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ニューロンがシナプスでネットワーク|神経生物学の基礎の基礎

この記事は、脳に存在するニューロンがどのようにして接続し合い、情報を伝達し合うのかということについて理解することで、それらニューロンが脳内に構成するネットワーク構造の概観を得ることを目的として書かれたものです。尚、筆者は神経生物学の初学徒でありますので、本記事は高度に専門的な内容を扱うものではございません。何卒ご容赦ください。

1.ニューロンってなに

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ニューロンとは、生物の脳を構成する神経細胞のことです。神経細胞とは、情報の処理と伝達を首尾よく行う細胞のことです。ここでいう「情報」については、まだ深く考える必要はありません。後の文章で、この「情報」について詳しく触れます。今は、「情報」とは、「何か」のことだと思っていて結構です。一つのニューロンが、「何か」を生み出し、別のニューロンにその「何か」を伝えているのです。(あなたの脳内で、今この瞬間にも。)

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大脳皮質

上述したニューロンは、主に大脳皮質に存在しています。大脳皮質とは、大脳の表面に広がるニューロンの層のことです。ニューロンが相互に連結しあい、情報を創造・処理・伝達することで私たち人間は、知覚、意識的運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能に基づいた行動をすることが可能になっています。

まとめます。ニューロンとは、情報を生成し、処理し、伝達する神経細胞です。ニューロンは大脳皮質に大量(約160億個)に分布し、その大量のニューロンが繋がりあってものすごいスピードで情報をシェアし合うことによって、我々の現実は作り上げられています。ここまでを理解した上で、次はニューロン単体の構造を見ていきます。

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画像はニューロンの模式図です。このたくさん毛が生えたもやしのような細胞がニューロンです。各部について簡単に触れていきます。

まずは、細胞体(soma)です。これはニューロンの本体とも言える、情報処理の中枢です。コンピュータで言えばCPU、人体で言えば脳のような役割です。

次に、細胞体から伸びる枝分かれした毛、樹状突起(dendrite)についてです。樹状突起は、他のニューロンから情報を受け取り、細胞体に伝える器官です。そもそもニューロンとはネットワークを構成するので、他のニューロンが行った情報処理の結果を受けて、情報処理を開始します。この過程が連なりあって、ニューラルネットワークが形成されます。つまり、樹状突起とは情報を受信するためのアンテナ(入力)のようなイメージです。

そして、軸索(axon)です。軸索は細胞体から伸びるニューロンの胴体部です。軸索は、細胞体が処理した情報をニューロンの末端へと走らせます。

最後に、軸索末端(synaptic bouton)について説明します。これは軸索の先に伸びる、枝分かれした球根状の部分です。軸索から運ばれた情報を別のニューロンに伝達する役目を持っています。これもいわばアンテナ(出力)です。

まとめます。ニューロンは、細胞体、樹状突起、軸索、軸索末端の大きく4つの部分から構成されます。樹状突起が他のニューロンの軸索末端から受け取った情報を、細胞体へと伝えます。細胞体はその情報を処理し、処理された情報は軸索を走って軸索末端へと至ります。そして軸索末端が、また別のニューロンの樹状突起に処理済みの情報を伝えるという流れのイメージです。

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ニューロンについてなんとなくわかったところで、次は先ほどから述べている、ニューロンが処理し、伝達する「情報」とはなんなのか、その正体について見ていきましょう。

2.ニューロンが情報を生み出すやり方

ニューロンが生み出し伝達する情報は、第一に電気的なものです。この電気的な情報について理解するためには、まずイオンについて知らなければいけません。

イオンとは電荷を帯びた原子(群)のことです。+イオンは+の電荷を帯びています。-イオンは-の電荷を帯びています。大脳皮質において、ニューロンの細胞内にも細胞外にも、イオンがたくさん存在しています。ニューロン自体が帯びている電位(電気的な状態)は、ニューロンの内外に存在するイオンの個数によって決定されます。ニューロンの細胞の中に外から新しいイオンが入り込んだり、細胞の中から外にイオンが流れ出たりすると、ニューロンの細胞内の電位が変化します。この細胞内の電位(これを膜電位と呼びます)の変化を活動電位(action potential)といい、ニューロンが処理・伝達する情報とはこの活動電位に基づいたものに他なりません。

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この図はニューロンの活動電位を表したものです。これからなんども登場します。縦軸は電位、横軸は時間を表しています。どのニューロンも、それが情報を生み出す時は、この図のような電位の変化を伴います。非常に短い時間(5ms)で、膜電位が急激に高まり、そして、急激に下がり、元の水準(静止膜電位/resting potential)に戻ります。

このニューロンの膜電位の急激な上昇と下降は、まるでトゲのような形を描くことから、スパイクと呼ばれています。簡単に言えば、ニューロンの電位が、いつどのようにスパイクしたかという情報を、ニューロン同士は伝えあっているのです。

ニューロンに何も変化が生じなければ、膜電位は静止膜電位(resting potential)の水準にとどまっています。-70mV程度の水準です。ニューロンにある変化が生じると、膜電位が急激に上昇します。+40mV程度まで一気に上がります。そのあと、急激に下降し、いずれ元の水準に戻ります。

このようなスパイクは、本章の冒頭で説明した通り、ニューロンの細胞内に細胞外からイオンが流れ込んだり、細胞内から細胞外へイオンが流れ出たりすることを原因として生じます。以下でより詳しく説明します。

たとえば、ナトリウムイオンです。ナトリウムイオンは+の電荷を帯びていますので、細胞内にナトリウムイオンがあればあるほど、膜電位は高くなり、細胞内のナトリウムイオンが流出すればするほど、膜電位は低くなります。

ニューロンの細胞膜では、その内側と外側でイオンの不均衡が生じています。このままナトリウムイオンを例にとって説明しますが、通常、ニューロンの細胞内には細胞外より少数のナトリウムイオンが存在しています。ですので、仮にニューロンの細胞膜に「穴」が空いたとしたら、イオンは電位が高いところから低いところへと流れますので、ニューロンの細胞外にあるナトリウムイオンが、細胞内へと流れ込むのです。それによって、ニューロンの細胞内の電位が上昇します。

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このイオンが出入りするための「穴」のことを、イオンチャネルと言います。図をご覧ください。イオンチャネルは、細胞の外と中を隔てる膜、細胞膜上に位置しています。チャネルにも様々な種類があるので一概には言えませんが、ここではイメージを掴むために大雑把に説明します。細胞膜は油性なので、そのままではイオンが膜を超えて移動することはできません。チャネルは、イオンの出入り口です。特定の条件(後述)で、開いたり閉じたりします。チャネルが開くとイオンが細胞内を出入りすることができます。

ここまでを踏まえた上で、再びナトリウムイオンを例にとって、活動電位についての知識をまとめます。

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左の図が活動電位、右の図がイオンの出入りを意味していることはもうお分かりだと思います。活動電位が生じる流れとしては以下です。通常時、ニューロンは細胞内と細胞外でイオンが不均衡な状態で存在しています。イオンの出入りがなければ、膜電位は静止膜電位(resting potential)にとどまっています。左の図で言う所の、一番初め、および一番終わりの水準です。なんらかの原因(後述)でナトリウムイオンチャネルが開くと、細胞内は細胞外に比べてナトリウムイオンが少ないですから、細胞外から細胞内へとナトリウムイオンが流入します。ナトリウムイオンは+の電荷を持ちますから、ニューロン内部の電位は上昇します。これによって、再び左の図を見ていただきたいのですが、電位の急激な上昇が生じるのです。

電位が天井を打ったとき、ナトリウムイオンチャネルは閉じ始めます。ここで次は、カリウムイオンチャネルが開きます。カリウムイオンについては説明していませんでしたので、ここで簡単に説明します。カリウムイオンも+の電荷を帯びています。しかしナトリウムイオンと異なるのは、ナトリウムイオンは細胞内よりも細胞外に多く存在している不均衡が生じていたのに対し、カリウムイオンは細胞内の方が細胞外よりも多く存在しているという点です。したがって、電荷は電位の高いところから低いところへと流れますので、カリウムイオンチャネルが開くと、ニューロン内のカリウムイオンは細胞の外へと流れ出します。再び左の図、膜電位が天井を打ったところに戻りますが、膜電位が天井を打ったタイミングで、ナトリウムイオンチャネルが閉じ、カリウムイオンチャネルが開くと電位に何が起こるでしょうか?

なんども言いますが、カリウムイオンはもともと細胞外よりも細胞内の方に多く存在しています。そして、電荷は電位の高いところから低いところへと流れますので、カリウムイオンチャネルが開くと、ニューロン内のカリウムイオンがニューロン外へと流れ出します。すると、ニューロン内の電位は急激に低下することとなります。このような流れで、天井を打った電位は再び底を打つことになるのです。そして、静止膜電位の水準を下回った後に、やがて元の水準へと戻るのです。以上が活動電位の簡単な説明となります。

3.活動電位について詳しく

活動電位について軽くわかったところで、次は活動電位に関するより詳しい知識を見ていきます。主に用語の説明になります。

イオンがチャネルを通して出入りすることで、細胞内の電位が変化する。これがニューロンが情報を作り出すおおよそのやり方でした。

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図を見てください。左から右へと時間が流れます。まず、はじめは膜電位は-70mvで静止しています。このとき、ニューロンの内外で電荷のやり取りはありません。つまりチャネルは完全に閉じている状態です。この状態を静止膜電位(resting potential)と言います。次に、なんらかの原因(後述)で膜電位は-55mvへと少し上昇します。この-55mvの膜電位の水準のことを閾膜電位(threshold potential)と呼びます。閾膜電位は非常に重要で、言葉の通り、この水準に膜電位が達するかどうかということが、膜電位がSPIKE(天井を打つ)し、一つのニューロンが情報を生み出すかどうかということを決定します。閾膜電位に電位が到達すると、イオンチャネルが一挙に開き、そのまま電位は急上昇、天井を打ちます。逆に、膜電位が閾膜電位に達しない限り、SPIKEは生じません。そのような意味で-55mvは閾値となっているのです。

また、単純な膜電位の上昇のことを脱分極(depolarization)、膜電位の下降のことを分極(polarization)と呼びます。そして、 膜電位が天井を打った後、急激に下降し、静止膜電位よりも低い水準(底)を打つことを膜過分極(hyperpolarization)と呼びます。たまに使われる言葉です。

最後に、活動電位がニューロンの構造の中のどこで発生しているのかということを説明します。

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図を見てください。青い方のニューロンがありますね。細胞体と軸索のつなぎ目のあたりに赤い丸が打ってあります。この部分を軸索小丘(axon hillock)と呼び、活動電位はこの軸索小丘から始まり、軸索(axon)を通って、軸索末端(synaptic bouton)へと至ります。電気のビリビリが流れるイメージです。これがニューロン内部における情報伝達です。一つのニューロンが軸索末端に活動電位を届かせると、軸索末端は別のニューロンの樹状突起(dendrite)にその情報を伝えます。このようにしてニューロン同士はコミュニケーションをとっており、このようなニューロン同士の会話的なつながりをシナプスと呼ぶのです。

4.ニューロンのコミュニケーションのやり方

さて、ニューロンの内部では、イオンチャネルが開くか閉じるかということにしたがって脱分極(depolarization)分極(polarization)が生じ、イオンの流出入が生じる前には静止膜電位の水準にあった膜電位が、イオンの流出入が生じることで上がったり下がったりを繰り返し、いずれ閾膜電位に達した時点で一挙にナトリウムイオンチャネルが開き、細胞内に+の電荷が流れ込み、膜電位は天井に向かって急上昇する。そしてそのタイミングでカリウムイオンチャネルが開き、細胞外に+の電荷が流れ出し、膜電位は底に向かって急下降する。この現象を表したものが活動電位であり、さらに活動電位は軸索小丘(axon hillock)から始まり軸索(axon)を通って、軸索末端(synaptic boutton)に至り、その情報は別のニューロンの樹状突起(dendrite)へと伝えられる。ここまでが理解できたと思います。

この章では、主にシナプスについて扱います。つまり、軸索末端(synaptic boutton)に至った活動電位が、どのような形で情報として別のニューロンの樹状突起(dendrite)に伝えられるのかという詳細を扱っていきます。

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結論から言えば、軸索小丘(axon hillock)から軸索末端(synaptic boutton)に活動電位が至ることで、シナプス小胞(synaptic vesicle)がその内部に含まれた神経伝達物質(neuro transmitter)を細胞膜の外に放出します。放出された神経伝達物質が別のニューロンの受容体(recepter)にくっつくことによってイオンチャネルが開き、そのニューロンに脱分極(depolarization)分極(polarization)を生じさせるのです。それらが足し合わされて別のニューロンにも新たな活動電位が生じます。これがシナプスの情報伝達の仕組みです。以下で詳しく説明します。神経伝達物質や受容体の意味についても後述するので安心してください。

ここからはニューロン単体ではなく、シナプス(複数ニューロン間のつながり)について言及していきます。情報を伝達する側のニューロンをシナプス前ニューロン(pre-synaptic neuron)、情報を受け取る側のニューロンをシナプス後ニューロン(post-synaptic neuron)と呼称します。そして、シナプス前ニューロンとシナプス後ニューロンの間の空間を、シナプス間隙(synaptic cleft)と呼びます。把握してください。

シナプスの情報伝達には神経伝達物質(neuro transmitter)という化学物質と、ニューロンに備わった受容体(recepter)という構造が深く関わっています。

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図を見てください。これは二つのニューロンを表した模式図です。左に位置するのがシナプス前ニューロンの軸索末端、右に位置するのがシナプス後ニューロンの樹状突起です。シナプス前ニューロンの軸索末端の中に白い円が見えますが、これはシナプス小胞(synaptic visicle)といい、軸索末端の内部に300個ほど存在する泡のようなものです。そして、図に表わされている黄色いつぶは、神経伝達物質(neuro transmitter)です。一つのシナプス小胞は約10000個の神経伝達物質をその内部に備えています。神経伝達物質とは、神経細胞の情報伝達を担う物質のことです。アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、GABA、アセチルコリン、グルタミン、エンドルフィンなどの種類があります。

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軸索小丘から軸索末端に活動電位が至ると、それをトリガーとして、軸索末端の中のシナプス小胞がニューロンの細胞膜に近づいていき、いずれくっつきます。そして、シナプス小胞はニューロンの細胞膜を突き破って自らの内部を細胞外のシナプス間隙(synaptic cleft)に露出させます。それによって、シナプス小胞の中の神経伝達物質がニューロンの外に放出されます。放出された神経伝達物質はシナプス後ニューロンの樹状突起にある受容体にくっつきます。それによって、シナプス後ニューロンに脱分極や分極が生じるのですが、神経伝達物質が受容体にくっつくことで生じる現象には様々な種類がありますので、今この段階で全てを網羅することはできません。以下では、神経伝達物質の一つ、グルタミンを例にとって、シナプス前ニューロンがどのようにしてシナプス後ニューロンに情報を伝えるのかということを詳しく見ていきます。

グルタミンは神経伝達物質の一種です。グルタミンは特定の種類の主要隊であるAMPA受容体にのみくっつくことができます。

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3つの受容体が並んでいます。図の一番左がAMPA受容体の模式図です。この受容体は樹状突起の細胞膜上に位置しているものとして考えます。受容体は基本的に全てタンパク質でできていますが、その機能や構造は様々です。AMPA受容体について見てみると、筒のような形をしていて、細胞外領域にグルタミンがくっついています。そして、筒の中を通ってナトリウムイオンがシナプス後ニューロンの細胞内に入り込む様子が示されています。そうです。ここがややこしいのですが、AMPA受容体はイオンチャネルを兼ねているのです。イオンチャネルを兼ねている受容体のことをイオンチャネル内蔵型受容体(ligand-gated ion channel)と呼びます。裏を返せばイオンチャネルを内蔵していない受容体も存在するということです。

一度整理します。AMPA受容体はグルタミン受容体ですが、ナトリウムイオンチャネルも内蔵しています。そして、AMPA受容体のナトリウムイオンチャネルが開くためのトリガーは、AMPA受容体の細胞外領域にグルタミンがくっつくことです。では、このグルタミンはどこからやってきたのでしょうか。そうです。シナプス前ニューロンの軸索末端の中のシナプス小胞の内部から放出されたものでした。シナプス小胞が神経伝達物質を放出する条件はなんだったでしょうか。活動電位が軸索末端に到達することでした。ここまでわかれば、ニューロンとニューロンがシナプスを形成し、情報を伝達するメカニズムがだいたい見えてきたのではないでしょうか。

時間軸に沿ってもう一度、シナプス前ニューロンがシナプス後ニューロンに情報を伝達する流れを整理します。まず、軸索小丘で発生した活動電位は軸索を通って軸索末端に至ります。軸索末端に活動電位が至ると、軸索末端に分布するシナプス小胞が細胞膜に近づいていき、膜を超えて自らの内部をシナプス間隙に露出させます。シナプス小胞の内部にはグルタミン(今回の場合)が含まれていますので、グルタミンがシナプス前ニューロンの外に放出されることになります。放出されたグルタミンはシナプス後ニューロンの樹状突起の細胞膜に位置するAMPA受容体の細胞外領域にくっつきます。AMPA
 受容体はイオンチャネル内蔵型受容体ですので、細胞外領域にグルタミンがくっつくことをトリガーとして、ナトリウムイオンチャネルを開きます。すると、シナプス後ニューロンの内部にナトリウムイオンが流れ込んで、膜電位が上昇します。(ナトリウムイオンはニューロン内の方がニューロン外に比べて少ないのでした。)膜電位が閾膜電位に到達すると、シナプス後ニューロンにおいても活動電位が発生することになります。すると、その活動電位は軸索を通って・・・・。簡単に言えばこの流れが繰り返されてニューラルネットワークは形成されているわけです。

なんとなくわかりましたでしょうか?

5.ニューロンは足し算がお好き

先ほどは、ニューロン間の情報伝達を、グルタミンとAMPA受容体を例にとって説明しました。シナプス後ニューロンのAMPA受容体にグルタミンがくっつくと、受容体に内蔵されたナトリウムイオンチャネルが開き、ニューロン内にナトリウムイオンが流れ込み、シナプス後ニューロンの膜電位が上昇するのでした。しかし、ややこしいですが、受容体にも神経伝達物質にも様々な種類があります。この章では別の受容体と神経伝達物質、GABA受容体とGABAを例にとって、ニューロン間の情報伝達をさらに深掘りしていきます。

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図の一番右にあるのが、GABA受容体です。GABA受容体もAMPA受容体と同じくイオンチャネル内蔵型受容体ですが、AMPA受容体と決定的に異なるのは、GABAがGABA受容体にくっつくと、膜電位が低下する点です。以下、詳細に説明します。

GABA受容体は、塩素イオンチャネルも兼ねています。つまり、GABA受容体にGABAがくっつくと、GABA受容体は塩素イオンを出入りさせるトンネルを開きます。塩素イオンは−の電荷を帯びており、その濃度は細胞内よりも細胞外の方が高いです。したがって、GABA受容体にGABAがくっつくと、細胞外から細胞内に塩素イオンが流れ込みます。塩素イオンは-の電荷を帯びているので、これによって膜電位は低下するのです。

おさらいですがシナプス後ニューロンのAMPA受容体がグルタミンを受け取ると、内蔵されたナトリウムイオンチャネルが開き、細胞内にプラスの電荷を帯びたナトリウムイオンが流れ込み、膜電位は上昇します。対してGABA受容体がGABAを受け取ると、内蔵された塩素イオンチャネルが開き、細胞内にマイナスの電荷を帯びた塩素イオンが流れ込み、膜電位は低下します。このように、シナプス後ニューロンの膜電位は、シナプス前ニューロンからどの神経伝達物質を受け取るかによって上がったり下がったりするのです。

シナプス後ニューロンの受容体がシナプス前ニューロンから神経伝達物質を受け取ることにより、生じる膜電位の上昇をEPSP(興奮性シナプス後電位/Excitatory post-synaptic potential)といいます。逆に、同様にして生じる膜電位の下降をIPSP(抑制性シナプス後電位/Inhibitatory post-synaptic potential)といいます。シナプス後ニューロンはシナプス前ニューロンから、種々多様な神経伝達物質を受け取り、それに応じてその都度ESNPおよびISNPを生じさせます。それらの入力が足し合わされ、膜電位が閾膜電位に到達した時に、膜電位はスパイクし、活動電位が生じるのです。そして、ここで活動電位が生じたことによって、シナプス後ニューロンは、次のシナプス後ニューロンに対するシナプス前ニューロンへと立場を変更し、これらの現象が連なりあってニューラルネットワークが形成されるのです。

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シナプス前ニューロンから神経伝達物質を受け取ることでシナプス後ニューロンに生じるEPSPとIPSPを合算する過程が、ニューロンにおける「計算」です。冒頭で、ニューロンの細胞体はCPUのような働きをしていると言いましたが、単純にEPSPとIPSPを足し合わせているだけなのです。EPSP(膜電位の上昇度合い)とIPSP(膜電位の下降度合い)が足し合わされた結果、膜電位が閾膜電位に到達すると、急激に電位が上昇し、活動電位が生じるのです。

複雑なのでなんども同じことを説明しています。

6.おわり

以上が、脳のニューラルネットワークの概観です。


①「ニューロン同士はどのようにシナプスを形成しているのか」

②「ニューロンはどのように情報を伝達するのか」


この二つの問いに答えることができるようになれば、ニューロンがどうやってあなたの脳内に情報伝達のネットワークを形成するのかということを理解し、説明できるようになるはずです。一緒に頑張っていきましょう。




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