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あの日、あの街で、彼女は。〜四谷三丁目駅〜

今日もまた雨降り…?

東京メトロの丸ノ内線改札を抜けて地上へと出る。ビニール傘を広げながら、パソコンと提案資料が入ったバッグを庇う。

新卒の初め、朝の満員電車内で押しつぶされて、お気に入りのパステルピンクの傘が折れてから、仕事のときはビニール傘と決めている。買ったばかりなのに。東京の洗礼を受けた瞬間だった。

四谷三丁目駅、とあるお客さん先に訪問するときは、たいてい雨降りだ。梅雨じゃなくても、だ。雨降りなのでオンライン商談に変えてほしいなんて言えるわけがなく、毎回足を運ぶ。

お世辞にも駅近とは言えないところにオフィスがあるせいで、四谷三丁目駅と四ツ谷駅、どちらから行くかいつも悩む。かろうじて近い四谷三丁目駅を選びがちだった。

前のアポが早めに終わって、交差点に面したスタバでパソコンを開く。同時に社用iPhoneの電話が鳴る。仕方ない、パソコンを右手、iPhoneを左手に、ドアの外に出る。ギリギリ雨の当たらない場所にしゃがみ込んで、電話に出る。同じお客さんを担当してる大阪オフィスの先輩だ。「あっ、長くなりそう」第一声のトーンで感じた予感は当たった。

しとしと雨粒が落ちてくるのを眺めながら、やっと電話を終えて席に戻る。

ホットのキャラメルマキアートはぬるくなっていた。泡も溶けてしまった。アポの時間が迫る。歩きっぱなしだったから座りたかった。冷えた身体を温めたくて、珍しくホットを頼んだのに。しゃがんでた脚はしびれて、来たときよりも冷えた体内に、"飲み頃"のキャラメルマキアートを流し込む。

雨降り以外の思い出は、人生で初めて食べたつけ麺。訪問に同行してくれた先輩と四谷三丁目駅まで戻りながら、ふらっと路地裏で見つけたお店。美味しかったはずだけど、それっきり行かずじまい。

ビニール傘を滴り落ちる雨、色が変わってしまった9㎝ヒール、"雨女"の彼女を思い出す。

あの日、あの街で、彼女は。


*プロローグ

*マガジン

※基本的には経験上のノンフィクションですが、お客さん情報の身バレを防ぐために一部フィクションにしています。

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