中学受験の入試国語の分析 #1 【頌栄女子学院 2019年度 第1回 大問 1」】

 中学受験の国語の入試問題は、解くだけで学びの多い良問が多いです。対象が小学生ということで、高校受験や大学受験に比べると、問うことができる知識が少ないからこそ、より本質的な問いを受験生に投げかけているように思います。その傾向は、伝統的な学校、上位校になればなるほど、強いと感じています。そこで今回から、私たちが素晴らしいと感じた入試問題を紹介していきます。
※あくまで、独断と偏見です。

 「#1」で紹介するのは、頌栄女子学院中学校の2019年度の第一回入試問題の大問1の問題です。
ここでは、汐見稔幸氏の『人生を豊かにする学び方』から問題が出題されています。

この問題を通して、受験生に「学び」の本質に気付いてもらいたいという頌栄の想いが感じられます。

【教育理念が伝わる問題】

具体的な問題に触れますと、まず[問三]では、「人生を耕すために学ぶ」というところに傍線を引き、この比喩表現の意味を求めています。文章には、

中学生や高校生のころの学びというと、学校や受験の勉強に結びつけて考えがちなのだけれども、それらを取っ払ったもっと深いところにあるのが、学びであり
(中略)
何歳になったとしても、自分はまだ未熟だし、知らないことだらけだから、もっともっと学んでみたい。もっと自分の世界を豊かにしてみたい、と思う姿勢さえあれば、学びは続いていくのです。

とあります。
 頌栄は、この文章を受けて、「主体的に学ぼうとする知的好奇心を持ち、自分の可能性を広げていくことで人生を豊かにすること。」という答えを用意しています。そこに、頌栄の求めている受験生像が見え、また頌栄が育てようとしている生徒像が見えてきます。
 [問五]では、「学びや経験は、何一つ無駄にならない」という見出しを答えさせ、[問九]でも、解答を通して「学び続けようとする意欲」の大切さを説いています。
 そのようなところから、頌栄が受験生に対して、「受験のための勉強」ではない本質的な「学び」への理解を求めており、そのような姿勢を中高の6年間で、育てようとしていることがわかります。

 また、[問八]の記号問題では、「社会的な成功者には、何が備わっているのか」というところに傍線を引き、「臨機応変に対処し、相手のことを思いやれる力」を答えさせています。ここには、キリスト教的な「愛」の理解が求められているように感じます。

【出色の一題】

 一番素晴らしい問題は、[問七]です。そこでは、「象一頭と鉛筆一本を足してください」という筆者の問いに傍線を引き、その筆者の意図を受験生に記述させようとしています。これに対して頌栄は、

今までの考え方を変えると、それまで当たり前だと思っていた端緒知も違う見方ができるということ。

という模範解答を提示しています。
 この問題では「コペルニクス的転回」の理解を示せれば点数がもらえると考えています。「数字」という存在そのものが、「a priori」ではなく「a posteriori」であることを理解していることが大切です。「数字」とは、そのものが実体として存在するのではなく、あくまで誰かが他者に自分の認識を伝えるための記号に過ぎません。そのことを理解できている子と理解できていな子では、算数の出来が違いますし、理科の計算単元の出来も違うでしょう。それは、入学後の学習にも影響すると考えます。頌栄の先生は、そのようなことをこの一問で試しているのではないかと考えます。

 国語の問題ではありますが、全ての教科に通じる本質の理解を求めている記述問題です。そこに、頌栄の教育の素晴らしさを感じずにはいられません。

【落として良い問題】

 [問六]の抜き出しの問題は、失点してもかまいません。
 この問題は、「本来、農業は耕さない方がいい」という部分に傍線を引いて、筆者がそのように考える理由を答えさせています。
 その答えは、

植物には、元来【自分で上手に育っていける力】が備わっているが、人間が下手に耕すと、植物が頼るべき【土の生命力を弱めてしまう】から」

というものです。しかし、後半の「土の生命力を弱めてしまう」という答えには疑問が残ります。この答えの部分が書かれている段落の話題は、「耕す」から「肥料や農薬」に変わっています。段落の冒頭には、「一方で~」と前の段落から話題が変わっていることを示す接続詞が使われています。ゆえに、「耕す」の理由となる言葉を「肥料や農薬」を話題にしている段落から導いてきて良いのかという問題が生じます。
 この問題は、賢い子になればなるほど答えに悩むはずです。そういう子が誤答に用いやすいのが「循環を断ち切ってしまう」という部分です。この部分は、「耕す」を話題にする段落にあります。ただし、修飾関係が完成されている抜き出し部分にならないので、語呂の悪さを感じます。
 話題の不一致を考えるのか、語呂の悪さを考えるのか、この二択は間違っても仕方がないと思います。

 国語の入試問題には、このような難しさがあります。特に抜き出しの問題に関しては、悩んでいる時間が首を絞めていくというケースもあります。そのような抜き出しに出会ったときに、躊躇なく問題を捨てるセンスも、合格のためには大切です。

結び

 頌栄の問題には、自分の考えを書かせる問題があります。今回の問題の中では、[問十]の問題です。文章で触れていた「実践知」についての理解を求めています。これまで経験した「実践知」の説明と、中学入学後に経験したい「実践知」について書かせるものです。これについては、しっかりと「実践知」について理解し、自分の学びに対する姿勢を示せていれば点数がもらえると思います。
 大切なのは、本質的な理解と成長です。この問題からは、文章のテーマ通り、受験のための勉強ではない「学び」を大切にしたいという頌栄の理念が伝わってきます。
 だからこそ、私たちの指導も、受験の合格へ向かうこととバランスを取りながら、子供たちに本質的な学びの理解もさせていくことが大切であると考える次第です。
 ゆえに頌栄女子学院は、私たちが子供たちに通わせてあげたい学校の一つになります。

お願い

 今後も、このような形で過去問分析を行っていこうと思います。私たちが気に入った問題を紹介する一方で、皆様の気になる学校の問題についても、分析を行っていこうと考えています。よろしければ、気になる学校名をコメントにお寄せください。


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