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17番 ちはやぶる神代も       在原業平朝臣

2018年10月23日/花山周子記

ちはやぶる神代かみよも聞かず竜田川たつたがはからくれなゐに水くくるとは  在原業平朝臣ありわらのなりひらあそん 〔所載歌集『古今集』秋下(294)〕 

歌意 
不思議なことの多い神代かみよでも聞いたことがない。竜田川が唐紅色に水をくくり染めにしているとは。

『原色小倉百人一首』(文英堂)より

京都で海外からの観光客用に売っている化繊の着物の柄のようで、または雅叙園の豪華絢爛たる装飾のようで、つまり、案外この歌は日本的でないなと思う。「ちはやぶる」は「神」などにつく枕詞まくらことば。からくれなゐは、唐から来た深紅の色を指すが、これらの言葉の艶やかさでもって一首をものにしている。

ち(Ti)はやぶ(u)る(u)か(K)み(i)よもき(K)か(K)ず(u)た(T)つ(T)た(T)がわか(K)らく(Ku)れなゐ(i)に(i)み(i)ず(u)く(u)く(u)る(u)と(T)は

上記のように、i音、T音、K音と、活舌のいい調べが、u音のなだらかな調べに乗って水車がくるくると回るように歌を運ぶ。「水くくるとは」の驚きに転ずるまで一気に運んでしまう。その調べのさなかにあって、竜田川のもみじをたたえる以上のなにものも、あるいはそれ以下のなにものも、私は読み取ることができない。奥ゆかしさを一切排した言葉による言葉の映像美だけが押し出されるのだ。

作者は在原業平。平安時代きっての色男で、この歌は、もと恋人であった二条のきさきに、屏風につける歌として依頼されたものだという。この依頼に十全に応えるその隙のなさにこそ、この一首の気概を感じるのである。

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