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文系出身でも特許翻訳者になれるのか

特許翻訳歴16年ほどのわたしは、文系出身です。

意外に思うかもしれませんが、特許翻訳業界では、多くの理系出身者が活躍しています。

わたしの感覚では、理系と文系が半々くらい。

特許翻訳ってなに?

日常生活であまり耳にしないので、そう思う人も多いはず。

以前、こんな記事を書きました。翻訳の分野には3種類ありますよ、という話です。

特許翻訳は、この3種類のうちの【実務翻訳】に含まれます。

特許文書を翻訳する、それが特許翻訳です。

特許文書とは、たとえば、発明の特許を取るために特許庁に提出する書類のことです。具体的には、発明の内容を詳しく説明した書類。

さらに特許文書は、特許を取るプロセスで必要になる書類も含みます。

誤解を恐れずに言えば、特許文書とは、科学論文+αが書いてある法的文書です。

もう少し特許翻訳のことを知りたい、そんな人はこちらをどうぞ。

このように、特許翻訳は技術文書の翻訳なので、理系出身の翻訳者がたくさんいるというわけです。

翻訳業界でこれほど多くの理系出身者が活躍するのは、特許翻訳とメディカル(医療)翻訳くらいでしょう。

以前、翻訳会社で働く友人が、「あくまでも統計だけど」と前置きをし、次のようなことを言っていました。

“英語”という点では、文系出身翻訳者のほうが理系出身翻訳者よりも優れている。でも、文系出身者は技術内容の理解が浅い。どう翻訳するかに気をとられ、技術内容の把握に時間をかけていないのかもしれない。

痛いところを突くな。

これを聞いたとき、即座にそう思いました。

特許翻訳業界でよくいわれることのなかに、「英語が先か?技術が先か?」というものがあります。

特許文書は技術に深くかかわるので、技術や発明をきちんと理解したうえで、適切に訳すべき書類です。

しかし、わたしのような文系出身者には、次のような傾向が見られます。

文系出身者は英語に重心をおきがち。原文の文章解析はきちんとできるのに、技術内容の理解が浅い。

これにより、最悪の場合は誤訳につながったり、その技術を専門とする人(たとえば発明者)が読んだとき、翻訳された文章に違和感を抱いたりします。

つまり、わたしのような文系出身翻訳者は、【英語が先】思考に陥りがち。

一方、技術に重きをおく理系出身者には、次のような傾向が見られます。

理系出身者は原文に書かれた技術内容は理解している。でも、文法や文の構成などの分析が甘い。

これにより、最悪の場合は誤訳につながり、原文の意図とは違う翻訳文になったりします。

つまり、理系出身翻訳者は、【技術が先】思考に陥りがち。

だからといって文系出身者が特許翻訳者になれないかというと、それは違います。

文系出身のわたしは理系科目が苦手。そして、理系科目が苦手だということを自分でよく分かっている。

この点が、わたしの強みです。

苦手なのにそれが強み、これはどういうことだと思いますか。

つまり、自分の苦手なものをきちんと把握しているということは、どこを補強すべきなのかを自分で分かっている、ということになります。

補強すべきところが分かれば、あとは補強するだけ。

翻訳見習いのときには、高校の教科書(化学、物理、生物)をくりかえし読みました。理系科目の基礎をやり直すためです。

そのほか、文系のための技術講座を受けたり、翻訳する技術分野の本を読んだりして、苦手なところを補強します。

それでも技術内容を把握できないとき。そんなときは、所内の弁理士や技術者に教えてもらうのです。

YouTubeを活用するのも一案。技術や授業の動画をたくさん見ることができるので、情報のインプットに役立ちます。

特許翻訳者が、なぜ英語の勉強だけではなく、科学技術の勉強をするのか?

それは、技術内容を分かって翻訳するのと、分からないまま翻訳するのとでは、できあがった翻訳文に大きな違いがあるからです。

技術内容をつねに調べて学ぶ。

この姿勢を怠らなければ、文系出身でも特許翻訳者を目指すことは可能です。

大切な時間を使って最後まで読んでくれてありがとうございます。あなたの心に、ほんの少しでもなにかを残せたのであればいいな。 スキ、コメント、サポート、どれもとても励みになります。