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銚子電鉄へ行ってきました(序章)

「あしたは少し早いから」と、朝の5時に目覚ましをセットしたのに、4時に目が覚めてしまった。恥ずかしい。これではまるで、遠足の朝、興奮で早起きしてしまった子どもみたいではないか。ふとおかしくて笑ってしまった。

緊急事態宣言は明けた。だが、まだ県境を越えた移動は控えてほしいということだ。既に国民のタガは外れてしまっているような気はするが、一応、政府が言うことだから、ここは従わねばなるまい。何しろ、私が趣味とする鉄道写真なんていうものは、世間的にはいわゆる「不要不急」の極致たるものだと捉えられるだろうからだ。だが、私が撮る鉄道写真は、3密になりながら珍しい車両を線路にかぶりつきで撮るようなものではなく、ほとんどの場合、まわりに人がいないローカル線でのんびり撮影するので、ある意味、通勤だとか、買い物だとか、普通の生活以上に人と接することが少ない。むろん、そんなことを言っても、興味のない人から見ればみな同じ「撮り鉄」なんだろうけど。だからこそ私は、緊急事態宣言が出て以降、まったく鉄道写真を撮っていなかったし、県外移動が解禁となるといわれている6月19日までは他の県へ行って撮影することは控えようと思っている。

ところが、である。ゴールデンウイーク以降、タガが外れたかのように外出自粛要請を守れなくなった人たちと同じように、気持ちはウズウズしてたまらないのだ。この2ヶ月、ずっと我慢してきた。宣言が明けたらどこへ行こう、ここへ行こう、いや、あそこへ行こうか、そんなことを思い続けてきたこの2ヶ月間。宣言は明けた。だけど、県を跨いだ移動はまだだ。それならば千葉県内を出なければいいのではないか、そう思ったのである。

ということで、私は2ヶ月半ぶりの撮影へと出かけることにした。行き先は銚子電気鉄道、千葉県のいちばん東を走る小さな小さなローカル私鉄だ。銚子名産のぬれせんべいを売って電車の修理代を稼いだというユニークな会社だ。その後も面白い名前のアイデア商品を次々と世に送り出し、今では鉄道事業での売上をはるかに超えるグッズ販売の売上を誇っているという。

その行き先の銚子であるが、これがまた遠い。私の住む柏からだと、直線距離でも80kmある。これは水戸や宇都宮、秩父、高尾山、鎌倉あたりとほぼ同じ距離だ。とても同じ千葉県とは思えないほどの距離なのだ。

さぁ、その銚子へ、どう行こうか。現下の状況を考えれば自家用車で行くのが最もいい。我孫子から利根川沿いにずっと下っていく「利根水郷ライン」という国道がある。これがおそらく最も短い距離で行けるのだが、ずっと下道なので相当時間がかかる。それならば、距離的には迂回となるものの、高速道路で成田空港まで行き、芝山、八日市場を通って向かうルートや、圏央道の神崎ICから利根川沿いに進むルートもある。だがいずれも中途半端な位置で高速を降り、そこからは長い下道となる。

ただ、私にはひとつ想いがあった。この自粛期間中、撮影計画を立てると同時に、時刻表をめくっては、仮想の鉄道旅行をしていた私にとって、今は無性に鉄道に乗りたかったのだ。電車に揺られて旅をしたい。そんな強い衝動があった。そこで私は鉄道で現地へ向かい、銚子電鉄にも乗って、気が向いた駅でふらりと乗り降りしながら、気ままに撮影小旅行をしようと思い立ったのである。

朝5時45分、自宅の最寄りであるつくばエクスプレス・柏たなか駅を発車した列車は、わずか2駅で流山おおたかの森に着く。そこから東武アーバンパークラインという地元では誰一人として呼んでいないような小っ恥ずかしい名前の路線に乗って、これまた2駅で柏に到着。次にJR常磐線に乗り換えて再び2駅で我孫子へと向かった。利根川沿いに行けば柏たなかから我孫子まで一直線なのだが、鉄道だと四角形の三辺を走らねばならない。

我孫子からはJR成田線に乗車する。上野からの直通列車も走る路線だが、常磐線と比べると、一気に風景はのどかになる。乗換駅の成田まで45分。ここでようやくゆっくりと鉄道旅を味合うことができる。惜しむらくは走る車両は常磐線と同じくすべてロングシートの通勤型車両であることだ。ロングシートは旅には似つかわしくない。雑誌「鉄道ジャーナル」2020年3月号で、鉄道研究家の山田亮氏は「人間はカニじゃないし、横に歩くわけじゃない。自分の目の前に展開する景色は後ろの方に流れていく。これはクロスシートに座った時の感覚と同じだ。ロングシートで眺める景色は、カニみたいに横に歩いた時の景色で自然じゃないんだ」とおっしゃっていたが、まさにその通りだ。旅にはクロスシートがよく似合う。

成田に到着すると、ほとんど時間を置かずに銚子行の列車が入線してきた。209系という、元は10年程度で廃車するつもりで1993年に作製された通勤車両が、27年経った今でも走っている。外板はペラペラで波打っているが、この車両のいいところは先頭車両にはクロスシートがあることだ。ちょうどよく空席があって、クロスシートに座ることができた。JR成田線の成田以遠は今では特急列車も走らず、普通列車がのんびりと走るだけだが、途中の佐原は観光地でもあり、多くの乗降客があった。終点の銚子まで行ったのは一両につき数人といったレベルか。

銚子到着は8時53分。柏たなかを出て、実に3時間以上が経過している。やはり遠い。ずっと鈍行で来たからということもあろうが、ようやく銚子までたどり着くことができた。

これからいよいよ銚子電鉄の旅が始まる。だが、前置きがかなり長くなってしまった。今回はいったん筆をおき、本編は次回に持ち越したいと思う。

(トップ写真は筆者撮影。銚子電鉄本銚子駅にて)

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