見出し画像

記事随想-新たなローカル線支援

この政策で、少しでも鉄道を利用する方が増えてくれればいいですし、鉄道を使わなくても、駅前に人が集まるということは大変いいことです。

山形鉄道長井駅と長井市役所の一体化

第三セクターの山形鉄道フラワー長井線の中心駅である長井駅が、長井市役所と一体化する形で改築され、新しい市庁舎が竣工しました。昨年末に鉄印を集めに訪れた時は絶賛工事中でしたが、無事に完成してよかったと思います。

山形鉄道は、JR山形線の赤湯駅から長井駅を越えて荒砥駅までを結ぶローカル線で、元は国鉄長井線です。もともとは最上川沿いに線路を延ばして左沢線の左沢までを結ぶ計画があったようですが実現せず、また、始発駅が山形でもなく、米沢でもない、赤湯という中途半端さもあって国鉄の第三次廃止対象路線に指定され、第三セクターに移管されました。

起点のある南陽市が3万人、川西町が1万5千人、長井市が2万6千人、終点の白鷹町が1万3千人と沿線人口は少なく、輸送人員も右肩下がり、最新データのある2017年は、移管初年度の1989年と比べると3分の1近くまで減らしています。長井市から県都・山形市へは山形交通が都市間バスを走らせており、鉄道を利用して赤湯に出てJR山形線に乗り換える人はほぼいないでしょう。

そんな厳しい運営が続く山形鉄道ですが、今回、その中心駅である長井駅が市役所と一体化することになりました。もともとは長井駅から東方へ500mほどの長井市中心部にあった市役所ですが、それを駅前に移設した形になります。

私は、これは一つの新たなローカル線支援策であると考えます。市役所を駅前に移設したことにより、車を使えない人が鉄道を利用して駅前の市役所で用を足す。あるいは、たとえ駅を利用しなかったとしても、市役所という、普段から人が出入りする施設が一体でそこに存在し、常に市民の中に市役所=駅という概念が根付くことで、いわゆる「マイレール」意識も醸成されると考えるからです。山形鉄道の株主は筆頭株主の山形県が31%を保有していますが、次いで長井市が12.5%を保有し第2位株主となっています。沿線の中心自治体として、この鉄道を何とか守り抜くといった姿勢が感じられます。

いずれにしろ、鉄道の駅前に公共施設を建設することは意義のあることだと思います。民間施設を誘致することも重要ですが、なかなかうまくいかないのがローカル線でしょうから、そうした場合に、自治体側が歩み寄って公共施設をすぐ近くに持ってくることで、少しでも利用者を増やし、そして鉄道という存在を知らせる役割を担うことができると思います。

JR北海道での事例

しかし、これも自治体が株主として経営に参画している第三セクター鉄道ならでは、といっていいでしょう。私がいつも気を揉んでいるJR北海道を見ると、どうにも自治体側の動きが鈍い気がしてなりません。廃止は声高に反対するのに、自ら利用客を増やそうという努力をしない。あるいはやってくる観光客を出迎えようともしない。そんな自治体があまりに多い気がするのです。

今春、日高本線の鵡川以遠が正式に廃止され、次のターゲットは今でも一部が災害からの復旧がなされておらず不通となっている根室本線の富良野-新得間と、留萌本線です。

その留萌本線では、沿線の沼田町が石狩沼田までの存続を主張しています。それ以外の市町は廃止容認の構えのようです。ところが、JR北海道からは色よい返事をもらえていないでいます。深川から石狩沼田はわずかに14km。沿線人口も少なく、利用者も伸びていないこの区間までを維持することは難しいと回答されています。

では、存続してほしいと主張している沼田町は何かJR北海道に対して支援を行っているのか。あるいは、少しでも利用者が増えるように公共施設を駅前に持ってくるなどの動きを見せているのか、答えはノーです。自らはほとんど動きらしい動きをせず、ただJRに対して存続を主張しているだけです。これでは話が前に進むはずがありません。

一方、4月初旬に、今度は、既存の駅前に公共施設を持ってくるのではなく自治体側の負担で公共施設の近くに駅を持ってくるというニュースが流れました。

宗谷本線の東風連駅を、線路がすぐ近くを通る名寄高校の近くに移設し、駅名も「名寄高校」に改称するというものです。どこのローカル線でもそうですが、主役は高校生です。利用者の多い高校の近くに駅を設けることで既存の利用者は利用しやすくなるでしょうし、駅から遠かったという理由で親の送り迎えや自転車、別の交通機関を利用していた学生が列車を利用するようになるかも知れません。いかんせん自治体側とぎくしゃくしているJR北海道にとって、こういった形で自治体側が歩み寄り、少しでも利用者を増やし、鉄路存続の機運が高まってくれば、大変いい取り組みになろうと思います。

(トップ写真は筆者撮影。改築前の旧長井駅舎と満開の桜。2019年4月)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?