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冥土喫茶に逝こう【実話】⑩

N市のメイド喫茶②

 二日酔いもなく目覚めた。
 今日は、再びN市のメイド喫茶巡りをする。
 今回は、夜の時間に行くことにした。
 昼間とは違った雰囲気を味わいたかったからだ。
 いつも通りシンプルな格好で家を出た。

 電車の乗り、N駅に到着した。
 駅周辺にメイド喫茶が固まっている場所があり、そこまで徒歩で行くことにした。5分くらい歩くと、メイド喫茶が固まっているビル群があった。

 最初の店に入る。
「いらっしゃいませ、ご主人様」

 周りを見渡すと、7人ほど座れるカウンターと4つのテーブルがあった。
 私はテーブルに座り、生ビールを注文した。
 このメイド喫茶は、リフレと呼ばれるメイドがお客にマッサージをするサービスがあった。
 はっきりいって興味がない。
 だが、好きなメイドが自分をマッサージしてくれるというのは、他の人にとってはありがたいサービスだと思った。
 調べてみるとこのメイド喫茶、アイドル育成までやっているようだ。
 すごい時代になったものだと、感慨にふけていると10代くらいのメイドが私に話しかけてきた。たわいもない世間話だ。

メイド服は黒っぽいような紺色のようなメイド服で白のカチューシャをしていた。
 膝上までのフリルスカート。
 メイド喫茶に働いている女性はモテるだろ。
 顔の造形や体型も大切だと考えているが、男性との出会いがたくさんあるのだ。
 選び放題でもある。
 働いていれば男性からのアプローチもひっきりなしだと私は考える。
 どうしても生理的に無理だと感じてしまう男性が現れて、つきまとわれる可能性もある。
 そんな男性に狙われたら、ご愁傷様としかいえない。

 N市のメイド喫茶では私はメイドにこの質問をしている。
「なんでメイドさんやっているの?」
「かわいいメイド服が着れるから」
 質問した全てのメイドがそう答えた。
 若いうちしか着ることができないから、今メイドをやっているのだ。
 会計が終わり店をでた。

 空は暗く、ネオンが街を照らしだしていた。
 夜遊ぶほうが気分が高揚するなと、考えながら2軒目に行く。

 ビルの4階にある店だ。
 透明の扉を開けて、店に入る。
「いらっしゃいませ」
 この店にはカウンターがなく、座席のみだった。
 満席なら20人ほどが入れるだろう。
 初見である以上、店の入り口近くにある隅っこの二人掛けのテーブルに座った。

 黒のロングスカートのメイド服。
 白い前掛けをしていた。
 足元は黒のブーツ。
 ロングスカートは私好みだ。
 女性客も一人いた。
 メイド喫茶に女性客を見たのは初めてだった。
 出入り口から一番遠い席に6人掛けのテーブルに座っており、他に男性が3人座っていた。

 生ビールはなかったので日本酒を注文した。
 あるメイドが妖精さんと呼んでいるのが聞こえた。
 中から、20代中盤くらいの男性が現れた。

 あとからわかったことなのだが、妖精とは店の店長のことであった。
 メイド業界では妖精さんと呼ぶらしい。

 メイドと談笑してしばらくすると他のお客のところに行ったので、ゆっくりと日本酒を飲んでいると女性客が私に話しかけてきた。
 初めてきた客でもある私になぜ話しかけるのだろうか。
 周りの男性にでも話しかければいいものを。

 彼女は私を見ながらこう言った。
「彼氏ってどうやったらできますか?」
 何を言っているのだろうか。
 初対面にそのようなことをいう女性を私は初めて見た。
 だが、私は紳士だ。
 女性の質問に無視などということはしない。
「最近肉食系女子っていうのが流行っているから、自分からガツガツ行ってみたらどうかな」
「ガツガツする女性って嫌じゃないですか?」
「嫌だね」
 つい本音が出てしまった。
 フォローしなければと考えていると
「騙されてもいいから彼氏が欲しい」
 と言ってうずくまってしまった。
 異様な光景に、お客も他のメイドも彼女を見ていた。

 彼女の名前はせーな。
 この店のメイドだった。
 なぜ名前がわかるって。
 1年後、私はこの店に来店する。
 当時はこの店に、また来店するなんてつゆとも思わなかった。
 そして、彼女と再会して半年後、彼女に助けられることになる。

 それはまた別の話。

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