【小説】女子工生③《徹(てつ)と真白(ましろ)
徹(てつ)と真白(ましろ)
最初の何日かは 学校内の案内や、クラス役員、係決め、その他諸々で過ぎていった。
クラス内でも 何となく仲が良い者同士で 幾つかのグループが出来はじめていた。
ガッツリ、ハッキリ分かれている訳ではないが
弁当を食べたり、休み時間を過ごす友人が徹(てつ)にも出来ていた。
真白(ましろ)達も女子3人でつるんでいることが多かったが、徹が中学時代に見慣れていた女子達とは少し違っていた。
3人集まって 好きなタレントやアニメの推し(?)の話で 盛り上がる時もあれば、1人でポツンと机に向かい、一生懸命何かノートに書いている時もある。
3人でいてもトイレなどは
「ちょっとお花を摘みに行ってきまーす。」
などと言って さっさと1人で行ってしまう。
その行動は真白だけでなく 3人ともそんな感じだった。
つるむ時はつるむが 何かやりたいことがある時やトイレなどは1人でサッサと 行ったりやったりしてしまう。
1人でいる方も、他の2人も 全然気にする様子もない。
それどころか3人が それぞれバラバラなところで違うことをやっている事もある。
徹の知っている女子達は、
「ねえ ○○ちゃんトイレ行こー」
とか
「あー コレ可愛くない?お揃いで買おうよ。」
とか
「ねえ、何で△△ちゃんなんかと遊んでんの?」
とか、とにかく面倒くさそうだった。
徹は(トイレくらい、1人で行けや。)とか 考えてしまう。
もちろん、口には出さない。
徹には4歳年上の姉がいる。
姉との口喧嘩で勝てた試しがないので、女子に口出しする気もさらさら無い。
腕力では勝てる気はするが男として、人として ダメだろう。
結果、マシンガンの様に繰り出される言葉の意味を 理解する間もなく、言い負かされて喧嘩が終了する。
と言うか 一方的に罵詈雑言を浴びせられ、終わってしまう事がほとんどなので 女子に余計なことを言わない事が身に付いている。
話が逸れたが、この電子機械科の女子は徹の知っている女子とは違っている様だ。
行動が男子に似ているのかもしれない。
まだ 全員の当番やらが決まっていないので 教室はザワザワしていた。
ジャンケンで、徹は学習係になった。
授業で使う物など準備する係だ。
特に進んでやりたかった訳ではない。
何回かジャンケンで負けている間に、決まってしまった。
クラス総代は、入学式で新入生代表挨拶をした
丸山君に決まった。
目立つ生徒ではなかったが、落ち着いた空気をまとったヤツだった。
新入生代表って事は、入試でトップ合格したって事だ。
成績が良いとクラスでも一目置かれるらしい。
で、副総代がなんと広樹に決まった。
本人は イヤだイヤだと騒いでいたが、人当たりの良さと、口の上手さは皆が認める所となっていた。
丸山君が落ち着いているし、バランスは取れている気がする。
そんな事を考えながら、特にやる事もなく 手持ちぶさたにしていたら、もう 決まったらしい真白も自分の席で 頬杖をついている。
「真白、何に決まった?」
徹が近づいて 声を掛けた。
「庶務係。」
真白が答えた。
徹は首をかしげた。
「庶務係? 何ソレ。」
「よく分かんない。何するんだろうね。アハハー」
「アハハって、メッチャ忙しい係だったらどうすんの?」
「んー まあ生徒に出来ない係はないだろうから、大丈夫だよ。」
のんきなものである。
実際、始まってみたら 掲示物を貼ったり、プリントを配ったりする係だったので、徹の学習係より 仕事は少なかった。
「テツは?」
「学習係。」
「真面目か。」
「ジャンケンに3回負けたら いつの間にかなってた。」
「学習係って 勉強教えるの?」
「んなバカな!教えられっか俺が。勉強なんか!」
「だよね。」
真白がクスクス笑っている。
そう言えば、部活の入部届けの締め切りも そろそろだ。
「真白、部活 決めたの?」
「んー メカニックかロボ研かなあ。」
「ヘェ。女子って茶華道か、写真か、吹奏楽が多いイメージだけど。」
「そうなんだけど その3つってデザイン科の子が多いんだよね。私、女の子の集団って ちょっと苦手なんだ。」
「あ、女の子らしくない自覚はあったんだ。」
真白は、フーっと溜め息をついて
「あるある。」
と、あっさり言った。
「私さあ、3人兄弟の 末っ子長女なのよ。」
「て事は お兄さん2人か。」
「うん。4つ上と 5つ上。」
「へー 俺も4つ上の姉ちゃん 1人いる。」
真白は2人の兄達と育って来たため、感覚や行動が男子寄りに成長したらしい。
子供の頃は さほどでもなかったが、中学生になると、女子は女子のグループが出来て、ガッチリ固まって来る。
トイレも一緒。
教室移動も一緒。
行事のグループも一緒。
トイレなど 1人でサッサと行きたい真白は、だんだん面倒になって来た。
終わった後も グループの子全員が 髪を整えたり、リップクリームを塗ったりするのを 待っていなくてはならないし、 自分が 行きたくなくても トイレに ついて 行かなければならない。
ある時、 トイレに 誘われたが 別に行きたくないので、“教室で待ってる”と言った。
一瞬 間があって、いつものグループの女子達は
連れだって トイレに行った。
その間、真白は、保育園から一緒の 幼なじみの男子と、昨夜やっていたお笑い番組の話をして盛り上がっていた。
すると次の日から『男好き』やら『男に媚びてる』やら言われ始めた。
そして グループに誘われなくなった。
「部活の子は普通に付き合ってくれたし、他のクラスにも友達はいたから、別にどうって事なかったんだけどね。」
真白は、事もなげに言った。
「えっ それってイジメ?何 真白イジメられっ子だったの?」
「1人が嫌な子は イジメに感じるのかも知れないけど、私は女子の 何でもつるむってのが面倒だったから 逆にスッキリした。
実害あったらイジメかもだけど 別に物隠すとか暴力とかも無かったし。
まあ、実害あったら やり返すけど。」
真白は悪人顔で ニヤリとわらった。
「怖えー! 女子 怖えー。いろんな意味で怖えー。」
「中学の先生に B女子高とかS高とか勧められたけど大学進学は あんまり考えてないし、S高の商業科とかも、女子の割合 高めでさあ。
物作りもやってみたかったしね。」
「ちょっと待て。B女ってこの学区じゃ 一番レベル高いトコじゃん。」
S高だって専門の科もあるが、特進科や進学科があり、かなり偏差値が高い。
「何で工業きたの。」
「だから、進学する気ないし、物作りしたかったし、だいたい、周り全部女子とか絶対無理。」
徹は少し考えてから聞き方を変えた。
「進学高に行く気無いのに 何で成績よかったの?地頭? 先生に勧められたくらいだから 学年順位だって それなりだったんだろ?」
「だって 親とか学校とかって成績さえちゃんとしてれば 結構いろんな事、大目に見てくれるじゃん。」
「は?」
「だからあ、ある程度生活態度を真面目にしてて成績が良ければ 親とか先生は ほっといてくれるし。
朝、笑顔で『おはようございまーす。』って挨拶しておけば、ハブかれていようが気付かない。
下手に先生に気付かれて また、あのグループ活動?無理矢理やらされたらたまんないし。」
「で、勉強はやった、と。」
「うん。」
「中学ん時学年順位、どのくらいだったの?」
「だいたい 一桁にはいつもいた。」
「最高順位は?」
「6番。さすがに塾行ってる子には 敵わなかった。
塾って定期テスト対策みたいなの やってくれるらしいし。」
「は? 塾行って無くて6番って、え?それどうやったの?家でメチャメチャやったの?」
「まさか!私、家帰ってまで勉強なんてしたくないもん。勉強、基本嫌いだし。」
「家でやらないで塾も行かないで どうして6番取れるの!」
「授業はメッチャ集中して聞いた。席替えの時も、常に一番前の子と代わってもらって、授業でよく分からない時は 昼休みとかに 先生に聞きに行って、その日の内に納得しちゃえば、あとはテスト前にもう1回なぞれば ある程度取れる。」
「真白、お前 ちゃんと塾行ってたら、すげえトコ行けたんじゃねぇの?」
「だーかーらー、勉強、嫌いなんだってば。それに 塾は、お金払わないと教えてくれないけど、学校の先生は タダで教えてくれるし、全教科の先生揃ってるのに 利用しない手はないでしょ?」
「イヤイヤ、勉強嫌いで50分は集中出来ないだろ。」
「そうでもない。やるぞって意識して 気合い入れればイける。で、1日中同じ教科、やる訳じゃないから気分も変わるし。」
「それにしたって・・・」
「私ねー 目的があれば、その勉強は苦にならないんだよ。英検とか漢検とか。」
「学校の勉強は?」
「中学の時は 親や先生を黙らせるって目的があったし、成績上位だったからシカト以外 されなかったのかも。
成績良い子に悪いヤツが 表立って何かやれば 学校側は成績良い方をかばうだろうし、その辺は皆も分かってたんじゃないかな。」
「で、工業(ココ)に来たと。」
「うん。」
クラスに女子3人って微妙な数なので 少し心配したけど、やはり女子で工業を選ぶ子は 思考が似ている様で 過ごしやすいと 真白は、ケラケラ笑った。実際、3人の女子は無理している様にも、我慢している様にも見えず、ごく自然にクラスになじんでいる様だった。
徹はなんだか胸の中がモヤモヤした。
同じ学校に受かって、同じクラスにいるのに その意識が随分違うところにある気がした。
「でも、」
と、真白が続けた。
「丸山君が新入生代表挨拶だったんだから、ヤツが1位入学でしょ?上には上がいるって。」
「1位取りたいの?」
「別に。私なんか そんなたいしたもんじゃないって話。
でも、新入生代表挨拶はしてみたかったかも。女子で代表って カッコ良くない?」
勉強の為の勉強は好きではないから 資格がいっぱい取れる 工業を選んだのだと 真白は また笑った。
「中学時代は気にしない様にしていたんだけど、それでもやっぱり少し しんどかったみたい。
今は 変な気を使わないでいいから
すっごい楽。
生活が楽。
息をするのが楽。」
そして また笑う。
真白の瞳が潤んだ気がして 徹はドキリとした。
「この話、今まで誰にもした事なかったんだ。」
「誰にも?」
「誰にも。黒歴史は あんまり人に話せないじゃん。」
いつも 徹や広樹と軽口を言っている真白だったので 少し驚いた。
「だから今、テツに話せて もうひとつ楽になった。」
明るい真白だが、やはりクラスで孤立というのは 大変だったのだろう。
何でもない様に話していたが、成績を落とさずにいたのも 親に心配をかけまいとしていたのかもしれない。
工業高校を選んだのも、この電子機械科に 同じ中学出身の女子がいないというのが本音かもしれなかった。
真白が軽口の様に言ったので、テツもこの話を掘り下げ様とはせず
「そりゃ良かった。俺のおかげ?敬え!ありがたがれ!」
と、言ってやった。
真白は
「調子に乗るな!」
と笑っていたが その目に光るものがあった事を徹は気付かないフリをした。
「ところでさあ 俺もロボ研に入ろうかなって思ってたんだけど、真白もロボ研にしない?」
徹は話題を戻した。
「俺、中学ではテニスやってたんだけど、工業来たからソレっぽい部活 入ってみようかなって思って、両方見学に行ったんだ。」
徹はここ何日かで幾つかの部活を見て回った。
中学時代の先輩からテニス部に誘われていたが練習を見ていて (自分には無理) と思った。
もともと 中学の時も 友達に誘われて入部した。
当時、あるテニスのアニメがものすごく流行っていて新入部員は20人以上いた。
三年生まで合わせると 60人程の大所帯だった。
毎日練習はあったが、先生も先輩も 全員には目が届かない。
ぬるーく練習し、公式戦には 3年間 1度も出場した事がなかった。
友人もいて、まあ違う意味で 楽しい部活だった。
したがって いろいろな部活を見て回ったが 『自分に運動部は無理。』
と判断した。
で 工業っぽい部活ということで メカニック部とロボット研究部を見に行った。
メカニックは、車の構造を勉強したり、ソーラーカーを作ったりしていた。
ロボ研を覗くと、歴代の先輩達が残して行った作品の多種多様さに驚いた。
消しゴム程のミニカーや20センチ角くらいのキャタピラ式の車、高さ1m程のアーム付きの機械には、タイヤが付いていて 移動式の様だった。
他にも 人の手の形をした物や、小型のUFOキャッチャーなど面白そうなものが たくさん置いてあった。
徹は、それらをしばらく眺めていたが ロボ研に気持ちが傾いていた。
「聞いたらココのロボ研って、何度も全国大会行ってるんだって。
で、部室に置いてあるロボットがおもしれーの。」
「ロボ研かあ。面白そうかも。」
「自分で作ったものが ちゃんと形になって動くってスゲーじゃん。
俺、プラモぐらいしか作ったこと無いし。」
真白はクスクス笑いながら
「うん。じゃ 私もロボ研にしようかな。」
と言った。
「? なに?」
「だって テツ 目、キラッキラしてるよ。」
「だってマジ面白そうだったから・・・」
徹は自分の顔が赤くなるのを感じて 手で頬を触った。
「イヤ、無理にじゃないけどさあ」
「無理じゃない、無理じゃない。話、聞いてて 面白そうって思ったし。
今日 入部届け出しに行く?」
「そうだな。善は急げだ。」
そうして放課後、真白と徹、そして二人の話を聞いて『俺も俺も』と名乗りを挙げた広樹と3人で、ロボ研の部室へ入部届けを出しに行った。
④に続く
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