「東京ラグナロク」第3話 青春ラグナロク

ジリリリリリ!!!

「ユキト!シン!起きるのだ!学校に遅刻するのだ!」

アンが俺の上に跨って起こしてくる。

「はぁ、めんどくせぇなぁ」
「おはよう」

俺たちは起きて顔を洗い学校に行く準備をする。シンもランドセルを背負えば女子小学生に見える。一応今日から小学4年生として学校に通う。
俺も一応学生として高校に通っている。高校2年生だ。
別に高校に通う必要性もないが、どこにも所属していないのは社会で生きる上であまりよくない。

「で、アンは今日も一緒に来るのか?」
「もちろんなのだ!シンについて行ってやりたい気持ちもあるが、我はユキトから離れられないのでしょうがないのだ!」
「シンは一人でも大丈夫か?」
「うん」

相変わらず無表情だが、少し楽しそうな顔をした気がした。

「では出発するのだ!」

そう言ってアンは俺の肩に飛び乗る。
アンは基本俺から離れることはない。だがアンは完全に顕現してるので人の目にも映る。だから学校にはあれこれ不憫な理由を突き付けて、幼い妹と一緒に登校することの許可を得ている。組織の力もふんだんに使ったかなりの力技だったが。
シンを小学校まで送り届けて、高校へ向かっていると後ろから声が聞こえる。

「おはよう!ユキト!時間通りに登校なんて偉いじゃないか」

めんどくさいことに俺の高校には神殺しの槍(ロンギヌス)や聖十字協会(タナハ)の連中も通っている。

「はいはい、おはよう。ミナト」
「今日もアンラ・マンユを肩車して登校かい?」
「我とユキトは離れられない運命なのだ!わははは!」
「二人はお似合いだもんね」
「そうであろう!そうであろう!わははは!」
「朝からアンのテンションを無駄に上げてんじゃねーよ」
「僕は本心を言ったまでだよ」

そう言ってミナトは胸焼けしそうなぐらい爽やかな笑顔でこちらを見てくる。なんで同じ孤児のくせにこんなすべてに恵まれてきたかのような100パーセントの笑顔ができるんだ?こういうところが昔から気味が悪い。

「おい!今日も幼女担いで学校来てんのかよ」

続いて声をかけてきたのはミツキだ。こいつは常にむかつくが、ザ・孤児って感じのひねくれ方をしてるのでそこは安心する、

「このくそロリコンやろーが!」

あ、ダメだ。やっぱこいつはこいつで今すぐぶち殺したい。

「幼女じゃないわい!我はお前らなんかの何万倍も年上なのだぞ!崇めるがよいのだ!」

アンが胸を張る。俺の肩の上で。人の肩の上であんまり動かないでほしいんだけど。

「というか聞いたよ、神の残穢の件。全く無茶するね。上はカンカンだよ?」
「神の残穢じゃない。シンだ」
「、、、そうか。それは失礼。それでシンちゃんはどこに?」
「小学校に通わせてる」
「、、、そうなんだ」
「はぁ!?何考えてんだ、てめぇは!神の手下を育てる気かよ!」
「神の手下じゃない。シンだ」
「名前なんて何でもいいだろ!神の手下は手下だ!」
「ミツキ、そろそろ黙れ。殺すぞ」
「やってみろよ、ユキト」
「二人ともやめなよ!ここは一般人も多くいるんだ。それでもやるというなら、僕は君たちに互いの目玉を食べさせ合わすしかなくなるよ?」

・・・

「目玉を食べさせ合わすしかないってどんな状況だよ!いろんな段階ぶっ飛ばしていきなりラグナロク行ってんじゃねーか!」
「いちいちキメ―んだよ、お前は!」

とりあえずバカとサイコパスと折り合いをつけて俺たちは各々の教室へ向かう。
本当にあいつらと同じクラス出なかったことだけは神のクソ野郎にサンキューと言っといてやろう。
俺のクラスは2年B組。まあ最悪の事態は回避したが、完全に平和なクラスというわけでもない、

「ユキト!待ってたわよ~。早く座って~。今日はお弁当を3つ作ってきたの!早速一つ目食べて~」
「お前、キャラブレブレじゃね?」
「隊長の時の私はお仕事だもの!こうやって学校でユキトといるときの私が本当の私よ!」

教室に入ってすぐに抱きついてきたのが、ユウカ・イチジョウ。十二番隊『猪突』の隊長だ。隊長と学生の時では大分雰囲気が変わる。なぜか俺の事が好きらしく妙にベタベタしてくる。だが好かれるような心当たりが全くないから話し半分に聞いてはいる。
まあそれよりここからがめんどくさい。

「女!我のユキトにベタベタするでない!」
「ちっ!いちいち私とユキトの邪魔をしないで!悪魔のくせに!」
「何を言っておるか!我とユキトはまさに一心同体!一生を共にするのだ!えっへん!」

アンが胸を張る。俺の肩の上で。しんどいからあんまり肩の上で動かないで欲しい。

「悪魔め!いつかお前からユキトを解放してやるんだから!」
「やれるものならやってみい!ふはははは!」
「余裕ぶってられるのは今のうちよ!ねぇ!スズネ!」
「はい、お嬢様。というかユキトさんまだ生きてたんですね。はぁ、忌々しい」

そしてスズネも同じクラスだ。スズネはユウカの家に使えている祓魔師の一族で、本来ならユウカにつく祓魔師となる様に育てられていたのだが、選ばれた剣・・・・・が特異だったために俺担当の祓魔師になった。それがここまで異常に俺に殺意を抱いている理由でもある。
祓魔師の多くは悪魔憑きを殺したくて祓魔師になったわけではない。
悪魔憑きが悪魔に乗っ取られないようにするためにそばにいる奴が多い。
そして神との戦いが終わったらそこからが祓魔師の出番、悪魔憑きから悪魔は引き剥がし悪魔だけを滅する。
それが祓魔師たちの目的だ。
だから自分が担当している悪魔憑きにこんなに殺意を抱いている祓魔師はスズネぐらいなのだ。

「お前は本当に俺に死んでほしいのな」
「はい、あなた達が死ねば私はお嬢様の祓魔師になれるのですから」
「いや、そうとは限らんだろ」
「スズネ!いつもありがとう!これからもユキトのそばでよろしく頼むわね」
「もちろんです。お嬢様」
「アンラ・マンユにイジメられたりしてない?」
「いえ、まさに理想的な職場です」
「それならよかったわ。無理をさせてるのかもと思って」
「そんなことありません!お嬢様が気に病むことなど欠片ほどもございません!」

スズネが焦ったように捲し立てる。いつもの辛辣なスズネに慣れていると、何と言うか、うん、キモかった。

「うん、キモい」
「ユキトさん、今『死にたい』と言いましたか?」
「どういう耳してんだよ。お前一回精神を診てもらって来いよ」
「くそ!今すぐ殺したい」
「もうやだよ、こいつ。俺に付けるの止めてくんない」
「ぐーぐーぐー」

そんでもっていつも通り、いつの間にか、当たり前のようにアンは寝ていた。もちろん俺の肩の上で。
俺たちが通っているのは東京に8つある高校のひとつ、東京第3高校。この学校は天使たちが発生する地域に近いために10代の神殺しの槍(ロンギヌス)のほとんどがここに通っている。
めんどくさい学校が終わったらシンを迎えに行く。
そのままシンの小学校生活に足りないものを買い足しに街に来た。
そしてなぜかユウカとスズネも付いてきた。まあスズネはユウカに連れられて嫌々だろうが。

「この子がシンちゃんなのね」
「う、うん。そう」

シンは少しオドオドしなら答えた。

「かわいい!!!今日はもっと可愛くなれるお洋服を買おうね!」
「えっとえっと、楽しみ?」
「キャー可愛い!!!」
「く、くるしい」

ユウカはシンを抱き締める。

「シンは我とユキトの子なのだ!もうそう言っても過言ではないレベルなのだ!だから今すぐ離れるのだ!」
「あれ?シンちゃんってどこか私とユキトに似てる気がするわね。ユキト、この子は私たちの子供として育てましょう!」
「だからシンは我とユキトの!」
「悪魔の要素なさそうだけど?」
「ちぃ!」
「シンちゃん、私のことママって呼んでみて?」
「シン!我のことを母上と呼ぶのだ!」
「ちょっとよくわかんない」
「お前ら子供にめんどくさいこと言ってんじゃねーよ。とにかく小学校に必要なものを買いに行くぞ」

なんやかんや言いながら、アンもユウカもシンに必要なものを一生懸命選んでくれていた。
スズネはずっと俺を睨んでいた。
スズネさえ気にしなければ割と微笑ましい光景だったんだが、そんなところにめんどくさい客が現れる。

「「ユキト!!」」
「ああ、わかってる」

天使だ。

「スズネ!認識阻害と結界をお願い!」
「わかりました。お嬢様。切り取ります」

シンだけが何が起こっているのかわからない様子だ。

「スズネ、シンを頼んだ。多分こいつらシンを狙ってる」
「わ、わかりました。ですが向かって来ている天使の数は百を超えているかと。さすがに私でもわかるレベルです。どうするんですか?」

呼ぶまでもなくアンは俺に憑りつく。

「皆殺しだよ」

空から羽虫のように天使たちが降ってくる。スズネの結界で広さも拡張されてるからいいがこんだけの数の天使は見てるだけで気持ち悪い。早く殺したい。

「猫!神殺しの槍(ロンギヌス)として対応します!」

ユウカが一気に仕事モードになる。

「休んでてもいいんだぜ?猪」
「そんなことができるわけない。私たちの使命は神とその配下の天使を、、、皆殺しにすることよ」

ユウカが獰猛な笑みを浮かべる。

―宿りなさい、ベルゼビュート―

ユウカには羽が生え、肩には巨大な口だけの生き物が乗っかかる。

「おい、お嬢。今日の供物はどんなもんだ?」

巨大な口が声を発する。
ユウカに憑いている悪魔は『ベルゼビュート』。暴食の二つ名で呼ばれる魔王クラスの悪魔だ。能力は『吸収と消化』。単純で強力。

―喰らい尽くしなさい、ベルゼビュート―

「ちっ!天使かよ。もう食い飽きたぜ、この鳥もどきども」

そう言いながらもベルゼビュートはその大きな口で天使たちを食い千切っていく。

「アン、俺たちも行くぞ!」
「負けてられないのだ!」

突如降り注いだ大量の天使対猫と猪の共闘戦が始まった。

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