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【小説】ケータイショップのヤバい奴ら②初接客

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「まずは、接客に慣れてもらうために、操作案内を受けに来たお客様に対応してほしいです。」
指導係の上村は、僕と中嶋に向かって言った。
「はい。」
「二人はガラケー使ったことある?」
「僕あります。」
「僕はないです。」
僕と中嶋は顔を見合わせる。
「じゃあ、今回は木村君が受けようか。」
「頑張れよ!木村!」
中嶋は僕の肩をたたいた。
「ありがとう中嶋!」

店舗のバックヤードから店内を見る。
「木村君、あそこの奥にお掛けになっているおばあさんのケータイをみてほしいの。」
上村が目線の先には、少し汗をかいている優しそうなおばあちゃんがいた。袖で汗をぬぐっている。
「すごく緊張します。」
「大丈夫。私も後ろについているから難しい内容だったら私がカットインするから。」
そういうと、私の背中をパンとたたいた。

「お客様、今日はどうされましたか?」
昨日の夜に何百回と練習した営業スマイルをついにお客様に使った。
「何十年もこのガラケーを使っているんだけど、いきなり使えなくなっちゃって。今までこんなことなかったのに初めて!」
「触ってみてもいいですか?貸してください。」
お客様からガラケーを借り、電源ボタンを長押ししてみる。
「うーん。電源が切れているみたいなので、一度お店で充電してみますね。」
「なんだ。それだけか。お願い。」

10分後

「少し充電できたと思うので電源を入れてみますね。」
お客様の前で改めて電源ボタンを長押しする。
「うーん、電源は着いたけど、圏外だ。なんでだろう。」
充電はあるのに、電波マークの所が圏外になっている。
すると、後ろで見ていた先輩の上村が、横から会話にカットインしてきた。
「横から、失礼します。上村と申します。最近お客様は機種変更とかってしましたか?」
「なにそれ?」
お客様はきょとん顔をする。
「最近スマホとか買ったりしました?」
「バカにしないでよ!スマホくらい持ってるわよ!」
何に対して癇に障ったのかわからないがいきなり語尾が強くなる。
上村は動じずに続ける。
「ありがとうございます。いつスマホを買いましたか?」
「先週の土曜日に隣駅の家電量販店で。」
「そうなんですね。ちなみにガラケーが使えなくなったのはいつですか?」
「先週の土曜日!」
「もしかすると、その日に家電量販店でガラケーからスマホを使うっていう切り替え作業をしたのかもしれません。」
「なにそれ!勝手にそんなことしないでよ!私スマホよりガラケーの方がいいわよ!」
さっきよりも声を荒げる。
「念のため、お客様がどういう手続きをしているのか確認してみますね。本人確認ができる免許証とか保険証などを見せてもらえますか?」
「そんなの今日は持ってないわよ!」
「お持ちではないんですね。そうすると私達では情報を見ることができないんです。」
申し訳なさそうに謝る上村に、反比例しておばあちゃん客のボルテージは上がっていく。
「調べなさいよ!これはどうせ私のなんだから!」
「それはできないんですよ。。」
上村は申し訳なさそうにつぶやく。
「なんでできないのよ!本人が持ってて本人のって言ってんだから!」
「個人情報を取り扱いますので、本人かどうか書類を目視確認しないと、私達も個人情報を見ることができないんですよ、、、」
「なんなのよ!このケチ!!時間もないしもう帰るわ!全く親切じゃないわね!こんな店は二度とこないわ!!」
そう言うとおばあちゃんは去っていった。
「申し訳ございませんでした。ありがとうございました。」
上村に続いて僕は頭を下げた。

「上村さん、自分悪いことしました?」
「自分の契約を理解できていないお客は一定数いるの。切り替えて。」
おばあちゃんに見せた顔と、180度違う冷酷な顔をした上村に体の底からひやりと感じる何かがあった。

【ケータイショップあるある②自分の契約がわからない客はいきなり横柄な態度を取りがち】
【ケータイショップあるある③客の前と全く異なる顔をするスタッフがいる】


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