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あの日、あの街で、彼女は。~品川駅~

彼女は、品川駅の「ソトヅラ」を知らない。

品川駅の知名度はどのくらい?東京駅や上野駅の次くらい?新幹線も停まるし、山手線を含む多くの在来線も通ってる。羽田空港や成田空港から都心へのアクセスを担うハブ拠点。ちなみに、品川駅は品川区ではなく港区にある。

例に漏れず、彼女もよく利用していた。あくまで乗り換えのみだったけど。山手線から横浜方面行きの京浜東北線に。同じく山手線から羽田空港行きに。品川駅を最寄りとするお客さんが5年間いなかったため、改札の外に出たことが一度もない。

訪問と訪問の間、駅構内でどう過ごすか、いかにちょうどよく時間をつぶせるか。

何度もリピートしていた「TAMEALS」という名のカフェがある。TERMINAL AND MEALSという意味が込められているらしい。

アイスカフェラテ派の彼女が、メニューに描いてあるラテアートを見て選んだホットカフェラテ。席が確保できそうという軽い気持ちでたまたま入ったのに、見た目も味も一瞬で虜になった。

仕事の合間に、ちゃんとひと息つける嬉しさがこみあげる。のんびり穏やかな気分になって、つい深呼吸をしてしまう。ふわふわもこもこの優しいブラウンのラテアートを見たくて、ちょっと手間をかけてもらってる余白の時間が欲しくて、ついついホットカフェラテを頼んでしまう彼女だった。

パソコン作業をしたいときは必ずと言っていいほど、ホットカフェラテを片手に過ごす。彼女は、飲み物とiPhoneは左手側に置きたい人だ。どうでもいい情報をそっと添えておく。

午前中の訪問を終えて、真っすぐオフィスに戻りたくないときがある。カレーの匂いにつられて入った「SPICE FACTORY」。あいがけカレーの種類やトッピングも選べて、注文の時点でちょっと楽しい。ヘルシー嗜好でもないのに、白米を雑穀米+キャベツに変更する。欲望には抗えない、炙りチーズとマッシュポテトを追加する。食べなくてもわかる、絶対に美味しい。

うきうきで写真を撮って、食べ始める。歩き回ってくたびれた身体に、刺激的な美味しさが効く。炙りチーズとスパイスカレーが合わないわけがない。マッシュポテトが添えられてるだけで特別感が出るのはなぜだろう。家庭料理としてはカレーよりシチューが好きだったのに、大人になってからお店で食べるカレーが好きになった。

豚骨ラーメンを食べて直帰した日も、本屋さんで立ち読みした日も、急激な腹痛でトイレに駆け込んだ日も、クレーム対応の電話で謝り続けた日も、訪問予定のお客さんからドタキャンLINEを受け取った日も、品川駅「ナカ」にいた。

「外面」は知らないのに、「内面」には惹かれていた彼女を思い出す。

あの日、あの街で、彼女は。


*プロローグ

*マガジン

※基本的には経験上のノンフィクションですが、お客さん情報の身バレを防ぐために一部フィクションにしています。

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