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こんなところでAPP

 先日、友人夫妻と我が家でBBQパーティーをした。
 長男が小学生の時、毎日のように遊んでいた親友のご夫婦である。
 どういうわけか、子ども同士はそれほどでもない繋がりになってしまったが、この方々とは色々なご縁がありお付き合いが続いている。

 BBQがひと段落して、家の中に入ってコーヒーを飲みながらしゃべている時だ。
「ちょっとお願いがあるのですが」
と切り出され、なんのことかと思いきや、SDカードに自分の好きな曲を入れて車で聴いていたのだが、その「音楽財産」が何かの弾みで吹っ飛んでしまった。再録音したいのでCDを貸して欲しいということだった。

 CDはおろか、MDなんてものを知らない若者が増えているらしい。一方でLPレコードに人気が出てきているとも聞く。ミュージシャンによってはLPで新曲をリリースするケースもある。また、カセットテープも見直されていると耳にする。
 私は、中途半端ではあるが、音楽マニアで、初任給でTEACのカセットデッキを買った口である。10万を超える代物だった。初任給が13万円だった時代に……。今ではロフトの奥で埃をかぶっている。
 LPレコードからCDへ時代が変わった時、当初は「やっぱりアナログのLPの方が味わいや奥行きがあっていい」とアナログ派を気取っていたが、波に乗ってこれまたボーナスをはたいて当時はまだ高価だったCDプレーヤーを買ったことを覚えている。それ以来CDコレクションは増え続けた。

「アラン・パーソンズ・プロジェクトあるやん!」
CDラックを物色していた彼が言う。
「えっ、知ってるん! そんな人に初めて会ったわ。嬉しいなあ」
 しばらく彼らのヒット曲の話題に花が咲いた。
「かけてみて!」
 友人は「アイ イン ザ スカイ」が一番好きだという。2人で鼻歌で奏でる。
 私は、「『タイム』とか『ルシファー』とかよく聴いたわ。あと、『ドント アンサー ミー』もヒットしたよね」
 
 noteを始めた時の自己紹介に
「80年代プログレッシブロックとオリビア・ニュートンジョンをこよなく愛する月一ゴルファー」
と書いた。オリビアやゴルフの話は投稿したが、プログレッシブロックの記事はまだしてないなと思い。今日のテーマとしたわけだ。
 
 高校時代、ある友人と出会うまでは、「クラシック以外、音楽じゃない!」と偉そうにカラヤンやバーンスタインや、いや、ベームや……と嘯いていた。
 それやったら「プログレやで、クラッシックの要素も取り入れた曲もあるし」とその友人に勧められ初めて借りたLPは、ジャケットがほとんど緑色だった。「yes」の「危機」というアルバム。
 どんなもんかなとプレーヤーの針を下ろす。聞こえてきたのは、小川のせせらぎや鳥のさえずりのような、私が抱いていたロックのイメージとはかなり違う音だった。しかし、次の瞬間、
「ドーン!」
とすごい音響が部屋に響く。
 掴まれた瞬間は。この時だったのかもしれない。衝撃だった。
 このLP、A面には、この「Close To The Edge(危機)」の1曲だけ。友人が紹介したクラッシックの要素は確かにあった。交響曲のソナタ形式のように4つの楽章に分かれていたのだ。同じ旋律がバリエーション豊かに展開される。気がつけば、何度も出てくる「I Get up, I Get down」を口ずさんでいた。もう、後へは戻れなかった。立ち上がり、ひれ伏したのだ。
「ピンク・フロイド」「キング・クリムゾン」「エマーソン・レイク&パーマー」「ジェネシス」と次々に聴きまくった。
 クラシック以外の音楽に開かれた扉は、さらに聴く曲のジャンルを広げていき、ディープ・パープルやクイーンやエアロスミス、キッスと次々に私を新しい音楽の世界へ導いてくれた。高校2年生の秋には、期末試験の最中に「リッチー・ブラックモアズ・レインボー」のコンサートに行くまでにのめり込んだ。おかげで翌日のテストが悲惨だったことを思い出す。

 大学生になり、サークル活動に没頭する日々の中で、このような音楽とはしばらく遠ざかっていた。社会人となって再び聴き出した頃に出会ったのがアラン・パーソンズ・プロジェクトという長ったらしい名前のグループである。とにかく、耳心地がいい。メロディーラインがスッと入ってくる。ボーカルの透明感も好きだった。
 でも、周りにこの良さを共有してくれる人はおらず、付き合い出した彼女に「なっ、ええやろ」と「NO」と言わせない聴かせ方をするくらいしかできなかった。

 随分月日が流れた。
 60歳で定年退職してご褒美に好きなことさせてもらう1年を過ごした。その際に退職金で前から欲しかった高級スピーカーとCDプレーヤーを購入した。
 しかし、私の気ままな趣味遍歴は、DAP(デジタル・オーディオ・プレーヤー)や高級イヤホンへの道に進んでしまい。スピーカーから音を出す機会は減っていったのである。
 
 そんな中での、冒頭のAPP(Alan Parsons Project)となったわけだ。
 社会人になりたての頃の自分が曲ととともに蘇る。
 実は今、スピーカーから「Time」が流れている。

 友人が、持って帰るはずだったAPPのCDは、ディスクがプレーヤーに入ったままになっていた。彼はジャケットだけ持って帰ったらしい。彼が取りに来るまでもう一度聴いてみよう。
 

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