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冥土喫茶に逝こう【実話】⑥

メイドがライブ!?

 土曜日。
 毎週のようにK市にいる私。
 通い慣れた道を歩きあの場所に行く。

 扉を開ければいつもの掛け声。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
 その声を聞いて私は店を見渡した。
 土曜日なのにメイドは1人。
 店の奥に常連のぐっさんがいたので私はその隣に座った。

「久しぶりですね。ぐっさん」
「久しぶり。ぼうしさん」

 軽く挨拶したあと、まいさんが私に近づいてきた。
「何する?」
 何回も通えばタメ口にもなるもんだなと思いながら、私は生ビールを注文した。
 そのあと、いつも通りの呪文をまいさんと一緒に唱える。
「Sweet trap」

 ビールを飲んでいるとまいさんが話しかけてきた。
「ライブやるの。ライブ!!このチラシ私がデザインしたんだ」
 嬉しそうに語りかけたあとにチラシを見せてもらった。

「うまいもんだね。なんかやっていた?」
「専門学校でよくこういうことやっていたからね」
「専門そういう系か!?」
「ぼうしさんもぜひきてね。楽しいよ」
 私はしばらく考えた。
 この店の情報、この女性の情報が少なすぎるということ。
 懐に飛び込んで、いろいろな情報を集めようと私は考えた。

「行く行く。場所はよくわからないけど。タクシーで行くよ。値段は3千円ね、了解」
「ありがとう!!隣にいるぐっさんも行くから」
「ぐっさん、行くんですか?」
「ああ行くよ。よろしく」
「メイドがライブってなんかすごいですね?」
「毎年やっているよ。この店今年で3年目だから」
「へ〜」

 多少の情報を得て、私はぐっさんとまいさんと談笑していたが、そこはやはり土曜日。
 時間がたつにつれて、お客さんがどんどん集まってきた。
 9人しか座席がないので、すぐに満席になった。
 1人しかいないので、まいさんはてんてこ舞いの状態だ。

「みんなごめんね。今日私しかいないから時間かかるかも」
「じゃあ、俺が手伝うよ」
 20代中盤くらいの男性。髪は長く背も170後半くらいある男性が声をかけた。
 確か名前は「しがらみ」という名前だったな。
 しがらみがカウンターの反対側に移動して、まいさんの手伝いをしていた。

 ぐっさんに話しかけようと顔を見ると、しがらみを見る目が嫉妬の目だったことに私は気づいてしまった。

 その後、ビールや日本酒を飲んで私は帰路についた。

 最近調子が良い。
 それ相応の年齢に達していれば、肉体は衰えるので鍛えていた。
 だが、精神面まで調子がいいのはメイド喫茶が楽しいからのだろうか。
 仕事は同じことの繰り返し。
 多少の変化はあるが、面白いと思ったことはない。

 メイド喫茶は確かに楽しい。楽しすぎるくらいだ。
 常連の人たちもいい人ばかりで危なそうな雰囲気はない。
 もし危ない雰囲気を持っている人間がいるのならまいというメイドだけだ。

 ライブ当日は土曜日だった。
 K駅に着いてタクシーでライブ会場まで行った。
 チケットは当日買うことになっていた。

 ライブ会場に着くとまいさんに会った。
 チケットを買う場所に案内され、その場をあとにした。

「チケット1枚ください」
「はい。どうぞ」
 知らない女性だ。
 Tシャツに今回行われるライブの名前が書かれていた。

「君もメイドさん?」
「はい。てんって言います」
「初めて見たな。土曜日しか来れないからかな」
「最近土曜日は忙しくて平日によく入ってますよ」
「へ〜そうなんだ。ありがとう」
 軽い挨拶をして私はその場を離れた。

 てんと呼ばれるメイドの他にも何人か知らない女性がいたので土曜日しか来れないと会えないものだなと考えていた。
 ライブ開始の時間に差し迫ってくると、ライブ中央にお客さんがぞろぞろ集まってきた。
 40人ほどだろうか。
 まだ会ったこともないお客さんもちらほらいたが、ぐっさん、マサさん、しがらみなど店で多少話したこともあるお客さんもいた。

 ライブが始まった。
 最初に店長でもあるまいさんが挨拶をした。
 お店に来てくれているお客さんに感謝を込めて抽選会を始めるようだ。
 1等は三千円分のお店で使える商品券だ。
 2等はよくわからないおもちゃ。
 3等はマサさんの熱い抱擁のようだ。

 3等はどんな罰ゲームだろうか。
 巨乳の女性なら喜んでなのだが、おっさん同士の抱擁を見て何が楽しいだろうかと考えていると3等に私の名前が呼ばれた。
 意味がわからない。
 抱きつきたくないがここは空気を読んでマサさんと熱い抱擁をした。

 2等はマサさん。
 1等はぐっさんが選ばれた。
 その時は私は思った。

 まるで最初から決められていたかのような人選。

 そのあとライブが始まった。
 お客さんは当日販売していたサイリウムを持って、メイドに声援を送っていた。
 販売は他にもストラップやライブTシャツなど幅広い。

 商売上手な店長だなと考えながら私はライブを見ていた。
 ギターやドラムなどの人たちは見たこともない男性だった。
 まいさんの知り合いだろうな。

 人脈も広そうだなとアニメソングを歌っている、際どい衣装をしたメイドたちをガン見していた。
 若いというのは素晴らしい。

 ライブが2時間ほどで終了した。
 そのあと打ち上げに誘われていたのだが、疲れてしまったのでそのまま帰宅した。

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