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ウズベキスタン代表、国際Aマッチデーの短いレポート

はじめに

 2021年10月にFIFA国際Aマッチデーがあった。フランスがUEFAネーションズリーグ優勝、窮地に陥った日本が「絶対に負けられない」オーストラリア戦に勝利など様々な出来事があった。ウズベキスタン代表もいつもならW杯3次予選序盤戦。筆者は試合内容の振り返りや次戦への展望などでやきもきしっぱなしなのだが、残念ながら予選落ちした「白狼」は真剣勝負のない少し寂しい秋を過ごしている。

  8月にスレチコ・カタネツ氏が新監督に就任した代表チームは、すぐにストックホルムでスウェーデンと対戦して5年後に向けた第一歩を踏み出した。それから1か月弱が経ち、スロヴェニア人指揮官にとって、少しずつこの国のサッカーの現状が明らかになってきた中でのマッチデー。少しずつ自分の色を出しつつ、国内で期待が高まる守備のテコ入れを行うことが足元のテーマになるだろう。そして最終的には、チームを2026年のカナダ・メキシコ・アメリカ共催のワールドカップ出場に導くための戦いに身を投じることとなる。10月3日からタシケントで合宿を開始し、ヨルダンのアンマンに飛び、10月9日にマレーシアと、12日にヨルダンと対戦する。

 代表メンバー

 今回発表されたメンバーは以下の通り。

GK:エルドル・スユノフ(パフタコル)
GK:ヴァリジョン・ラヒモフ(AGMK)
GK:ウトキル・ユスポフ(ナフバホル)
DF:ファルフ・サイフィエフ(パフタコル)
DF:イブロヒムハリル・ユルドシェフ(ニージニー・ノヴゴロド=ロシア)
DF:ホジアクバル・アリジョノフ(パフタコル)
DF:ディルショド・サイトフ(ナサフ)
DF:イスロム・コビロフ(ロコモティフ)
DF:ルスタム・アシュルマトフ(江原=韓国)
DF:ドストン・トゥルスノフ(重慶両江=中国)
DF:フスヌッディン・アルクロフ(ナサフ)
DF:アブドゥッラ・アブドゥッラエフ(ブニョドコル)
MF:オディル・ハムロベコフ(パフタコル)
MF:アクマル・モズゴヴォーイ(ナサフ)
MF:オタベク・シュクロフ(シャールジャ=UAE)
MF:オイベク・ボゾロフ(ナサフ)
MF:ドストン・ハムダモフ(パフタコル)
MF:アズィズ・ガニエフ(シャバーブ・アル・アハリ=UAE)
MF:ジャロリッディン・マシャリポフ(アン・ナスル=サウジアラビア)
FW:ジャスル・ヤフシボエフ(シェリフ=モルドヴァ)
FW:シャフボズ・ウマロフ(BATE=ベラルーシ)
FW:エルドル・ショムロドフ(ローマ=イタリア)
FW:イーゴリ・セルゲーエフ(トボル=カザフスタン)
FW:フサイン・ノルチャエフ(ナサフ)
FW:アズィズ・アモノフ(ロコモティフ) 
 すべての選手を視察するのにたった1か月しかありませんでしたが、多くの新しい選手を招集しました。眼前の試合では、すべての選手に実戦経験を与えるつもりです。おそらく今後もいろいろな選手を招集するでしょう。
                        ―スレチコ・カタネツ

 カタネツ監督がこう語るように、視察である程度目星をつけた戦力を実際に手元に置いて見極めたいという意思が明確に感じられる人選となった。筆者の目を引いたのは代表初召集の2人、ウマロフとノルチャエフ。前者は強力かつ正確なキックが武器のウインガー。ウズベキスタンでは大した実績を残せなかったが、2020年にプレーの場をベラルーシに移すと突如覚醒。今季から移籍した強豪BATEでも大活躍の22歳。後者はリーグ戦で得点ランク2位の19歳のストライカー。エースのアブドゥホリコフが抜けて大きなプレッシャーがかかる中で大きく飛躍を遂げた。もともとアグレッシブにゴールを目指す小器用なフォワードだったが、今季は見違えるほどたくましい体つきに変身。パワーとスピードを身に着け、恐ろしい選手に変貌した。次世代のFW陣を担う、ウズベキスタンで今一番アツい若手選手である。
 他にもスウェーデン戦で久々の代表選を経験したトゥルスノフやナサフの中核をなす若手軍団も招集。ウズベキスタンには1997年-2000年前後生まれに好選手が多い。今回のメンバーを見ていると、2019年のAFC U-23アジア選手権で4位入賞を果たした。2026年に20代後半を迎えるこの「ボリュームゾーン」を次代の中心選手に据える計画のようだ。本来、現在の代表を支えるべき1993-95年生まれの世代が絶望的なほど不作でライバルが少ない事情も手伝って、今後彼らの出場機会はおのずと増えていくだろう。事実、招集メンバーの平均年齢は24.7歳。数字の面でもこの傾向が読み取れる。

マレーシア戦(2021年10月9日)

 「一番いい薬」

 筆者はマレーシアのサッカーに関して門外漢なので詳しい評価はできないが、最新のFIFAランキングではウズベキスタンより70位近くも低い154位。さらに過去の対戦ではウズベキスタンの4戦4勝。

 発表されたスタメンでまず目を引いたのは、中盤フラットの4-4-2というシステム。代表ではここ数年ツートップを敷くケースがめったになかったからだ。ほとんどアンカーを置く4-1-4-1、またはいわゆるダブルシックスの4-2-3-1で戦ってきた。長年中盤を厚くするシステムを採ってきたことで、それに応じて優秀なミッドフィルダーが増えたのか、ミッドフィルダーに優秀な人材が多いため中盤を厚くするシステムを採らざるを得なかったのか。「卵が先か」ではないが、事実「ウズベキスタン代表はワントップ」というのは半ば決まりごとのようになっていた。
 次に目を引いたのは選手。FWでショムロドフとペアを組むのは19歳のノルチャエフ。代表初召集でいきなりのスタメンデビューである。右サイドバックに入った22歳のサイトフも代表初キャップ。イスモイロフが引退し、クリメーツに復帰の目処が立たないCBもホットな(ヤバい)ポジション。この日はアルクロフとアシュルマトフのコンビでスタート。

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  試合は戦前の予想通りウズベキスタンが序盤から主導権を握り、マレーシアを一方的に押し込める。得点は時間の問題のように思えたが、やはり17分にあっさり先制。
 サイフィエフのグラウンダークロスがファーサイドまで流れ、エリア内で待っていたハムダモフが左足シュートを押し込み先制。2点目は29分。サイフィエフとのコンビネーションでエリア内左に侵入したマシャリポフからのふわりとしたクロスに、ファーサイドのハムダモフが頭で押し込んだ。3点目は嬉しいオマケ付き。サイフィエフからの低いクロスにヘディングで流し込んだのはノルチャエフ。デビュー戦で嬉しい初ゴールだ。しかし、45分にマレーシアに1点を返される。
 前半終了間際の嫌な時間帯での失点だったが、しかしマレーシアの「まぐれの一発」だった。後半は全く危なげなくウズベキスタンが有利に進め、68分にユルドシェフがエリア内左の角度のない場所から放ったシュートがGKのニアを抜き4点目。最後はセルゲーエフのシュートがこぼれたところにいたアモノフが詰め5点目。5-1でウズベキスタンの圧勝に終わった。

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 この試合で、カタネツ監督は3つのことをチェックしたかったのではないかと思う。
 ひとつは主力選手の状態確認。この点については全く問題なかった。ウズベキスタンの攻撃の生命線である左サイドのコンビはこの日も絶好調。サイフィエフとマシャリポフの息のあった連携プレーでマレーシアをきりきり舞いにした。シュクロフも守備で綻びは見せたが、「6番」の働きをしっかりこなした。このシステムでは何かとタスクの多いフォワード。2トップのどちらかは万能型であることが求められるが、ショムロドフがその役割を引き受けた。豪快な突破はなかったが、せっせとフォアチェックしたりサイドに流れたり引いてボールをもらいに来たり、相方は初めてペアを組む選手だったが、無難なプレーだったと思う。靭帯の大怪我から戻ってきたガニエフも、負傷の影響を感じさせないプレーを見せた。
 もう一つは新戦力の見極め。これについても大きな成果があった。何よりもノルチャエフのデビューゴール。代表定着はまだ先になるかもしれないが、ゴール以外でも貪欲に前を向く彼らしさを存分に発揮しており、大きな可能性を感じた。右サイドバックのサイトフも、ハムダモフとの連携は未成熟も持ち味のスピードと攻撃参加が印象的で、デビュー戦で90分プレーした。ユルドシェフは代表初ゴール、ハムダモフは初の代表戦2ゴールと、初物尽くしだったのも首脳陣には嬉しいポイントだ。またウマロフが途中出場で初キャップを記録した。
 最後は4-4-2の適正。攻撃で最大の鍵を握るのは両サイドハーフ。この日見て気づいたのは、マシャリポフとハムダモフはアブラモフ体制と比べてやや内寄りにプレーしていた点。これにより、いわゆるハーフスペースや縦のギャップを突く機会は格段に増えた。またサイドバックの大外からの攻め上がりを効果的に使うこともでき、ショムロドフの動きやセンターハーフの攻撃参加と相俟って、4-4-2フラットの課題であるバイタルエリアの空白や中盤の迫力不足を感じさせない攻撃だった。

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 しかし守備面では相変わらず課題もあり、前半終了間際にマレーシアに1点返されたシーンではそれが如実に出た。左サイドの裏を取られ、エリア内からフリーでファイサル・ハリムがシュート。ファーポストに当たって跳ね返ったボールをバドロル・バクティアルが詰めたという展開だった。
 裏抜けのパス直前にファイサルを見ていたシュクロフがボールホルダーへのチェックに切り替え、この時マークを外したことが致命傷になった。いわゆる「ダブル6」を採る布陣での守備は、アンカーを置く布陣と比べ、いわゆる「縦のギャップ」を突かれた際のリスクが大きい。シュクロフがマークを外すこと自体に問題はないのだが、その後のファイサルへのマーク受け渡しができていなかった。慌てて中央を固めていたCBが対応に向かうが間に合わずシュートを撃たれ、バドロルに詰められた時には守備陣は完全に混乱していた。
 90分間この布陣で戦ったということは、監督の中でかなりプライオリティの高いシステムだと考えられる。それを試すには絶好の機会で、選手たちは比較的彼の期待に応える働きができたように見えた。

 こんな言い方は失礼かもしれないが、相手が相手だったのであまり参考にならない面も多かった。しかし、何よりW杯予選のショッキングな敗戦を経験したウズベキスタンにとって、1にも2にも必要だったのはまさに勝利。この「一番いい薬」を得たことこそが、この試合の最大の収穫だったかもしれない。

ウズベキスタン5 - 1マレーシア
10月9日 アンマン国際スタジアム
ウ:ハムダモフ(17')
ウ:ハムダモフ(29')
ウ:ノルチャエフ(33')
マ:バドロル・バクティアル(45')
ウ:ユルドシェフ(68')
ウ:アモノフ(87')
ウズベキスタン:ラヒモフ、サイフィエフ(62'ユルドシェフ)、アルクロフ、アシュルマトフ(71'トゥルスノフ)、サイトフ、マシャリポフ、シュクロフ(71'モズゴヴォーイ)、ガニエフ、ハムダモフ(71'ウマロフ)、ショムロドフ(62'セルゲーエフ)、ノルチャエフ(80'アモノフ)

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ヨルダン戦(2021年10月12日)

 うまくはいかなかったが……

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 マレーシア戦から中2日で、ウズベキスタンはヨルダン代表との試合に臨んだ。結論を言うと0-3で敗戦。各国で細かな違いこそあれ、総じて「掴みどころのない」中東のチームとは昔から相性の悪いウズベキスタンだが、まさにその通りの試合になってしまった。

 序盤戦は動きの重いヨルダンに対してやや優勢に進めたウズベキスタン。しかしなかなか得点が奪えないでいる中、30分に失点。最終ラインでボールを受けたCBコビロフが致命的なボールロスト。ムーサー・アッ・タアマリーに独走を許し、最後はバハア・ファイサルが押し込んだ。前半はそのまま終了。後半立ち上がりしばらくは互角の展開も、56分にセットプレーから失点。83分にもCBアブドゥッラエフが不用意に相手に渡したボールからハムザ・アル・ダルドゥールが抜け出し失点。ウズベキスタンは決定機らしい決定機を作ることはできず、終了間際の89分に抜け出したセルゲーエフが1対1の状況を作ったくらい。何とも不甲斐ない戦いぶりだった。

 この試合、ウズベキスタン代表は3通りの布陣で戦った。スターティングラインナップは以下の通り。おなじみの4-2-3-1だ。トップ下に入ったのはボゾロフ。所属チームのナサフでは左ウイングを務めることが多い。

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 そして60分に3選手を一気に交代し、それに従い布陣もマレーシア戦で試した4-4-2に変更。前の試合に続きこの布陣の仕上がりをテストした格好だが、サイド攻撃(突破からのクロス)が肝心になる攻撃面で、ウマロフとアモノフの両翼はいわゆる古典的なウインガーというより、中央に切り込んでのパワーあるシュートが持ち味の、やや「尖った」タイプ。
 この頃にはスピードと勢いに勝るヨルダンに完全に試合を支配されており、攻撃にかける余力は徐々に減っていく。モズゴヴォーイとシュクロフは守備に追われ、独力での局面打開能力とSBとの連携どちらにも不安のある両翼はあまり試合に絡むことができない。

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 案の定ツートップが孤立してしまい、攻め手を失ったウズベキスタン。71分にショムロドフに代えてガニエフを投入。これに伴い布陣も4-3-3に変更。残念ながらこのオプションもウズベキスタンを助けることなく、ヨルダンに決定的な3点目を喫することになった。

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 この日もカタネツ監督は何人かの戦力を試した。前の試合で途中出場したウマロフはこの日もスタメンでフル出場した。前半から積極的にボールに絡み、得意のロングシュートを何度も放ったが精度を欠き、不用意なボールロストもあり今ひとつインパクトを残すことができなかった。アモノフも2試合連続の出場。前半にいいロングシュートを見せたが、それだけだった。所属するロコモティフでは好調を維持しているが、このレベルでプレーするには実力不足のようにも思える。
 それ以上に悩み深いのがセンターバックの人選。先発出場のコビロフは失点につながるボールロストを犯した。今季から移ったロコモティフで安定したプレーを見せており、代表CB一番手も見えてきた次期にこのプレーはいただけない。アシュルマトフとのコンビもどこか噛み合っていないように見える。失点直後にも同じようなボールロストをやらかしており、前半のみのプレーであえなくアルクロフと交代。カタネツ監督の信頼をかなり損ねたのではないだろうか。
 更に後半から入ったアブドゥッラエフも、クリアミスで相手に簡単にボールを渡し、不用意にボールホルダーに向かったところをハムザ・アル・ダルドゥールに裏を取られた。ハムザはその後スユノフの頭上を抜くシュートを決め、決定的な3点目をゲットした。DFは、マークやライン統率といったプレーに見えにくいポイントで評価されることが多く、得点かよほどのファインプレーかよほどのミスのときくらいしか目立たない。この試合でもDFが3度クローズアップされたが、残念ながら全てよほどのミスでだった。
 CBを誰にするか、柱は誰になるのか。まだ新体制で戦ったのは3試合のみだが、現状クリアなイメージは見えてこない。総合力でやや抜けているアシュルマトフと、ここ3試合で印象的なプレーを見せるトゥルスノフだろうか。しかし、彼らも決して絶対的な存在ではない。

 また、2失点目はセットプレー時のマークミス。基本的な「誰がどの選手を見るか」の情報が全く共有されておらず、エリア内でアブドゥッラー・ナスィーブは完全にフリーだった。その他にも大小さまざまなミスが頻繁していたが、全て挙げるとキリがないほどだ。この日も、かねてから課題とされている守備面で、悪いところが出まくってしまった。まだまだカタネツ監督のディフェンスが浸透するのに時間がかかりそうだ。

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2試合を終えて

 2試合を終えて1勝1敗。格下のマレーシアに大勝し、同格程度のヨルダンに完敗。かねてからの課題は解決されず。こう書くと聞こえは良くなさそうだが、筆者はそれほど深刻ではないように思えた。そもそも親善試合の勝敗にさほどの意味はない。それよりも「何をしたか?」が大事で、その点で色々と実りは多かったからだ。

 まずは新戦力。2試合を通してほぼ全ての招集選手を起用できた。何よりもハイレベルなポジション争いは、チーム全体の底上げにもつながる。そして、ノルチャエフのような新たな風は思いもよらない所から吹くものである。トゥルスノフがCBとして使える目処が立ちつつあることもわかった。彼はウズベキスタンにあまりいない、クリメーツやイスモイロフのような屈強な壁タイプ。日中韓3カ国を渡り歩き、比較的ハイレベルなリーグで揉まれてきた。目立つミスもなく、エアバトルにも強いところを見せている。懸案のポジションということもあり、今後は中心選手として代表守備陣を支えていくことになるだろう。
 ウマロフを呼んだことからは、全ての可能性に対して門戸が開いていることを感じさせる。「ウズベキスタンで活躍して国外にステップアップ」という出生ルートを経ていない彼の招集は「どこにいても代表入りのチャンスがある」というメッセージで、選手にも好影響をもたらすだろう。自国人でないため余計なしがらみのない人選ができる点は、連盟の目論見通りか。彼のパフォーマンスは2試合を通して満足いくものではなかったが、今後もチャンスはあるだろう。

 次に既存戦力の状態。ショムロドフがワントップでもツートップでも自らの役割を理解し、無難にプレーしていたのも印象的。もっとも、彼自身1トップも2トップも3トップも全て所属クラブで経験しているので当然かもしれないが。ゴールを目指す中で、ワントップではボールの収めどころとなり、フォアチェックで走り回り、ツートップではクリエイティビティに欠けるノルチャエフやセルゲーエフを活かす。マルチな役回りをこなし、他の選手とは次元が違うところを地味ながら見せてくれた。
 W杯予選からずっとサイフィエフが好調なのも大きい。元来攻守にバランスが取れたタイプだったが年々攻撃力に磨きがかかっており、所属するパフタコルではもちろん、代表戦でもかつてのチームメイトのマシャリポフと絶妙な連携を見せており、チームで最も期待できるホットラインを形成する。

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 そして、何よりもこれまでフォーメーションに関して完全に硬直していたウズベキスタンに、4-4-2という戦い方もたらしたこと自体がカタネツ政権での大きな進歩と言える。結果は伴わなかったが、3通りの布陣をテストできた。当然ながら、選択肢を多く持っていることはチームにとって大きな武器である。
 アブラモフ前監督の指揮下では、試合展開や対戦相手に応じてシステムを柔軟に使い分けることはあまりせず、ゲリラ的な選手起用くらいしかテコ入れ策を持っていなかった。それがアジアカップ2011のように大成功を収めることもあるのだが、失敗すればたちどころに崩れ、試合をぶち壊す大きなリスクを伴うのも事実。それが裏目に出たのが、まさに先のサウジアラビア戦だった。

 「一般的に」、4-4-2フラットは守備に強みがある布陣と言われる。そしてサイドプレーヤーが最大の鍵を握り、FWには万能性を持った選手が求められる。マシャリポフ、ハムダモフ、ショムロドフというアジアでも屈指の人材を擁するウズベキスタンには、カタログスペック上はかなり適したシステムのようにも見える。攻撃時に間延びしがちな中盤―フォワードのラインも、ガニエフ、シュクロフには「ダブル6」をこなす資質がある。

 結果が出なかったこともある。これからやらねばならないのは、冒頭から何度も言っているが、一にも二にも守備の改善。ウズベキスタンのDF選手は、他のポジションと比べて驚くほどレベルが低い。マーク外し、1対1での軽すぎる対応、相手との残念な距離感などは、筆者がこの国のサッカーを見始めてから今まで改善されたことがない。当然守備が頼りなければ攻撃にも影響が及ぶ。そして、負けられない戦いになればなるほど攻守の噛み合いは勝敗に直結する。もっとも、中には2013-14シーズンのリヴァプールのように「出入りの多いサッカー(101得点50失点)」でタイトル争いに絡むケースもあるが、極めて稀な例だ。
 しかしながら選手の質はいかんともしがたいが、個は組織で補うことができる。世界レベルとはいかなくても、せめてW杯最終予選に勝ち進んだチーム並の水準にまで守りを向上させれば―換言すれば「後ろの心配なく」攻められるようになれば―それだけでアジアでそれなりに戦えるチームなのである。「指導者の色」というのはなかなか一朝一夕で身につくものではないが、ここまで行った3試合。目に見える点でもそうでない点でも、カタネツ監督がやろうとしていることは間違っていなかったと思う。少なくとも、今回のAマッチデーは有意義に過ごすことができた。

 どうやら11月にもジョージア代表と親善試合を行うことになったウズベキスタン代表。次の公式戦は来年2月のアジアカップ最終予選。まだまだ時間はたっぷりある。今ある武器は磨きながら、新たな戦力を加えつつ、どれだけ課題を克服できるか。ウズベキスタンの「復活」はこのスロヴェニア人にかかっている。

ヨルダン3 - 0ウズベキスタン
10月12日 アンマン国際スタジアム
バハア・ファイサル(30')
アブドゥッラー・ナスィーブ(56')
ハムザ・アル・ダルドゥール(83')
ウズベキスタン:スユノフ、ユルドシェフ(60'サイフィエフ)、コビロフ(46'アブドゥッラエフ)、トゥルスノフ(60'アルクロフ)、アリジョノフ、ウマロフ、シュクロフ、モズゴヴォーイ、ハムダモフ(46'アモノフ)、ボゾロフ(60'セルゲーエフ)、ショムロドフ(71'ガニエフ)

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