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1話 眠りの世界

片目で見た夢  甘い虹
眠った夢を食べたなら
歌う花に声を縫う

行きなさい  生きなさい
2つで1つ  可愛い星の子
1つで2つ  眠る星の子

私の見た夢  7つの空
はぐれた夢を追いかけて
彩の風に冷めた息

帰りなさい  忘れなさい
2つで1つ  光る星の子
1つで2つ  先の星の子

______

これは、代々受け継がれてきた子守唄。
この「墓守」の村の子供達は、この歌を聞きながら眠りにつく。
王達の墓から吹く風が今日も世界を揺らす。

風が鳴く。
切り取られた時間が、再び動き出そうと息を吹き返す。

王達の墓に続く洞窟の前に大きな岩が一つ。

その岩の上に立つ「墓守」は眠った者が起きない様、月をよみ、陽を歌い体を揺らす。

目を覚ますな。
今はまだ夢を見て。

墓守は残された時間が残りわずかということに気がついていた。

この方達が目を覚ます時、世界の歪みは確かなものになる。

墓守はポケットにしまってあった卵型の光を取り出した。

この光も残り少ない。
仕方ないとは言え、手放すのに戸惑った。
ここ最近ではこの光も簡単には手に入らないのだ。

グオンという喉が鳴る様な音が洞窟から吹き出す。
グググという腹が鳴る様な音が耳を突く。

「わかった。さぁ、これをお食べ」

墓守は大きく振りかぶり、卵型の光を闇の口へと放り投げる。
吹き出す風を逆らい、光は穴へと一直線。

闇の向こうでパリンと光が割れる音がした。

その音を確認すると墓守は穴の前に立ち歌い始める。

かつて聞いた子守唄を。

鳴いていた風は墓守の歌が終わるのを待つ前にそよ風へと変わった。

まるで泣いていた赤子が寝息を立てて眠ってしまった様だった。

岩から降りた墓守は疲れた体を岩に預け空を見た。
空が薄くなり、もう少しで夜明けだと知らせている。

「あんなに低く……」

墓守は満月になりかけの月をしばらく見つめていた。

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