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冥土喫茶に逝こう 〜城と従者とお姫様〜【実話】①


※実際に経験した話です。
※実際の名前等は変えております。

君はメイド喫茶に行ったことはあるか? 

 ピンクの壁に9人が座れるL字のカウンター。
 メイドが扉を開けた私にこう言った。
「いらっしゃいませ、ご主人様」

 私は暇だった。
 毎日、毎日同じことを繰り返す仕事。
 代わり映えしない毎日。
 ただ歳を取っていく毎日にこのままでいいのだろうか?という疑問が浮かんでいた。
 そんなときだった。
 休みの日たまたま見たTVにメイド喫茶が映っていた。

「メイド喫茶には行ったことはないなあ〜」
 独り言を言ったあと、私はメイド喫茶に行こうと決意した。

 キャバクラ、スナック、ガールズバーには会社の先輩によく連れて行かれた。
 1人でも何度も通って勉強してきた。
 初めて行った夜の店はキャバクラだった。
 もちろん先輩と共に。
 そのとき先輩はこう言った。

「夜の店は遊びながら勉強する場所だ。仕事は男の中身を作り、遊びは男の行間を広くする」
 
 そのときはその言葉の意味がわからなかった。
 まだ若く社会人としても、男としても未熟だったから。
 時が経ち、その言葉の本質を理解できるようになったのはメイド喫茶で遊んだおかげかもしれない。

 調べてみるとメイド喫茶は住んでいる場所にはない。
 電車で10分のT市に3軒、電車で25分のK市に1軒。
 50分かけてN市に多くのメイド喫茶があった。
 そのなかでK市のメイド喫茶に行くことに決めた。
 K市は5年ほど働いていたことがあるからだ。
 土地勘もあり遊ぶにはうってつけだ。
 転職して今は地元で働いているが、仕事と遊びのイロハを教えてくれた会社がある市なら気兼ねなく遊べそうだと思ったからだ。

 休みの日、電車に乗ってK駅に着いた。
 懐かし気持ちと多少変わってしまった町並みを見て寂しい気持ちになった。
 駅から徒歩で5分ほどの場所にメイド喫茶はあった。
 メイド喫茶の他にスナックや居酒屋がある。

 初めてだったので緊張した手で黒の扉を開けると、そこは傘だてと右側にまた黒い扉。
 私は深呼吸をして再び黒の扉を開いた。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
 ピンクのメイド服を着た女性が声をかけてきた。
 いらっしゃいませ、ご主人様なんて生まれて初めて言われたなと思いながら、扉を開けたすぐ目の前に椅子があったのでそこに座ることにした。

 周りを見渡すと2人のお客さんがいて、店自体は狭かった。
 L字のカウンターで一番奥に座ってしまったら満席の時、どうやって店を出るのだろうかというほど通るのに不便な狭さになる。
 メイドは1人のようで、まだ若い10代か20代前半の女性が私に話しかけてきた。

「初めてのお客様ですか?」
「初めてだよ」
「初めてのお客様にはカードを作ることになっているんですよ?お名前はなんて言うんですか?」
 本名を言うとメイドは
「え?その名前でいいんですか?」
 
 驚いているメイドを見て私は察した。
 メイド喫茶では偽名を名乗るのが普通なのだと。
 しばらく考えて私はこう言った。

「ぼうしで」
 たまたま帽子を被っていたのでその名前にした。

「君の名前は何?」
「あめです」

 笑顔で答えてくれたメイドあめは背が170ほどの身長で、笑ったとき歯茎が丸見えになるのが印象的だった。
 そのあと1時間ほどメイドとたわいもない話をして私を会計を済ませた。
 最後にあめとよばれるメイド一言声をかけてきた。
「次も必ずきてください。絶対ですよ」
 と行って店の外までお見送りをしてくれた。
 メイド喫茶ではお見送りは普通のサービスであったことを、私は後に知ることになる。

 よくわからなかったなあ〜とか、メイドとはああいうものなんだとか考えながら帰路に着いた。

 それから1週間後。
 再びメイド喫茶に行くことにした。
 再び行った店に店長がいた。
 女店長だ。
 見た瞬間に私は思った。
 
【魅力があって、怖いと】

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