論文詩(その1)
奥日光外山山麓の繁殖期の鳥類群集
奥日光の外山( 標高2110 m)は栃木・ 群馬両県にまたがる白根山(標高2578 m)の東に連なり その周辺には戦場ケ原や小田代原および中禅寺湖など 日光国立公園の一部である奥日光地域は冷温帯に属し 古くから関東の避暑地の一つとして開かれ 植物や動物の調査が行われ 鳥類については戦場ケ原でのまとまった報告を除いて ある地点での種の確認にとどまっている
外山山麓の南斜面のハイキング道(A区とB区)で繁殖期の鳥類相の調査をおこなった
A区─弓張峠近くのハイキング道入口からツメタ沢林道まで(1.6 km)、植生 ミズナラ ウダイカンバ ダケカンバ イタヤカエデなど落葉広葉樹 混在するモミ ウラジロモミ コメツガなど常緑針葉樹 林床のチマキザサ、自然林
B区─ツメタ沢林道から外山沢川とツメタ沢の合流近くのハイキング道入口まで(1.3 km)、植生 カラマツ 混在するミズナラなど落葉広葉樹 林床のチマキザサ、人工林
5月と6月と7月の晴天時 日の出後2時間以内、 センサスは片側25 mずつ両側50 m幅 ライントランセクト法、 平均時速1~2 km、種類と個体数を記録
午前七時にはA区のハイキング道入口へ車で乗り付けたエンジンを止めて
ドアを開ける
ホー ホケキョ ケキョケキョケキョケキョ
ひんやりとした気体を貫いた
フィールドノートを取り出して
「私が書き取るので、」(多田)
観察された鳥類 16科31種、A区では24種 B区では21種、6月に最多、 優占種 ヒガラ(0.31~1.81個体/ヘクタール)とウグイス(0.62~1.44個体/ヘクタール)、A区では日本本土に生息するホトトギス科鳥類4種すべて確認
多田、安齋 ハイキング道 気体のなか そろり歩きだすキジバト、アカハラ 落ち葉の上 サワサワ歩きだすチマキザサの中 ウグイスの囀り 谷渡りツヒ 気体に刺さる!
──「ヒガラです」(安齋)
ツピツピツピツピ ヒチピヒチピヒチピ
梢に飛び交う
ビリリチョッチョービーチョッチョービー オーシツクツクオーシツクツク
気体にスキップする甘美な歌声!
──「キビタキ?」(多田)
彼はフィールドスコープを向けた
──「確かにキビタキです」(安齋)
チッチッチッ ピンツルルルル、キョロンキョロン
──「コルリ」「アカハラ」
チチロツイツイツイチョベチビー、ヒンカララララ、ピッツィピルルルーピーチピルピル
右手奥から外山沢川 せせらぎに飛び交う
──「ビンズイ」「コマドリ」「ミソサザイ」
キョッキョッ ケッケッ
──「アカゲラ」ドラミング
ギィーッ ギィ
ー──「コゲラ」まっすぐに幹を上る
フィーフィーフィ
ー──「ゴジュウカラ」逆さに幹を下る
ピチョピチョピイピイピイチーチーリリリ
──「キバシリ」らせん状に幹を上る
ジュイチージュイチージュジュジュジュ、カッコーカッコー、ポポポポポポ、キョッキョッキョキョキョキョ
気体に広がる単調な歌声!
── 「ジュウイチ」「カッコウ」「ツツドリ」「ホトトギス」
多様性は空気になった
ウグイスはササの多い混交林やヤブの多いカラマツ幼樹林内に多数出現する
林床の丈の高いチマキザサが生息に適しているためではないか?
A区、B区だけおよび両方で確認された鳥類は10、7および14種、 鳥類の生息場所の選択は餌生物との関係や採食行動 営巣場所の嗜好性などで決定される
A区─キジバト ビンズイ コマドリ ミソサザイ コルリ アカハラ ウグイス ヤブサメなど地上・草本層で採餌する鳥類、キビタキ センダイムシクイ ヒガラ メジロ ニュウナイスズメなど樹間内の枝葉で採餌する鳥類、ホトトギス科の鳥類など
草本層(林床のチマキザサ)や中・高木層の樹冠が発達しているためではないか?
B区─アカゲラ コゲラ ゴジュウカラ キバシリなど樹幹で採餌する鳥類、カッコウなど
カラマツ林は壮齢林、点在するミズナラなどの落葉広葉樹は大木のものが多いためではないか?
A区─ホトトギス科鳥類4種を確認 合計は6月に1.00個体/ヘクタール
B区─カッコウのみ6月に確認 0.31~0.83個体/ヘクタール
小さな林分でホトトギス科の鳥類四種が確認され生息密度が高い!国内では報告されていない!
A区─ジュウイチに対してコマドリおよびコルリ カッコウに対してモズ ツツドリに対してセンダイムシクイ ホトトギスに対してウグイスなど托卵される鳥類 モズを除いて高い割合で観察
B区─ウグイスの個体数多い、 ホトトギス確認されず、 両区ともカッコウの托卵するモズとホオジロ少ない
托卵宿主との密度だけでホトトギス科の鳥類の密度を説明することはできなかった・・・・・・
ハイキング道を抜けると
やわらかな光に溢れていた
ピーリーリーホイヒーピピピールリピールリ ジジッ
オオルリ一羽!
車道の左端 高い木のてっぺんの梢に
「青」を輝かせるよう高らかに宣言する
歌声は多様性の空気を貫いた
ふり返ると薄暗いハイキング道の奥へと消えた
さあ、歌い続けよ!