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【抜粋】火花

あんな落雷のように避けられなかった衝動を、
私はどうすれば良かったのだろう。
お酒を飲みすぎなければとか、
仕事を優先していればとか、
もっと冷静であればとか、
そんな分かりきった事さえも分からなくなるほど、
どうしたって避けられなかった。
人によって恋の定義は様々かもしれないが、
私にとっての恋は、
説明のつかない異常な力を持つ衝動だ。
もう良い大人なんだから、衝動なんて一過性の感情如き、コントロールできない私が愚かなのだろうか。
それでも、本当に病的なまでに私を狂わせた恋なんて、片手に収まる程度のものだ。そんな数年に一回あるかどうかの、強烈に溢れでるマグマを、一体どうやっていなせば良いのだろうか。
コツを掴めないまま、理性的になれないまま、
野生的な欲情を抱えたまま、
私は大人になってしまった。

思い返せば、恋で悩み、神経を乗っ取られて頭がおかしくなるほど不安になったり、そのせいで仕事が続かなかったことが幾度かある。
病的な程に自分の気持ちをコントロールさえできない無力さと、いっときの甘い蜜に溺れていく背徳感の優越に、私は後どれだけ悩まされていくのだろう。
もしまたあのような感覚に陥ったら、という不安と、もう陥ることなどないかもしれない、という不安。色彩の異なる不安が私の心を染め上げては、真っ当に流れゆく人々の規則正しい足音を聞いて、外れた街で今日も眠る。


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