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4話 夢のカケラ

古い友人が帰宅後、ドミノはようやく自分の時間を取りもどした。
部屋に入りると、光を無くした卵達が机の上に転がっている。

「君たちもお休み」

そっと卵を手にすると、棚に置いてある籠の中へ優しく入れてやる。
籠には庭の色とりどりの枯れ葉が敷き詰められており、それはまるで本当に鳥の巣で守られている卵の様だ、とドミノはいつも思う。

視線を上段に向けると、鍵のかかるガラス扉。そこにはずらりと並んだ手帳が並んでいる。
これは代々墓守が記してきた記録の数々……。

これを始めた第1の王、ドウドウは、この世界を守った人と言われている。
しかし、世界の状況は変わり王達はバラバラになった。
ドウドウは墓を守る役目を引き受け、約50年ここで時間を過ごした。
ドウドウの後のは、子孫である者達がこの役目を受け継いできたのだ。
ドミノは父から受け継いで71代目となる。

ドミノは首から下げた鍵を取り出すとガラス扉の鍵穴に差し込み回す。
古びた日記手帳の一番端に、まだ色あせていない自分の手帳を置いた。
引き出しから紙とペンを取り、机につく。
友人と一緒に飲んだ紅茶にはまだ湯気が立っていた。
友人は忙しい人なのである。

「墓守の『カル』は30年をめどに座を交代し、穴を見守る事」
「第8の王、つまり8番目の墓は腹を空かすと悪夢を見る、『夢のカケラ』を食わし子守唄を歌う事」

役目を受け継いだ時、手帳も一緒に受け継ぐ。自分の手帳を持った時、表紙裏に記されるドウドウの言葉だ。

『カル』とは役目の後継者の事。
『夢のカケラ』とは、この卵型の光「egg」の事だと父は教えてくれた。
ドミノは受け継いだ墓守の意味を、眠れない夜に幾度となく考えた。

子守唄を歌う意味は?
死んでいる王達が聞いているとでも?
8番目の墓は何故腹を空かす?
他の墓は空かないのか?
悪夢をつくるって?
王達は何から世界を守ったのか?

その答えはドミノを闇へ引きずりこむ。
考えれば考えるほど、闇はドミノの輪郭を消していく。

コトリ、と籠のeggが揺れた。
我に返ったドミノはやっとペンを紙に走らせ始めた。

・ミルク
・小麦
・タオル

今、小屋に不足している物のリストだ。
ドミノは顔を上げ、他に必要な物はないか部屋を見渡す。
ふと、籠のeggに目が止まった。
淡く光り揺れている。

「気持ち良さそうですね…」

揺れるegg達はまるで、寝息の様な光のリズムを刻んでいたのだ。

そろそろ風の子を起こさねば……

ラルーの言葉を思い出す。
ここ数年、風の子は起きていない。
風の子とパートナーになった者はeggを探し「夢のカケラを集める者」となる。
少なくとも、父の代から風の子は目覚めていない。
祖父の代で集めたeggは、籠の中でゆれるこの子達だけになってしまった。

静かな時間に視界が霞むドミノは、机に伏せ目を閉じた。
窓から注ぐ優しい朝日がドミノの明るい髪の隙間を通り抜ける。

ドミノの寝息に合わせ、egg達も揺れるのを止め静かになった。

ドミノはまどろみの中、ラルーは墓守を退く時間が来たと告げに来たのだとようやく気がついた。

つづく

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