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冥土喫茶に逝こう【実話】⑨

常連会

 K市に向かう電車の中、私は考えていた。
 今日行った3つのメイド喫茶と比較して、K市のメイド喫茶は私にとって楽しすぎる。
 今まで楽しい店や楽しい出来事はあった。
 ただ、『すぎる』までいった店や出来事など、私の人生に存在していない。
 おかしいのだ。楽しすぎるということは。

 何度目のK市だろ。
 いつも通り徒歩で、私は店に行く。

 黒の扉を開けば、いつもの通りの掛け声が私を迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
 1つ空いている席があった。

 私はそこに座り、いつもの生ビールを注文した。
 メイドは、まい、あめ、月だった。

 席が離れていたが、まささんを見つけた。
「まささん、先週はどうもありがとうございました」
「ぼうしさん、こちらこそありがとうございました」
 軽く挨拶を交えたあと、あめさんと談笑をした。

 しばらくしてまいさんが近づいてきた。
「先週はありがとう」
「いいえ、こちらこそ」
「で、来週なんだけど常連会をやります」
「常連会?」
「ぼうしさんも常連会に参加して欲しいんだけど大丈夫?」

 たった2、3ヶ月しかきてない私を常連会に誘うのだろうか。
 ネクタイの言葉が頭をよぎる。
 気に入られたね。
 全くその通りだな。
 毎週のように店に来ているのだ。
 誘われてもおかしくはないか。
 打ち上げには行けなかった。
 情報集めといきますか。

「いいよ。会費は?」
「OPENからLASTまでで5000円。あと、お母さんが手作りの料理を作ってくれるよ」
 母親が店の手伝いまでしてくれるのか。
 いい親御さんだな。
「楽しみだね。お盆が終わってからの最初の土曜日ね」
「うん。よろしくね」
 嬉しそうな笑顔を私に見せた。

 何度も顔をあわせ、話をしていると最初にあった違和感や不気味さがなくなってしまった。
 だが、ネクタイに近づくなと言っていた。
 油断はしないほうがいい。
 その後、私はこの店に3時間いてしまった。
 ルールを破ってしまった。
 電車の中、酔っ払いながらもなぜ3時間もいてしまったのだろうと考えていたが酔いと楽しさで、私は考えることやめた。

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