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【PODCAST書き起こし】谷さんの「観劇日記2021年6月」(全2回)その2

【PODCAST書き起こし】谷さんの「観劇日記2021年6月」(全2回)その2

【山下】じゃあ続いてですね、5番目キネマの天地』。これは私も見に行きました。

【谷】新国立の……。

【山下】そう。新国立劇場のプロデュースですね。

【谷】そうですね。だから井上ひさしさんの作品で……。
演出が小川絵梨子さん。小川さんも新国立の芸術監督。で、出演が高橋惠子さんと鈴木杏さん那須佐代子さん、あと趣里さんか。それと男性陣は佐藤誓さんと章平さんいうかたと、千葉哲也さん。

【山下】映画の業界の話ですね。

【谷】そうですね。こちらですね。

【山下】これは僕も見ました。

【谷】これは新国立の『人を思うちから』の第3弾で、第1作目が『斬られの仙太』で第2作目が『東京ゴッドファーザーズ』。で、今回が第3弾で。これはおもしろかったですね。凄く楽しめましたね。やっぱり井上さんの筆の力ってもの凄いなと思って。本当にからくり箱のような大どんでん返しが最終的には待っているわけですけれども、でも人間味があるのと、人間の本性が出しちゃっているんですよね。

【山下】そうですね、特に俳優のエゴみたいなのがうまく出ていて面白かったな。

【谷】そうですね。もともとはこれ映画の山田洋次さんの『キネマの天地』。

【山下】僕もあとで調べてそうだったんだって。

【谷】それで、共同で井上さんも書かれていて。

【山下】山田洋次監督と井上ひさしさんの共作だったんですよね。
【谷】それで、続編なんですよね、これ。

【山下】これはそれの続編っていうのにあたる舞台なんだ。

【谷】それは86年とからしいんですけれど、日生劇場で1回上演はしているらしいんですよ。それを小川さんがやる再演っていうことで。

【山下】徳永京子さんか誰かが書かれていたんですけれど、日生でやっていたときは箱がデカすぎて、ここの劇場でやるとちょうどいい大きさでよかったって書かれていましたけれどね。で「あ、そうなんだ」と思って、それを読んでから僕チケットをとったんですよ。

【谷】よく取れましたね。

【山下】ここだけ空いているみたいなところがあって、空いているところにお伺いするっていう感じで取れました。 

【谷】これは2時間半で。休憩をはさんで2部構成で、本当に2部構成をうまく……休憩でやったって感じですよね。これは8月1日のBSプレミアムで放送いたしますので。

【山下】じゃあ収録したいですね。

【谷】ええ、ぜひご覧いただければと思います。

【山下】ということで『キネマの天地』井上ひさしさん原作で小川さんが演出の演目でした。続いてですね『夜は短し歩けよ乙女』これも新国立劇場のこれは大きい中劇場でやったみたいですけれど。

【谷】ええ、これは中劇場で……。

【山下】はい、チラシはこれです。

【谷】チラシが無くてちょっと……、ダウンロードしてコピーしました。

【山下】これは森見登美彦さんの原作のそれを演劇化したと。

【谷】そうです。演劇台本と演出がヨーロッパ企画の上田誠さん。

【山下】これってアニメーションにもなりましたよね。

【谷】アニメで宇宙もの……。

【山下】アニメも上田さんが脚本を書いていなかった?

【谷】そうかな? あ、そうだな。

【山下】そうなんですよ。それで「へー」と思って、あれは……。

【谷】で、木村絵理子さんが音をやっていますね。
(※木村絵里子:東北新社 音響字幕制作部 音響ディレクター)

【山下】そう。木村さんが音響監督だったので見たんですけれど。

【谷】実写の映画化を何回も企画していたらしいんですけれど、全部頓挫して。

【山下】実写にはなっていないんですか?

【谷】なっていないんだそうです。

【山下】じゃあ演劇が実写の……。

【谷】ええ。アニメ化が17年で、小説としてはベストセラーですよね。

【山下】アニメもおもしろかったですよ。でもセットっていうか設定がどんどん変わっていくから。

【谷】そう。でね、演劇が凄くうまかった。映像の使いかたも含めて、プロジェクションマッピングをうまくつかって。

【山下】セットの転換とかそういうふうに使ったんだ。

【谷】そうですね。で、舞台が京都の町じゃないですか。大学の後輩の黒髪の乙女っていうのに思いを寄せる先輩とのやりとりの青春恋愛物語なんですけれど、出演が僕は初めて知ったんですけれど、中村壱(かず)太郎(たろう)さんってイチって古い壱ね。壱円札の壱。が男性主演で久保史緒里さんって先程の女性ですけれど、乃木坂。

【山下】じゃあチケットすぐに売り切れたんじゃないですか?

【谷】それはわからないんだけれども、初台のところに行って、最初この日にあれだったんですよ。さっきの『キネマの天地』と2本立てで縦移動して見たんですけれども、ヨーロッパ企画の先行販売でとって、ヨーロッパ企画物として僕は見るつもりだったんですけれども、なんか男の子がやたら多くて。

【山下】彼女のファンなんでしょうね。

【谷】普通だと女性トイレに列ができるんですけれど、男性トイレに列ができちゃっていて「なんだろう?」と思ったら乃木坂の彼女が次世代有望株らしいです、この子は。久保史緒里さんっていうかたです。本当に目がキラキラしていて、見てわかるように凄くかわいいんですよ。赤系の服が凄く似合って、本当にここに出ているグッズ系というか小道具系はほぼ出てくるんですよね。鯉が飛んできたり、鯉をしょっていたりとかね。

【山下】これは原作にね、いろいろあるから。そういう不思議な世界をちゃんと演劇の世界に合わせて実写に実景にしているわけだ。

【谷】そうです。だからそういう意味では生き生きとした彼女が描かれていて、凄くチャーミングでしたね。そこに竹中直人さんとか……も芸達者な。鈴木砂羽さんとかあとヨーロッパ企画の面々プラス藤谷理子さんも出ていたり。尾上寛之さんとか。今は大河に原市之進でしたっけ? 出ていますけれど。本当にテンポのいい芝居でしたね。

【山下】上田さんってやっぱりそういう才能があるんでしょうね。

【谷】でもね、休憩をはさんで3時間だったからちょっと長かったけれど、話はおもしろかったんで、凄くよかったです。なかなかなもんですね。

【山下】これは谷さん、やっぱりヨーロッパ企画だからっていうので見に行こうって思ったんですか?

【谷】そうです。ヨーロッパ企画のネタで、チケット系で入ってきて、それで「森見さんだし行ってみよう」と思ってとったっていう感じですね。

【山下】これをよく舞台化したというのが凄いと思いますね。

【谷】そうですね。実写の映像化をしていないのに舞台化しちゃうっていうのはね、なかなか凄いですよね。

【山下】ということで、『夜は短し歩けよ乙女』でした。続いて7番目ですが、ゼロコ『Silent Scenes』。

【谷】これは、こまはアゴラ劇場で出会ったんですけれど、こんなチラシなんですけれど。

【山下】おしゃれなチラシですね。

【谷】なんだかわからないじゃないですか。

【山下】清涼飲料水のCMのワンカットみたいな。

【谷】なんですけれど、実際はあれです。ノンバーバルのショーで、パントマイムとかクラウニング……。
【山下】動きだけで? セリフはないの?

【谷】そうそう。

【山下】クラウニングってなんですか?

【谷】クラウンだから、王様……。ピエロですよね。それをベースに即興性とか緻密性をもったパフォーマンスをやるんです。ちょっと名前を出しちゃうとあれだけれど、が~まるちょばって……。

【山下】わからないです。

【谷】わからないですか? 彼らも……今はもう解散しちゃったんですけれど、そういった言ってみればサイレントショーですよね。結構根強いファンがいるみたいで。これは2020年の再演らしいんですけれど、オープニングからエンディングまで、その間に4編の作品を休みなく1時間半演じ続けるんですよ。

【山下】凄いじゃないですか。

【谷】凄いですよ。それで、完成度が凄く高かったんですよね。ゼロコっていうのは角谷将視さんと濱口啓介さんって2人いて、結構シャープで……。

【山下】彼らはダンサーなんですか?

【谷】ダンサーなんですかね?

【山下】パントマイイマー?

【谷】パントマイイマーですね。いろんなところに出ているみたいですよ。本当に角谷さんっていうかたは汗だくだくになってやっていました。本当にこれはアゴラだから出会えたパフォーマーなのかなと思いますね。

【山下】ゼロコ。

【谷】これ本当に面白いからマスクをしているじゃないでか、マスクの下では口角が上がっているんですよ。だから出たときは頬骨が痛くって。あはは。

【山下】健康に良さそうですね。

【谷】そうです。

【山下】心の健康に。ゼロコ覚えておきます。

【谷】ええ、これはまた本当に見てみたいですね。

【山下】ゼロコ、じゃあ今度やるときに見に行ってみます。

【谷】これは演劇好きの友人も行かれたそうですけど。非常に楽しかったって言っていました。

【山下】そうか、来年は僕も支援会員に入って行きましょう。

【谷】はい、ぜひ入ってください。

【山下】続いて8番目ですね『3年B組皆川先生~2.5時幻目~』本多劇場。これは皆川さんって皆川猿時さん……。

【谷】皆川猿時さんですね。2.5次元の「ゲン」が変な「幻(げん)」じゃないですか。

【山下】幻(まぼろし)になっていますね。

【谷】ここがみそなんですよね。

【山下】これは「3年B組金八先生」みたいなことですか?

【谷】そうです。

【山下】これ脚本は誰が書かれたんですか?

【谷】脚本は細川徹さんですね。チラシはこちらですね。

【山下】お笑い系ですね。どう見てもお笑いな感じ。

【谷】出演は皆川猿時さんと荒川良々さん、池津祥子、村杉蝉之介。

【山下】ほぼ大人計画じゃないですか。

【谷】近藤公園。

【山下】大人計画公演ですか?

【谷】いや、大人計画もからんでいますね。

【山下】これにも乃木坂の人が出ているじゃないですか。

【谷】そうなんです。

【山下】凄いな乃木坂。

【谷】それで、清宮レイさんっていうのが乃木坂の人で、あと何人か出られているんですけれど、去年かな? おととしくらいまで、『危ない刑事にヨロシク』っていうシリーズをやっていたんですよ。

【山下】それはテレビのドラマですか?

【谷】いやいや、本多劇場で。

【山下】本多劇場でシリーズものをやっていたの?

【谷】うん、2~3回。それが猿時さんと良々のコンビでいつも『危ない刑事にヨロシク』って、パクリですよ。それを今回学園ものに変えたと。で、見るとおわかりのように、おじさんおばさんばかりじゃないですか。猿時さん以外は生徒なんですよ。

【山下】みんな40代。

【谷】ええ、でも唯一、清宮レイさんはいくつかな? わからないですけれど。そこにある意味化学反応が起きるわけですね。

【山下】これって、皆川さんは先生なんですか?

【谷】先生なんですけれど、もともとは焼き鳥屋さんなんですよ。で、先生に転身して、こいつらを卒業させたら、棒引きして500万の借金を無くすとかいう校長先生との約束でやっていると。それで、皆川猿時が元2.5次元俳優なんですよ。

【山下】焼鳥屋さんだけど? 2.5次元俳優から焼鳥屋さんになって、先生になったと。

【谷】そうそう。で、すべてが皆川さん仕切りなんですよ、先生だから。

【山下】3年B組を仕切るんだ。

【谷】客席も普通だったら声を出したり乱入したりするんだけれど、さすがに今の時期はそれができないけれど「そこのあなた」とか言って指をさすんですよ。

【山下】客席をね。

【谷】そうそう。それで巻き込んでそこで1人立たせて、回答を言わせたりとか。

【山下】客いじりをするんだ。

【谷】そうそう。それが結構おもしろかったですね。

【山下】宮川さんって『あまちゃん』でも先生役をやっていませんでしたっけ?

【谷】そうです。ダイバーのね。

【山下】そう、ダイバーの学校の先生。先生役が向いているのかもしれないですね。

【谷】そうですね。2.5次元の踊りも最後にするんですよ。

【山下】ダンスも皆さん上手いですからね。歌もうまいし。

【谷】ドタバタしながら。本当に笑いの渦ですね。

【山下】舞台自体は別に2.5次元的ではない?

【谷】じゃないですね。

【山下】普通の大人計画的というか、細川さんと。

【谷】そう。大人計画の細川ワールドですよね。

【山下】お笑いなんですね。

【谷】お笑いです。

【山下】それもやっぱり乃木坂の人がいたから男子トイレはいっぱいになっていたんですか?

【谷】いや、そうでもなかったかな?

【山下】これはそうでもないんだ。

【谷】本多劇場のサイズなので、新国立劇場の中劇場はやっぱりでかいじゃないですか。

【山下】人数がね。

【谷】そんな感じです。

【山下】これは谷さんどうやって選んで、なぜこれに行こうと思ったんですか?

【谷】これは大人計画からメールが来て、ずっと悩んでいたんですよ。「皆川猿時か……。また尻を見せられるのかな?」とか思いつつ。

【山下】1人で行ったんですね。

【谷】そう、1人で行って。最後の最後になんとなく1人で行こうと思って笑いも必要だと。まじめな芝居ばかり見ていても、ここはやっぱり笑わなきゃと思って行ったという流れです。

【山下】はい、ありがとうございます、じゃあ続いてですね……。

【谷】続いてがイキウメ(*『外の道』)なんですけれど、これは2回目なので。これは今の『皆川先生』が本多劇場だったので、歩いてシアタートラムに行って、2本立てで。

【山下】下北から三茶は歩けますもんね。

【谷】そうです。行って参りました。

【山下】どうですか? 2回見たらやっぱり印象変わります?

【谷】やっぱり難しかった。それと、僕が失敗しちゃったのが、とった席がほぼ近かったんですよ。

【山下】見る場所が一緒だと同じ感じになっちゃうってこと?

【谷】そうそう。前3列ぐらいの真ん中あたりで見たんですけれど、もっと後ろで見たかったんですよ。贅沢な悩みですけれど。

【山下】次の庭劇団ペニノの『虹む街』も2回目なんですけれど、これはどうですか? 2回目を見て。

【谷】 これもね、1回目は最前列をとっちゃったんですよね。で、2回目は2列目だったんですけれど、セットがやっぱり物語を産んでいるので、もっとうしろで見たほうがおもしろかったかもしれないです。

【山下】セットが物語を産むってなんかタニノクロウさんらしいですね。

【谷】そうですね。だけど1列目より2列目のほうがやっぱり楽しめましたね。距離が出ておもしろかった。

【山下】引けば引くほどいいんだ。

【谷】ええ。それは逆に1番後ろの人は前に行きたいと思っているかもしれないですよね。

【山下】このセットの写真を見てみたいな。

【谷】ありますよ。あとで僕が撮ったやつをお見せします。

【山下】本当ですか? ぜひ。じゃあちょっとお待ちしています。じゃあ2回目のやつがこうきて、11本目で、このしたやみ『猫を探す』という。今、猫がブームだそうですけれど。

【谷】このしたやみ、ちょっと地味な……。

【山下】ちょっとわりとファンタジックな、ジブリの背景のような。

【谷】そうですね。ここ坂なんですよね。坂が舞台の話なんですよ。セットとかは坂が無いんですけれど、猫を探すっていって。

【山下】本当に猫を探すんですか?

【谷】そうなんです。作・脚本が永山智行さんっていう、こふく劇場の。前回かな? 『蝶のやうな私の郷愁』の演出をやられていたかたの書き下ろしで、演出が山口浩章さんというかた。出演が広田ゆうみさんと二口(ふたくち)大学(だいがく)さんっていうのかな? この山口・広田・二口(ふたくち)が、このしたやみという劇団だそうで、このしたやみというのは強い日差しの中で木の下にできる濃いしっとりとした影のこと。

【山下】このしただから木の下なのかな?

【谷】二口さん演じるある男が火事現場から日記を見つけて、それが50年ほど前の日記なんですけれど、その日記の中で「猫を探していた」というくだりがありまして、その人と同じように電信柱に張り紙をしてみて、そこから不思議な出来事がいろいろ起こるというちょっとファンタジーな感じで。

【山下】チラシの感じでファンタジックかな? と思ったらやっぱりそんな感じなんですね。

【谷】ちょっと不条理的なところもあるんですけれども、これは三重県の津市。津にあけぼの座ってあるんですよ。それもアゴラで繋がっているんですよね。作が、宮崎・こふく劇場の永山さんなんですよね。このしたやみっていうのは京都っていうことで、地域が組み合わさって、地域発信の企画なんですね。

【山下】いろいろ繋がっているんですね。三重と京都と東京と。

【谷】ちょっと散文的な詩的な感じの戯曲がちりばめられている2人芝居なんですね。2人ともちょっとベージュが入った白系統の衣装で、白い美術で。息遣いが凄く聞こえて不思議な世界を表していましたね。1時間20分ってちょうどいい長さでおもしろかったです。

【山下】このしたやみ、ね。記憶させてもらいきました。続いてですね『未練の幽霊と怪物』岡田利規さんのやつだね。

【谷】岡田利規、作・演出の……。

【山下】「挫波」「敦賀」挫波は建築家のザハさんですよね? 

【谷】ザハ・ハディドですね。「敦賀」は 高速増殖原子炉「もんじゅ」ですね。 

【山下】KAATの大スタジオでやったと。大きいスタジオだったんですね。

【谷】大きいというか、ホールじゃないですよ。

【山下】じゃあ1つ小さいやつか。

【谷】チラシがこんな。

【山下】これ、去年なんか配信の、あの……上演ができなかったんでしたっけ?

【谷】あれは凄く難しかったですね。

【山下】オンラインで見たんですけれど。

【谷】しかも小さい感じでやっていたので。これね、チラシが6種類あるんです。出演者に応じて。これは森山未來さんで、これは石橋静河さん。これは誰だ? 

【山下】いろいろ持ってらっしゃるんですね。

【谷】全部持っていますね。

【山下】七尾旅人さんか。歌い手ですよね。
 
【山下】これはお能と関係があるんですか?

【谷】まさに能ですよ。現代能ですね。能形式を……、美術も灰色の美術で。

【山下】舞台は普通に正方形の舞台があって、橋掛かりみたいなのがあるんですか?

【谷】あるんです。それはだけど現代なんですよね。あれなんていうのかな、一の松・二の松・三の松? それはカラーコーンが置いてあるの。

【山下】カラーコーン? いいですね。そういうふうに抽象化したんだ。

【谷】音楽は内橋和久さんって結構その道では有名なかたらしいんですけれど。

【山下】それはお能の世界の?

【谷】いや、お能じゃなくて、電子音なんですよ。それで、七尾旅人さんっていうのはシンガーなんですけど、歌い手なんですね。ライトも衣装もすべて能を現代表現に置き換えている岡田さんの凄さですよね。でもやっぱり凄いのは衣装だとか音楽も含めて、演者もそうですけれど、これは総合力の勝利なんじゃないかなと思いますね。

【山下】総合芸術の演劇ならではの力がちゃんと……。

【谷】そうですね。森山未來さんはダンスで有名ですけれども、石橋さんもロンドンに留学していたり、ずっと子どもの頃からダンスをやっていたんで凄くうまい……舞じゃないんですよね、ダンスなんですね、ここはね。

【山下】でも能楽師は舞うって言うみたいですね、伝統芸能部で能は舞うんだっていって。

【谷】僕も詳しくはないんですけれど、シテ役ですよね、森山未來と石橋静河が……。森山さんがだからザハ・ハディドなんですよね。シテの段階ではある建築家なんですけれど、後(のち)シテっていうんですか?

【山下】うしろのシテっていうことですよね。

【谷】場転して1回くぐって後(のち)シテに変わると、幽霊なんですよね。幽霊になっちゃうわけですけれど、それがプラスチック製のお面を付けるわけですよ。その段階で。

【山下】それが能面の代わり?

【谷】そうそう。それがザハ・ハディドなんですよ。

【山下】へぇ、おもしろい。じゃあ去年見たオンラインの動画のやつと全然違うやつなんですね。

【谷】いや、でも内容は……。脚本は多分いじっていないと思いますよ。

【山下】凄く難解だなと思ったんだけれど、でも聞くとやっぱりおもしろそうですね。

【谷】そうです。

【山下】演劇の凄いところってさっきの無言劇じゃなくて……、寡黙劇でもそうでしたけれど、セットとか見たものとかそこに体現するもので魅力が出てくるっていうのはやっぱりありますね。

【谷】そうですよね。で、石橋さんのほうは「敦賀」だからさっきのもんじゅね。だから核燃料サイクル政策が後シテになるんですよね。それで要は満たされずに死んでいった未練ですよね、2つともね。それを亡霊の鎮魂を表した2つの話で、本当に2つ。2部構成で2時間5分。石橋さんもプラスチックのお面をして、踊っていましたね。

【山下】その踊り自体は能の踊りとは全然違うものなんですね。

【谷】違います。現代の踊りです。ワキが太田慎吾さんっていう、よくチェルフィッチュでスーパーなんとか(*スーパープレミアムソフトWバニラリッチ)でコンビニ店員で出ている。あとは栗原類が「敦賀」のほうでワキをやって、で、アイっていうんですか? 通りがかりの人なんですけれど、それは片桐はいりが2つともアイをやったと。

【山下】おもしろそうだな、これは映像になっていないのかな?

【谷】七尾旅人さんは歌い手。で、これもゾクッとする感じでしたよね。

【山下】今のを聞いたらむっちゃ見に行きたくなりましたね。

【谷】これはね、絶対に見るべきでした。

【山下】そうかぁ、もう終わっちゃいましたよね。

【谷】どっかでやったんですよね。兵庫と(*新潟と豊橋)……、もう終わっちゃっていますね。ちょっと放送はするかどうか微妙ですね、これはね。だけれど、またやるかもしれないですね。ただスケジュールが結構忙しいかたがただから……。

【山下】ちょうどこの時期にもうすぐオリンピックが始まりますけれど、最初はザハさんの建築で作ろうって言っていたぐらいですから、おもしろいなと思って。タイミング的にも多分これに合わせたんでしょうね。

【谷】そうですね。

【山下】去年ですもんね。

【谷】まさにそれに合わせて……。だから無駄とは言わないけれども、ザハ・ハディドの……彼女が不幸だったのは、お金がかかりすぎるっていうことと、作る人が限られちゃうと……、日本でできる人が。っていうことで結局予算の問題で。

【山下】でも天才だと思いますザハさんは、本当に。ちょっともったいないような気がしますけれど。
じゃあこれが最後ですかね? 『首切り王子と愚かな女』という、これはメジャーな感じの、パルコ劇場の……。

【谷】パルコ劇場ですね。パルコ・プロデュースの。

【山下】蓬莱隆太さん作・演出の。

【谷】作・演出、蓬莱隆太。井上芳雄さんと。

【山下】オペラ……、ミュージカルの人ですね。

【谷】伊藤沙莉さんですね。

【山下】伊藤沙莉さん好きです。僕ファンです。

【谷】これですね。

【山下】これはどんな話なんですか?

【谷】これはまさに首切り王子で、傍若無人な反乱分子を次々と処刑しちゃう首切り王子。

【山下】この内容は昔の話とか? ファンタジックなそういう架空の話?

【谷】ファンタジーっぽい架空ですね。首切り王子として恐れられている井上芳雄さんが王子でトルっていう。殺されそうだったんだけれど、召使から最終的にはお妃候補になるヴィリっていうのが伊藤沙莉さんで、大人の寓話というんでしょうかね。時代も場所も架空の王国で、雪深いところの暗―い王国。

【山下】じゃあ北のほうの国なのかな?

【谷】女王役が、若村麻由美さんでしたね。僕も初めて見て……、伊藤沙莉さんって初めて見たんですけれど。凄くちっちゃいんですよね。ちっちゃくって、でもなんか……。

【山下】コロコロしているかんじだもんね。コロコロっとして。

【谷】そう。骨太な感じで。ただ舞台上を本当に動き回って着飾らないし、いつものハスキーな声で。

【山下】そうですよね、あの声はチャーミングですよね。

【谷】だけれど口調もしゃべりも凄くチャーミングでしたね。

【山下】うん。僕も大好きです。

【谷】舞台セットがこれはおもしろくて、周りをぐるりとアクリルブースで役者の控室になっているんですよ。

【山下】それは見えるんですか?

【谷】見えるんですよ。役者が控えている出待ちの姿が。

【山下】全部見えているんだ。じゃあずっと出っぱなしみたいなもんじゃん。

【谷】そうです。そこでちょっと水を飲んだりタオルで拭いたりとかそんな感じで、休憩している雰囲気も、若村さんとかが控えているときはそこにいるとかいう感じで。セット自体も木組みの……、要は木で組んだ小さい台がいくつかあって、それを組み合わせて激しく動かして。

【山下】なんか箱馬とかサイコロみたいなやつを組み合わせてやっているんですか?

【谷】うん。サイコロみたいな感じで中が抜けているんですよね。本当に稽古場っていう感じですよね。

【山下】じゃあわりとシンプルな作りなんですね。

【谷】そう。本当に簡素な美術でやっていました。

【山下】全体の印象はどうでした?

【谷】印象は、今まではモダンスイマーズでちょっと会話劇とかそういったところがあるじゃないですか。ちょっと違う感じで、井上さんも歌わない井上さんなんですよね。

【山下】これを歌わなかった?

【谷】歌わなかったです。ストプレっていうんですって。ストレートプレイ。井上さんほぼ歌無し。最後だけちょろっと歌いましたけれど、いつもみたいに張り上げる感じは全くないと。いつもの蓬莱さんの作品とは違うと。けれどもおもしろかったですよ。休憩いれて2時間45分ですね。

【山下】ということでですね。以上で13本。実質15本ですけれど、2回見たのが2作品ということで、今月の谷さんの6月の観劇日記でございました。谷さん7月は何本くらい見る予定なんですか?

【谷】7月も同じくらいですかね? 

【山下】じゃあ13~15本ということで。どんどんペースが……。

【谷】オリンピックがあったから、とらなかった。

【山下】そうか。でもチケットは全部払い戻しになりましたし。

【谷】たまたま1つ陸上がとれていたんですけれど。あ、それは8月でしたね、僕の場合は。4万円戻ってくるので、またそれを芝居に投資するという。

【山下】素晴らしいです。4万円あると10本くらい見られますね。

【谷】景気高揚のために。

【山下】ありがとうございます。7月もまたやっていきたいと思っていますけれど、この番組はこの音声の文字起こしをしていましてですね、noteにもBRAIN DRAINのやつを開設して載せています。私はいつも書き起こしが送られてきたやつを読むのが1番楽しいということですが、最後に谷さん何かございますでしょうか?

【谷】6月は本当に結構自分もアグレッシブに見た月でしたね。楽しかったです。いい作品に……。特に『未練の幽霊と怪物』っていうのにゾクッとしましたね。

【山下】これは僕も見たかったな、本当に。

【谷】あとは『王将』のパワーっていうのは凄いですね。長塚さん、これから夏・秋にかけて今2本ちょうど出ていますけれど、期待できますね。

【山下】そういう意味ではKAATの凄い躍進というか、おもしろいことをいっぱいやっているという。凄いですね。

【谷】あとは、読売演劇大賞が先日、中間選考が発表されましたけれど、見た作品が結構多かったので、嬉しかったですね。このあいだここに来られた劇団チョコレートケーキの日澤雄介さんも『帰還不能点』の演出家賞で、あがっています。結構そういう意味では、何人か入っていますね。

【山下】長塚さんの『王将』も演出家賞に入っていますね。

【谷】ええ、そうですね。という感じで、これも後半と合わせてどういうふうになるかっていうところですね。

【山下】ありがとうございます。じゃあまた来月も谷さんの観劇をやりますので、皆さんありがとうございました、さようなら。

【谷】はい。ありがとうございました。


 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/)

---- 担当: 榎本亜矢 ----
いつもご依頼ありがとうございます。今回いろいろな演劇の紹介ということで、調べながら作業させていただきました。どれもおもしろそうで、とても楽しく文字に起こさせていただきました。最後に山下さんがこの文字起こしを読むのが楽しみとおっしゃられていて、より一層気を引き締めて作業させていただきました。素敵なご縁をありがとうございました。また機会がありましたらよろしくお願いいたします。


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