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祖母との散歩 金柑 3段落エッセイ

亡き祖母と一緒に散歩した思い出。

田舎の家は車道から少し中へ入り組んだ細い道を行ったところに建っていて、まるで迷路みたいで楽しかった。家の斜め前から下っていく畑の間の細い道は私は初めてで、あの道の先はどうなってるの?と聞くと、祖母が一緒に散歩してくれる。朧げだけど、私はたぶん4歳か5歳ぐらいだったと思う。

途中に立派な金柑の木がある。金柑が鈴なりになっている。近所のおうちの庭。祖母はいつもそうしているんだろう、一つもいでパッと口に入れる。私にもくれる。「おばあちゃん、これ、他のおうちの金柑食べていいの?」とおそるおそる聞いたら、「いいのよ」と一言だけ。そっか、いいんだ。私も小鳥の一羽にでもなったかのように、表面の甘い皮と内側の酸っぱいタネだらけの実をもぐもぐする。私の、何かを許せない!と思いがちなこの性格は、こんな何気ない曖昧なグレーな、いいとも悪いとも言い切れない祖母の行動で、多少は許せる範囲が広がったんじゃないかな、と振り返って思う。あれが、ご近所さんで許しを得ているから、のような説明なら私の曖昧さはきっと育たなかっただろう。

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