」の断り文句になります。
もしお客さんからこの言葉が出たら、頭の中で素早く今日決めたら得な理由を考えて、何が何でもクロージングに持ち込んでください。
お客さんにもそれぞれ個性がありますから、この他にもさまざまなシグナルを出す方はおられますが、一般的にはこの様な買いシグナルを出す方が多い様です。
ですからトーク中もお客さんをそれとなく監視して、仕草や表情に上記の様な兆候が現れたらそれを見逃さない様にしてください。
セールストークは全体を通して、お客さんの購買意欲の曲線を高める様にしましょう。
それにはまずはお客さんの反対意見を片付けます。
セールスマンが購入を勧めると、お客さんの中には様々な理由を付けて反論して来る人が必ずいます。
当然の事ですが確実に売る為にはこの反対意見を乗り越える必要があります。
反対意見にはやんわりと反論していきましょう。
その場合は「顧客の心を見抜く」の章で述べた「イエス・バット法(YES BUT法)」は、大いに活用してください。
1度反対意見を言えば同じことを何度も繰り返すお客さんははあまりいませんから、いったん反対意見を乗り越えればお客さんの同じ反対意見を聞くことはありません。
先にお客さんの買いシグナルの話をしましたが、では買いシグナルを出さないお客さんはどうすれば良いのでしょうか?
そんなお客さんはさっさと諦めて、別のお客さんを探した方が良いのでしょうか?
もちろんそんなことはしません。
私の場合はこの様なお客さんに対しては、一般的な質問を寄せ集めて売上につなぐ戦略を使っています。
例えば次の例の様な質問です。
セールスマン:カーペットに汚れがあるのとないのと、選ぶとしたらどちらが良いですか?
顧客:無い方が良いです。
セールスマン:イエダニがアレルギーと喘息を引き起こすのはご存じだと思いますが、あなたは真夜中に喘息の発作で呼吸が苦しくなって起きたいですか?
顧客:いいえ。
セールスマン:掃除機でごみを吸い取るとしたら全部吸い取ってしまいたいですか、それとも一部だけですか?
顧客:全部です。
ここでお気付きになったかも知れませんが、いずれの質問も掃除機を購入する方向にお客さんを誘導していますね。
さらに質問内容は極めて常識的な質問ばかりで、お客さんは即座に答えることが可能です。
この様に深く考えなくてもすぐに答えられる常識的な質問をして、お客さんがそれに答える内に何時の間にか買う方向に誘導されて行くテクニックは、ベテランのセールスマンならよく使うテクニックです。
お客さんと話をする時は、商品を「購入する」という言葉を使ってはいけません。
「投資する」という言葉を使う様にしましょう。
私が20万円の掃除機を販売していた時は「きれいな家、健康な肺、そしてあなたのよりよい人生に投資してみませんか?」という言い方をしました。
そしてこの言葉が決定打となって売上につなげることが出来ました。
先にも「購入する」よりも「投資する」という言葉を使う重要性については触れましたが、くどい様ですがここで再びこのことを強調しておきます。
この言葉は心理トリガーのひとつです。
いろいろと申し上げて来ましたが最後に一言申し上げておきます。
とにかくセールスマンは相手のNOの言葉に、いちいちがっかりしてはいけません。
最初は「興味がないから」と言われるのが当り前なのです。
昔から言われているセールスマンの格言があります。
それは「セールスはNOと言われたところから始まる」という格言です。
「欲しい」気持ちを沸き上がらせる
相手の欲望を上手に作り出すこと、これも優れたセールスマンになるための鍵となります。
確実に売るためにはまず相手のニーズを特定しなくてはなりません。
ニーズとは具体的に言えば「お客さんが求めるもの」のことです。
現代の世の中は一歩外出すれば巷には様々な商品が溢れています。
又、日本の様な先進国では皆さん物持ちですので、欲しいと思うものがあまり有りません。
ですからセールスマンの勧める商品についても最初から欲しいと思ってくれることは極めて稀で、たいていの場合は関心がありません。
それをセールストークやテクニックを使って、「欲しい」という気持ちにさせるのがセールスマンの仕事です。
「欲しい」という気持ちはセールスマンによって伝えられる「メリット」、「信頼」、「価格」によって引き起こされます。
メリットはその商品によってお客さんが得られる利益(例えば掃除機ならイエダニの駆除=自分や家族の健康)で、信頼とは数ある同じ商品の中から自分がそれを選んだのは間違っていないという確信です。
メリットと信頼をお客さんが確認出来れば、最後は価格が妥当で自分のサイフで買えるかどうかということが関門になります。
以上の三つを巧みに提供しながらお客さんの懸念を払拭し、「欲しい」という気持ちをどんどん高めて行ける人が、「優れたセールスマン」と言われる人達です。
「欲する」と「必要とする」という言葉があります。
この二つの言葉は似た様なニュアンスを持っていますが同じではありません。
最初に言わせてもらえば、世の中にあなたの販売する商品を「必要とする」人はめったにいないのです。
例えば生命保険を販売している場合顧客に必要なのは保険に入ることであって、あなたが販売している特定の会社の保険を必要としているわけではありませんね。
お客さんにしてみれば他社のセールスマンが勧める保険でも、別に問題は無いのです。
但し、この場合お客さんにとって保険は「必要」だという事実があります。
ただこの場合はお客さんのニーズはあるわけですから、後はあなたの扱う保険を「欲しい」と思わせるのが、あなたに与えられた役割です。
これは掃除機の場合も同じことで、お客さんにとって必要なのはイエダニをカーペットから取り除くことであって、特定のメーカーの掃除機ではないのです。
もっともも多くの人の中には「ブランド志向」と言われる方はいます。
例えば「テレビなら○○」、「車なら××」と言った具合に、ブランドを確固として決めている人達です。
この場合はあなたが販売している商品が、たまたまお客さんのブランド志向に合致していたらラッキーです。
もう95%は売れたようなものです。
セールストークでは商品のメリットや信頼などの部分はそこそこにして、すぐに価格を提示して一気にクロージング(締め括り=契約)に持って行きます。
あなたの商品がお客さんのブランド志向に合致していない場合はかなり面倒になります。
この場合はお客さんのブランド志向の強さによっては、早めに商談を諦めるのも賢い選択しかも知れません。
長時間説得しても時間の無駄になることが多いですから。
ただ最近ではこの様なブランド志向のお客さんは少なくなっています。
お客さんの「欲しい」気持ちを作り上げる為には、まずお客さんのニーズを正しく特定することが不可欠です。
お客さんのニーズを特定するには、まずは出来るだけお客さんと会話をすることから始めましょう。
いわゆる「立て板に水」の一方的なセールストークでは、お客さんのニーズは全く掴めません。
会話をするということはお客さんと打ち解けた関係が生まれるということでもあります。
打ち解けて来ればその時点でお客さんの警戒感が薄れ、悩みや現在不便に思っていることなど様々な本音を聞くことが出来ますので、その中からお客さんのニーズを掴むことが出来ます。
ホテルで働くスタッフの職種に「コンシェルジュ」という職種があるのはご存知ですか?
コンシェルジュというのは一口で言えば「お客様なんでも相談係」という様な仕事です。
従って、その受ける相談内容は非常に多岐に渡りますが、コンシェルジュはそれを全て受け止め、最大限お客さんの期待に答えます。
絶対に「それは分かりません」は言いません。
しかしお客さんというのは、いつも具体的な相談をしてくれるわけではありませんね。
例えばコンシェルジュがあるお客さんから、「今までと違うところで食事をしたいのですが、どこか良いところはありませんか?」という相談を受けたとします。
あなたはこの相談に対して直ちに的確に答えられますか?
この相談ではお客さんは「今までと違うところ」と言っていますが、その「今までと」いうのはどんなところなのか全く分かりませんね。
又、このお客さんの食事の好みも全く分かりません。
つまり非常に漠然とした相談ですが、コンシェルジュはこの様な相談に対しても、「もっと具体的におっしゃって頂かなければ分かりかねます」などとは絶対に言いません。
お客さんの年齢、性別、表情、話し方など様々な手掛かりから推測して、そのお客さんにふさわしいと思われるレストランを紹介します。
そしてその後はお客さんと対話をしながら微調整をして、最終的にお客さんの希望に合致した食事場所を紹介します。
このコンシェルジュの接客スタイルと話法はセールスマンがお客さんのニーズを特定するのに適している為、セールスマン研修にコンシェルジュOBを講師に招いて、そのノウハウを学ぶこともよく行われます。
コンシェルジュのテクニックはOLに人気のある「占い師」もよく使いますね。
占い師というのはまず相手の外観をざっと観察した後、当たり障りの無い話をしながら様々な探りを入れます。
その上で多少の分かった内容を交えながら更に会話を続け、それに対する相手の受け答えや仕草、表情などを見ながら微調整をして、最後に「あなたは今○○でしょう」という様な具合に持って行きます。
お客さんがそれを認めたら後はその解決法と称して毒にも薬にもならない様なアドバイスをして、「はい見料○○円頂きます」で一丁上がりです。
目的は違いますが手法はコンシェルジュの場合と同じです。
お客さんとの会話によってニーズが特定出来たら、この商品がいかにそれに答えられるものであるかを説明します。
ニーズを満たすものであればそれだけお客さんがその商品を欲しくなる確率が高くなりますので、無駄なセールストークに時間を費やすことも無くなります。
これも「無駄を省く」テクニックの一部です。
お客さんにふさわしい事実1つ1つがその商品を「欲しい」気持ちに駆り立てます。
例えば、この掃除機は98%ものごみを取り除くことが出来るという事実があったとします。
これはお客さんの出来るだけたくさんのごみを、カーペットからなくしたいという気持ちを大きくします。
その他にもイエダニが喘息やアレルギー、肺へのダメージを引き起こすという事実。
この事実の後でこの掃除機ならイエダニを完璧に取り除けると説明したらどうでしょう。
相手のニーズがイエダニの除去であれば、「欲しい」気持ちがますます膨れあがるはずです。
既にその商品を使っている人の事例も、欲しいという気持ちを駆り立てる素晴らしいツールとなります。
その商品を購入して大成功だったという人の短いストーリーを伝えましょう。
私が掃除機のセールスマンをしていた頃は次の様な話をしていました。
セールスマン:○○さんは家のカーペットを非常に気に入っていたのですが、思ったようにきれいにできなくてうんざりしていたんです。
でもカーペットを丸ごと処分して堅材の床に貼り替えようとしたら、莫大なお金がかかってしまいます。
ちょうどその時私がこの掃除機を紹介したところ、彼女はすっかり虜になってしまいました。
この掃除機のおかげで借金しなくて済むと大喜びだったんです。
既にその商品を使っている人の事例は、お客さんの「欲しい」気持ちを湧き上がらせます。
多くの人は革新者ではなく追随者、つまり他の人が購入して良かったと証明されて、ようやく自分も購入しようと決心します。
お客さんの欲しい気持ちを湧きあがらせるテクニックでよく使われるのが、「数量限定話法」です。
あなたが洋服を買おうと思ってブティックに入ってある洋服を手に取った時、店員から「よくお似合いですよ」と言われるのと、「それが最後の1枚なのですよ」と言われるのとでは、どちらが買う気を掻き立てられますか?
多分「最後の1枚」といわれた方が、「お似合いですよ」と言われるよりも何十倍も買う気になると思いますが、あなたの場合はいかがでしょうか?
この数量限定話法を多用するのが「テレビ通販」ですね。
ある日私が朝10時に女性用ブーツのテレビ通販を見ていたら、女性のセールスウーマンが「ご注文殺到でこのブーツは後50足になりました」と叫んでいました。
夕方4時に同じブーツのテレビ通販を見たら、やはりセールスウーマンが「ご注文殺到でこのブーツは後50足になりました」と叫んでいました。
6時間もの間このブーツは1足も売れなかったのでしょうか?(笑)
セールストークをする時は「押し付け」にならない様に注意してください。
人間には誰でも心理学で言われるところの、「心理的リアクタンス作用」というものがあります。
これは押し付けられていると感じたらその瞬間に反発心がムラムラと沸いて来て、理屈抜きに「絶対に言いなりになるもんか」と意地になってしまう心理です。
最近江戸時代から続く伝統的な江戸前寿司のお店が振わず、その半面回転寿司のお店が繁盛していますね。
これは価格が明確で比較的安いこともありますが、それよりも何でも、自分の好きなものを遠慮無く食べられるスタイルが受けたのだと言われています。
この押し付けに対して特に反発心が強いのがシニア世代だと言われています。
シニア世代というのは既に長年の社会経験を通じて自分なりの価値観作り上げているので、他人の価値観を押し付けられることを非常に嫌います。
ですからシニア世代がお客さんの場合は、出来るだけお客さんの価値観を探り出す様に話を持って行きます。
その場合褒め言葉を出来るだけ多く使う様にしてください。
人間褒められると「お世辞を言いやがって」と思っても悪い気はしませんので、つい自分の価値観や考え方を得々と話します。
お客さんに「触らせる」というのも、欲しい気持ちを湧き上がらせるのに有効です。
特に掃除機の様ないわゆる「動く商品」は100回のセールストークよりも、1回のデモンストレーションの方が効果があります。
その時お客さんにも実際に使ってもらいます。
車のセールスで言うところの「試乗」がこれの代表例ですね。
前章の「購入を切り出すタイミング」でも申し上げましたが、お客さんが「欲しい」と思った時にはしばしばあるサインが出ます。
私の場合で多いのは再度値段を確認する言葉、つまり「いくらでしたっけ?」です。
このポイントに来たら私はセールストークを短くし、クロージングに入ります。
この時恐らく相手の感情は活発に働いて、購入する準備が出来ているはずですから。
前にもお話ししましたが、まさに相手の感情が高くなっている時こそが購入を勧めるチャンスなのです。
相手に約束させる
確実に売る最も良い方法は、出来るだけ早くお客さんに一つの約束をしてもらうことです。
と申し上げるとあなたは多分、「お客さんと何の約束をするの?」と疑問を持つと思います。
セールスマンが訪問した時、「お待ちしていました、よくいらっしゃいました」と歓迎してくれるお客さんはいません。
その歓迎しない客のセールスマンが何やら商品を買って欲しいと言っているのですから、お客さんは当然断りたくなります。
そこであれこれと買わない理由を見付けて、早くセールスマンにお引取り願おうと考えるのが普通です。
このお客さんの心理を逆手に取りそれを利用して、逆に商談を早くクロージングさせてしまおうというのが、この「相手に約束させる」作戦です。
私の場合、「もし○○が起きたら(又は××が出来たら)その商品を買う」と相手がほのめかす様に仕向けます。
つまりお客さんとの会話を意図的にその方向に持って行くわけですね。
それにはお客さんに対する質問形式をうまく使いますので、この様なセールストークを「誘導話法」又は「誘導質問話法」などと言います。
このセールストークはかなり知能犯的なテクニックですので、これを自然に使いこなせる様になったら、それはあなたが優れたセールスマンとしての仕事が出来る様になったということです。
例えばお客さんが「もしもこのカーペットのシミが本当に取れるなら買います」と言ったとしましょう。
あなたはすぐにシミを取ってあげてください。
この様にまずお客さんに約束をさせた後それをきちんと果たせば、ほとんどのお客さんは自分の言った約束を破ることはありません。
私はよく相手の反対意見を乗り越える時に約束をしてもらいました。
例えば、お客さんが「今はそれを買う余裕がない」と言ったら、まず「ではどの位のご予算だったら買えますか?」と質問して、相手が考えている予算を聞き出します。
この時買う気になっているお客さんなら「○○円位なら・・・・・」だとか、非常にしたたかなお客さんの場合は、「いや、そちらの方は幾らにしてくれるんだ?」という様な具合に逆に質問して来ます。
もうお分かりになりますね。
このお客さん達は完全に買う気になっていますから、もう商品説明など余計なセールストークは必要ありません。
私の場合は「○○円位なら・・・・・」と答えてくれたお客さんに対しては、「では私がご予算に合う様に考えれば、絶対にこの商品に投資してくれますね」と尋ね、首を縦に振ってくれるのを待ちます。
そして相手が納得してくれたら、予算に合うように価格を合わせます。
値切って来るだけで自分の方から価格を提示しないお客さんに対しても、再度質問して出来るだけ希望価格を言ってもらう様にします。
その方が後が楽だからです。
お客さんの値引き要求に対しては、よく「上司に電話する」作戦を使いました。
これは簡単な作戦でまずお客さんの目の前で、携帯電話を使って上司に電話します。
実はこの時電話する上司というのは架空の存在で、携帯電話の向こうには誰もいません(あらかじめ示し合わせた相手がいる場合もある)。
その架空の上司に対して今○○さんというお客さんのお宅にいること、お客さんは購入希望だが大幅な値引を期待していることなどを話し、架空の上司に対して何とかして欲しい旨を懇願します。
つまりお客さんの希望を熱心に代弁しているポーズですね。
そしてその金額で上司の許可がやっと取れた様に装います。
この様なお芝居をするのは登場人物の数を増やし手間を掛けた様に見せ掛けて、お客さんに「断っては悪い」という気持ちを持たせる為です。
これでお客さんの断る口実が無くなりましたので、後は契約書にサインしてもらうだけです。
値切って来るお客さんの中にはいくらカマを掛けても自分から値引希望価格は口に出さず、あくまでもこちらの口から値引額を提示させようとする人がいます。
日頃仕入先との交渉に慣れている自営業の方などには、このタイプが多い様です。
この場合も基本的には「上司の許可を取る」作戦ですが、ただ少し手のこんだお芝居をします。
この様なお客さんに対してはまずある程度の段階まで自分の判断で値引をします。
この段階でお客さんが折り合ってくれればそれで万々歳ですが、もし折り合ってもらえない場合は、そこからは先に紹介した様な架空の上司との電話が始まります。
最初から上司に電話をしないのは、このタイプのお客さんは、値引の権限も無い様なセールスマンとは話をしないという人が多いからです。
このケースの場合はお客さんが具体的な値引希望額を提示していないのですから、電話をしながら上司から値段の提示があった様なふりをして、「○○円ですか?ちょっとお客さんに確認してみます」などという様なお芝居をします。
その上で「お客さんはもう一声と言っておられますが、もう無理だからお断りしましょうか?」などとお客さんの様子によっては、時には商談打ち切りもちらつかせます。
正にオスカーものの演技ですね。
多少手間は掛かりますが、先に申し上げた様に価格のことを言い出すお客さんは既に買う気は十分にあるのですから、このお芝居の過程でたいていクロージングに持って行けます。
この場合注意しなければいけないのは、自分が約束を果たした時にはお客さんにもその場で約束を守ってもらうことです。
特に値引の場合は価格を提示してから、お客さんに時間を与えることは絶対に禁物です。
仮にお客さんに一晩の余裕を与えたとして、その間にライバルのセールスマンがお客さんを訪問したとすれば何が起きるでしょうか?
お客さんは当然もうあなたから買う約束をしたからと断るでしょうね。
しかしそれを聞いて黙って引き下がるセールスマンはまずいません。
かならず「幾らでお買いになるのですか?」と尋ねます。
これはその段階でひっくり返す為には「価格勝負」が一番だと言うことは、ちょっと場数を踏んだセールスマンなら皆心得ているからです。
そしてお客さんから聞いた価格よりも必ず安い価格を提示します。
それに対してお客さんがあなたとの約束を守ってライバルに乗り換えなかったとしても、その時点ではお客さんの頭の中にはライバルが提示した価格が刻み込まれています。
あなたが翌日契約書を持ってお客さんを訪ねても、もうお客さんは昨日納得した価格ではサインはしてくれません。
ですからお客さんとの約束を果たしたら、必ずその場で商談をクロージングしてください。
これはどの様な商売であってもセールスマンの鉄則です。
いろいろ申し上げて来ましたが、もちろんお客さんにに買う約束をさせるのは、口で言うほど簡単な仕事ではありません。
なぜなら人は他人と何かの約束することに対して、本能的に警戒心を持っているものです。
ですからあなたは焦らずに強弱のパンチ(誘導話法)で相手をコーナーに追い込んで、「~出来るかどうか」と相手が尋ねて来るまで待ちましょう。
この時がお客さんに約束を取り付けられる最も理想的な瞬間です。
そしてお客さんの口からその言葉が出たら、シンプルにこう答えましょう。
「もし出来たら必ずこの商品に投資してくれますね」と。
セールストークの早い段階でこの買う約束をしてもらえれば、それだけあなたの以後のセールストークは有利になります。
相手の「今すぐ欲しい」気持ちを大きくして買う約束をしてもらう為にも、現在お客さんの頭の中でメインとなっている問題が何かを見極めましょう(商品の機能?使い勝手?価格?等々)。
この相手に買う約束をさせる方法はセールスにおいて強みになりますが、必須というわけではありません。
しかしこの約束をしてもらえば、以後の売込みが非常にし易くなります。
お客さんに約束をさせるには、相手に約束させるためのポイントを見付けることが一番の鍵になります。
反対意見を乗り越える
私はこれまでお客さんの反対意見に対応し切れずに、失敗したセールスマンをたくさん見て来ました。
新人のセールスマンはたいていお客さんにNOを言われると、非常にがっかりします。
しかしこのお客さんのNOを聞いた後の対応によって、「駄目セールスマン」と「出来るセールスマン」がはっきり分かれます。
まず駄目セールスマンはお客さんのNOが何軒か続くと、以後のセールス活動を続ける意欲が無くなってしまいます。
そしてそれが更に高じると、今度は朝「行って来ます」と会社を出た後マンガ喫茶に直行してそのまま午前中は時間を潰します。
そして昼食を食べてから若干のお客さん宅を廻って、夕方「ただいま」と会社に帰って来ます。
一旦このドツボに陥ったセールスマンはよほどのことが無い限り、そこから自力で抜け出すことは出来ません。
覚せい剤の様なものですね。
当然売上は上がりませんので、もう辞めて行くのは時間の問題です。
一方、出来るセールスマンはお客さんのNOを聞くとすぐにその理由を聴き出し、そしてその反対意見を潰す為に自分は何をすべきかを考えます。
つまりお客さんにNOと言われても決してネガティブにはならず、常にポジティブに対応しようとします。
私が掃除機を売っていた頃は「セールスはNOから始まる」と言われて来ました。
そしてそれは全くその通りで、最初から買う気満々のお客さんなどこの世には存在しないことも知りました。
お客さんがNOと言った時セールスマンは機転の利いた受け答えをするよりも、なぜNOなのかその理由を聞きだすことの方が何十倍も大切です。
お客さんに反対意見を言われたらその瞬間に素早く考え、すかさずカウンターパンチで返さなくてはなりません。
これは売上につなげる為の戦略です。
お客さんの反対意見で最も多いのは、「今はそれを買える余裕がない」という言葉です。
新人セールスマンの多くはこのお客さんの一言でガクッとなり、あっさりとギブアップしてしまいます。
しかしこれはお客さんがセールスマンを早々に追い返す為の、決まり文句のひとつなのです。
2階建ての立派な家に住み、ガレージにはベンツの新車が2台、そんな家を訪問しても、お客さんは20万円の掃除機に投資する余裕が無いと言います。
正直なところ、私はこの言葉を言わなかったお客さんと契約したことはありません。
ほとんどのお客さんはこの決まり文句を言いました。
しかしその決まり文句を言ったお客さんの多くは、最後には契約書にサインしてくれました。
お客さんはもしどうしても欲しいのであれば、お金は何としてでも都合する方法を見付けるものです。
人は誰でも他人から買うことを強要されていると感じた時は反発します。
このポイントはぜひ覚えておいてください。
例えばあなたはデパートの売場で何気なく洋服を見ている時、店員が寄って来て接客しようとすると、それを煩わしいと感じたことはありませんか?
実は小売業ではこの様にふらりとやって来て品定めをしているお客さんに、何時声をかければ良いのかは非常に気を使います。
声をかけるタイミングが早過ぎれば先ほど申し上げた様に、お客さんはそれが煩わしいと感じて帰ってしまいます。
しかしだからと言って遅過ぎても、やはりお客さんは興味を無くして帰ってしまいます。
お客さんに「買うことを強要されている」と感じさせずに、うまく声をかけて売上につなげるのが優秀な店員です。
もうお分かりになったと思いますが、お客さんが反対意見を言うのは他人に買わされたく無いという、言わば自分の面子を立てる為の言い訳なのです。
ですからセールスマンはその反対意見を受け止めてお客さんの面子を壊さない様にしながら、その裏では反対意見を徹底的に潰さなくてはいけません。
もちろん表面的にはあくまでも慇懃に振舞いお客さんの気持ちを刺激しない様にしますが、もう今後同じことをお客さんが2度と言わない様に、反対意見は跡形も無く潰しておきます。
お客さんの心の中にその商品を購入することに反対の気持ちが少しでも残っていれば、お客さんは決して契約書にサインしようとはしませんから。
お客さんの反対論に対抗する為にはセールスマンも勉強が必要です。
特に今まで取り扱っていなかった商品を初めて売ろうという様な場合はその商品知識を学ぶと同時に、予想されるお客さんのNOに対して反論出来る様に合わせて勉強しておきます。
この場合はあなたがお客さんの立場になって、お客さんがあなたに投げかけそうな反対意見を全て考えて、ノートに書き出してみます。
ノートに書き出したらこれらを覆す受け答えを考えましょう。
必要に応じて仲間とロールプレーイングをしてみるのも良いでしょうね。
とにかくお客さんとのやり取りに付いて様々なケースの勉強をしておきます。
私が以前掃除機のセールスマンをしていた頃の例を、ここで一つご紹介しましょう。
お客さん:その掃除機はとても気に入ったのですが、今は買う余裕がありません。
私:分かります。
つまりは値段ですね。
ではもし100%支払う余裕があれば、絶対に今日この掃除機に投資していただけますね。
ここでのポイントは、まず私が相手の反対意見に同意していますね。
その上でお客さんの反対論の根源が「値段」であることを確認しています。
それから100%購入出来る金額なら絶対に買ってくれるという約束をさせました。
このお客さんとの応酬は「顧客の心を見抜く」の章でお話した、「イエス・バット法(YES・BUT法)」の応用です。
このケースでは出来るだけ値段を下げた上で、支払いが可能な月々の分割払いを提案します。
次は別のケースです。
お客さん:もう月々の請求書がいっぱい貯まっていますから。
私:そうですね。
でも請求書というのは誰にでもつきまとうものです。
残念なことに私達現代の人間というのはきっと(間)・・・死ぬまで請求書を抱える生き物でしょうね。
欲しい物を請求書にストップされてしまっては、人生をエンジョイできないですよね?
今度は違うアプローチをしています。
人間は死ぬまで請求書を持つものだと納得させたことで、欲しいものを購入しないという口実は無くなりました。
ここでもイエス・バット法(YES・BUT法)を応用して、買わない言い訳の反対意見に打ち勝っています。
この様にイエス・バット法(YES・BUT法)というのは、お客さんのNOに対抗する場面では非常に応用範囲の広い応酬話法です。
お客さんはセールスマンから学校の先生の様な感じで説得されると、心理的なリアクション、つまり抵抗感が生まれます。
しかしセールスマンの方は何とかお客さんを説得して、商品を買ってもらう必要があります。
この様な場合お客さんの買わない理由をまず認めて抵抗感を和らげてから、おもむろに反論するイエス・バット法(YES・BUT法)はとても有効です。
あなたも様々な場面で自然に使える様に、日頃からトレーニングしておいてください。
いずれにせよこの様に相手の買わない言い訳がなくなるまで、あらゆる手でそれを排除して行きます。
オンライン・ショップで※コンバージョン率を劇的にアップさせる場合にも、やはり上記の様なセールストークが役立ちます。
(※注記)コンバージョン率とはそのオンライン・ショップを訪れた人の内、ショップの提供する商品やサービスを利用した人の割合。
例えば訪れた人が全部で100人で、その内10人が商品を購入したりサービスを利用したとすれば、コンバージョン率は10%となる。
オンライン・ショップの販売効率を見る場合の重要な指標になる。
これまでお話しして来たセールストークがオンライン・ショップで役立つと言われても、ちょっとピンとこないかもしれませんね。
しかし信じられないかも知れませんが非常に効果があるのです。
反対意見を乗り越える事がコンバージョン率にいかに反映されるかをお話しましょう。
オンライン・ショップの場合はお客さんと直接話が出来ませんので、その点は対面販売と違って多少難しい部分があります。
つまりオンライン・ショップの場合は、想定されるあらゆる反対意見を自分で考え出さなければなりません。
そこでまずはお客さんが抱きそうな反対意見を思いつくままに出してみます。
例えばあなたがオンラインで「アフィリエイト・マーケティングで稼ぐ方法」に関する電子書籍を販売しているとします。
一般的に次のような反対意見が考えられます。
「今は買う余裕がありません。」
この言葉は対面販売でも一番多いお客さんの断り文句ですが、オンライン販売でも必ず出て来ます。
これを乗り越える方法は一つではありません。
私が成功したのは、初めは高い価格を出し、最終的にその半額まで落とすというやり方です。
価格を提示した最初の時点で出てきやすい言葉なので、これは効果があります。
この場合お客さんには「この価格は○○さんだけにご提供する価格ですから、他の人には絶対に言わないでください」と付け加えれば、もっと効果があります。
「忙し過ぎて実行する時間がありません。」
この反対意見は比較的乗り越え易いでしょう。
私の場合まずオンラインでお金を稼ぐ方法を見付けるまでは、1日15時間も働いていたことを話します。
それがオンラインで稼ぐ方法を見付けてからは、実際に働いたのはセットアップに要した約1時間だけだったことを伝える様にしています。
1日に15時間以上も働いていたのがセットアップの約1時間だけ働けば良いのですから、これによって反対意見に打ち勝つことが出来ます。
こういう反対意見もよくあります。
「同じ事が書かれた他の電子書籍もいくつか読みましたが、お金を稼ぐことは出来ませんでした。」
これも乗り越えられます。
私ならこう対応します。
「私はオンラインでお金を稼ぐという内容の電子書籍は全て読みましたが、1円稼ぐ方法はどれも教えてくれませんでした。
でも私は今まで敢えて書かれていなかったヒントをようやく発見したのです。
そしてそれを私のこの電子書籍(タイトルをここで言う)でご紹介しています」。
ご紹介したのはわずかな例ですが、あなたもセールストークを勉強する時には、まず考えられる反対意見を全て書き出してみることをお勧めします。
その商品をお客さんが買わない理由を手っ取り早く知りたい時は、まず自分の友人や家族に買わない理由を尋ねてみるのも良いと思います。
そしてそれをあなたのセールストークで買う気にさせてみるのです。
また、一応セールストークのパターンが出来たら、同じ会社の新人セールスマンに聞いてもらいましょう。
その時もし新人セールスマンが「○○さん(あなたの名前)の話はちょっと分かり難い」と言ったら、そのセールストークは没にして再度作り直します。
なぜならばお客さんは新人セールスマンよりももっと素人なのです。
新人セールスマンに理解されないトークが、それよりも知識で劣るお客さんに通じるわけがありませんね。
作り直したセールストークは、また新人セールスマンに聞いてもらいます。
この様にしてセールストークをより良いものに仕上げて行きます。
主導権を握る
セールスマンはお客さんと話を始めた瞬間から、主導権を握っていなければいけません。
主導権を握れないセールスマンはついついお客さんの前で卑屈になり、ぺこぺこと頭を下げるだけの俗に言う「たいこ持ち営業」に成り下がってしまいます。
そういう卑屈な態度は多くのお客さんからはかえって嫌悪感を持たれ、その結果なかなか売上を上げることが出来ません。
基本的に主導権というのはその場で優位に立つ側が握ります。
では優位に立つにはどうすれば良いのでしょうか?
それは自分が相手により多くのメリットを与える様にすれば良いのです。
セールスマンがよく勘違いするのは、買う側のお客さんというのは最初から自分よりも優位に立っていると思い込むことです。
でももしあなたがお客さんから1万円を受取って、それと引き換えに2万円の価値がある商品を差し上げる立場だったらどうですか?
それでもまだ買う側のお客さんの方が優位に立っていますか?
違いますね。
1万円出せば2万円の商品がもらえるのだったら、他に欲しい人はいっぱいいます。
従って、あなたは他に売る相手をいくらでも選べますので、いざとなれば今接しているお客さんとはいつでも商談を打ち切ることが出来ます。
つまりお客さんは買う側、あなたは買ってもらう側にも関わらず、この場合は圧倒的にあなたが優位に立っていますね。
当然この場合の商談の主導権はあなたが握っています。
セールスマンが弱気になってしまうのは、自分が売っている商品に自信が無いからです。
つまり自分はお客さんから1万円を受取って代わりに2万円の価値がある商品を渡しているのではなく、5千円の商品を渡していると思っているから、つい「買って頂く」と言う様に考えてしまうのです。
もちろん実際は5千円の商品を1万円で売っているのですよ。
商売ですから当り前の話ですね。
でも私は今仕入と売上という会計学の話をしているのではなく、心理学の話をしているのです。
つまりこの商品をお客さんに使ってもらうことによって、自分はお客さんに実際の商品価格の何倍もの幸せを提供しているのだと、自分で自分に暗示をかけなさいということを言っているのです。
この自己暗示はお客さんのお宅の入口に立った時は、必ず自分にかけてください。
そうすればまず態度が堂々とします。
声も明るくハキハキとして、お客さんに良い第一印象を与えます。
現代は商品だけを売る時代ではありません。
商品の利用価値プラス、それを使うことによるお客さんのトータルの幸せを売る時代です。
例えばあなたが掃除機のセールスマンならお客さんが掃除機を買うメリットは、「掃除機で掃除が楽になる+イエダニが駆除出来る+イエダニが引き起こす病気の予防」といった具合ですね。
主導権はセールストークによって、お客さんを自分の土俵に誘導することでも獲得することが出来ます。
この場合難しいのは、お客さんに自分が誘導されていることを悟られない様にすることです。
その為にはお客さんに丁寧に接しながら誘導質問話法などを駆使して、お客さんがいつの間にかあなたの土俵に乗せられている様に導きます。
セールスの初めから終わりまでをあなたが引っ張っていかないと、契約に結びつけるのが難しくなります。
お客さんのご機嫌をいくら取ってもそれによって、お客さんが「よし買ってやろう」などと言ってくれることはまずありません。
いたずらに時間ばかりが過ぎるだけで注文は取れません。
重ねて言いますが商談を成功に導くにはセールストークの最初の言葉から、あなたが主導権を握ることが必要不可欠です。
主導権を握るのが一番難しいのは電話で、初対面の相手にアポイントを取る時です。
電話での話が難しいのは相手が全く見えないからですね。
ですからこちらが一生懸命話していても相手の受け応えがイマイチだったり、声が不機嫌そうだったりするとつい焦ってしまいます。
そしてつい「お忙しいと思いますが、なんとかお時間を取って頂けないでしょうか?」という様な哀願調の電話になります。
この話し方ではまずほとんどの場合「今忙しいから」で断られてしまいます。
私ならこの電話は「お忙しいと思いますが、今週の水曜日か木曜日の11時頃にお目にかかれないでしょうか?」とこちらから時間を指定します。
この場合必ず複数の日時を候補に上げるところがミソです。
多くの人は複数の日時を候補に上げられると両方とも断るのは悪いと思うのか、「じゃあ水曜日は都合が悪いから駄目だけど、木曜日なら・・・・・」という様な具合に、しぶしぶ面談に応じてくれます。
もちろんそれでも断られることはありますが、それは仕方が無いことです。
世の中は全てうまくは行きません。
一般的にお客さんというのは、セールスマンに対してはネガティブな対応をするものです。
よくセールスは「NO」と言われるところから始まると言われますが、本当にその通りです。
ごく稀に最初からポジティブに接してくれるお客さんがいますが、この様なお客さんは多くの場合セールスマンを単なる退屈しのぎの話し相手にしているだけで、商品を買ってくれることはほとんどありません。
私も掃除機のセールスマンをしていた頃は、デモンストレーションをしようとしてもお客さんは全く注目してくれませんでした。
それをあれこれセールステクニックを駆使してデモンストレーションを見てもらい、更にトークを重ねて契約書にサインしてもらう毎日でした。
セールスマンにNOというお客さんは、幾つかの「買わない理由」を持っています。
例えば次の様なものです。
①その商品が自分のニーズを満たしていない。
②他社の商品の方が魅力的だ。
③お金が足りない。
④反対している人がいる(例えば奥さんorご主人)。
⑤見積条件に気に入らない部分がある。
商談で主導権を握る為にはこれ等のお客さんの「買わない理由」に反論して、完全に潰してしまわなければいけません。
「買わない理由」を潰してしまえば、以後は契約に向けてあなたが主導権を握れます。
お客さんの買わない理由を潰すのによく使われるのが、「質問法」と呼ばれるセールストークです。
お客さんの「買わない理由」を潰す為にはまずその理由を知らなければいけませんが、お客さんにストレートに「何かご不満な点がありますか」と聞いても、はっきり答えてくれることはごく稀です。
ですから様々な質問をしながらお客さんの答えを聞き、「ひょっとすると○○さんがこの商品に投資して頂けないのは、×××がご不満なのではないでしょうか?」という様にこちらから答えを提示します。
もうお気付きになったと思いますが、この質問法というのは常に自分が会話の主導権を握っていますね。
お客さんは知らず知らずの内に受身の立場になっています。
あなたはお客さんによく「謝って」いませんか?
例えば何かあるたびに「すみません」などという類の、謝罪に使う言葉を使っていませんか?
日本人は世界でも珍しい「I’m sorry(ごめんなさい)」を、日常的に平気で使う民族だと言われています。
欧米人はもちろんのこと同じ東洋人の中国人や韓国人でも、I’m sorryはめったに言わないですね。
日本は「和をもって尊としと為す」という聖徳太子の有名な言葉が好きですから、多分ちょっと揉めそうだったり相手が不機嫌そうな顔を見せたら、「面倒だから謝っちゃえ」という風潮になったのでしょうね。
ただこの「謝る」という行為は、相手よりも自分を一段下におく行為です。
ですからI’m sorryを多用していると、いつの間にか相手に会話の主導権が移ってしまいます。
少なくとも口癖の様にI’m sorryを使うのは止めましょう。
主導権を握る為には、お客さんにあなたの話をきちんと聞いてもらわなければいけません。
あなたが一生懸命話していてもお客さんがあなたの話を聞いていなければ、それは時間を無駄にしているだけです。
もしお客さんがあなたの話を退屈そうに聞いているなら、それはあなたの話し方に問題があるのです。
お客さんの家を訪問している時は、相手を確実にあなたの話に引き込みましょう。
商品の説明や質問の際は相手の興味を失わせないようにします。
マニュアルを読んでいる様な話の内容、抑揚の無い一本調子の話し方では5分もすればお客さんは退屈してしまいます。
あなたは「トークショー」というのをご覧になったことはありますか?
トークショーというのはおしゃべりを主体とした放送や舞台、ディナーショーなどで時間にすればおおむね1時間弱のショーになります。
その間プロはおしゃべりだけで決してお客さんを飽きさせませんね。
セールスマンはこのプロの話術は録音しておいて見習うべきです。
優れたセールスマンとは芸人になることだというのは、私がいつも言っていることです。
上手にセールストークを展開して行けば相手はずっとあなたに注目してくれます。
話の途中で、相手に別のことをさせてはいけません。
話の間はずっとこちらに集中させる必要があります。
お客さんと話をしている最中に急な来客や電話など、コントロール出来ない事態は常に発生する可能性があります。
このような状況になってしまったらセールストークは中断し、礼儀正しく待つのが正解です。
出来れば来客もあなたの話に巻き込めればベストです。
特にそれがご近所の人の場合などは、うまく行けばその人もお客さんに出来るかも知れませんから。
主導権を握るには相手をあなたの話に引き込み続けることがポイントです。
同じ事をくどくどと繰り返したり冗長になったりすれば、相手の興味はあっという間に失われます。
常に新しい情報で魅了し続けるようにしましょう。
その為にはセールスマンは世の中の動きに敏感である必要があります。
そしていわゆる「雑学の大家」である必要があります。
相手に関連のある事例や例え話をするのも良い方法です。
私が掃除機を販売していた頃は購入しなかった結果、汚れでカーペットを台無しにしてしまった女性の話を持ち出す様にしていました。
彼女はカーペットを取り替える為に、掃除機の3倍ものお金を失うはめになったのだと。
人はたいていストーリー仕立ての話を聞くことを好みます。
小さな子供でも寝る前にベッドで本を読んでもらいたがりますね。
そのストーリーが何かしら相手に関係のあることであれば、相手は必ず興味を持ちます。
そして相手の興味を引いている限りは、あなたは主導権を握れるのです。
優れたセールスマンになる為には、セールストークを通して主導権を握ることが不可欠だと覚えておきましょう。
契約をまとめる
経験の少ないセールスマンにとって最もストレスがかかるのは、契約をまとめることでしょうね。
契約をまとめることをセールス用語では、一般的にクロージング(締め括り)と言います。
クロージングというのは簡単に言ってしまえば、契約書にお客さんのサインをチョロチョロともらうだけのことです。
ところがそれがなかなか出来なくて、長時間のセールストークやデモンストレーションの成果を無駄にしてしまうセールスマンは少なくありません。
その一方で人よりも短いセールストークやデモンストレーションで、どんどんクロージングをして行くベテランセールスマンも大勢います。
この違いはどこから出て来るのでしょうか?
クロージングがなかなか出来ないセールスマンに共通しているのは、恐怖心が強いことです。
つまりお客さんに「契約をしてください」と頼んで、断られるのが怖いのです。
セールスマンが契約をまとめる為には、まずこの恐怖を乗り越えなければなりません。
これまでにもお話して来ましたが、どんなタイミングでどのように契約につなげるのか、つまりクロージング出来るのか、それを把握出来るのが優れたセールスマンです。
商談をクロージング出来なければそれまでのセールストークやデモンストレーションに要した時間は全て無駄になります。
よく「クロージングを急ぐと失敗する」と言われますが、それは思い違いです。
私はセールストークをしている時もデモンストレーションをしている時も、絶えず契約をまとめようとしていないと売上につながらないことを発見しました。
お客さんが物を購入するのは気持ちが高まった時です。
そしてこのお客さんの買いたい気持ちというのはセールストークを聞いたりデモンストレーションを見ている間、まるでジェットコースターの様に上がったり下がったりしています。
言うまでも無くお客さんの感情がピークに達した時、この時こそが契約をまとめる絶好のタイミングとなります。
これを逃してしまうとお客さんの気持ちは徐々に下がり始め、下がり切ってしまうといかなるテクニックを使っても、売上につなげることが難しくなります。
そしてお客さんの感情のピークがいつ来るかはセールスマンはもちろんのこと、お客さん本人にだって分からないのです。
セールスマンがクロージングをしようとすると、よくお客さんから「名刺を頂ければ買いたいと思った時にこちらからご連絡します」と切り替えされます。
この様に切り返されるのはお客さんの気持ちを見誤った時ですが、いずれにしてもお客さんの言い分を真に受けて名刺を渡して引き揚げた場合、お客さんの方から連絡が来ることはまずありません。
ではどの様なタイミングで購入を勧めれば良いのかは、「購入を切り出すタイミング」の章で詳しくご説明していますので、お忘れの場合はもう一度読み返してみてください。
契約をまとめるにはテクニックも必要です。
私は一般的な質問をしながら、お客さんをクロージングの方向へ誘導して行く誘導話法(誘導質問話法)が好きで、こうするとうまく契約をまとめることが出来ました。
例えば生命保険を売り込んでいる場合はこんな質問をします。
「人生には思いもよらない事が突然に起きるものですが、その時に大金を失うより、今の内に少しずつ積み立てておく方が良いとは思いませんか?」。
こうするとお客さんを契約に導くとことが出来ると同時に、なぜその商品を欲しいのかを思い出させることが出来ます。
欲する理由を心に再び蘇えらせることで、契約のチャンスを広げるのです。
この時、「購入する」「買う」と言った直接的な言葉は避け、「この商品に投資していただけますか」という様な間接的な言い方にします。
販売している商品によってはもっとクリエイティブな方法もあるでしょう。
例えば女性のコスメ商品などにある様な、その商品を使う人達のサロンのメンバーに勧誘するなどの方法です。
この場合サロンのメンバーになるにはその会社のコスメ商品を買うことが条件になっているのですから、サロンのメンバーに誘うということは、間接的に商品の購入を促していることになりますね。
お客さんをクロージングに誘導するには昔から様々な方法が使われています。
その幾つかをご紹介しましょう。
・「これが最後のチャンス」話法
お客さんに今買わなければ損をするという切迫感を与える話法です。
これにはいくつかコツがあるのですが、1番良いのは、その時限りの特別価格を提供することです。
そしてこれは今日契約してくれた場合にのみ適用されることを強調します。
人というのは少しでも得をしたいと思うものですから、これが最後のチャンスだと思えば買おうという気になるのです。
この話法はテレビ通販の常套手段ですね。
例えば現在の希望小売価格が17,800だったとしますと、その価格の横に必ず通常価格と称して、24,800円などの価格をさりげなく表示してあります。
そして「17,800円は今日限りの価格で、明日からは通常価格になります」と強調します。
この場合「明日からの通常価格」は別に言わなくても、お客さんは勝手に「7,000円も高くなるなら、今日買わなければ損だな」と思ってくれます。
要するにお客さんゆっくり考える余裕を与えないのです。
・「おまけが付きます」話法
これは昔から街の魚屋さんや八百屋さんでも使っていた話法で陳腐なものなのですが、今でも結構大きな効果があるのです。
ですからこれもテレビ通販がよく使いますね。
例えば今パソコンを買ったらプリンターーやデジカメ、WEBカメラなどが「おまけ」に付くというやり方です。
画面に登場するセールスマンが「これも付けます、あれも付けます」とひとつひとつのおまけを紹介するたびに、出演しているタレントとスタジオに来ている「サクラ(たぶん社員)」が、「うわ~」という様な歓声をあげるのがいつものパターンです。
あなたはご覧になったことがありませんか?
・「あと残り○○です」話法
「それが最後の1枚です」、「あと残り50台限りです」などの話法です。
人間はおかしなもので「あと残り○○です」と言われると、何か買わないと自分が損をする様な気になってしまいます。
この話法を使う時は「あと残りわずかです」と言うよりも、「あと残り50台です」と言う様に具体的な数字を入れた方が効果があります。
これもテレビ通販ではお馴染みの話法です。
・小さなことを先に決めさせる
お客さんは「注文を決めてください」と言ってもなかなか買う決心が付きません。
そこで例えば「お買い上げ頂くとすればお支払は一括払いが良いですか?それともリボルビングの方が良いですか?」という様な、本来は「買う」という幹を決めた後で決めるべき枝葉の部分を、先にお客さんに決めさせます。
これによって何となくお客さんを、「買う」という決断をした雰囲気にしてしまうのです。
こういうやり方を昔の人は「外堀を埋める」と言いました。
・「○○さんにもお使い頂いています」話法
「○○さん」の部分は普通はお客さんの友人やご近所さんの名前など、知り合いの人の名前になります。
時には有名タレントなど、誰でも知っている著名人の名前になることもあります。
そのタレントが本当に使っているかどうかなど、お客さんは調べようがありませんね。
この話法の応用編としては、実際にお客さんの知人の紹介がもらえればもっとベターです。
・バランスシート話法
購入することによるプラス面を「借方」、マイナス面を「貸方」とします。
この方法は個人がターゲットの商品よりも、個人商店や中小企業などをターゲットとする商品の場合の方が有効です。
相手がバランスシートに慣れていて、論理的な方が出来る場合が多いからです。
もちろん個人でも論理的で理屈っぽい相手には使えます。
当然のことながらこのバランスシートは、常に借方勘定の方が大きいアンバランスシートになります。
・「あなただけ」話法
プライドが高く尚且つ論理的では無く、感情で行動するタイプの相手に有効な話法です。
とにかく「あなただけは特別です」と思わせるので、「あなただけ特別」話法とも言います。
人間はとにかく自分がVIP扱いされると嬉しいものです。
例えば老舗デパートの外商部員などは、このお客さんのプライドを大いに利用していますね。
この「あなただけ」話法は様々な形で応用出来ます。
例えば「こんなに値引をするのは○○さん(お客さんの名前)だけですから、ご近所には絶対に言わないでください」という様な具合です。
・連続YES話法
お客さんが「YES」と答え易い質問を重ねて、最後に買う「YES」を言い易い雰囲気を作ります。
もちろん質問の中には買う方向へ誘導するものを紛れ込ませています。
クロージング話法が上手く行ってお客さんが契約書にサインしそうな雰囲気になったら、間髪を入れず購入の手続きに入ります。
ここでは契約の手続きはテキパキと進め、絶対にモタモタしない様にしましょう。
まずお客さんの購買意欲が高まって来たと判断したら、お客さんと話をしながらカバンを開けてわざとお客さんに見せながら契約書を取り出します。
このデモンストレーションによって、お客さんに「もう買うしか無い」と最後の決断をさせるのです。
そしてまず「ここの住所は○○区××町で良かったですね?」などと言いながら、どんどん契約書に必要事項を記入して行きます。
もうお気付きになったと思いますが、お客さんはまだ「買います」とは言っていませんね。
また、私はお客さんに「お買い上げ頂けますね」と最後の念押しもしていません。
それなのにもうお客さんが買うと決めた様に、どんどん契約書に必要事項を記入しています。
お客さんは「勝手なことをするな」と怒り出さないのでしょうか?
私はこのやり方でお客さんに怒られたことは一度もありません。
もちろん中には契約書を見て「え~それって契約書じゃないの?」などというお客さんはいますが、その時は「ええそうです」と答えながら構わず契約手続きを進めて行きます。
そうすればお客さんは「参ったなぁ~」などと言いますが、それ以上は文句は言いません。
それは私がその前段階として、お客さんの雰囲気をクロージングの方向に持って行ってあるからです。
雰囲気は覚めることもありますから覚めない内に多少強引でも、お客さんに契約書のサインをもらってしまうのです。
ここでひとつ必ず守って頂きたい大事なポイントがあります。
それは契約書に書き込んでいる時、絶対に「沈黙の時間」を作らないことです。
多くのお客さんはこの期に及んでもまだ多少の迷いは残っているものです。
沈黙の時間を作るとそこでお客さんに考える時間を与えますから、気が変わって「やはりちょっと待って」という様なことになりかねません。
ですから契約書に書き込んでいる間もお客さんと会話を続けます。
但し、この時の会話はもう商品に関するものではなく、一般的な世間話の様な軽いものにします。
商品に関する話をするのはタブーです。
契約書は商品名、数量、価格、納期など、お客さんがサインをする時に確認する重要なポイントだけをその場で記入し、事務所に帰ってからでも書き込める細かい部分は後で書く様にします。
契約書は通常2部作成し、自社の代表者のサインをした後お客さんに1部をお渡しするのですから、その場で細かい書き込みをする必要はありません。
細かいことを後にする理由は、やはりお客さんに余計なことを考える時間を与えない為です。
手続きをスムーズに進める為には事前に準備はきちんとしておきます。
例えば筆記用具は必ず点検しておきましょう。
契約書に書き込もうとしたらボールペンのインクが切れていたなどというのは、セールスマンとして最低です。
訪問販売の場合、※クーリングオフなど契約上の重要な条項は、口頭でお客さんに説明することが法律で定められています。
(※注記)クーリングオフとは訪問販売や電話勧誘販売など、法律に定める無店舗販売業者と売買契約を結んだ場合、一定の期間内なら消費者が無条件、且つ一方的に契約を解除出来る制度。
訪問販売の場合契約解除出来るのは、正式な契約書を受け取ってから8日以内。
私の場合は目を通してもらいたい契約の条項を、ペンで示しながら説明する様にしています。
その様にして丁寧に説明しておけば後日問題になることもありません。
さあ、これでセールスは成功です。
セールスマンの気持ちとしてはグズグズしているとお客さんの気が変わるかも知れないので、一刻も早くおいとましたいと思いますね。
しかしその気持ちをグッと堪えてください。
「契約書にサインをもらったのだから、もうお前には用は無い」と言わんばかりに早々に引きあげると、残されたお客さんは「やはり騙されたのではないか」などと不安になります。
そしてその結果、クーリングオフにつながったりします。
ですから契約が終わった後も最低5~10分程度は世間話などをして、それからおいとまする様にしてください。
本書を最後までお読み頂きありがとうございました。
あなたにはこの先にも、たくさんのチャンスが待っていることでしょう。
~終~
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
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