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雨  #描写遊び

細いシルク糸が数えきれないほど落ちてくる。

窓から眺めたときはそう思っていたのに。外に出て空をあおぐと、まるでベツモノだ。

雨雲におおわれた空から地に向かう、細くて鋭い無数の針。わたしを目がけて天から放たれた針たち。

懺悔するような気持ちで両腕を広げると、針は小さな丸い滴となり、わたしの腕を濡らす。

無数の針が刺さればいいのに。

そうすれば、あのときの彼はわたしを許してくれるかもしれないのに。

小さな傘だった。2人では狭すぎるブルーの傘。

ピチョン。ピチョン。

雨粒がわたしの左肩を少し濡らす。

「大丈夫?濡れてないか?」

そう聞いてくれた男友達の右肩はビショビショだ。

「うん。そっちのほうが濡れてるんじゃない?」

「なぁ、おまえ知ってる?『相合い傘 濡れてる方が 惚れている』って」

男友達は左腕を伸ばし、わたしの左肩をグッと引き寄せた。

雨はアスファルトのあちこちに水玉模様をつくっている。

あれが始まりだったのかどうかも分からない。あれは恋だったのかどうかも分からない。

それでも2年くらいは続いたように思う。わたしの気持ちは中途半端なまま。彼の気持ちを受け止めきれないまま。

いくつの雨粒を、彼と分かち合っただろう。

おひさまの下、優しくて細やかなシャワーのように降った春の日も。

窓を強く打った雨が、大泣きした涙のようにベランダへと流れた夜も。

でもどれほど多くの雨粒を分かち合っても、わたしの心は彼のもとにはなかった。

別れたあと、彼は雨の神様と取引でもしたんだろう。

雨の日は彼を思い出すようになってしまった。彼をずっと傷つけていた嫌な自分も。

大きく息を吸い、もう1度天をあおぐ。

細くて鋭い無数の針が落ちてくる。両腕をめいっぱい広げ、全身で受け止める。

雨の神様と取引した彼の気持ちを。一緒に過ごした彼とのあの日々を。

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眠れない夜に

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