翻訳者が機械翻訳を使いたくない理由は、あなたの想像とはちがうかもしれない
もし、あなたのまわりに翻訳者がいたら、聞いてみてほしい。
「機械翻訳の普及により、仕事に影響が出ましたか?」と。
「機械翻訳の影響なんて全く感じないな」
そんな答えは返ってこないはずだ。
次に、
「仕事で、機械翻訳を積極的に使いますか?」
と聞くと、翻訳者はこう答えるだろう。
「使いたくはないけど使わざるを得ない」と。
あんなに便利な機械翻訳、どうして使いたくないの?
不思議に思ったあなたはその理由を想像する。でも想像した理由は、翻訳者の本心とはちがうかもしれない。
♢
翻訳業界で“機械翻訳”の話題は尽きない。翻訳者はみな、その動向に注目している。
特に関心を寄せるようになったのが、2016年以降。Googleが、ディープラーニングを使ったニューラル機械翻訳サービスを始めた年だ。このサービスは、翻訳業界に大きな波紋を広げた。
それ以前の機械翻訳は実用性に欠けていたが、ニューラル機械翻訳の登場により、精度は驚くほど向上した。
機械翻訳の進歩は、翻訳業界に大きな変革をもたらしている。わたしが特許翻訳者になって16年、今までで1番大きな変化だ。
翻訳する文書の種類にもよるが、ソースクライアント(企業)は積極的に機械翻訳を取り入れようとしている。理由はもちろん、経費削減になるからだ。
人間よりも機械を使ってコスト削減。どの業界でも同じ流れだろう。
人間に翻訳させるよりも、機械翻訳を使い、その翻訳文を人間にチェックさせれば安く済む。おまけに、機械は作業が速い。
コスト削減を重視する企業からすれば、機械翻訳の導入はいいこと尽くしのように見えるだろう。
この流れを受け、翻訳者は好むと好まざるとにかかわらず、機械翻訳と密接な関係を築くようになる。これは、紛れもない事実。
しかし、これに対しジレンマを抱える翻訳者は多い。特にベテラン翻訳者は、積極的に機械翻訳を使いたくはない。それが本心。
「機械翻訳を使わないと、時代に取り残されるよ」
友人からそう言われたよと、ある翻訳者はこぼす。
「機械翻訳に仕事を奪われるから、敵視しているんでしょ」
そう言われたことのある翻訳者も多い。
どうやら世間では、翻訳者が機械翻訳に敵意を抱いているというイメージがあるらしい。
しかし、そうではない。
機械翻訳に嫉妬なんかしていないし、ライバルだとは思っていない。むしろ、機械翻訳と共存する必要性を感じている。
では、なぜ機械翻訳を積極的に使いたくないのか?
ここから先は
¥ 200
大切な時間を使って最後まで読んでくれてありがとうございます。あなたの心に、ほんの少しでもなにかを残せたのであればいいな。 スキ、コメント、サポート、どれもとても励みになります。