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裁判官は本当に先入観を持たないのか?:手錠腰縄と着席位置の問題点

こんにちは、弁護士の髙野傑です。 刑事事件で捕まってしまった人は、普段は警察署や拘置所で生活することになります。でも裁判が開かれるのは裁判所です。捕まっている被告人はどのように裁判に出廷し、どこに座るのでしょうか。今回は、この問題についてお話します。

現状とその問題点

捕まってしまっている被告人は拘置所や警察署から専用のバスで裁判所に連れてこられます。そして、被告人が裁判所内の法廷に連れてこられる際には、必ず手錠と腰縄をつけられます。腰縄とは、手錠と被告人の腰を縄でつないだもので、その端を職員が掴んでいます。子どものハーネスのような見た目を想像してみて下さい。大人がされればとても屈辱的な思いをするでしょう。問題は、この姿が傍聴人の目に触れることです。あなたの奥さんやお父さんやお母さん、幼い子どもにその姿を見られることになるのです。 さらに重要な問題は、事実認定者である裁判官がその姿を目にするということです。手錠と腰縄をつけられた人を見たとき、私たちはどのような印象を持つでしょうか。その人が無実かもしれないと素直に感じることができるでしょうか。むしろ、そのような扱いを受けて当然の罪を犯した人だと考えてしまうのではないでしょうか。
そのような姿で連れてこられた被告人は、(後述するような対応を弁護人がしなければ)弁護士の席の前に設置された黒いソファに座らせられます。両脇に挟み込むように職員が座ります。そこには机もなく、メモを取ることもできません。自分を守ってくれるはずの弁護人は背後にいて視界に入らず、相談するためには180度振り返らなければなりません。このような状態で十分な防御権を行使できるでしょうか。

手錠・腰縄について

裁判員裁判の場合、裁判員の目には触れないよう配慮されています。具体的には、まず裁判長だけが法廷に入り、手錠腰縄を外すよう指示し、それが外された後で他の裁判官と裁判員が入廷する流れとなっています。しかし、この場合でも裁判長は手錠腰縄をつけた被告人を目にすることになります。裁判官裁判でも同様で、事実認定者である裁判官が、被告人の有罪無罪を含めて判断する立場にありながら、手錠腰縄をつけた被告人を見ることになるのです。
2024年10月、日本弁護士連合会は人権擁護大会において、手錠や腰縄を使わないよう求める決議を採択しました。これは当然の要求だと考えます。もちろん、この決議の実現には時間がかかるでしょう。しかし、現在の運用でも工夫する余地はあります。
最近私が経験した裁判員裁判では、裁判長が入廷する前の通路で手錠腰縄を外すよう指示し、その後で裁判官・裁判員全員が一緒に入廷するという運用を目にしました。事実認定者の目に触れることを最小限にしようという意識の表れかもしれません(ただし傍聴人の目にさらされる問題は解決していません)。
着席位置について
東京地裁での裁判員裁判では、以前は弁護人からの申入れがあれば被告人を弁護人の隣に座らせることができました。最近では長々とした申入書を提出しなくとも隣に座ることを前提とした運用がなされているように思います。
しかし、裁判官だけの裁判では依然として問題が残ります。証人尋問中に被告人と意思疎通を取る必要性は、裁判員裁判であろうとなかろうと変わりません。にもかかわらず、東京地裁では弁護人が求めても必ずしも隣に座らせてもらえないのです。裁判所は「法廷設備の問題」「拘置所との協議上難しい」などと説明しますが、これは被告人の重大な権利を侵害する運用だと言わざるを得ません。
我々弁護人は、粘り強く裁判所に働きかけていく必要があります。最悪の場合は、弁護人が被告人の座るソファ席に座ることと、机を用意させるよう裁判所に申し入れることも検討すべきです。

まとめ

刑事裁判における被告人の人権と防御権を守るため、私たち弁護人は決して妥協することなく、一つ一つの改善を勝ち取っていかなければなりません。

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