定期習作:『割に合わない』
一杯の缶コーヒーの為に、何を代償にできるか。
少なくとも、伊東緒舟に関しては、ネオンサインの下で血を流す。
路地の隙間のコンクリ壁は、雨の臭いが染みついている。気分は最悪。ブザマに喘ぐ位には。
「ッ痛ァ……ァ……」
腹を抜けた銃弾の傷、太ももを抉った刃物の跡。紺のジャケットの下から覗く、Tシャツを千切ってもまだ足りない。とにかくこのスラムを抜けて、闇医者の持つ輸血パックを六本くらい腕に刺したい。それよりもまずコーヒーが飲みたい。ひたすら苦いブラックを。
直ぐ近くで怒号が聞こえる。
「おい、あの女は? お前、見なかったか?」「知らない、キムチ売ってただけ、知らない」「ナンデモ良いから、教えるんだよボケダボが」
大魔王を殺せ。820円の仕事の裏側に気がついたのは、ほんの一時間前のこと。
戦いのプロを三人も私の元へと送り出せる、あの大魔王を。雑魚の始末の算段はある。
しかし、今日のカフェインを取れないようじゃ、魔王退治をするにあたっては無茶以外の感想が湧いてこない。
昼夜着ている紫の甲冑が噂通りなら、いささか、時代錯誤のマニアという訳でも無いようだった。
「人助けの範疇じゃない……絶対」
ジーンズのポケットより、鎮痛剤を出して噛む。マシになる。ドブの空気を肺へと送り、追っ手の方へと姿をさらす。
「私はここ……ほらッ!」
ハッと気付いた最初の一人を手にしたトンカチぶん投げて、そいつの頭蓋を割ってやった。武器を無くしたからあとはもう破れかぶれ。死が迫る人間の喧嘩殺法が一番強い。
BALMBALM! 受ける銃弾を2発で済ませ、なんとか格闘に持ち込み、残りも手早く片付けた。
「……迷惑料……借りるから」
小銭をパクって1ブロック先にある「KING」の自販機に注ぎ込む。黒缶80円。座って飲んだ。3本買ったが全部味がしない。
ぬっと彼女を覗いたのは、8歳くらいの女の子。初めての客だ。
「また会ったね。家……この辺? 泊っていい?」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「慣れてる。これが私」
ひと月の小遣いで、狂った人殺しをここまで本気にさせたのだった。
だがその関係は先の調査で崩れている。
日頃の行いが悪いから、善行もひっくり返って敵になる。
「ここで……お別れなの?」
「違う。それで何を言いに来たの、メッセンジャー」
沈黙。
「……要件を一件、再生します。
仕事は失敗。君はここで死ぬだろう。苦しまないように、ちょっとだけ、サプライズ
ピーッ」
再生が終わるのと、少女の腕が首をわしづかみにするのは同時。緒舟はもう一杯だけ、コーヒーが欲しかった。今度はとびきり甘い奴だ。
【続く?】
メモ
・キャラクター等は流用して作成
・割とマジメ
・要望か何かがあれば書く なくてもたぶん書く
・逆噴射レギュレーションに収めようとしたもの
・しかし違反、超過263文字
コインいっこいれる