台詞に頼らないアニメーションで魅せる「きみの色」
「きみの色」とは
「きみの色」は、アニメーション監督 山田尚子氏によるオリジナルアニメ映画である。山田尚子監督が手掛けた作品をピックアップしていくと「けいおん!」や「聲の形」、「平家物語」など多彩であることが窺える。特に、私は少女二人の複雑な感情を丁寧な動きや演出で紡いでいる「リズと青い鳥」という作品がお気に入りだ。
そんな監督さんの完全オリジナル長編作品である今作は音楽×青春という組み合わせで展開される。制作会社は奇抜な演出と丁寧なアニメーションに定評のあるサイエンスSARUとなっており、俄然注目度は高い。
感想
動きで心情を表現
アニメーションだからこそを詰め込んだ作品で観ていた大変面白く、心地よかった。キャラクターの感情を台詞で喋らせるのではなく動きで表現する。
例えば、きみが作曲したものにルイ自身が作ったアレンジを加えた曲をきみやトツ子の前で披露する際、ルイの戸惑いや恥ずかしさを目が泳ぐなどの眼球の動きで表現するといった動き、退学してしまったクラスメイトにどう話しかければよいかわからない様子を足の動きで表現したりなどなど。
動きで感情を伝える方法は台詞で感情を言ってしまう昨今の作品とは違い、目新しさを感じると同時に静止画ではない動きを伝えることのできるアニメという媒体の演出の豊かさを改めて感じることができる。
また、アニメーション(動き)による感情の吐露が私たち視聴者に多角的で多重な気持ちを想起させ、その作品に深みを与える。そのような動きでキャラクターの心情を伝えることはかなり難しい技巧であるが、長年、繊細な心情を丁寧に一つ一つを表現してきた山田尚子監督による演出は今作で遺憾なく発揮されており、動きに酔いしれることのできる作品だ。
「色」を映像に
また、映像に対しても今作は他とは異なるアプローチを行っている。
主人公のトツ子はその人特有の色が見えるという設定であり、ある人は澄んだブルー、ある人は優しく包む緑といった感じで十人十色。
そんな中、主人公はひときわ綺麗で惹かれる色を持ったきみとルイに出会いバンドを結成することになるのだが、彼彼女との初めての巡り合いやクラスメイト、先生の色は水彩画のようなパステルカラーで表現されて色彩的に見ていて気持ちがいい。主人公自身の穏やかさだけでなくその世界の優しさを見出すことができる。
それもそのはず、今作、悪役という悪役は存在せず、ちょっとしたすれ違いで苦しんでいる少年少女の物語でありストレスフリーで観ることができる。
じゃあ、盛り上がりに欠けるかと言えばそんなことはない。
そもそも、悩みの大小で物語を語ることはできない。この物語は思春期の少年少女が周りに合わせすぎて自分の「色」を失い、音楽や仲間を通じて「色」を取り戻す作品である。このことから、トツ子、きみ、ルイの三人の関係や音楽制作がキーになってくる。その感情の動きが今作の強みであろう。
その盛り上がりの最高潮、気持ちを吐き出す場、学園祭での演奏が一番心に刺さり、否が応でも感情は高ぶってしまうだろう。こういうアニメの演奏シーンで毎回思ってしまう、音楽の感情を強引に動かす力強さとどこにだって何にだってなれるといった可能性の志向。
山田尚子監督の音楽に対する向き合い方は感情の発露だけでなく音楽だからこそ伝わる何かがあるといった多大な信頼を感じることができる。
~劇中の好きな曲~
劇中で流れる主人公たちが作った曲はすべて子供らしさと伝えたい思いがあふれ出すいい歌ばかりだが「水金地火木土天アーメン」は群を抜いてこの作品に合ったベストセレクトだろう。勝手に体が動いてしまう小気味いいリズムと少々癖のある歌詞が合わさって妙な中毒性があり一度聴いたら頭の中で「すぃ~きん、ちかもく、どってっアーーメン」が木霊する。
それぞれのキャラクター
自分の色が見えず自分なりの色を持ちたいトツ子や周囲の期待に押しつぶされて学校を辞めたきみ、親の意向を強制させられ自分のしたいことができないルイの三人は相手を思いやれるがゆえに苦しんでしまう構造となっている。優しさゆえに傷ついてしまう。
そんな悩み、さっさと相談すればいいと考えることは簡単だがこの子たちは相手に気を配ってしまい動けなくなってしまう。そんな不器用でじれったい彼彼女たちを大人なら優しい眼差しで、子供なら共感性を持って観るなど世代によって見方が変わるような造形となっている。
まとめ
本作品はキャラクターの仕草、動きで繊細な感情を伝えるアニメーションとなっているため、その様な動きに重きを置く人はハマること間違いなし。
そんなことない人でも、丁寧な心の動きと人の「色」を映像に落とし込む演出、ストレスフリーで穏やかな世界でありながら優しさゆえに悩んでしまう彼ら彼女らの心の内に虜となるだろう。
是非お時間ある方は劇場に足を運んで、
主人公 トツ子が見つけた自分の「色」を見届けてほしい。
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