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あの日、あの街で、彼女は。〜神田駅〜

退職タイミングが同じだった担当者のあなたへ。

神田駅と言っても、JR線ではなく東京メトロ銀座線のほう。山手線の東京駅と秋葉原駅に挟まれ、東京メトロ線の駅たちが密集しているエリア。「秋葉原支店」と名前はついていたけども、銀座線の神田駅のほうが近いよと前任の先輩が教えてくれた。

引き継いだのは、コロナ禍が始まってすぐの頃。訪問での商談を極力減らしていたタイミングだった。メールや電話、オンライン商談を通して関係性を築く。前任の先輩は、そのまま彼女の上司になった。心強い反面、仕事ができる先輩からの引き継ぎはプレッシャーも大きかった。

グループ全体で複数支店引き継いだうち、秋葉原支店の担当者の方には感謝してもしきれないほど、とてもお世話になった。彼女より一歳上で、ほんわかとおおらかな雰囲気の中にも芯がブレなくて素敵な方だった。新しいことへの挑戦が貪欲で、新商品の提案や課題解決の手法、他部署の方のご紹介など、共通のゴールを目指して一緒に伴走してくれた。

秋葉原支店に関しては胸を張って言える、「先輩よりも彼女のほうが、マインドも実績もシェアを伸ばした」と。でも、とてもお世話になった先輩兼上司とは、1年後に別々の組織になる。彼女が顧客を持って出ていく形になった。

さらに1年後、彼女の退職日が決まった。退職日が決まったからと言って、見切り発車でお客さんにベラベラと伝えるわけにいかない。みんなに聞こえるようなオフィスの席で、話せるわけもない。退職を伝える電話のたびに、何回エレベーターの前をうろうろ歩き回ったことか。

ある日、オンライン商談を終えて来月の日程を決めようとしていたときのこと。担当者から「実は退職するんです」と切り出された。「えっ?奇遇ですね?私もです」と興奮気味に伝えてしまった彼女。リモートデーで家にひとりだったのをいいことに、退職理由の本音まで話した。

退職を考えたときに、申し訳ない気持ちで心が痛んだのは、実はこの担当者だけだった。でも担当者も同じタイミングで辞めるなら話は違う。途端に、同志のような、手を取り合いたくなるような気持ちが芽生えた。

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今はどんなお仕事をしていますか?
退職前最後の1年間、上司が変わったことで苦しかったこと、やっぱり見抜かれてましたよね。

いつも味方でいてくれて、上司への根回しや見せ方の相談にも寄り添ってくれて、追加発注も全幅の信頼でお任せしてくれて。あなたの存在に、気持ちの面でも、数字の面でもたくさん救われていました。

余談ですが、結局スープカレーは食べずじまいでした。
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スープカレーの香ばしい匂いに漂う、恩返しできずじまいだった彼女を思い出す。

あの日、あの街で、彼女は。


*プロローグ

*マガジン

※基本的には経験上のノンフィクションですが、お客さん情報の身バレを防ぐために一部フィクションにしています。

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