1枚の紙で魅せる~宮崎駿の伝わる企画書
11月に入り、映画「君たちはどう生きるか」の関連書籍が次々と刊行されています。その中でも「THE ART OF 君たちはどういきるか」(徳間書店)は特に注目の資料集となっています。
この本は、映画の制作時に使用されたイメージボードや背景画などを、ストーリーの流れに沿って掲載されており、さらにメインスタッフのインタビュー記事を通して制作の裏側を垣間見ることができます。
実はこの本には、監督の宮﨑駿による「長編アニメーション企画書」が収録されているのですが、その企画書はたった1枚(しかも片面)で構成されていることに驚きました。
映画の上映時間が124分47秒で、カット数が1259カット、作画枚数が14万1214枚という大作であるにもかかわらず、なぜわずか1枚だったのか気になってしまいます。
この疑問を解明するため、今回は「伝わる企画書の書き方は?」という個人的な目的で、この企画書を読んだ際のメモを共有したいと思います。宮崎駿がどのような文章構造を活用し「長編企画書」を作成したのかを明らかにしましょう。
この企画書の構造は1番目の「タイトル」を除くと「内容」「意図」「舞台と時代」の3つの項目からなる非常にシンプルな構造になっています。この3つの項目を柔らかい言葉に置き換えると「この映画は何なのか?」「なぜ作ろうと思ったのか?」「どういう内容なのか?」になります。
この構造は「伝わる」文章を書くための基本的な要素である「何(what)」「なぜ(why)」「どうやって(how)」に対応していると言えます。
このアプローチは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの「ロゴス(知)」「パトス(情)」「エトス(意)」を元にしたもので、文章などを通じて相手を説得する際には、論理的な情報(知識)、感情的な要素(感情)、具体的な行動への呼びかけ(意志)を考慮することが大切だといわれています。
さらに、各項目の内容を3つに絞り込むことで、文章全体のバランスがとれ、より伝わりやすい文章にすることができます。具体的に見てみましょう。
「内容」の項目は、長編映画についての基礎情報を3つの文章でまとめています。(1)少年の英雄譚(2)最後の長編映画(3)タイトルの由来について列挙しています。
「意図」の項目では(1)社会全体が危機に瀕している状況や(2)危機的な状況で跳躍するためにあえて「見たくない」ものを観客に見せないといけないこと(3)そのために「血まみれの世界」に耐える勇気について描く必要性について書いています。
「舞台と時代」の項目では、(1)主人公の境遇や(2)疎開先での「サギ男」との出会い(3)現実と夢の境界が崩れていくことについて、冒頭のストーリーがまとめられています。
宮崎駿がこの構造をどのように活用し、長編企画書を作成したかの具体的な情報は提供されていませんが、内容、意図、舞台と時代についての要素がシンプルで明確にまとまっていることは明らかです。シンプルかつ効果的な構造を使って企画書を作成することで、スタッフにメッセージやストーリーを明確に伝えることに成功したと言えるでしょう。
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