「遠慮せずに言って」って言ったでしょ
紹介するエピソードは『自閉症特性かるた』をもとにつくったフィクションです
●現場実習の不安
田中さんにとって、今回の現場実習では不安がありました。
田中さんは、大学を中退したあと、就労移行支援事業所で職業訓練を受けています。主治医からの説明で自分の自閉症の障害については知っています。
今回の実習前に、数カ所の現場実習をして、事業所での訓練で、「事務的な作業」が早いということで、今回の地域のボランティアセンターでの実習がきまりました。就職が目的ではなく、社会的な場面と環境のマッチングを整理するための実習です。
田中さんの不安は、前の実習の時に困った時にパニックになったことが頭から離れなかったからです。
●言われたとおりなのに?
しかし、田中さんの不安は初日のボランティアセンターの館長さんの優しい一言で安心に変わりました。
館長「田中さん、遠慮なくなんでも相談していですよ。どのスタッフでもいいので、わからないことがあったり困ったことがあれ言ってください」
田中「わかりましたお願いします」
ある日、館長さんから就労移行支援事業所のジョブコーチに電話がありました。※今回の実習は週の最後にジョブコーチが訪問指導することになっている。
内容は、ちょっとでも困ったあったり、気になることがあると質問が多い。それで他の職員からの苦情が多くなっているということでした。
そして、これまでの経緯からジョブコーチは今回のできごとが田中さんの自閉症の特性からきていることに気づき対策をとることになりました。
さて、このエピソードは田中さんのどんな自閉症の特性から起こったのでしょうか?
また、どのように支援をすることが必要でしょうか?
●字義通りの解釈の特性と支援
田中さんは、自閉症の特性から、館長さんの言葉を字義通り解釈してしまいました。そのまま受け止めてしまったのです。
館長さんの言葉をそのまま受け取ると田中さんの質問行動は間違ってません。でも、そこには裏の言葉、「状況に応じて何でも質問て」という空気があります。その理解が難しかったのです。
支援の方向性
ジョブコーチは、ボランティアセンターに行き、田中さんの自閉症の特性と今回のエピソードの理由を館長さんと実習担当の職員さんに解説しました。
また、(ナチュラルサポートのお願いとして)田中さんには具体的に、そして字義通りとってしまうことを念頭に指示して欲しいというお願いをしました。例えば、今回なら困った時は、「●●の時に相談にのりますよ」の方が具体的ことも伝えました。
●社会性の困難さと整理統合の困難さ
田中さんは、社会性の困難さから周囲の状況にあわせて、相手に話したり、話さないで後にしたりということが難しかったのです。
状況を把握して、時間や場面(場所)を選んだり調整したりすることを整理統合といいます。これが田中さんが難しかったのです。
支援の方向性
ジョブコーチは館長さん、実習担当の職員さんと調整し、田中さんとも面談をして以下の内容を決め、その見通しを田中さんに口頭と紙面で伝えました。
・その場所でどうしていいかわからないことは、正規職員のスタッフ(青いネームプレート)に相談する
・毎日、仕事終了後15分のミーティングをする
・気になるけどそのときの仕事に関係の無いことはミーティングで相談する
・他のスタッフには話せないことは、館長さんにアポをとって時間を決めて相談する
・館長さんも含む職員に相談できないことは、仕事が終わった後に事業所に電話する
・気になることは休憩の時間にメモする(書いたらいったん置いて仕事中は考えない)
その後の一週間、実習では同じような問題はなく終えることができました。
ジョブコーチは、本人のジョブマッチングシートの中に以下の内容を加えました。
・指示がはっきりしている職場が適切である(指示が曖昧な職場の難しさ)
・相談の時間を具体的に設定できる
●氷山モデルシートでまとめる