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地獄の門を開いたのは、私自身だった


メンタルが落ちた状態での転職活動

いま思い返して「地獄だった」と思う時期がある。
20年近く前の、秋から冬にかけてのことだ。

あの年の秋、新卒で入社し、3年弱働いた会社を辞めた。
あの時期、当時働いていた会社は退職者がとにかく多かった。全社でも、私のいた営業所でも、とにかく人が辞めていった。
転職活動で同業他社の面接を受けたとき、3社中2社で、
「あなたの会社は早期退職がとても多く、うちにも何人も面接に来ている。一体何が問題なのか?」
と聞かれたくらいである。

詳しくは省略するが、会社がゴタゴタしていて、多くの人が「辞める」と選択するような状況ではあった。
だが、それ以上に、私自身にかなり問題があった。
努力しないくせにうまくいかないと落ち込んで自分を責め続け、白黒思考に嵌り、ときには被害妄想に陥った。
自責と他責を繰り返しすぎて、メンタルが少しおかしくなっていたと思う。

そういう状態で会社を辞めることを決意したが、次にやりたいこともないので、同業他社を受けることにした。いま思えば、仕事が嫌いなわけではなかった。
転職エージェントを通じて複数の同業他社に応募し、3社の面接を受けることになった。会社の規模が大きい順に、A社、B社、C社としておく。
あれから20年近く経ち、これらの会社の時価、売上などは変動している。いま一番景気がいいのはC社ではないかと思う。
この3社すべてから内定をもらった。
いずれも全国に支社にある会社で、勤務地はそれぞれ違った。A社は関西、B社、C社は他の地域だった。いずれもそのうち転勤があるだろうが、最初の数年はその勤務地で働くことになる。
当時、私は関西にいて、できれば関西を離れたいという気持ちがあった。

長くなるので詳しく語るのはやめておくが、メンタルがおかしくなっていた私は、1番避けた方がいい選択をしてしまった。
転職エージェントと、内定先からの圧力に押され、1番避けた方がいいと思っていたA社に「行く」と言ってしまった。
だが、A社に行くと返事し、B社、C社の内定を辞退したあとに、どうしても体が動かなくなった。
その結果、A社を数ヵ月待たせた挙句に辞退することになり、A社の人事、転職エージェント、そして親族からもかなりきついことを言われた。

A社の入社を遅らせて実家にいた時期、また辞退してからの1ヵ月は、死にたくなるほど辛かった。
B社またはC社がいいという気持ちを貫けなかった自分に対する怒り、各社に対する申し訳なさ、今後の不安。
そういう精神状態なので食事も喉を通らず、体調も最悪だった。
もう人生が終わったような気がしていた。
まさに地獄の底にいるような気分だった。


「地獄の門」を開いたのは私自身

当時の私は、その辛さの理由を他人のせいにしていた。

・最近辞めたばかりの前の会社が悪い。
・A社に行くように誘導した転職エージェントが悪い。
・私を責め立てた親族が悪い。
・私のメンタルがおかしくなったのは、亡くなった両親が悪い。

だが、当時の私に言いたい。
背後からタックルして押し倒し、説教してやりたい。

「地獄の門を開いたのは、おまえじゃー!!」

まず、新卒で入った会社で、ろくに努力せず、恨みを募らせて辞めたのはおまえだ。真摯かつ謙虚に頑張っていたら、メンタルがおかしくなって感情的に会社を辞めるような事態には陥らなかったと思う。
メンタルがおかしくなったのも、冷静にやるべきことに対処せず、自責と他責をやりすぎ、感情を揺さぶり過ぎたせいである。
もし3年目で辞めなくてもその後辞めた可能性は十分にあるが、真摯に努力を続け、適切なタイミングで冷静に転職活動をすれば、こんな惨事にはならなかったのではないかと思う。

たしかに転職エージェントはA社寄りの発言を何度かしてきた。
私が「B社がいいと思う」と言ったのに、
「A社にお断りの返事をするのは数日待つので、もう少し考えてもらえませんか?」
と言われた。
エージェントの担当者が、A社の人事に何か借りでもあったのかもしれない。
だが、ここで圧力があったとしても、それに屈したのは私自身だ。
転職エージェントの圧力なんて跳ね返しても問題ないのに、自分の意思を押し通せないなんて、ヘタレにもほどがある。


メンタルが健康なときに動くことが大事

A社を辞退して1ヵ月後、私は上京し、他業種の小さな会社に入社した。
それから約5年後、私は2度目の転職をすることになるが、このときに利用した転職エージェントは、最初の転職とは比べ物にならないくらいの圧力をかけてきた。
このエージェントの窓口(求職者の担当)は新卒3年目の若い男性(仮名は森くん)で、先輩のアドバイスをもらいながら仕事をしている状態だった。
森くんは最初の面談で、私が受けるつもりもない会社を「まずは練習で受けてみませんか?」と勧めてきた。
嫌々ながら志望理由書を書くと、企業とのやりとりを担当している派手めのお姉ちゃんが、
「先方はこんなことを聞きたいんじゃない!」
と添削を加えてきた。
彼女の添削によって、私の意図とはかなり違うことを書かされそうになったので、森くんに電話をかけて
「志望理由を捏造してまで行きたくないので、応募はやめておきます」
と言うと、
「どうしても受けてくれませんか?」
と泣きつかれた。

そこまで言われたので嫌々ながら面接に行くと、なぜか1回の面接で合格してしまった。その会社に行きたいとは思えなかったので、森くんに辞退したいと連絡をしたのだが、辞退させてくれなかった。
彼は企業に対しては「あんずさんは返事を保留している」と伝え、私には毎日のように電話をかけてきて、何とか説得しようとした。
「あんずさん、他に内定がもらえなかったらどうするんですか?一番最悪なのは、いまの会社に居続けることですよ?」
と言われたことがあった。
このときはカチンと来たので、後日改めて、
「いまの会社にいることが最悪の事態ではないですよ?最悪の事態は、行きたくもない会社に行かされることです。たしかに私はいまの会社が好きではありませんが、ここでやっている仕事は好きです。目の前の仕事を頑張ることで得られるものはあるんですよ?」
と言ってやった。

この2社目の会社も、辞める前の1年はかなり嫌いだった。絶対に辞めてやると心に決めていた。
だが、このときの私は仕事を頑張っていて、クライアントとの関係も良好であった。社内に仲のいい先輩が何人もいた。プライベートでも、友達と遊んだり、大学の社会人講座に通ったり、充実していた。
つまり、精神的にとても健康であった。
だから、エージェントからどれだけ圧力をかけられてもスルーできた。
森くんがどうしても私の行きたくない会社に行かせようとし、他の会社を紹介してくれないので、別のエージェント経由で転職活動を続け、ある会社から内定をもらった。
内定をもらったちょうどその頃、森くんから電話があった。
「僕、会社を辞めることになりました」
とのことであった。
彼の退職によって不幸な求職者が減るな、初めて社会貢献したな!と思ったのは、ここだけの話である。

精神的に健康なときの私は、こんなことができるのである。
なお、このときに内定をもらった会社には10年以上勤めている。この会社でもリストラ、他社との吸収合併、一時的ではあるが度を超した激務などの問題はあったが、なんだかんだで続けることができた。
勤務条件は年々改善されているし、同僚とも長く良好な関係を築けており、2回目の転職は成功だったと言ってもいい。
精神的に健康なときはこういう「比較的正しい決意」ができるのである。
(人生では100%正しいなんてことはないので、比較的正しい、ということにしておく)


地獄から抜け出す方法

約20年前に地獄の底にいるような気分を味わった私だが、その1年後にはもう地獄にはいなかった。それから今日までに嫌なことはあったが、地獄とまで思ったことは一度もない。

転職してからは、会社や上司、同僚を嫌いになることはあっても、いつでも仕事は頑張ってきた。うまくいかないこともあったが、努力し続けたら、やがてうまくいくようになった。

また、最初の転職のときのように、他人の誘導に乗ることがなくなった。
同業他社から強引に引き抜かれそうになったことが何度かあったが、自分の得にならないと判断すればきっちり辞退してきた。

あとは、これが一番難しいが、他責思考を辞めることだ。
うまくいかないときに他人を責めるのではなく、
「他人の領域はおいといて、私自身が何をすれば乗り越えられるだろう?」
と自分にフォーカスする。
そうすれば意識が自分に向き、他人を責めることにエネルギーを使わずに済む。

こういうことを心掛けたら、少なくとも地獄に落ちることはなくなると思う。
繰り返すが、私を地獄に落とすのは、私にしかできないのだ。




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