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振られた男⑩ 22日目:謎のタコパ

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金曜日なのに久しぶりに彼女は僕の家にいた。
「タコパしない?」
急な打診に戸惑いつつ、相手を嫌いになって別れたわけではないので多少は嬉しい。

彼女がたこ焼きの準備をしている間に、僕はビールを買いに行く。
ここまで読んで下さってまあまあお分かりいただけているだろうが、僕はまあまあ酒飲みだ。
しかし、彼女は同じもしくはそれ以上に酒飲みだ。
6本入りのビールの箱と、白ワイン、焼酎と炭酸水を買って帰ると、ちょうど彼女も準備が終わったようだった。

「準備ありがとう。始めようか。」
そういうと彼女が頷く。
ジューっとたこ焼き機から音がする。お互いに無言でタコを入れる。
対面で焼けるのを待っているのに、無言がとても苦しい。

「なんでいきなりタコパを提案したの?」
僕から沈黙を破る。
「深い意味はないけど。別れるってなってから気まずかったから。
 まあ、仲良くする必要もないんだけどね。
 でも、長く付き合ったしこのまま別れるのも嫌だと思って。」
「そうゆうことね。でも言いたいことはめちゃわかるわ。
 引っ越しの日取りは決まったの?」
「うん。明日契約をしたら終了。多分引っ越し日は9月の頭になるかな」
「じゃああと2週間ないくらいかな?」
「そのくらいだね。」
たこ焼きをひっくり返す。
「もう戻る選択肢も完全にないね。」
「うん。根本が合わないから結婚をしても無理だと思う。
 好きだけでやっていけるものでもないし。」
「そうだね。じゃあ最後はお互い嫌な部分とかは忘れて、
 いい所だけみて楽しく別れよう!」
程よく焼けたたこ焼きから皿に移す。


「じゃあ、乾杯!」
そこから結局3時まで飲み続けた。
付き合った当初のメッセージを見返したり、写真を見たり、話題は尽きなかった。
そして、二人でよくやっていたボードゲームもやった。
今まではケンカになるのでゲーム上でお互いを攻撃することはなかったが、今回はガチガチで攻撃しあった。
お互いの時間の最後に向かっているのに、とても楽しい今が自分でも不思議でならなかった。

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