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ファイトクラブだッ!

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逆噴射小説大賞に投げたやつの格納庫 年は関係なし
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#逆噴射小説大賞2021

恋の猿島

恋の猿島

拝啓、カムラさんへ。
久しぶりの連絡が手紙なのは、どうしてでしょうね——

当たり障りのない文面。星川睦美は笑った。知り合って3日の男が、それより昔、自分が知らない女からもらった手紙。カムラはフられたようだった。

睦美は、それをぐしゃぐしゃに丸めて、黒い海へと投げ返す。

ぜんぜん飛ばなかった。

「あははは」

どんな感情を見せても、カムラは立ち上がらなかった。
だが、睦美もそうだった。どんな

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越海教師芝居学舎

越海教師芝居学舎

「わたしにーかぶきを、おしえてくださいッ」

ダラス・ウエスト・パブリック・スクールの日本語クラス史上、クララほど僕を眩暈させた子はいなかった。
不慣れな日本語から一転、南部訛りで僕を問い詰める。

「歌舞伎って言ったっしょ。ちゃんと聞いてたん? 水谷先生?」
「ええと、はい」

僕が思うに、歌舞伎はあまりにも崇高だ。
一緒にお手製の字幕付きアニメを見るのとは違う。

「カッコいいんでしょ?」

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そしてハナズオウへ至る季節

そしてハナズオウへ至る季節

その塊は、伊東にとって、最初の娘だった。
たしか、五歳と覚えてる。

大根田は塊を一瞥した。
花と蔓、蝋と蜜で飾られた、豪華な本か、人革の飾箱のようなそれを。
表に嵌めこまれた、まだ、ぴくぴくと動く心臓を。
嫌な顔をした。

伊東は気にも留めてない。
彼は恋人に語る口で、狭い部屋に澄んだ声を響かせる。

俺の出番はまだない。

「死んだら、灰になるだけだ。僕は彼女に意味をもたせた」
大根田は太く大

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