見出し画像

【コメディ】部員は0!

この記事はオーディオドラマシアター SHINE de SHOWに再掲されています。今後はそちらのアカウントにてご覧ください。

野球が大好きなピカピカの高校1年生、元村紗世は、
マネージャーとして野球部の門を叩きます。
そこに居たのは、高校生にして社会の不条理を語り、
既に人生を5回くらいやってきたような先輩マネージャーの中条。

中条から“マネージャーの仕事”という名のムチャぶりを突き付けられる形で、
元村紗世は、早々に野球部の洗礼を受けることになります。

必死にムリゲーに応えようとする元村紗世。
さて、この努力は一体、どこに向かうのか…??

*byプロデューサー 田中見希子

*************
▶ジャンル:コメディ

▶出演
・元村紗世:池尾麻里(東北新社/OND°)
・中条先輩:田中園子(東北新社)
・大野先輩:村木芳(オムニバス・ジャパン)

▶スタッフ
・作/演出:山本憲司(東北新社/OND°)
・プロデュース:田中見希子(東北新社)
・収録協力:映像テクノアカデミア


『部員は0!』シナリオ

登場人物
 元村紗世(15)高1・野球部マネージャー
 中条なかじょう実花(16)高2・先輩マネージャー
 大野千絵(16)高2・女子ソフトボール部

   ひとりの拍手。
実花「おめでとう! 元村さん」
紗世「ありがとうございます!」
実花「あなたを正式に野球部のマネージャーに任命します」
紗世「はい、嬉しいです! ええと……」
実花「中条よ。野球部へようこそ!」
紗世「中条先輩。よろしくお願いします。私、右も左もわからないもので……マネージャーの仕事いろいろ教えてください」
実花「いい心がけだわ。あなたみたいなやる気のあるマネージャーがいてくれたら鬼に金棒、わが野球部もこれから安泰だわ」
紗世「はい。それで、私、野球のことは大好きですけど、マネージャーとしてまずどういうことをすればいいのかわからなくて」
実花「そうね。新人マネージャーのあなたにまずお願いしたいことは」
紗世「ハイ!」
実花「最初に、野球部員を集めることね」
紗世「(メモ取って)野球部員を……え?」
実花「それから──」
紗世「すいません、中条先輩。今なんと?」
実花「元村さん?」
紗世「はい」
実花「今日は初日だからうるさいことは言いません。でも、私は一度言ったことは二度と言わないからそのつもりでいてね」
紗世「はい。すいません。中条先輩」
実花「(噛んで含める)最初に、野球部員を、集める・・・ ・・・・・ ・・・」
紗世「野球部員を、集める」
実花「そう」
紗世「先輩。質問してもよろしいでしょうか」
実花「何?」
紗世「野球部員を集めるのもマネージャーのお仕事なんですか?」
実花「元村さん?」
紗世「はい」
実花「野球部というのは、野球部員がいるから成り立つものなのよ」
紗世「はい。それは知ってますが──」
実花「(厳しく)口答えしないっ!」
紗世「すいません!」
実花「この野球部に一体何人野球部員がいると思っているの」
紗世「そっか、そうですね。野球は9人で行うもの。新学期だからまだ足りないということなんですね。気がつきませんでした」
実花「足りる足りないの問題ではないの」
紗世「え……?」
実花「この野球部には、部員は一人もいないの」
紗世「エーーーーッ! マジっすか!」
実花「先輩に向かってその言葉遣いは何!」
紗世「す、すいません!」
実花「罰としてあなた、校庭二周よ!」
紗世「マネージャーなのに走るんですか?」
実花「今のは何!」
紗世「質問です!」
実花「マネージャーが自ら実践するからこそ、選手はついてくるんじゃないの」
紗世「せ、選手はいないんじゃ……」
実花「今のは何!」
紗世「ひとりごとです!」
   トラックを走る足音。
紗世「うそでしょ~。部員がいない野球部なんて野球部じゃないじゃん……」
   別の足音が来て並んで走る。
千絵「あなた、野球部の新人マネージャー?」
紗世「そうですけど……あなたは?」
千絵「私、ソフト部。二年の大野」
紗世「よろしくお願いします。元村と申します」
千絵「よろしく」
紗世「へえー、ソフト部も走らされるんですね」
千絵「もちろん走るよ」
紗世「そっか。みんな走るものなんだなー」
千絵「面白い子だね。じゃ、私お先に」
紗世「はい! 私もがんばろっと」
   足音、去っていく。
実花「元村さん」
紗世「はい、すいません!」
実花「まだ部員がゼロとはどういうこと? こんなことでは夏の甲子園に間に合わないわよ」
紗世「はい。でも野球部に入りたいという人が一人もいないんです」
実花「それはあなたの努力が足りないからよ」
紗世「そんなぁ……」
実花「今のは何!」
紗世「だって理不尽です。先輩は何をされてるんですか?」
実花「私は顧問の先生とどうやって甲子園を勝ち取るかその対策を練っているのよ。それに、理不尽なものなんです。社会は」
紗世「社会って、ここは高校では……」
実花「今のは何!」
紗世「はい、口答えです!」
実花「素振り200回!」
紗世「ハイ!」
   素振り、素振り、素振り、……
実花「元村さん!」
紗世「はい、すいません!」
実花「このユニフォームの畳み方、これでいいと思ってるの?」
紗世「自分としてはだいぶ丁寧に畳んだつもりなんですけど……」
実花「今のは何!」
紗世「はい、口答え……ていうか、着る部員がいないのに意味あるんですか?」
実花「今から千本ノック!」
紗世「ハイ!」
   ノック、キャッチ、ノック、キャッチ……
   ──
   とぼとぼと歩く足音。
紗世「はあ……何してんだろ、私……」
千絵「おつかれさま。元村さん、だったよね」
紗世「ええと……ソフト部の、大野さん!」
千絵「あなた、ずいぶんたくましくなったじゃない」
紗世「ありがとうございます。毎日特訓させられてますから」
千絵「でもマネージャーなんでしょ?」
紗世「そうなんですよ。聞いてくださいよ。マネージャーなのに私、まるで選手みたいに鍛えられて毎日もうヘトヘトですよ」
千絵「知ってる。がんばってるもんね」
紗世「え?」
千絵「あなた、すでに野球部員並に基礎体力が身についてるって、私たちの間では有名だよ」
紗世「そうなんですか?」
千絵「だから今日は、そんなあなたをスカウトに来たわけ」
紗世「スカウト……?」
千絵「女子ソフト部に」
紗世「私を、ソフト部に?」
千絵「そう。不満?」
紗世「いえそんなことは……ただ、野球が好きなもので」
千絵「わかるよ。でも、今の野球部のマネージャーという立場はあなたを活かしきれてないと思うんだ。女子ソフト部なら、体を鍛え上げたあなたが活躍できる場としてふさわしいと思う」
紗世「活躍できる場……!」
千絵「自分のやりたいこともいい。でも、求められる場所で自分を活かすという人生も素敵じゃないかな?」
紗世「……そうですね……ほんとにそうですよね! よし、決めちゃお。ソフト部に行かせていただきます!」
   ノック。
   ドアが開く。
紗世「こんにちは……うわ! お仲間がこんなにたくさん!」
千絵「いらっしゃい。元村さん。女子ソフト部へようこそ!」
紗世「すごいなあ。これだけの部員を大野さんがまとめてるなんて」
千絵「私? 私はまとめてないよ」
紗世「大野さんがマネージャーなんじゃないんですか?」
千絵「私は選手だよ。一緒にトラック走ったことあったじゃない」
紗世「はあ」
千絵「普通マネージャーが走ったりしないでしょ」
紗世「そうなんですか? ではソフト部のマネージャーはどなたが……」
千絵「いないよ。だからあなたに来てもらったんじゃない」
紗世「え?」
千絵「あなたの鍛え上げた体なら、このたくさんのユニフォームの洗濯も、備品の整備も朝飯前でしょ?」
紗世「そ、そっか。私、マネージャーにスカウトされたんだ、そっか。そっかそっかー……(ひきつった笑い)」
千絵「そんなに嬉しい?」
紗世「あははは、はい!(引きつりすぎて不気味な笑い)」
千絵「よかった。おめでとう! 元村さん」
   たくさんの拍手。
紗世「あ、あ、あ、ありがとうございます!」
千絵「あなたを正式に女子ソフト部のマネージャーに任命します!」
紗世「こうなったら、こうなったら、マネージャー界のイチローを目指すぞーっ! うぉーっ!」
                              〈終〉

シナリオの著作権は、山本憲司に帰属します。
無許可での転載・複製・改変等の行為は固く禁じます。
このシナリオを使用しての音声・映像作品の制作はご自由にどうぞ。
ただし、以下のクレジットを表記してください。(作品内、もしくは詳細欄など)
【脚本:山本憲司】
オリジナルシナリオへのリンクもお願いします。
また、作品リンク等をお問い合わせフォームよりお知らせください。

*番組紹介*
オーディオドラマシアター『SHINE de SHOWシャイン・デ・ショー
コントから重厚なドラマ、戦慄のホラーまで、多彩なジャンルの新作オーディオドラマを毎月ポッドキャストで配信中!
幅広い年齢でさまざまなキャラクターを演じ分ける声優陣は、実は総合映像プロダクションで働く社員たち。
豊富な人生経験から生み出される声のエンタメが、あなたのちょっとした隙間時間を豊かに彩ります!

この記事が参加している募集

#私の作品紹介

97,151件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?