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【PODCAST書き起し】「吉田大八さん山口貴義さん和田尚久さん三浦知之の落語放談」全9回(その7)落語の世界が現在の観客にとってアクチュアリティはあるのか?

【PODCAST書き起し】「吉田大八さん山口貴義さん和田尚久さん三浦知之の落語放談」全9回(その7)落語の世界が現在の観客にとってアクチュアリティはあるのか?

【山口】今、まさにその問題あると思いますよ、落語は。観客にちゃんと誠実に、というか。

 

【和田】そうですよね。

 

【山口】問題が、もういよいよ直面してきた感がありますね。落語は。

 

【和田】はい、はい。

 

【三浦】楽しんでいる場合じゃない、と。

 

【山口】いや、落語の……。

 

【三浦】存続の危機みたいなことですか?

 

【山口】うん、まあ……ある種、落語の中の世界が、観客にとってちゃんとアクチュアリティーを持つのかな?っていう問題が。やっぱり、生まれたときからコンピューターがある世代に、果たしてどうなのっていう……。

 

【三浦】でもそれってかつては、そのアクチュアリティーって意味では持ってたんですかね? その……。

 

【和田】だから、その同じ世界ですよね。

 

【三浦】生きてる世界はね。

 

【和田】一応地続きの世界だったとは思うんだけど、それがだんだん離れてっちゃって。だから、離れたら離れたで……。

 

【三浦】まあ、吉原って言っても通じないし。

 

【和田】……離れたとして、例えば能とか狂言みたいに「これはもう、僕らの実生活と関係ないけど、素晴らしいアートです」って言って観る手はあるとは思うんですけど。

 

【三浦】落語もそうなりつつあるかも、ということですか?

 

【和田】だから、だんだんね。そういうことですよね。そっちを選ぶのか、どうしていけばいいんですかっていう話……。

 

【三浦】だから、志らくが書いている『全身落語家読本』だと、そういうの結構憂いていますよね。心配したりしていましたよね。

 

【山口】するでしょう。当事者は当然。特に若い人相手に……観客に落語したときは、実感するんじゃないですか。

 

【三浦】なるほど。

 

【山口】ここから通じないのか、みたいな。ピンとこないんだっていうか。ここがピンとこないんじゃちょっとまずいなっていう……。

 

【三浦】ここがピンとこないんじゃ、この話はまったく分かってもらっていないなって。

 

【山口】うん。だからその演目ごとにもあるでしょうし。

 

【三浦】うん。なんか拍手は受けてるけど、本当はこいつら全然分かってないじゃないか、っていう。

 

【山口】そう。枕で、雑談っていうか、今の話をしてるときは受けてても、本題のネタに入ると引いちゃうみたいな、とか。

 

【三浦】しーん……っていう。

 

【山口】ついてきてないな、とかっていうのはたぶんあるでしょうね、そういうのは。

 

【吉田】実際あれですか? 落語会とかはもう、平均年齢はどんどん上がる一方ですか?

 

【山口】いや、そんなことないですよね。

 

【和田】そうでもないですね。

 

【山口】若い人も来ていますよね。

 

【三浦】でもやっぱり……若手じゃないですけど、(柳家)喬太郎とかのファンは結構若い人も多いですよね。(春風亭)昇太なんかも意外と若い人のファン多いし。昇太なんて、言ってももう60越えているし。

 

【和田】ぐらいですかね。

 

【吉田】やっぱり、例えばその……最近観に行っていないですけど、例えば(神田)伯山のラジオのPodcastとか聴くと、あのしゃべりっていうのは、やっぱりアクチュアリティーは……。

 

【和田】いや、ありますよ。あります。

 

【吉田】ありますよね。

 

【山口】なんていうんですかね、だから時代が……時代の話? 扱うモチーフの話? そのアクチュアリティー……。

 

【吉田】両方、両方。なんかスピリットとして、でもやっぱり、落語の枕だったりとか、あれも落語の一部といえば一部……。

 

【山口】言わばね。

 

【吉田】だから、スピリットの部分では、だからなんか……なんていうんですかね。モチーフは、もう見慣れないものが増えるのはしょうがないと思うんですけど。

 

【山口】話が、イメージなり、その話の世界に入れればいいけどね、お客さんが。よく分かんないまんま聴いちゃうこともあるんじゃないかっていう。

【三浦】で、聴いてるほうもなんとなく分かったふりして喜んじゃうっていうのは、確かに危険かもしれないですよね。でもそうなると、新作っていうものの役割って、これから結構重要になってくるっていうことですかね? それもそうとも限らんか。

 

【和田】さあ? どの……、聴いてても……。

 

【三浦】新作聴いても、ものすごく今っぽいっていうか、現代っぽい新作なかなかないですもんね。

 

【和田】うーん。でもそれって、歌舞伎が現代モチーフでやるのが必要ですかねって話に似ている気が僕はするんですよ。で、今の……ネットで自分の何かがあばかれましたって言って、それに対してどういう気持ちを持ちますか、ってモチーフがあったとするじゃないですか。それは、僕に言わせれば現代劇でやればいい。そのための現代劇だろって気がするの。

 

【三浦】別に、落語でやる必要ない。

 

【和田】それを、落語とか歌舞伎でやらなくていいんじゃないのって僕は思うんですよ。

 

【三浦】ああ、それはそうですね。

 

【和田】うん。現代劇とか、現代のコントでやればいいと思うんですよ。

 

【三浦】あとはもしかしたら講談……「講談師、見て来たようにものを言い」っていう、その、割に現実に行われることをそのまま人に伝えるように、かつてやっていたとすれば。

 

【和田】まあね。

 

【三浦】今はもうメディアがあるから、そんな必要ないのかもしれないですけど。やってもいいですよね、講談師がね。

 

【和田】やっても、それはいいですね(笑い)。

【三浦】意味を持つかどうかは置いといて。

 

【和田】そう、そう。

 

【三浦】もう知ってるよそんなの、っていう話ではあるんですけど。

 

【和田】だから、話はちょっと戻りますけど……僕、『火まつり』っていう映画……北大路欣也の出ている。

 

【山口】柳町光男の。

 

【和田】あれってご覧になっていますか?

 

【三浦】いや、観てないです。

 

【吉田】観ました。

 

【和田】観ました? あれに、ワンシーンだけ(柳家)小三治が出ているんですよ。

 

【三浦】おお。

 

【和田】これは、僕はすごくいいと思っています、はい。彼の……。

 

【吉田】結構しゃべっているんですか?

 

【和田】それが、セリフなしなんですよ。

 

【吉田】ああ、なるほど。

 

【和田】セリフなしなんですよ。あれは来月、日本映画専門チャンネルで『火まつり』出ますので、興味のある方は観てほしいんですけど。

 

【吉田】それは、小三治絡みで出るんですか?

 

【和田】違います。

 

【吉田】違うんですか? 

 

【三浦】たまたまですか?

 

【和田】あの、偶然です。

 

【山口】へえ。

 

【三浦】日本映画専門チャンネルって有料テレビですよね?

 

【和田】有料テレビです。それで、僕はあの映画好きで。映画全体として、太地喜和子が、そこの紀州の村に帰って来るんですよね。で、そのときに、芝居の嘘なんだけど、なぜかボートに乗って来るわけ、港に。普通陸路だろうと思う。リアルに考えりゃ陸路なんだけど、ボートに乗ってそこの港に来るんですよ。その船頭が小三治なの。

 

【三浦】あ、そうなんですか。

 

【和田】それで、ちょっとした芝居があるんですよ。「おや?」っていう芝居があるんだけど、それだけ。で、セリフなし。

 

【三浦】『火まつり』って原作は……?

 

【和田】中上健次。

 

【三浦】中上か。ああ。紀州だから中上だ。

 

【和田】脚本も。

 

【三浦】あ、それ、ちょっと観たいな。

 

【和田】この間、京山幸枝若の『河内十人斬り』っていうのを聴いて……浪花節、浪曲ね。で、あれは浪曲でもあり、河内音頭でもやり、実際起きた事件なんだけど、あれを観て思ったのは、たぶん中上健次は『河内十人斬り』をイメージしている。

 

【三浦】ふうん。その『火まつり』で?

 

【和田】うん。

 

【三浦】ああ。

 

【和田】筋は違いますよ。筋は違うけど……なんていうのかな、あのノリを引用しているかなっていう気はする。だから「十人斬り」っていうか、最後ブチ切れちゃうような話なんですけども。

 

 テキスト起こし@ブラインドライターズ
 (http://blindwriters.co.jp/

 

担当 青山直美

いつもご依頼ありがとうございます。落語の本題を分かったような気になって聴いているというお話は、とても耳が痛かったです。やはり、聴く人を魅きつけるための枕は、無条件で楽しいので、本題の落語が今ひとつ分からなくても、楽しめた気になってしまっていました。このPodcastを聴いて、スマートに落語を聴けるような人に、少し近づきたいです。また、時代に合わせて「アクチュアリティ」を意識するあまり、伝統的な落語の良さが失われるとしたら、とても悲しく思います。

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