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続:さなのばくたん。に対する一考察 -遠ざかってしまった演者のレイヤー-

はじめに表明しておくと、僕は『さなのばくたん。-ハロー・マイ・バースデイ-』はとても素晴らしいものだと思っております。
終盤すごすぎてしばらく動けなくなるくらいには没入しました。
ただ、他の方の感想を読んでずっと引っかかっていた部分がありました。
この投稿は、その方の感想を土台に「引っかかり」の原因を自分なりに考えてみたものです。メタ要素があり、また、演者のパフォーマンスを楽しむ観点からすると大変に無粋なものです。そういうものだと思って読んでいただければ幸いです。
冒頭から言い訳ばかりですみません。誰のことも悪く言う意図はありません。


「名取さな」の特異性

↑前回の記事

名取さなさんが特異なのは、徹底して自身を「バーチャル」な存在として成り立たせている点です。
Live2Dや3Dモデルをただのアバターとして配信者になるのではなく、肉体を持った我々とは別世界の人間として振舞う部分が面白い。
そんな状態で先日行われた誕生日イベントでは「名取さな」として振舞っていた本体「名取■奈」が現れました。だから度肝を抜かれた訳です。
しかしながら、他の方の感想を読み漁り、時間を置いてよくよく考えると「■奈」が本体に思えるのはあくまでも「視聴者」側のごく浅いレイヤーの事象だと思うようになりました。


読んで気になった感想

イベント直後に読み漁った感想の中で引っかかりを覚え、一番印象に残ったのはこちらのチョコまんさんの感想です。

演者のレベルにおいて本イベントがどんなものだったのか深く洞察されています。
引っかかったのは「喪失感」という部分です。一部引用します。

 私の間違った認識を改め、ナトリサナ監督の作品とすれば、「さなのばくたん。-ハロー・マイ・バースデイ-」は今までの活動の集大成として、ほんとうに素晴らしいショーだった。これからも活動を続けてくれることがひたすらに嬉しい。ずっとずっと応援し続けるだろう。ただ、名取■奈が生まれ変わった瞬間、ナトリサナがテクストから消えてしまった。その喪失感が拭えない。

驚きに満ちたイベントではあったけど、集大成と言うにふさわしかったと思っていた僕は「喪失感」が感覚としていまいち理解できませんでしたが、3週間という時間をかけてようやくわかってきました。
チョコまんさんの言う「ナトリサナ」は演者として「名取さな」を演じる人物、所謂、「中の人」のことを指します。この言い方はあまり好きではないので、以下、「対象X」と呼称します。


「■奈」の登場で遠ざかった先のレイヤー

こちらの図はチョコまんさんの感想を参考に作りました。

① 名取さな:視聴者から普段見えているレイヤー
② 名取■奈:-ハロー・マイ・バースデイ-で見えたレイヤー
③ 対象X  : 視聴者には観測できないレイヤー
の3つのレイヤー(とパラレルワールド)に分類しました。

イベントでは名取さなとパラレルワールドの名取さなたち(国王とキョンシーと制服)さんで中盤までを引っ張り、終盤に上位レイヤーの■奈が登場した。普段はありえないレイヤーが現れたので驚愕した訳です。

ですが、■奈は最上位のレイヤーではありません。その上位には「さな」を含めた■奈を司る対象Xが存在します。そして、我々一視聴者が観測できるのは■奈までです。(-ハロー・マイ・バースデイ-までは「さな」より下部しか観測できていませんでしたが)
もともと言及が忌避されていた「本音」は対象Xだったのに■奈に降りてきました。しかしながら、本音が降りてきても視聴者との距離は近づいていません。むしろ■奈が間を隔て、その先を想像する忌避感が強まってしまいました。バーチャルユーチューバー視聴者のマナーとしてもこの状態で対象Xの話をするのはかなり無粋になってしまう。

決して名取さなが本音を語っていないと言うつもりはありません。しかし、■奈が本体に思えるのはあくまでも視聴者側から見たレイヤーのみにおいです。そして、■奈として本音を語った以上、別レイヤーが1枚挿入され対象Xは遠ざかった。この距離感がチョコまんさんが「ナトリサナがテクストから消えてしまった」と語る喪失感ではないだろうか。


結局-ハロー・マイ・バースデイ-をどう思っているの?

僕は活動に真剣に向き合っていること、自身の特異なスタンスへの覚悟が伝わりとても素晴らしかったと思います。
このイベントはバーチャルさを徹底する「名取さな」が5年間活動を継続してきたからこそ成り立つものです。リアルな「身体性」を極限までそぎ落とし、より高次にバーチャルさを研ぎ澄ましていく観点からは限りなく100点。
普通だったら「本人はそこまで考えてないと思うよ」ってツッコまれそうですが、名取さなさんは多分そこまで考えています。

ただ、対象Xへ思いを馳せる可能性が遠のいてしまったのは事実だし、そこには確かに喪失感があります。この記事がモロにそうだけど、■奈さんが思いを打ち明けたのに、その先のレイヤーを考察するのはやっぱり無粋だもの…
玉虫色のモヤっとした書き方しかできずすみません。

なんとも言い訳がましくなってしまいますが、決して活動を腐す意図では書いていないし、応援しているのは本当です。どうしようもないこの距離感、新しく挿入された1つのレイヤーにどうしたらいいのかわからず混乱している、ただそれだけです。

3/28に件のイベントの同時視聴があるからみんなで見ようね。


【参考になるかもしれない論文】
『アニメ・キャラクターとアニメ声優を同一視する現象の原理的基盤をめぐる一考察』
程斯 『Phantastopia』第 2 号 2023 年 3 ⽉発⾏ 122-139 ページ

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