記事02

記事随想-日田彦山線は、日田にも彦山にも、行かなくなるのか?

2017年7月の九州北部豪雨で被災して以来、不通が続いている日田彦山線の添田-夜明間ですが、ここでも地元自治体とJRとの間で協議が進まず、既に2年半が経過していますが、前に進む気配がいっこうに見えません。

JR日田彦山線、「復旧会議を早期開催」と福岡県知事
九州北部豪雨で被災して一部不通となっているJR日田彦山線の復旧を巡り、福岡県の小川洋知事は5日、「運行費用の財政支援は難しい」との認識を改めて示した。小川知事は3月までに復旧方法について結論を出す意向で、県やJR九州、沿線自治体でつくる復旧会議を「できるだけ早く開催するべく調整している」と述べた。
福岡、大分両県の沿線自治体はこれまで財政負担なしでの鉄道復旧を求めていたが、福岡県東峰村の渋谷博昭村長は1月30日、「村が一部財政負担をしてでも鉄道復旧を目指す」と言及。一方、大分県日田市の原田啓介市長は3日の記者会見で「自治体負担はあり得ない」と否定していた。
(2020年2月6日・日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55278950V00C20A2LX0000/

九州北部豪雨が起きたのは2017年7月6日のことです。土砂崩れに、大量の流木が川をふさいで氾濫し、景色を一変させてしまったその姿は、今でも鮮明に脳裏に刻まれています。

鉄道への影響も大きく、久大本線は花月川橋りょうが流され、日田彦山線は土砂崩れで大行司駅の駅舎が倒壊するなど、甚大な被害が出ました。このうち、久大本線は、特急「ゆふいんの森」が走る観光ルートでもあり、1年ほどして鉄橋が架け替えられ、復旧しましたが、日田彦山線は、被災区間が乗客の少ない区間であり、莫大な復旧費用をかけるのに見合う収益が上がらないとして、鉄道以外の復旧への提案に至り、鉄道で復旧する場合には地元による利用促進や費用負担を条件とし、地元自治体との協議が整わずにいます。まるで日高本線で見た時と同じような状況に陥っています。

日田彦山線復旧会議

過去の報道ベースですが、日田彦山線の復旧に関する協議がどのように進んできたかを少し追いかけたいと思います。

2017年7月に被災後、しばらくは「復旧の見通し立たず」といった程度の報道でしたが、10月になってJR九州が「鉄道以外での復旧も視野」と言い始めます。当然、地元自治体は鉄道での復旧を求めますが、JR側は利用客数と比べると復旧費用がかかりすぎることなどを理由に難色を示します。年内には地元との協議の場を設置すると報道があって以来、なかなか議論が前に進みませんでした。結局、検討会の設置が決まったのは2018年4月です。実に被災から9ヶ月が経過していました。

しかし、初めて開催された5月の検討会は議論が紛糾。この頃から地元自治体が沿線の振興策を打ち出してもJR九州側はそれだけでは足りないと議論が進まず、上下分離を打ち出し始めますが、当然、福岡県を始めとする自治体は拒否の姿勢を貫きます。議論がまとまらないままあっという間に被災から1年を過ぎ、ついに2018年12月には日田市の自治連合会長が「費用負担をさせられるくらいなら日田彦山線は廃止してもよい」という発言が出てくるまでになりました。

2019年1月には、鉄道で復旧したとしても、年間1.6億円の収支改善が必要であり、その収支改善へ向けての具体的な動きを自治体に求めます。当然自治体側は難色を示します。統一地方選挙もあって議論はさらに先延ばしとなり、選挙後の4月には、ついにJR九州はBRTでの復旧を提言するまでに至りました。ここでも、地元自治体とJR側の意見は隔たりが大きく、日高本線の時と同じように、住民が取り残され、いつまで経っても議論は前に進みませんでした。

動きが出たのは最近です。沿線で最も被害を受けた東峰村の渋谷村長が「村として費用の一部を負担してでも鉄道としての復旧を求めたい」と発言したのです。しかし、日田市の原田市長は「自治体負担はあり得ない」と否定、小川福岡県知事も「運行費用の財政支援は難しい」と会見しました。一部報道では「鉄路での復旧断念」という旨を、福岡県が沿線の添田町と東峰村に打診していたといわれていますが、その真偽のほどはわかっていません。

その日田彦山線復旧会議は今度の2月12日に開催される予定です。その場でどういった議論がなされるのか、注目したいと思います。

日田彦山線は日田にも彦山にも行かなくなる

今回、東峰村の渋谷村長は「自分たちの村で負担できるものはする」と、これまでの日高本線の時の首長たちとは違って、地元負担の意思を示しました。ところが、その他の首長は一向に乗ってこようとしません。

東峰村はまさに今回の被災区間の中心です。彼らにとっては鉄道があるかないかは非常に大きな問題です。一方、隣の添田町にとっては、とりあえず中心部の添田から北九州へ抜けるルートがあるので関心はありませんし、日田市にとっても、大切なのは県都大分や、元々の旅客流動がある久大本線が全線復旧された今、日田彦山線は「なくても構わない存在」となったわけです。ほとんど沿線自治体とはいえない大分県知事はもとより、多くのローカル線を抱える福岡県としても地元負担を許容すると他の路線からも同じような申し出を受ける可能性があるため、費用負担には慎重です。

今回の日田彦山線の問題は、日高本線と同じように、自治体間の温度差が目立ち、JRとの協議が前に進みません。何度も繰り返されてきた、災害発生後の費用負担を巡って協議が長引くケース。一地方とJRの問題ではなく、国としても、被災線区の復旧に関して何らかの枠組みを考えていく時期なのかも知れないと思います。

いずれにしろ、日田彦山線が添田以南を廃止するとすれば、線名の由来となった日田にも彦山にも行かなくなるわけですから、「路線名をどうするのかな」と鉄ちゃん的には思ったりもします。

(トップ写真は筆者撮影。2013年9月、日田彦山線・筑前岩屋-大行司(不通区間)にて)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?