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冥土喫茶に逝こう⑮

デート②

 2時間後、待ち合わせ場所のN駅の時計の前にいた。
 ここは待ち合わせスポットだ。
 多くの人がここで待ち合わせをしていた。

 しばらくすると月さんが現れた。
「ごめんなさい。待ちました?」
「待ってないよ。今日はありがとう」
「はい。美味しいデザート早く食べたいです」
「了解。じゃあ行こうか?」
「はい」

 N駅近くにも多くの店が立ち並ぶ。
 今から行くのはケーキバイキングの店だ。
 予約はしていたので簡単に入れた。

 スタッフからシステムの説明が有り、券売機でお好みのバイキングコースのチケットを購入。
 やはり若い女性のお客さんが多かった。
 スタッフが2人用テーブル席へ案内されて、スイーツバイキングのスタート。
 ドリンク付きで、70分食べ放題の店だ。

 ケーキを頬張る月さんを見ながら、私は話を切り出した。
「月さんはなんでメイドになったの?」
「メイド服が着れるからです。でも、転生しようか考えています」
「転生って?」
「他のメイド喫茶に移ることです」
「なるほど。メイド業界ではそういうんだ」
「はい」
「何で転生したいの?」
「はっきりいってまいさんにはついていけないからです」
「何かあったの?」
「お客は金だとか。私にはパトロンがいるとか。いろいろ自慢話を聞かされます」
「ああ〜。人の自慢話って嫌だよね。パトロンって誰?」
「ぐっさんです」
「ん!?彼氏じゃないの?」
「彼氏じゃないですよ。彼氏はしがらみさんですよ」
「は!?」
「しがらみさんが彼氏です。本人が言ってましたから。あと、タツさんって知ってますか?」
 タツは知っている。
 20代中盤くらいで人のことは言えないが、H市からわざわざK市まで通っている常連だ。
 そんなに話したことはない。
「タツさん、クレジットカードまいさんに渡しているんですって」
「何それ?」
「私も詳しく知らないですが、まいさんが言ってました。でもタツさん酔っ払っている時、俺はまいさんの彼氏だって言ってましたよ」
「意味がわからないけど他に何かある?」
「ぐっさんとまいさん同棲しています」
「意味がわからない」
「あと、まいさんの体を洗っているのぐっさんらしいですよ」
「意味がわからない」
「本人が自慢話のように言ってました」
「彼氏はしがらみさんなんだよね?」
「はい」
「パトロンと同棲しているってこと」
「そう見たいですね」
 衝撃な事実に私の頭は混乱した。
 しかしまあ、彼女もよくお客でもある私にペラペラと話をしてくれる。
 よほどまいさんのことが嫌いみたいだな。

「店の資金を出したのはぐっさんなんだよね?」
「そう見たいですね。でも、ぐっさんはまいさんと結婚したいみたいですよ」
「というと?」
「今年までに結婚できなかったら、地元に帰るみたいです。そういう話してくれました、まいさんから」
 ぐっさんの地元はK市からだいぶ遠い。
 今の仕事をほっぽり出して地元に戻るということは、相当結婚したいみたいだな。
「ぐっさん、パトロンだよね?」
「そう見たいですけど、ぐっさんは彼氏と思い込んでいるんじゃないですか」
 彼氏だと思い込んでいる!?
 キャバ嬢の色恋テクニックにそういうテクニックがあるが、長い期間騙し続けれるものだろうか。
 今考えていても答えは出ない。

 私は別の質問をした。
「あめさんって今月で辞めるみたいだね」
「よく知っていますね」
「あめさん、彼氏がいるの?」
「います。ぼうしさんライブ着てましたよね?そのライブでバンドマンいましたよね?」
「ああ、いたね」
「バンドマンのドラムの人と付き合ってます」
「なるほど。他には?」
「あとは、シンゴさん知っていますよね?」
「ああ。知っている」
 シンゴさんとはぐっさんと同じ年齢で、仕事は営業だった。
 どう考えてもメイド喫茶にはいかないような人種でもある。
「あめさんとシンゴさんつながってます」
「なるほど。あめさんから聞いた?」
「はい。シンゴさんからいろいろ買ってもらうんだとか言ってました」
 やっぱりか。
 いろいろ買ってもらうために近づいてきたな。
「ちなみに私はフリーです。嘘じゃないですよ」
「うん。わかった。ありがとね。どんどん食べていって。今日はもちろん俺のおごり。あと帰る際プレゼントをしたい。何か欲しいものある?」
 これだけ情報を渡してくれた女性だ。プレゼントの一つや二つ渡しても痛くもかゆくもない。
「ホントですか。ありがとう」
 私はそのあと、twitterで何でも買ってあげるからどんどん言ってねという意味深ツイートをした。
 そして、毎週行っていたメイド喫茶に行くことを今日はやめた。

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