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パルプ小説とかの闇鍋

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闇鍋です。とにかくいろんなものが投げ入れられます。最終的に投稿したパルプ小説とかがここへ集積されていきますよン
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マキコの黒いサンドボックス

 企画班リードの棚橋が戦線離脱して3日目。だから会議もこんな調子だ。「ですからァ、Yボタンなんです」 「ロックオンはR3で決まりだ」 プログラム班・日向寺はまだ冷静。さすが堅物。 「バインド変えるだけっしょ? 何そんな渋ってンすか」 棚橋の相棒だった彼は、たぶん潰れるだろう。 仕方のないことだ。 「これが通ったらしまいにゃコアコードに手がでかねん。時期を考えろ。デバッグへの伝達も面倒だ」 「中邑さん。ディレクター権限でなんとか言ってやってくださいよ」 「書類に纏めてくれ

ロスト・コントロール #パルプアドベントカレンダー2021

1頭に星形の穴を開けて帰ってくる。 落ちてる新聞や、噂話で年に1回はたぶん聞く。日本でも外国でも、どちらでもあり得る話。 僕もその手の連中に加わると知ったのは、たった3秒前のことだった。 つまり、あれこれ考えてる時間もない。 新聞にはどう書かれるだろう。「岸芭市緑倉庫で殺人 チンピラの争いか?」……違うよな。多分記録されやしないな。 だって相手は、間違いなく、傭兵の連中だったからだ。 僕は半グレのギャングは怖くない。ずっと僕らの近くにいたからだ。でも、こいつらは、怖さ

逆噴射小説大賞2021:開発者による解説

[bapuru] 開発者の部屋にようこそ。皆も祭りは楽しんでいたかな? いろんな方の書いた色んな話を読めてうれしく思うよ。自分もいくつか書いたから、ここにコメンタリーを付けておく次第だ。 読了後の感想をぜひ聞かせてほしい。 感想は、Twitter:@BadPoolMan まで。ちなみに、今書いているのは長編だから、また見せる機会があるかもしれないね。 それじゃ、楽しんでくれ! ++今年のあれ++て、手強え~! 弾数(応募できる本数の事)が3発までに縛られた結果、全部マトの

恋の猿島

拝啓、カムラさんへ。 久しぶりの連絡が手紙なのは、どうしてでしょうね—— 当たり障りのない文面。星川睦美は笑った。知り合って3日の男が、それより昔、自分が知らない女からもらった手紙。カムラはフられたようだった。 睦美は、それをぐしゃぐしゃに丸めて、黒い海へと投げ返す。 ぜんぜん飛ばなかった。 「あははは」 どんな感情を見せても、カムラは立ち上がらなかった。 だが、睦美もそうだった。どんなに動いても、顔面に自分の血を塗りたくるだけで終わる。足は無い。腕も片方飛んでいる

越海教師芝居学舎

「わたしにーかぶきを、おしえてくださいッ」 ダラス・ウエスト・パブリック・スクールの日本語クラス史上、クララほど僕を眩暈させた子はいなかった。 不慣れな日本語から一転、南部訛りで僕を問い詰める。 「歌舞伎って言ったっしょ。ちゃんと聞いてたん? 水谷先生?」 「ええと、はい」 僕が思うに、歌舞伎はあまりにも崇高だ。 一緒にお手製の字幕付きアニメを見るのとは違う。 「カッコいいんでしょ?」 「ああ、まあ」 彼女はプリントの束を押し付ける。 一体どこで調べたのだろう、中身

そしてハナズオウへ至る季節

その塊は、伊東にとって、最初の娘だった。 たしか、五歳と覚えてる。 大根田は塊を一瞥した。 花と蔓、蝋と蜜で飾られた、豪華な本か、人革の飾箱のようなそれを。 表に嵌めこまれた、まだ、ぴくぴくと動く心臓を。 嫌な顔をした。 伊東は気にも留めてない。 彼は恋人に語る口で、狭い部屋に澄んだ声を響かせる。 俺の出番はまだない。 「死んだら、灰になるだけだ。僕は彼女に意味をもたせた」 大根田は太く大きな指を、馴染ませるように拳を作る。 「神学談義はやってたさ。ただ、冒涜の方法を

まよなかの無駄遣い

「どの地獄に落ちたいとか、ある?」 彼女はぴたっと足を止め、そのまま2本目の紫メビウスに手をつけるのをやめ、箱に戻す。無造作にジャケットのポケットへしまう。一瞬だけ斜め上に目をそらすと、結局紙巻きを取り出して吸った。くわえタバコでとことこ歩き出す。 強すぎる日差しのせいか、紙巻きはすぐに短くなった。 「……樹になるのは、いや。こんがり焼けたくもないし……だけど、ずーっと、奈落に落ち続けるのも論外……うーん、こまったな——」 ◇1:みちのうえ◇ 私は3本目のいろはすボト

プレイ・フォー・チャイルドフッド/よく遊び、善く祈れ (LoFi-GOTH Fantasy/α.1.0)

発端 +ENTERING+春風に巻き上げられてカラカラと乾いた砂塵が飛べば、ビニール袋は「国道23号線」の標識に引っかかり、知らん顔した能天気な太陽を、きらきらと反射し続ける。 昼下がり。 よくある田舎の、廃車工場、つまりはガラクタの山……スクラップヤード。 三重県境の荒れ地に位置する、瓦礫と油に埋まった畑だ。 俺は正直、ここで死ぬもんだと思ってた。 手錠もされて、抵抗すらできずにだ。 だけど生きてる。 こうしてみっともなく、全裸で座るだけ。鉄臭い地面に膝ついて。 「…

赤白緑そして赤(青色を含む) #パルプアドベントカレンダー2020

◆過激な表現を含む◆ β 夜がやってきた。 今できることといえば、ただ生きることだった。 クリスマスカラーのイルミネーションと鋭い青に桃色の煽情的なネオンサインが、大粒の雨玉と混じって滲む。 土砂降りだ。氷にほど近く冷たい、刺すような雨だ。 そんな日は、多くの路上生活者がそうであるように。 ここにもひとり。青ジャケットの女。無論宿なし、年は十代前後。 彼女もまた、雨宿りには苦労していた。 右目の泣きほくろは、もう自らの涙を吸わずに久しい。 ただ、しくじっただけ

何も知らないあなたの旅路と、歯車の壊れた私の家路

立ち止まるのは悪い癖。私はどうせ、限界がある。 「…ねえ! お願い!お願いッ!」 もうだめです。 綾西絃帆は死にました。旅の終点沖縄で。 剃刀みたいな岩で作られた、夕日が最後に落ちる岬を登り、底なしの青い海へと落ちました。 盗んだバイクは待ち人なし。 でも、どうしてこんなノートを残したの? 本当に彼女はいじわる。 読んじゃダメ 遺書=9/9 改メ日記=8/28〜 一緒に帰ろう。 私は生きてる。 ダメって言ってもここに居るんだよね。 失敗か。今から最初の頼みを

されどお前には継がせない

少しくらいは俺の話をしてくれてもいいのに、三人ともバカだから鞄の中身しか気にしてない。 困った。鞄のカネ、ここの路地裏のドブから湧いて出たんじゃないんだよ。俺が銀行襲ってバッチリ揃えた十七億だ。ダッフルバッグに詰めるまで、結構大変だったのに。 「絶対私のモンだから! ビタ1円切るもんか!」 女は銃を向けている。俺ではない男へ向かって。 「るせえ! 俺は約束したんだよ。中まで通して対価に貰うと」 彼のもつ銃は、女と違って新南部。 あともう一人、小僧がいる。 「死人の金だろ

『ロングソードの返済者』

「私、魔具にもならねえよね」「黙れ」 「あとどれだけ話せる?」「俺を泣かせるのはやめろ」 もうギュミとは喋れない。今や俺だけがお尋ね者だ。 この街だけじゃなく、トゥードラ大陸全体で。首、回る訳ねえ。 少し遡る。 取り立て人の俺たちは、政界のドン、かつての勇者の大豪邸を訪れた。 「借りたもんは返してもらうぞ」 プールサイドで侍女に囲まれ、肥えたそいつが怪神殺しの伝説の男。 「明日の地租で払うよ、待って」 「明日が良いなら今日でも変わらん」 「うるさい!誰に口を!」 雷撃、落

生贄羊と獣の檻(第三回逆噴射小説大賞素振りにして予告)

線を入れる。俺の嫌いな羊葉の肌に。真っ白な首に。ゆっくりと、バターを切る様に丁寧に。 赤くうねる檻の中での死闘は、いよいよ終わりを迎えようとしている。 「………ぅッ」 「眠れ!俺の手の中で!眠れ!この乾いた大地で!」 俺は力を緩めない。 描いた線が頸動脈にぶち当たる、彼女にイノチは残されていない。 そして、痛みを感じるのは俺じゃない。 ぶかぶかのスタジャンに染み込む奴の血。彼女の肉の牢獄から、全部引き摺り出してやる。 彼女が逃げて、俺がこうして妖術師。何の因果。

定期習作:『割に合わない』

一杯の缶コーヒーの為に、何を代償にできるか。 少なくとも、伊東緒舟に関しては、ネオンサインの下で血を流す。 路地の隙間のコンクリ壁は、雨の臭いが染みついている。気分は最悪。ブザマに喘ぐ位には。 「ッ痛ァ……ァ……」 腹を抜けた銃弾の傷、太ももを抉った刃物の跡。紺のジャケットの下から覗く、Tシャツを千切ってもまだ足りない。とにかくこのスラムを抜けて、闇医者の持つ輸血パックを六本くらい腕に刺したい。それよりもまずコーヒーが飲みたい。ひたすら苦いブラックを。 直ぐ近くで怒号が