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【小説】女子工生⑲《プレゼント交換》

プレゼントの行方

 夕方、龍一(りゅういち)がケーキをぶら下げて帰宅した。
人数も多いので 定番のイチゴが乗ったホールケーキと、チョコクリームのブッシュ・ド・ノエルの 2つを買って来た。

「お、やってるな。はい、お待ちかねのケーキ。」

龍一は 箱2つをテーブルに置いた。

「大兄ちゃん ありがとー。キッチンの方に
焼きそばとか、唐揚げとか いろいろあるよ
大兄ちゃんの分、温める?」

龍一は 持ち帰った弁当箱を 流しに出している。

「んー、風呂入って着替えたら貰う。
お前、そのスカート穿いたのか。やっと日の目を見たな、それ。」

「うん。最初違うのを用意していたんだけど
鈴音(すずね)と咲良(さくら)が、こっちの方がいいって。」

「いいお友達だ。俺だってお前に タンスの肥やしを 買ってやった訳ではないからな。カワイイ カワイイ。」

と御満悦で自分の部屋へ行ってしまった。
鈴音がニコニコしながら真白(ましろ)に顔を近づけた。

「ほーら、お兄さん喜んでたじゃん。プ○ダのスカートなんて、本当に可愛がってるから くれたんじゃん。お出掛けする時とか、たまには穿いてあげな。」

「うん。あんなに喜ぶとは思わなかった。コレにして良かった。」

 みんな、4時頃からずーっとダラダラ 食べたり飲んだりしていたので、途中

“ケーキ、食べられるかな?”

と思っていた。(広樹(ひろき)以外)
が、ケーキの箱のロゴを見て、咲良が悲鳴を上げた。

「キャー! これ、ガトークロダのケーキだ!すごい!龍一さんお取り寄せしてくれたの?
あ!2つともそうだ!ここのケーキ、数、あんまり出さないから なかなか買えないんだよ。売り出しと同時に 予約入れなきゃダメなやつだよ!」

普段おっとりしている咲良の悲鳴に、男子達はギョっとして 全員が咲良を見た。
真白と鈴音は、好きなアニメや推しメンに、ハイテンションになるのを何度も見ているので
驚かなかった。
この、ガトークロダも咲良のツボだったのだろう。
広樹が口にいれた唐揚げを、ゴクンと飲み込んだ。

「日向野さん、物静かな子だと思ってたけど
何かすげえ。いつもあんな感じなの?」

「いつもはあの、おっとりさんだよ。でも
自分のツボにハマる物だと10段階くらい テンション跳ね上がるよ。学校でもたまにあったけど、見たこと無い?」

「ない。初めて見た。てか、マジで女の子が
キャーって悲鳴上げてんの見るの初めてかも。」

真白はクスクス笑った。

「ねえ咲良、それ そんなに有名なの?」

「銀座の一流店のだよ。その辺のスーパーで買うケーキの倍の値段はするよ。1回食べてみたかったんだ。流石龍一さん!」

「大兄ちゃんの会社で まとめて注文したって言ってたけど。」

咲良が 箱ごとケーキにかぶり付きそうな勢いで騒いでいると、真白の父も帰ってきた。
キッチンのテーブルで 真白の両親と龍一が
温め直した料理を ビール片手に摘まんでいると、鈴音と咲良が、3人の所へやって来た。
そして、何やら袋を取り出し、咲良が3人の前に置いた。

「今日は遅くまですみません。これ、お父さん達にクリスマスプレゼントです。みんな、少しずつしか出していないので、安物で悪いんですけど。」

鈴音が付け足す。

「本当は涼二(りょうじ)さんが来てからと思ったんですけど、遅くなりそうだし、私達も そろそろプレゼント交換しようかなって。その前に。」

正子(まさこ)が少し腰を上げた。

「あらあら、こんな事してもらっちゃ・・・
ありがとうね。私達まで。でもこういうのは
今日だけにしてちょうだいね。じゃないと遊びに来て貰えなくなっちゃうわ。」

「いいえ、こちらこそ お兄さん達にたくさん良くしてもらってますし、それに今日は
クリスマスですから。」

「開けてみてもいいかしら?」

「是非。」

功(いさお)と正子には、夫婦茶碗の湯飲みだ。
落ち着いたグレーに、小さな2羽の梟(ふくろう)
の絵があしらってある。
龍一が開けた包みは、渋い深緑色の箸箱と揃いの箸だ。

「涼二さんのも色違いで同じお箸と箸箱です。」

「どうもありがとう。使わせてもらうわね。」

「はい。」

2人は皆の輪の中へ戻っていった。

「みんな、いい子達ですね。お父さん。」

「そうだな。後でこれでお茶入れてくれ。」

「はいはい。」

「俺も次の弁当からこれ持って行こう。ところで涼二は?」

「あの子はお友達と クリスマス兼ねた忘年会ですって。帰るのは夜中じゃないかしら。」

 ガトークロダのケーキは、銀座の一流店という事もあり、咲良が悲鳴をあげるのはもっともだと思える味だった。
皆で少しずつ両方の味を堪能した。

 その後、皿などをいちど片付けてから プレゼント交換だ。
用意したプレゼントに①から⑧まで番号を付けた。
別の紙に アミダくじを作り、それぞれがくじを選ぶ。
当たった番号の物を貰うやり方だ。
自分のプレゼントが当たってしまったら 
もう一度全員でやり直す。
ドキドキしながらアミダを選ぶと、1回でプレゼントの行き先が 決まった。

「あ、カワイイー。雪だるまの小物入れだ。」

「日向野さん、それ僕が選んだやつだ。
あ、僕 勇介(ゆうすけ)のチョコだ。今開けて食べる?」

「聡(さとし)、せっかく俺が買ったんだ。せめて家で開けて家族と食べろよ。 あ、俺のカッコイイ。革のブレスだ。」

「それ、私のだ。男女両方使えそうなの 探すの時間掛かったんだー。最終的に真白と咲良に決めて貰った。あ、私、真白が選んだ小物入れ!やった。これ私のとこに来ないかなーって 密かに思ってたんだよね。金の縁にガラスの箱って、センスいいよね~。」

「喜んで貰えて何よりです。私のは・・・
タオルだ。可愛いー。色違いだ。これもセンスいいよね。誰の?」

「俺。もう何買っていいかわかんなくなって、タオルなら 本人使わなくっても、家用で使えるかなって思ってさあ。」

「あはは。悩んでる姿が目に見える様だよ。もちろん私専用で使わせて頂きます。清文(きよふみ)は何だった?」

「ハンカチのセットだな。テツのだ。コレ買う時 俺もいたし。」

「えー、清文に行くんなら もっとテキトーに選べば良かった。俺、すげえ真剣に柄、考えちゃったよ。男女兼用、男女兼用って。」

「アハハ、俺もしっかり使わせてもらいます。で、テツのそれ、ヒロのだよな。文具セット。」

「そう。小学生チョイスかって一瞬思ったけど、こういうの 地味に結構使うから、良かったかも。まあ、何のトキメキも無いけど。」

「うわー、コレ、カワかっこいい。雪の結晶のストラップ?」

「あ、大下君の、私が選んだやつだ。可愛いでしょ。そのくらいなら可愛い過ぎないから、男の子が付けててもいいかなって。」

「日向野さんチョイスか。俺、こういうの普段買わないから、人からもらわないと縁 無いかも。何に付けるかな。スマホか、鞄かな。」

聡が、勇介から貰ったチョコレートの箱を 自分のバッグに ガサガサと詰め込みながら笑った。

「ヒロは色気より食い気だもんね。自分のストラップ買うなら そのお金で、バーガーか
ラーメンだよね。」

みんなが、そうだ そうだ、と笑う中、ひとり広樹が

「うーん、そんな事、・・・あるか・・・」

と、腕組みをしている。

                 ⑳に続く 


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