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2022シーズンの「勝手に新人王」

はじめに

 2022年のウズベキスタン1部リーグが終了した。この記事を書き始めた頃は首位ナサフを勝ち点差1でパフタコル、ナフバホルが追う大混戦。そして25節でパフタコルが首位を奪還すると、そのまま逃げ切って4連覇に輝いた。開幕前から混戦になると予想していたが、これほどまでにもつれ込むとは思いもしなかった。
 さて、今シーズンもウズベキスタンには将来楽しみな若者が多数現れた。「勝手に新人王」と銘打って、実績とインパクトから4つのグループに分けて、今年のリーグ戦を彩ったスター候補生をまとめる。2002年以降に生まれた選手のみピックアップした。大きなインパクトを残した「チームの柱に成長した選手」を紹介するが、気力がある限りそれ以外の選手も加筆することにする。

 企画倒れもいいとこだが、今季の「勝手に新人王」はラフモナリエフとファイズッラエフの同時受賞とする。1人に決めきれないほど、2人とも甲乙つけ難いパフォーマンスだった。
 なお、「2002年以降生まれ」の縛りを外すと、新人王はオリンピクのジヤノフで決まり。トリッキーなドリブルで実績ゼロから1年でウズベキスタン代表に上り詰めた。また、極めて珍しい3部から1部の個人昇格を果たし、さらにセンターハーフのレギュラーになるという奇跡的なシーズンを送ったマナザロフも特筆に値する。

チームの柱に成長した選手

ウマラル・ラフモナリエフ

2003年8月18日生、ナマンガン州出身
ポジション:ミッドフィルダー
所属チーム:ブニョドコル
今季の成績:25試合7得点1アシスト
 育成の雄ブニョドコルに突如出現した、今季最大の発見。小柄な身体に無尽蔵のエネルギーとセンスを秘めたセンターハーフで、6番と8番どちらの役割もハイレベルにこなす逸材。
 開幕戦でマクスドフ監督(当時)の抜擢を受けると、高い技術力とインテリジェンス溢れるプレーでレギュラーを掴んだ。すぐに攻守の要となり、チームの柱になり、あれよあれよという間にウズベキスタン屈指の若手との評価を得る異例の大出世。そして年明けからはロシアのルビン(カザン)への移籍まで決まった。小さな男が広大なロシアに乗り込む。
 彼については丸々一本の記事を書いているので、少し前だが詳細はそちらで。


アッボス・ファイズッラエフ

2003年10月3日生、シルダリヨ州サイフノボド地区出身
ポジション:ミッドフィルダー
所属チーム:パフタコル
今季の成績:26試合8得点2アシスト
 名門パフタコルが送り出した最新作。小柄でパワーには欠けるが、高い技術、クイックネス、賢さ、豊富な運動量を兼ね備えたプレーメーカー。モドリッチとコウチーニョがお手本だという。
 2003年生まれを代表する逸材として知られており、今季からトップチームに登録。序盤は途中出場がメインも、持ち前の創造性で首脳陣の信頼を勝ち取り、夏場から主力の座に。今季のリーグ戦5得点のうち4得点がヘディングだが、その全てがエリア内に果敢に侵入し、低く速いクロスに飛び込んでのゴール。うまいだけでなく怖い選手へ成長した。シーズン最終盤にはトゥルグンボエフやホルマトフら実力者を抑えてスタメンを勝ち取り、パフタコルの劇的リーグ優勝に大きく貢献、リーグが選ぶ最優秀若手選手賞に輝いた。来季のさらなる飛躍が期待され、プレーの強度を高めれば代表入りも十分あり得る。
 6月のU-23アジアカップにはチーム唯一の2003年生まれかつ最年少選手として参加。全試合ジャロリッディノフに代わって途中交代で出場し、年上の選手相手にも引けを取らないどころか違いを作るプレー。短い期間で見違えるほど強くたくましくなり、大会を通じて大きく成長。前述の夏場以降のブレイクスルーのきっかけとなった。


ヌルムハンマド・トシュプラトフ

2002年10月3日生、タシケント出身
ポジション:ミッドフィルダー
所属チーム:ロコモティフ
今季の成績:29試合0得点1アシスト
 中盤を広範囲にカバーするミッドフィルダー。チームではインサイドハーフとセンターハーフを担当、派手さはないが豊富な運動量とシンプルなプレーでチームを支える縁の下の力持ち。攻守に決定的な仕事ができるようになれば、一気に飛躍する可能性あり。
 これまでの実績はほぼゼロで、年齢別代表の経験もなし。6月のU-23アジアカップも当然選外。シーズン前は基本情報とタシケントの市立アカデミーからBO’SMに進みロコモティフに加入した選手ということ以外は詳細不明だった。開幕時は控えだったが、第5節のディナモ戦で初めてスタメン出場すると安定感のあるプレーでスタメンに定着、無名選手から一気に主力になった。
 肝心のチームは開幕から低空飛行、開幕時チームを率いていたコロスティチェンコ監督に代わり再建を託されたジェパロフ氏がわずか6試合で解任され、コロスティチェンコ氏が再登板。さらにキャプテンのマハラゼの八百長疑惑が浮上するなど大混乱。急場凌ぎの感はあったがマハラゼの処分後には3試合でゲームキャプテンも務めるなど、実働1年目ながら貴重な経験を積んだ。しかし奮闘むなしく、チームはトゥロンとの入れ替え戦に敗れ2部降格が決まった。 


アリベク・ダヴロノフ

2002年12月28日生、カシュカダリヨ州出身
ポジション:ディフェンダー
所属チーム:ナサフ
今季の成績:34試合1得点
 若手軍団ナサフのニュースター。センターバックと左サイドバックでプレー可能な左利きのディフェンダー。本職がわからないほどの万能性と攻守のソツのなさが持ち味。
 昨シーズン中盤にトップデビューを果たすと、最終盤に数試合出場。今季も開幕時は控え扱いだったが、第4節で左サイドバックのナスルッラエフが肩の負傷で長期離脱すると彼のポジションを確保。直後に始まったAC本戦で前任者の穴を埋め評価を上げた。6月にはU-23アジアカップに出場し、6試合中4試合でプレーしウズベキスタンの準優勝に貢献。ここでも両ポジションを任され、器用にこなしてみせた。
 7月にナスルッラエフが復帰してからはスタメン、ターンオーバー要員、終盤の守備固めと様々な役割で起用。リーグ最少失点の強固なDF陣を支える貴重なピースとして活躍。最終節まで優勝を争ったチームの主力に成長した。今年のプレーが認められ、10月にウズベキスタン代表メンバーに招集。10月19日のロシア戦で嬉しいデビューを飾った。


ベクテミル・アブドゥマンノノフ

2002年7月12日生
ポジション:ミッドフィルダー
所属チーム:オリンピク→メタルルグ
今季の成績:21試合6得点1アシスト
 高い技術と軽やかな身のこなしが特徴の小柄なプレーメーカー。トップ下が本職だが、サイドでのプレーも可能。
 パフタコルの育成組織出身で、シーズン前に加入したオリンピクでトップデビュー。しかしシャムスィエフ、ムフトロフ、M.イブロヒモフ、ママスィディコフら多くのライバルとの定位置争いに敗れ出場機会は少なく、さらにU-23アジアカップも落選。同年代の選手たちが脚光を浴びる中、大会後の7月にひっそりとメタルルグに移籍。これが大きな転機となる。
 新天地ですぐにポジションを確保すると、鬱憤を晴らすかのようなプレーを連発。実力者揃いだが創造力に欠けるチームメイトを巧みに操り攻撃を活性化するだけでなく、自らも貪欲にゴールを奪う大車輪の活躍。夏場からのメタルルグV字回復の立役者となり、派手なプレーでチームを引っ張るエースに変貌を遂げた。


アブドゥラウフ・ブリエフ

2002年7月12日生
ポジション:ミッドフィルダー
所属チーム:オリンピク
今季の成績:25試合1得点1アシスト
 無尽蔵の体力でピッチ上を制圧するミッドフィルダー。巧みなポジショニングでボールを回収、ハードなタックルでボールを奪取といった守備能力に優れ、シンプルながら知性を感じさせるプレーで攻撃の起点にもなる。
 彼の名を国内に知らしめたのは6月のU-23アジアカップ。チーム最多の6試合中5試合に出場し、鬼神の如き働きで準優勝に大きく貢献。中でも圧巻は準々決勝のイラン戦。両チーム消耗が激しい中、120分間集中を切らさず相手を中盤で封じ続け、その後のPK戦でもチーム5本目を決める驚異的なパフォーマンスを披露。攻守に隙のないプレーぶりはブスケッツにも喩えられた。
 所属するオリンピクには昨年の立ち上げから参加。こちらでも代えの効かない主力としていぶし銀のプレーを披露。チームの躍進を支えた。おそらく保有権はまだブニョドコルにあるため、来季は本隊に呼び戻されるかも。攻撃面の幅を広げれば代表入りも狙える逸材。


オタベク・ジュラクズィエフ

2002年4月2日生
ポジション:フォワード
所属チーム:オリンピク
今季の成績:29試合12得点4アシスト
 パワフルなプレーとゴールに向かうアグレッシブな動きが持ち味のウイング。純然たるサイドアタッカーではなく、やや絞り目の位置でのプレーを好む。スピードはないが強靭な肉体で敵陣を豪快に突破する。得点力も高く、正確かつ強力なシュートを放つ。185cmの長身で空中戦にも強く、意外にも小器用なところもある一風変わったプレーヤー。オリンピクではPKキッカーも務める。
 昨年のオリンピク立ち上げ時からチームに在籍し、2部リーグでもそこそこ実績を残したが、今年になって才能が開花。試合ごとに成長を続ける若きチームを、1年歳上のジヤノフと共に牽引した。得点数10は、終わってみればランキング5位。
 なお、6月にはU-23アジアカップにも参加したが思うような活躍はできず。能力的にはセンターフォワードの方が向いているように思える。かつてのウルグベク・バコエフのような選手になるかもれしれないと密かに思っている。

アピール中の選手

ヒスラト・ハリロフ

2003年7月2日生
ポジション:ミッドフィルダー
所属チーム:ソグディアナ
今季の成績:21試合4得点1アシスト
 チームに勢いをもたらすエネルギッシュな動きと高い技術に裏打ちされたアイデアあふれるプレーを併せ持ったサイドハーフ。小柄な体格とカーリーヘアが特徴的で、愛称は「マルセロ」。偶然にも背番号はマルセロが長くクラブチームで着用した番号と同じ12。
 セルゲリというタシケントの育成チーム出身。同じくタシケントにあるチガトイという国立サッカースクールを経て、今年のシーズン開幕前にソグディアナに加入。開幕戦でリーグ戦デビューし、その後も春先に出番が増え、初ゴールも記録。大陸間大会と国内カップ戦と合わせて「三足のわらじ」状態となった夏場にはカップ戦要因として活躍。年間通してレギュラー定着はならなかったが、シーズン終了後にはリーグ最優秀若手選手にファイズッラエフ、ラフモナリエフ、ホルドルホノフと共にノミネートされた。


プラトフジャ・ホルドルホノフ

2003年7月6日生
ポジション:フォワード
所属チーム:オリンピク
今季の成績:22試合4得点
 正確なシュートと鋭い得点感覚が持ち味のストライカー。フィジカル面で目を見張る能力はないものの、得点パターンは豊富。組み立てや崩しに絡む器用なところもある。
 元々はブニョドコルのユースチーム出身で、2018年以降のどこかでパフタコルに移る。2021年にU-21チームで活躍すると、トップチームでも顔見世程度のデビューを飾る。しかし常に優勝を宿命づけられた強豪チームでチャンスは皆無に等しく、今季開幕前にオリンピクに加入。当初はジュラクズィエフ、オディロフ、ジヤノフの3トップが固定されていたが、結果と育成を両立するカパゼ監督の下で徐々に出場機会を増やすと、後半戦はCFのレギュラーに定着し4得点を記録。今後の飛躍の足掛かりをつかむシーズンとなった。
 シーズン終了後にはリーグ最優秀若手選手にノミネート。来期はパフタコル本隊に復帰するかも。


ジャホンギル・ウロゾフ

2004年1月18日生
ポジション:ディフェンダー
所属チーム:ブニョドコル
今季の成績:16試合0得点
 18歳の長身センターバック。ボール扱いや守備技術に粗さはあるが、大きな可能性を秘める未完の大器。
 マクスドフ監督(当時)の大抜擢により、今シーズンの開幕戦でいきなりスタメンフル出場しトップチームデビュー。その後も同時に抜擢されたマハマドジョノフと共に重用されるが、チームは戦力がかみ合わずスタートダッシュに失敗。自身も経験不足かミスが目立ち、ポジションを失ってしまう。シーズン中盤はU-21チームでのプレーを余儀なくされた。
 終盤に育成部門の責任者ボシュコヴィッチ氏がトップチームの監督に就任すると潮目が変わり、再度トップチームのセンターバックに起用される。4ヶ月間の再調整を経て、以前から通用していた高さを活かした守りに加え、落ち着きを身に着けプレーが安定。チームの最終盤の巻き返しに大きく貢献した。浮沈の激しい1年を過ごしたが、終わってみればトップ昇格1年目から14試合に出場。来季は本格的にレギュラー獲りに打って出る。


マフムド・マハマドジョノフ

2003年6月30日生
ポジション:ディフェンダー
所属チーム:ブニョドコル
今季の成績:12試合0得点1アシスト
 攻撃力の高い左サイドバック。俊足を飛ばしてライン際を駆け上がり、鋭いクロスを放つ。
 ウロゾフと似たようなシーズンを送った。マクスドフ元監督の抜擢で今シーズン開幕戦にスタメンフル出場しトップチームデビュー。その後も数試合でメンバー入りしたり途中出場したりするが、チーム状態が上がらないこともありチャンスは少なく、イッザトフやミラフマトフといったライバルに割って入ることはできず。シーズン中盤はU-21でプレーしていたが、ボシュコヴィッチ監督の就任が大きな転機となった。
 再昇格後は粗さと不安定さが抜け、持ち前の攻撃力を発揮。1列前のポジションを経験するなどプレーの幅も広がり、最終節までレギュラーの座を守った。

ニューカマー

アブドゥッロ・オモナリエフ

2005年1月10日生
ポジション:ミッドフィルダー
所属チーム:ブニョドコル
今季の成績:7試合0得点
 身体の強さを活かしたディフェンスが特徴的なハードファイター。運動量も豊富で、粘り強く相手に食らいつき、強烈なチェックでボールを奪い取る。激しい展開の試合でも臆せず戦う生粋の戦士で、17歳と思えない風貌からは貫禄すら漂う。
 シーズン中盤までは全くの無名。ボシュコヴィッチ監督が就任後U-19チームから抜擢した3-4人のうちの一人で、デビューは試合中に負傷した18歳のトゥフタスノフの代役としてだった。しかし印象的な守備が高評価だったのか、交代要員で7試合に出場。最終節では激しさが空回りしてレッドカード。パフタコルの逆転優勝をアシストしてしまったが、強さと勇敢さを併せ持ったスケールの大きなプレーは、来季に期待を抱かせる。


ムハンマダリ・ウリンボエフ

2005年4月24日生
ポジション:ミッドフィルダー
所属チーム:パフタコル
今季の成績:8試合0得点
 柔らかなボールタッチと高精度のパスが武器のプレーメーカー。球離れが早くサイドでもプレー可能な点は同僚のファイズッラエフと同じだが、彼ほどのクイックネスがない代わりに上背がある面白いタイプ。
 近い将来ウズベキスタンを背負って立つ存在として早くから期待を集めており、昨季16歳でトップチームデビューを飾った特A級の逸材。今季はメンバー入りの機会が大幅に増え、途中交代でリーグ戦8試合に出場。国内カップ戦では初得点も記録した。2つ上にファイズッラエフ、1つ上にリアン・イスラモフと同ポジションに有望株がひしめく中で頭角を表した。トップ下は実力者が多くチャンスも少ないが、来るときに備えプレーに磨きをかける。
 ちなみに、J2徳島でプレー経験があり、現在はメタルルグに所属する元ウズベキスタン代表FWザビフッロ・ウリンボエフの実弟である。

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