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越海教師芝居学舎

「わたしにーかぶきを、おしえてくださいッ」

ダラス・ウエスト・パブリック・スクールの日本語クラス史上、クララほど僕を眩暈させた子はいなかった。
不慣れな日本語から一転、南部訛りで僕を問い詰める。

歌舞伎って言ったっしょ。ちゃんと聞いてたん?Ah sayud Kabuki. Dja hear may correctly? 水谷先生?」
「ええと、はい」

僕が思うに、歌舞伎はあまりにも崇高だ。
一緒にお手製の字幕付きアニメを見るのとは違う。

「カッコいいんでしょ?」
「ああ、まあ」

彼女はプリントの束を押し付ける。
一体どこで調べたのだろう、中身はよく知る物だった。


「これ、読んで。私、漢字知らないから」

知らざあ言って聞かせやしょう——

気が付いたら声に出た。
「しらざあ、いって、きかせやしょう……」
するりと腹から声が出た。

彼女はノってた。一音一音で体を揺らす。

「いいね。それで、意味は? バッドアスなんでしょ?」

頭の中で胡坐をかく弁天小僧が、黙って首を横に振る。
知らざあ? IF YOU DON'T KNOW……それじゃあダサい。弱い意味じゃないはずだ。分からない。

「わからん」
「えっ!?」
「む、難しいよ」
「ああ、そう。先生もナメてるんだ。折角クールになるチャンスなのに」

日本語クラスはオタクの集まり。控えめに言って、虐められてる。チャーリーはコミックを盗難され登校拒否になるほど。
だから、面白い物で見返す。悪くない。ちょっと興奮した。
つい、言ってしまう。

「——村芝居、ってのが、日本にはある。役者のマネをして、農家が芝居をする、みたいな」
「えーと?」
「考えとくよって事」

ブザーが鳴る。
クララは駆け足で教室を出る。遅刻は確定だ。

教室が急に静かになる。ふっと、思い出す。

M村家 Y河家と協議、異例の破門 勧進帳が原因か?

弁天は兄貴が持っている。
僕が訳しても、役は伝わるのだろうか。

ただ、まずはメアリーに音楽室を借りれるか交渉に行く事にした。

【続く】

コインいっこいれる