冥土喫茶に逝こう【実話】④

ネクタイ

 人事の男に電話した。
「遊ぼうぜ」
「いいよ」
「11時に迎えに来てね」
「了解」
 1分も経たず電話は終了。

 いつものやりとりだ。
 彼とはよく遊ぶ中でもあり、高校時代からの友達だ。
 若くして結婚したが少し前に離婚して、精神的にまいっていたが最近回復しつつあった。

 11時になると家の前に車がついた。
 愛車ハリアーが新品に見えるように輝いていた。
 洗車したようだなと考えながら私は助手席に座る。

「こんにちは、ジョン・トラボルタです」
「あ、そのネタいいから」
 素っ気ない友達。
 私が車に入る時、必ず有名人の名前を言うのが当時の遊びだった。

「ご飯どうする?」
「そばが食べたいのでそばを食べに行こう」
「あいよ」

 店に着いて注文をしたあと、私は話を切り出した。
「最近、メイド喫茶に行っている」
「プッ!!メイド喫茶!?」
「そこに変な女がいる。見てほしい」
「は!?」
 友達は不思議そうな顔をして私を見つめる。

「変な女は店の店長なんだが、少し違和感があって人事をしている君なら色々な人を見ているから何かつかめるかもって思って」
「別にいいけど、メイド喫茶って何?」
「メイド喫茶はメイド喫茶でしょ」
「いや、なぜメイド喫茶に行っているの?」
「行ったことないから。楽しいよ」
「いいけど。いつ行く?」
 友達は呆れた顔をしていたのを私は忘れない。

「来週の土曜日」
「わかった。女性の名前は?」
「まいという女性。店の店長だ」
「場所はどこなの?」
「K市」
「K市なの!?よく行くわ」
「あと、本名はダメだから偽名考えてきてね」
「了解」
 そのあとご飯を食べ、遊んだあと私たちは別れた。


 土曜日になった。
 駅前に集合し、私たちは電車に乗った。

「偽名考えてきた?」
「ネクタイ」
「なぜ?」
「今日の服装にネクタイしているから」
 同じ思考の奴だった。

「駅から歩いて5分ほどだから」
「了解。そんな変な女いるの?」
「いる。だからこそネクタイに見てほしい」
「はいはい」
 あまり気が進まないようなネクタイを乗せて目的地のK駅に着いた。

 そして店の前に着き、扉を開ける。
「いらっしゃいませ、ご主人様」

 いつもの掛け声だが、ネクタイは多少ならず動揺していた。
 なぜなら、ネクタイはメイド喫茶初体験なのである。

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