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ラウンド前の「ウン」

「🎶〜🎵〜」
着信メロディが多目的トイレの中で響く
画面に一緒にラウンドする信太朗のネームが見える

「ああ、ごめん、ちょっとトイレ失敗してん。先行っといてええ。まだ、時間あるやろおお」

(ここから先は、下ネタが続きます。苦手な方はスルーしてください。特に食事をしながら読まれるのはご遠慮ください)

 ゴルフ場に到着するまでは、なんでもなかった。
 いつも通り、信太郎をピックアップして、2人でわいわいおしゃべりに花を咲かせながら目的地まで1時間ほどのドライブを楽しんだ。

 ゴルフ場について、バッグを下ろし(セルフのゴルフ場なので)再度、車に乗ろうとした時、突如「あれ、ちょっとしたいかも……?」と尿意ととともに便意を覚えた。
 しかし、車を玄関口に置いたまま、トイレに行くわけには行かない。「まあ、我慢できるだろう」と思って、駐車場に向かう。ウン悪く空いているスペースはかなり遠いところにあった。
 急足で建物の中に向かう。「大丈夫、きっと、間に合う」「今までも結局間に合ってきたし……」そう言い聞かせつつも、何度も下腹を襲う激しい「ウェーブ」に冷や汗が流れる。加齢で衰えが顕著な肛門括約筋にギュッと力を入れつつ、違うことを考えて気を紛らわせる努力をしながらようやく入り口の自動ドアまで到着した。

「よし、あと一息だ」
受付もせず、トイレに直行。ちょうど多目的トイレが空いていた。ドアロックをする時間も惜しんでスラックスのベルトを緩め、大急ぎで下ろす。
「よし、間に合った。セーフぅ〜」
そう思ったのも束の間、
「あっ、パンツが引っかかった! やばい!」
しかし、すでに体は、「出してもいい」モードのスイッチが入っている。今更オフに戻せない。

「アウトおおお!」


 便座に座った私の目に入ったのは、パンツに勢いよく放出されたそれなりの量の排泄物だった。

「落ち着け。落ち着くんだ。俺…」
「幸い、着替えはある」
「この排泄物を片付けて着替えればいいだけじゃないか」

 しかし、ここからが荊の道だった。
 排泄物が柔らかめだったのがいけない。なかなか処理が捗らない。
 トイレットペーパーをカラカラ回しながら、「拭くー流す」を繰り返す。やっと、かたがついた時には、ペーパーは随分と細くなっていた。
 後の方に迷惑をかけないように便器の周りもピカピカにして、ようやくトイレを後にした。スタート時刻にはまだ余裕がある。
 そこに、冒頭の着信となった。
「『前の組がもう出ているのでなるべく早く出発してほしい』って」

 身体に臭いがついていないか気にしつつエントランスに戻り、ノーパンでチェックイン。
 ロッカールームに駆け込み、素早く着替えのパンツを履いて同伴プレーヤーの待つスタート室へ息せき切って駆け込んだ。
 信太郎ともう1人のプレーヤーのぐっさんがニヤニヤしながらカートでお出迎ええ。この年になると、こういう粗相を隠さなくていいというか、隠しても仕方ないのでことの顛末を伝えた次第だ。
「着替えあって、よかったですねえ。これからどこへ行くのにも着替えいるなあ」
ぐっさんが他人事ではないと言う反応をしてくれたのが救いだった。

 ストレッチもパター練習もなく、即スタートホールへ。
 幸い、OBはまぬがれ、マリガン(朝一番のショットを無罰で打ち直しできる特別ルール)のお世話にもなることなく始められた。
 しかし、気が動転していたのか、その後のショットはまともに当たらず、ロングホールを小刻みに進む。いきなりのトリプルボギーとなった。次のホールもトリプル。「今日は、もう終わったなあ」とつぶやく。
「あーあ。やっぱり『う○こパニック』から解放されていないんかなあ」
言い訳をする私に
「いやあ、そのうち『ウン』回ってくるで」
と励ましてくれる同伴者たち。

 本当にその通りになった。
 ここから「ウン」がついてきたのか、いいペースになってきた。
 パーも取れたりしてフロントナインは51と私に取ってはまずまずのスコアで終了。昼食後のバックナインもアプローチが冴えて、48と50切りでトータル99。久々の100ぎりが達成できた。


 本当に何があるかわからない。
 だから、ゴルフは面白い。



『ウン』エピローグ
帰宅すると入浴中の妻が開口一番。
「パンツ、捨ててきたやろなあ!」
「持って帰ってきたで」
「なんで! 信じられへん!」
「なんでて綺麗に洗ったし、買ったばっかりのユニクロのパンツやもん」
「洗ったって? 洗剤あったん?」
「いや、洗剤はなかったけど、アルコール消毒液はあったから」

入浴中の妻は、
「とにかく、ここに置き! 液体洗剤と一緒に持って来て!」
と浴槽から指示(というか命令)
洗い場に置かれた私のパンツ。
「うわ、やっぱり臭いやん!」
「まあ、あと10年もせんうちに、こう言うことが増えるかもなあ」
「もう、やめてえええ。クサっっっ!」

なんとも屈辱的な仕打ちを受けつつ
「まあ、文句言いながらも、洗ってくれてんねんもんなあ」
と口は悪いが、「優しい?」妻に感謝しつつ風呂場を出る。

 次のラウンドではパンツ2枚持っていこ。

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