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【PODCAST書き起こし】劇作家の長田育恵さんに聞いてみた(全4回)その2

【PODCAST書き起こし】劇作家の長田育恵さんに聞いてみた(全4回)その2

【山下】で、中、高でそういったいろんな本に触れられながら、剣道部の部長はもう責任をとって最後まで務められたということで。

【長田】はい。

【山下】学園祭とかで演劇とかやんなかったんですか?

【長田】まあ学校でやってはいて、まあ本当にミッション系の女子高だったので、やっぱり宝塚とかが人気で。

【山下】ああ!

【長田】でも私は、それで初めて、なんか……。

【山下】女子高だからっていうんだね?

【長田】そうなんですよね(笑)。題材を自由に選んでいいって言われたから、初めて高校演劇の戯曲集を図書館で見つけて読んでみて。

【山下】それがこれですか。

【長田】はい。

【山下】ああ、清水洋史さんの名前が出てる。

【長田】『祭よ、今宵だけは哀しげに』っていうのを読んで、それが初めて演劇を文字で読んだ体験で。

【山下】どうですか? 小説を読んでると、戯曲の体裁って結構、全然違うじゃないですか。どうですか? 印象。

【長田】あ、でも、たまたま最初にいいなと思ったのが、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をベースにしてるものだったので……。

【山下】はいはい。

【長田】世界観が頭の中に入ってるのと。

【山下】あ、なるほどなるほど。インプットされてたからね。

【長田】あとは登場人物の、書かれてない生の声が文字になってるみたいな感覚で読んでて。

【山下】ああ、そうかそうか。そこは逆に心の声が聞こえるんだ。

【長田】はいはい。それで、すごく二次創作を読むみたいな楽しさで読んだんですよね。

【山下】ああ、逆にね。ああ、面白いですね。

【長田】はい。

【山下】『銀河鉄道の夜』が二次創作でこんなことになるんだと。

【長田】はい。で、「あ、こんな景色が本当は見えてたかもしれないんだ」って思って。

【山下】ああ、面白いですね。

【長田】すごくそれが楽しくて。

【山下】あ、なるほど。そういう見方があると。

【長田】それをやりたいってプレゼンしたけど、全然駄目でした(笑)。

【山下】はいはい。それで、これは上演はしたんですか?

【長田】してないです。投票とかで『ミー・アンド・マイガール』にぼろ負けで、『ミー・アンド・マイガール』が上演されましたね(笑)。

【山下】あ、そうか。そうかそうか、そういうことだったのね。

【長田】はい。

【山下】はい。そうなんですね。

【長田】その、まあ「あ、脚本っていうものがこの世にあるんだなあ」っていうのは、そのときに初めて。

【山下】初めて知ったと。

【長田】はい。

【山下】なるほど。で、そのあと早稲田大学に行かれるんですけど、それはなんか「早稲田に行こう!」って決めていらしたんですか?

【長田】もう完全に小説家になろうと思って。

【山下】あ、小説家だと早稲田だろうと。

【長田】はい(笑)。「文芸専修」という所があって、そこだと小説を書けるらしいぞ、と。

【山下】分かりやすい!あ、文芸ね。

【長田】はい。

【山下】はい。そうですよね。

【長田】で、栗本薫さんも文芸だったから、文芸に私も行くぞっていう。

【山下】あ、なるほど。

【長田】はい(笑)。

【山下】そうか、栗本さんも早稲田の文芸だったんですね?

【長田】そうなんですね、文芸だったので。

【山下】なるほど。じゃあ、栗本薫に憧れて。

【長田】もう文芸にっていう(笑)。

【山下】なるほど。じゃあ、それで早稲田以外は受けなかった?

【長田】そうなんですよね。

【山下】あ、すごい! でも、割と長田さんって、そういう意味じゃある意味強いですね。はっきりしてますね。ここって決めて、そっからぶれてないじゃないですか。

【長田】そうなんです。あ、ねっ、ちょっとこれも、なんだろう(笑)。

【山下】(笑)。

【長田】あれなんですけど、ちょっとねえ、なんだろう。指定校推薦をいただけて、1人早稲田に指定校推薦があるんですけど。

【山下】はいはい。

【長田】本当に小さい学校だったので。

【山下】120人ですもんね、一学年。

【長田】うん。評定平均をクリアした人が応募するじゃないですか。応募者の中から評定平均はもうその時点で、応募した時点で1回フラットにしてくれて。

【山下】あ、そうなんですね。

【長田】そこから学校内で小論文審査を3回やってくれて。

【山下】あ、小論文。

【長田】はい。

【山下】文章を書く課題だし、良かったですね。

【長田】そうです。小論文なら行こうって。

【山下】なんとか行けるんじゃないかと。

【長田】はい。

【山下】熱意が伝わったと。

【長田】はい。で、もう本当に、だから受験科目としても早稲田は英語と国語と現代文と小論文っていう、すごく小論文特化っていうのが一文(第一文学部)は、はっきりしてたんで。

【山下】ああ、そうなんですね。

【長田】予備校も小論文の予備校にしか行ってなかったんです。

【山下】あ、そうなんですね。

【長田】はい(笑)。

【山下】じゃあ、本当に文章を読んで書くってことをずっとやっていたっていう。

【長田】だけやってて(笑)。で、滑り止めとか他の所とかも、ちょっと考えるんだったらやんなきゃなとは思ってたんですけど。

【山下】でも、今の流れだとね、もうこれで行けちゃうじゃんみたいな。

【長田】もう受験も小論文だけ、本当に挑戦して、それで駄目なら浪人するからいいやっていうように思ってました。

【山下】なるほど、なるほど。いやー、すごく分かりやすい。どうですか? 憧れの早稲田文芸に行って、どんな感じでした?

【長田】まあ、でも結局入学してすぐにミュージカル研究会に入っちゃって、で、そのまま脚本を1人で書き始めちゃったので、結局せっかく文芸専修入ったのに1回も小説提出しないで卒業しちゃって、なんのために行ったのかよく……。

【山下】(笑)。小説ではなくて、ミュージカルの脚本を提出してた?

【長田】1人で脚本書いてました。

【山下】それは、別に先生は何も言わないんじゃないですか、逆に。

【長田】逆に、誰も何も。

【山下】創作をしてるから。

【長田】誰も何も言わない(笑)。

【山下】うーん。なんかあれですか? 文芸の先生とかで担任教諭とかで、印象に残ってる先生っていらっしゃらないの?

【長田】いや、だから誰も文芸専修でそれを見られる人がいなくて。

【山下】(笑)。

【長田】それで、学校内で多分補助的にいらしてたのが西堂行人先生で。

【山下】ああ、それで。

【長田】だから、卒論も1人で脚本書いていて、で、西堂行人先生が。

【山下】はいはい。そう、西堂先生がねえ。

【長田】はい(笑)。結構。

【山下】担当教官ではないんだけど、一応それを見る役になってとか書いてありましたね。

【長田】はい、脚本読んでくださって。

【山下】へー。

【長田】だから、すごくなんか……だったら演劇科とかに行けばいいのに、なんか小説家になるためにここに来たんだっていう……よく分かんない、なんだろう(笑)。でも今、目先は脚本をとにかく勉強したいんだっていうことで。

【山下】うん。

【長田】だからすごく「なんで、1人でこんな所でこれを書き続けてんだろう」って感じではありますね(笑)。

【山下】でも、もっと俯瞰(ふかん)で見ると、物を書いて表現して、物語をみんなに体現してもらうって意味では、同じじゃないですか?

【長田】いや、そうです。まあ、今から思えばって感じではあるんですけど。

【山下】うん。そのときは、やっぱりそこに悩みがあったんですか?

【長田】何になりたいかが分かんないまま、すごくもがいていたって感じですね。

【山下】ああ、でも僕も大学のときそうだったけどなあ。

【長田】うーん。

【山下】もともと僕も新聞記者になりたくて。

【長田】ああ。

【山下】新聞学科とか社会学部しか受けなかったんですよ。

【長田】はい。

【山下】でも、「山下は新聞記者より広告の仕事のほうが向いてるんちゃうか」。

【長田】へー。

【山下】「コピーライター、むっちゃブームやで」って言われて。

【長田】(笑)。

【山下】そしたら糸井重里さんを見て、「あ、こんな人がいるんだ」っていうので、どんどん自分の人生変わっていったんですよ。

【長田】はい。すごく、やっぱり私にとっては物語が好きっていうのはとにかく大きくて、物語に関わる仕事で一生を生きていくってことを決めていたのであって。

【山下】そうすると、逆に言うと、漫画の原作でもいいし、小説でもいいし。

【長田】そうなんです、小説でもいいし。

【山下】劇作家、ゲームクリエーターでもいいし。

【長田】とかでもいいし。

【山下】うーん。

【長田】だから、演劇人として一生生きていくってことが最初から決まってたわけじゃなくて。

【山下】そうですよね?

【長田】はい。

【山下】うん。

【長田】とにかく物語っていうことだけだったので、だからミュージカル研究会やりながらの、『早稲田文学』の学生編集員っていうようなこともやってたりとか。

【山下】ああ、『早稲田文学』。重松清さんとかがやってらっしゃったんですよね?

【長田】あ、そうですね、そうですね。

【山下】ですよね?

【長田】はい。そうですね、大学の最後のほうはそういうのやったりとかしつつ。

【山下】ああ。それは、あれですか? そこはクラブ活動とかじゃなくて、仕事なんですか? 『早稲田文学』っていうのは。

【長田】まあ、若干の仕事ですかね。校正。

【山下】なんか、ギャラが少し出るんですか?

【長田】いえいえ、あんまり記憶に、もう。いや、確か出てないと思うんですけど。

【山下】(笑)。

【長田】ただ校正記号とか……原稿をいただいて校正して、印刷所に戻してとか、そういうことはやってました。

【山下】それは、どういう経緯でそれをやることになったの? 自分から?

【長田】自分から。

【山下】やりたいと。

【長田】まだ多分大学時代の頃とかは、作家になりたい夢とかも捨てられなくて。

【山下】そうかあ。そうすると、『早稲田文学』にあるとね、書く機会が得れるかもしれない。

【長田】少しでも近い所にいたほうがいいかなと思いつつ。

【山下】ですよね。うんうん。

【長田】でも、サークルとかで言うと本当にミュージカル研究会の本公演の準備とかが忙しかったので。

【山下】はいはい。

【長田】自分の技術としては、脚本の勉強を自分は一生懸命しなきゃいけないっていうのと、でも小説界のことも知っておきたいっていうので、両方(笑)。だから、授業に行ってた記憶は本当になくて、文芸専修っていうとそういう意味だとゼミもないんで。

【山下】あ、そうなんですね。

【長田】はい。もう何しに行ってたか、本当にミュージカル研究会と『早稲田文学』だけに行ってたって(笑)。

【山下】その環境に行くチャンスを持つ場所だったのかもしれないですね。

【長田】まあ、そうですね。

【山下】そういうことかもしれないですね。

【長田】はい。

【山下】なるほど。ミュージカル研究会っていうのは、オリジナルのミュージカルをやることをベースにした研究会なんですか?

【長田】そうなんです。サークルで、はい。創立がラサール石井さんなんですけど。

【山下】ラサール石井さんが作ったんですか?

【長田】そうなんです!

【山下】へー!!

【長田】今はミュージカル研究会はもうないんですけど、大学1年生から4年生までの間に脚本、振り付け、作曲、編曲、打ち込みとか全てできる人が、人材がそろわないとオリジナルミュージカル作れないんで。

【山下】できないですよね?

【長田】だから人材がそろわなくなると、もうサークルはつぶれてしまうんですけど。

【山下】結構総合芸術だから難しいですよね、ミュージカルは。

【長田】難しいです。

【山下】特に音楽が関わってくるから。

【長田】うん。だから、社会人で入ってる方もいらっしゃったりとか。

【山下】ああ、できる人がね。

【長田】他大から来てる方もいらしたりとか。

【山下】ああ、はいはい。

【長田】同学年とか見渡すと、今、活動されてる方とかもすごく多くて。

【山下】いらっしゃる。うーん。

【長田】例えば、ホリプロで『デスノート』とかのミュージカルを作ってるプロデューサーの梶山裕三君っていう方は同い年で。

【山下】クラブも一緒?

【長田】はい。私が脚本書いたのに彼が主演してたりとか。

【山下】へー!

【長田】あと同学年で振り付けをやってたのが、活弁士になってる山崎バニラちゃんっていう方だったりとか。

【山下】へー、すごいですね。

【長田】うん、やっぱりすごく人材がいろいろ。

【山下】バリエーションがすごいですね、多様性に満ちてる。

【長田】そうですね。でも大学内には、ブロードウェーものをコピーするサークルとかもあるんですけど、ミュージカル研究会は結局つぶれて、今はそっちしかないんですけど。

【山下】ああ。オリジナルを作り続けるのって結構大変ですもんね。

【長田】大変ですね。でも楽しかったですね。

【山下】もともとミュージカルには興味はあったんですか? 入ろうということは。

【長田】いやー、全然、本当になくて(笑)。

【山下】(笑)じゃあ、なんで入ったんですか?

【長田】第一文学部入ったときに、スロープが校門から校舎の間にあるんですけど、スロープの下に部室があったんですよ。

【山下】はいはい。

【長田】校舎から一番近い所に部室があって。

【山下】なるほど。

【長田】しかも、ジャズダンスをやってたので。

【山下】はいはい。

【長田】ずっと剣道やりながらダンスやってみたいなって思ってたんで(笑)。そこ入ったんです。

【山下】あ、そうなんですか。じゃあ、ミュージカルはいいんじゃないかと。

【長田】はい。ジャズダンスを教えてくれるらしいっていって、入って。

【山下】ああ、それで。

【長田】4月に入学して。

【山下】うんうん。

【長田】脚本が自由投稿制だったので。

【山下】はいはい。

【長田】お話好きだから書いてみようかなって思って書いたら、それがその年の本公演に決まってしまって。

【山下】すごいですね、じゃあ。

【長田】いや、だから、ミュー研の伝統で「脚本を書いた者が演出もしなきゃいけない」って伝統があって。

【山下】すごいですね。じゃあ大変ですね。

【長田】もう、全く、なんだろう(笑)。

【山下】本当に、また別の技量ですからね。

【長田】全然分かんないから、その時点でミュー研25年ぐらい伝統があったんで、いろんな先輩方に電話して、「今年入った1年生なんですけど、演劇知らないのに演出をやることになったので、どうすればいいか教えてください」って。だから、照明とか吊りに行く手伝いをして、そのまま調光室で見させてもらったりとか、もうありとあらゆる先輩に連絡を取り、一生懸命修行させてもらうって感じでした。

【山下】でも、このときに覚えたことって生かされてるんじゃないですか? そうでもない?

【長田】そのときに思った記憶で、「私はもう演出はやらない」って今は思っていて(笑)。

【山下】(笑)。

【長田】そのときに、自分が「演出」っていうのが分からなくて。

【山下】うーん。

【長田】私に分かってるのは、自分が書いた登場人物のことだったんですよ。

【山下】うーん。

【長田】だから、最終的に俳優たちをどうしたらそこに近づけていけるかが分かんなかったんで。

【山下】うん。

【長田】1年生の冬とかは、部室にあったカレンダーはがして、裏にみんなの名前を書いて。

【山下】はいはい。

【長田】最大で50人ぐらいサークルの人数がいたんだっけな。

【山下】すごい大きかったんですね。

【長田】……だったんですけど、1人ずつの名前書いて。

【山下】うんうん。

【長田】誰もいない所で1対1で2人だけで話をして、話ができた人には○を付けてくってことをやってて(笑)。

【山下】なるほど。全員と話しようっていう。

【長田】全員と話をしようっていう。

【山下】うん。

【長田】で、「あなたが演じてもらうこの役は、こういう人なんだ」ってことを、ひたすら伝えるってことを。

【山下】うんうん。

【長田】あとは、なんだろう。どうやってそれが舞台として成り立つかってのは、それこそ振り付け担当の方とかいろいろいたので。

【山下】スタッフと相談して。

【長田】照明家さんとかもいたんで、そういうのはもう私分かんなかったから。とにかく私が分かることは人物のことしか分からない。

【山下】うん。物語を書いてるからね。

【長田】だから、それだけをみんなに伝え続けるってことをやって、「あ、これは演出じゃないな」ってことはよく分かってました。

【山下】でも逆を言うと、周りがそれを分かってて、かたちを作っていってくれるから。

【長田】そうですね。

【山下】舞台は出来上がっていきますよね?

【長田】出来上がっていって、結局大学生のときにやってたそういうミュージカルが結構学生にしては異例の集客人数を集めてて。六本木のアトリエフォンテーヌっていう所でやってたんですけど。

【山下】アトリエフォンテーヌ、知ってます。ありましたよね?

【長田】あのときで1500人以上見にきてくださっていて。

【山下】へー!

【長田】大学卒業して1回出版社に就職したんですけど、これで脚本を依頼もらわなかったら何も脚本も書かないかなと思ってたときに、ファミリーミュージカルやってる人たちが「何年も前に早稲田の学生がやってたミュージカルが面白かったから、あの作家を連れてきたい」って探し出してくれて。

【山下】あ、そうしたらそれが長田さんだったと。

【長田】はい。

【山下】へー!

【長田】そのときにフォンテーヌで上演してたものを何年も経って覚えてて、ミュージカル業界の方たちがいて探し出してくれて、24歳のときに銀座の博品館劇場に書き下ろしのミュージカルのお仕事をもらって。

【山下】へー!! めちゃめちゃ早熟じゃないですか。

【長田】いや、だから、なんか全然普通に。

【山下】博品館のミュージカル、すごい!

【長田】もう卒業した後はこのまま脚本も書かないかな、と思ってたときにそうやって。

【山下】うーん、そういうチャンスが。

【長田】はい。ファミリーミュージカルの依頼をいただいて。

【山下】へー!

【長田】20代の頃は、仕事をしながらファミリーミュージカルのことをやってました。

【山下】あれですか? ミュージカル研究会をしながら『早稲田文学』に行って、それで卒業は4年で卒業されたんですか?

【長田】そうですね、はい。

【山下】卒業して、出版社?

【長田】出版社に入って(笑)。

【山下】このテアトロによると、なんか5時までで終われる出版社ってのがあったんですか?

【長田】はい。もう普通に、なんか就職科行って「5時まで」って書いてあったんで、電話して。

【山下】へー。珍しいですね、出版社で5時までって。

【長田】法律系の出版社だったんですけど。

【山下】あー、行政とかそういうような。

【長田】そういうような。日本加除出版って。トキワ荘ってあるじゃないですか。

【山下】はいはい、池袋の。

【長田】トキワ荘の同じ敷地に建ってて。

【山下】えっ? それ、当時?

【長田】この会社が。

【山下】今、トキワ荘は美術館みたいになってるじゃないですか。

【長田】そうなんです。だから、トキワ荘の隣が、その会社だったんです。

【山下】あるんですか、今も。じゃあ、今度トキワ荘行ったときに、行ってみます。

【長田】はい。トキワ荘で、ここがその会社って所で。

【山下】へー!!

【長田】すごくそこも、結構伸び伸びやらせて。女子の新入社員、私1人だったんですけど。

【山下】あ、はい。

【長田】もう、すごく、なんだろう、いろいろかわいがってもらいましたね。

【山下】編集担当されたんですか?

【長田】営業とか広告宣伝部で。

【山下】ああ、なるほどなるほど。

【長田】法律のこととかも全然分かんないのに。

【山下】はいはい。

【長田】出版社の編集担当の所に行って、市町村とか官公庁の方たちに、この本を買ってもらうためのリーフレットを作る仕事。

【山下】ということは、営業先は、そういう市区町村の担当の部署になってると。

【長田】部署になってく。それで、編集担当の人に「どういう点が分かりやすいのかを、私に分かるぐらいに教えてくれ」って言って(笑)。

【山下】ああ、逆にね。編集の人に聞いて。

【長田】はい。

【山下】それをみんなに伝えに行くと。

【長田】伝えに行くと。

【山下】「どうですか、買いませんか」って言って。

【長田】そういう販促物を作ったり。

【山下】へー。

【長田】あと、なんか文章を書いたりとかもやってて。

【山下】はいはい。

【長田】そうすると、本当に結構アットホームで5時までなので、やっぱり映画が好きな方とか、監修者で入られてる弁護士の先生方とかも、「実は若い頃シナリオ書きたかったんだよ」とか。

【山下】うんうん。

【長田】あとは、社内で囲碁とかのチームに入れてもらって(笑)。

【山下】囲碁指せるんですか?

【長田】囲碁やってたりとか。

【山下】すごい! うちの会社は囲碁将棋チャンネルもありますけどね。

【長田】ああ、そうです。結局、その囲碁とかのときに、囲碁もっと強くなりたくなって、日本棋院に一時期通って、そこの職員さんと結婚しました(笑)。

【山下】あ、そうなんですか?

【長田】(笑)。

【山下】その人は、もう囲碁大好きな人なんですよね?

【長田】囲碁大好きで。

【山下】囲碁の本とか書かれないんですか?

【長田】いやー……。

【山下】面白そう、囲碁の本。

【長田】どうやって演劇でやるのか知らないですけど。

【山下】囲碁将棋チャンネルでドラマ化とかしないとなあ、囲碁の。

【長田】(笑)。

【山下】面白そうだねえ。

【長田】本当に……だから3年ぐらい勤めて、そのあと、劇場の指定管理者の仕事とかで、いろいろ引き抜きがあって。

【山下】あれですか? 出版社にいたときに、博品館でミュージカルも書いてたんですよね?

【長田】そうです、そうです。書きつつみたいな。

【山下】ああ、すごい! で、その出版社に勤めたのは3年? 4年?

【長田】3年ですかね、はい。

【山下】そのあと劇場の指定管理者っていうのは、どこの劇場ですか?

【長田】荒川区から指定を受けて、日暮里サニーホールって所の副支配人を4年ぐらいやっていましたかね。

【山下】へー。日暮里。

【長田】はい。

【山下】それは、たまたまご縁があって、そこに。

【長田】いや、もうミュージカル研究会時代にお世話になった照明家さんがいて(笑)。

【山下】なるほど。「やってくれ」と。

【長田】その人の所属する上の会社が指定管理者受注したからやってくれ、って言われて。

【山下】指定管理者って、何年か契約にはなるんですか?

【長田】多分そういう仕組みがあったと思うんですよね。私は結局4年で戯曲セミナーに行きたいなっていうのがあったので転職しちゃったんですけど。

【山下】はい。それは、なんか先輩に誘われたんで……出版社には未練はなかったんですか?

【長田】出版社には、ちょっと申し訳ないと(笑)。

【山下】5時で終われる出版社。

【長田】いや、本当に申し訳ないって思ったけど、もともと脚本を書いてたこととかも……。

【山下】知ってらっしゃったから、みんな。

【長田】はい。結構、懐の大きな会社で。

【山下】はいはい。

【長田】社長とか専務とかも割と応援してくれて。

【山下】でも、編集者ってそういうところありますよ。

【長田】あ、そうですね。

【山下】プロデューサーだから、編集者は。

【長田】あ、なるほどね。

【山下】だから、物を作る、出す人を応援しようっていうのは、東北新社もそうなんだけど、あるんですよ。

【長田】結構、そこ3年しかいなかったのに、3年の間に囲碁とかやってたのに(笑)。結構そこからはちゃんと送り出してくれて。

【山下】うーん。

【長田】でも、今でも本当に例えばドラマ作ったりとかすると、そのときの専務から連絡が来たりとか。

【山下】「見たよ」みたいな。いいですね。

【長田】お世話になっていた総務や経理の方とか(笑)。

【山下】いいですね。

【長田】はい。今でも「見たよ」って連絡くださったりとか。

【山下】じゃあ、トキワ荘の博物館行くの楽しみですね(笑)。

【長田】そうですね(笑)。はい。

【山下】へー。で、その日暮里の指定管理者をしながらも、またミュージカルの台本書いてたんですか?

【長田】そうですね。ひたすらミュージカルを書いてました。

【山下】へー。

【長田】スペース・ゼロとか。

【山下】ああ、スペース・ゼロ。

【長田】博品館とか。

【山下】博品館。すごい、大きな所からいろいろ。それは、ミュージカル研究会のつながりでもあるんですか?

【長田】でもなくて。

【山下】でもなくて?

【長田】はい。でも、そこは本当にアイドルの卵みたいな、『アニー』とかに出た子たちが次に出るようなミュージカルとか。

【山下】はいはい、子役のね。

【長田】だから、出待ち待ちしてる人とかもとっても多いようなミュージカルで。

【山下】へー。

【長田】最初は、いつか脚本でお金が稼げたらいいなと思ってたんですけど……。

【山下】うんうん。

【長田】それをやってるうちに、「本当に自分がやりたかったのは、これなんだろうか?」みたいな……。

【山下】なるほど。

【長田】疑問を持って。あとは、28歳ぐらいのときにちょっと……アイドルみたいなジャンルのミュージカルっていろんな方たちが関わっているので、自分が書いたものが、自分がなんにも知らない所で何度も再演されていたりとか。

【山下】ああ、なるほど。

【長田】「著作権が私にある」って考え方とかも持ってない方たちだったりとか、あとは私が書いたものがもっとものすごい大御所プロデューサーの名前で、全然違う大きな劇場で上演されていたりとか。

【山下】なるほど。

【長田】で、文句を言ったら10万円だけピッて振り込まれるとか、なんかそんな……「私がやりたかったことは、これなんだろうか?」みたいなこととかがあって、それで「著作権が作家にないの? 本当に?」って思いながら、「劇団とかプロデューサーに著作権はあるんだ」っていうことをそのときに言われて、「それは本当なのかな?」と思って調べたときに劇作家協会っていうのがあって、そこで戯曲セミナーっていうのをやっているっていうのを初めて知って。

【山下】じゃあ、それを調べたことによって。

【長田】そうなんです。

【山下】あ、なるほど。

【長田】それで、私はずっとミュージカルをやってきてたけど、本当はちゃんとした自分の作家としての名前で作品を世に出したかったはずなんだから、1回もう全部リセットしてやり直そうと思って。それでもうミュージカル関係の人とは本当に1回連絡を断ち。

【山下】1回ね。

【長田】その戯曲セミナーに行くには、毎週決まった時間に行かないといけないんですけど、劇場の指定管理の仕事って貸し出しに応じるから……。

【山下】夜になるときもありますよね。

【長田】はい。最大、朝8時半から、夜がそれこそ24時過ぎるとかも。

【山下】へー。

【長田】翌日の仕込みとかまで付き合う。

【山下】はあ、はあ。

【長田】だから時間がすごく不規則だったんで、ちょうど早稲田の演劇博物館が契約社員だけど求人を出してたので、じゃあもう契約社員になってもいいからそっちに転職して、それでまた5時までにして、戯曲セミナーに行こうと思って。

【山下】演博に行って少し稼ぎながら。

【長田】そうですね。

【山下】日本劇作家協会の。

【長田】協会の戯曲セミナーに行くために。

【山下】今は座・高円寺でやってますよね?

【長田】そうですね。

【山下】そのときはどこだったんですか?

【長田】キャロットタワー、世田谷パブリックシアター。

【山下】ああ、パブリックシアターでやってたんですね?

【長田】はい。それで、初めて現代劇をやろうと。

【山下】現代劇のそうそうたる作家さんが講師でいらっしゃったと。

【長田】そのときは、それさえも分かんなくて。全然違うジャンルにいたんで、でも行けば60人ぐらい、これから現代劇やろうとしてるクラスメイトっていうか、そういう人たちと出会えるから、とにかくそこに行こうと思って。

【山下】長田さんは、それまでは現代演劇、いわゆるこの番組でやってる小劇場的なものをご覧になってらした?

【長田】ほとんど……。まあ学生のときは見てたんですけど。

【山下】ああ、大学のつながりとかで。

【長田】はい。それこそトップスがなくなるような。

【山下】ああ、シアタートップスね。

【長田】なんていうのかな、劇団3○○とか。

【山下】はいはい。渡辺えりさん。

【長田】あと、自転車キンクリートとかが全て……。

【山下】はいはい。鈴木(裕美)さん、飯島(早苗)さんの。

【長田】はい。追い掛けて行っては1回休止になっちゃうみたいなタイミング。

【山下】そうだ。青い鳥とかもあれでしたもんね。

【長田】そうですね。とかも見に行ってたりして。

【山下】うーん。なるほど。じゃあ、そんなにものすごい、うちの谷さんみたいに見てたわけじゃないと。

【長田】そうですね。やっぱり学生のときはいろいろまんべんなく見てて、でも1回就職したら、もうその就職とミュージカルを書くってことだけです。

【山下】ああ、もういっぱい時間が掛かっちゃう。

【長田】時間が、もういっぱいでしたね。

【山下】でも、そうすると劇作家協会主催のやつでキャロットタワーに通っていると……週に1回だったんですか?

【長田】週に1回。

【山下】じゃあ、だんだんそこでいろいろインスパイアされるわけですよね?

【長田】初めて。そうですね、劇作家っていうものの世界があってっていう。

【山下】なんか印象に残っていることってあります?

【長田】(笑)。斎藤憐さんの授業がとにかく怖かったってことが。

【山下】斎藤さん、すごい作家さんでした。

【長田】いやー、すっごく怖くて。私、本当にやっぱりここのセミナーに来るために転職までしたんだっていう思いがあったんで。

【山下】はい。

【長田】結構、熱心に参加してたんですけど。

【山下】うん。

【長田】斎藤憐さんが入ってきて、私が結構前に座っていて、入ってきてすぐに指されて「演劇において一番重要なことは何か言ってみろ」って言われて。

【山下】ああ、すごいですね。

【長田】「えーっと、なんだろう。登場人物とか筋とか、なんだろう」っていろいろ考えていたんですけど、そしたら憐さんが……。

【山下】うん。

【長田】「『とたいじょう』だ」って言ったんです。

【山下】「とたいじょう」ってなんですか?

【長田】登場人物の登場と退場です。(※ 登退場)

【山下】ああ。それが。

【長田】で、登場と退場で情報を操作したりとか。

【山下】ああ、なるほどなるほど。

【長田】違う情報を持ってる登場人物が入ってくることで、ストーリーが動いたりとかするんで。

【山下】うんうん、なるほどなるほど。

【長田】戯曲において一番重要なのは登退場だっていうのは、憐さんおっしゃってたんです(笑)。

【山下】なるほど。

【長田】そういうのを全然、生徒で一発で答えにたどり着くって、なかなか難しいですよね(笑)。

【山下】難しいですね、うーん。

【長田】だから、なんか劇作家っていうのは違う……なんだろう。この人たちは、もうちょっと世界を違う構造で見てるんだなって思いました。

【山下】うーん。そうですね。ある意味、幕があってそこに出たり入ったりするから、割とそこはパズル的なところもありますよね。

【長田】そうなんですよね。それまでは本当に登場人物とか物語が好きだってことでしかなかったんで。

【山下】小説とかアニメとかだと自由にできるけど、舞台はそこの制約がありますからね、場の。

【長田】それがとても楽しかったです。

【山下】うん。

【長田】登退場だって言われたときに初めて……なんだろう、建造物のように思えたんですよ、演劇が。

【山下】ああ。

【長田】戯曲とかが。

【山下】分かる分かる。割と設計図。

【長田】そうなんです、そうなんです。

【山下】それ、CMもそうなんですよ。CMも30秒なら30秒の設計図があって。

【長田】はい。

【山下】そこに収まんないといけない。

【長田】ああ、そうですよね。

【山下】そう。それは、もう。

【長田】結局そうなんですよ。演劇も、まあ2時間だったら2時間しか入れられないから。

【山下】うん。あと、幕も転換ができない所もありますもんね。

【長田】そうですよね、うーん。それまでは、本当に物語をセリフの形式で書くぐらいなことしかなくて。かろうじて先がミュージカルから入ってたんで、ミュージカルだとどうしても曲から、メインの曲がどこに入るかでもう屋台骨が立ってっちゃうんで。

【山下】あ、そうなんですね。

【長田】骨格が、もう曲ありきで。

【山下】やっぱり曲ありきなんですね? なるほどなるほど。

【長田】うん。だから、構造の骨組みがミュージカルを作るときに、先に感覚は植え付けられてて。

【山下】うん、うん。

【長田】憐さんが最初に「登退場だ」って言ったことで、よりそれが建造物として明確になったっていうか。

【山下】なるほどね、面白いですね。

【長田】面白かったです。

【山下】建造物の劇作家。

【長田】はい。

【山下】憐さんはあれですよね。自分で演出はされていないんですよね?

【長田】そうだと思いますね。全部の歴史は分からないけど。

【山下】僕も亡くなられる前に結構力作を何本か見せてもらって。

【長田】はい。

【山下】で、「この人の本、すごいなあ」と思って見てたんですけど。

【長田】うん。

【山下】そう。だから、あの人も長田さんと一緒で、もう劇作に集中されてたんじゃないかな。

【長田】そのときは、本当に井上(ひさし)先生もそうですし、別役実さんも。

【山下】別役さんもね。

【長田】はい。

【山下】お元気だった頃ですね。

【長田】本当に文豪みたいな雰囲気をまとってる作家の方が多くいらして。

【山下】そうでしたね。別役さんも教えにいらっしゃってたんですか?

【長田】ええと、そのときはもうお体がちょっと悪かったので。

【山下】はい、はい。

【長田】夏の大きな講習のときに劇場イベントとしていらっしゃるとかね、そのぐらいだったんですけど。

【山下】なるほど。ふーん。

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)

担当:荒井順平
 ご依頼ありがとうございます。長田さんの、就職をしても好きな劇作家への道を諦めずに夢を追い続ける姿に、とても心を打たれました。それから人の縁を大事にすれば、その先にきっと道は開けるのだなということに気づかせてくれた、すてきなお話でした。長田さんの作品に触れてみたくなりました。ありがとうございました。



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