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誘拐(ショートショート)

 人気のない公園で、彼女といちゃついていると、そこへ突然たらいのような大きさのものが飛んできた。色はシルバーでぼんやり光って見えた。
 俺と彼女は茫然とただそれをみつめていると、突然光線が2人に当てられ、俺たちは小さくなり、たらいの中に取り込まれていった。
 気が付くとそこは何もない真っ暗な部屋だった。2人以外だれもいない。
彼女は震えて「怖い」といったから強く抱きしめ「俺が守るから大丈夫だ」と強気の発言をした。
 それにしても何事が起きたのだろうか。たらいの正体は、いったい何なのだろうか。
 俺は真っ暗な部屋の中を手探りで調べ始めた。何かこの不思議な現象の手がかりが欲しい。
 手探りの中、俺の手は何かに触れた。何なのだろう。匂ってみた。食い物だ。それは多分バナナだった。他にもたくさんあった。果物だけではなく、野菜やら魚?っぽいのやら。食べても大丈夫なものかはわからない。
 しかし時間が経つにつれ、腹も減ってきたので、食べてみることにした。おいしかった。バナナらしきものは、バナナではなかった。これまで1度も味わったこともないようなおいしさだった。彼女にも勧めた。2人は暗闇の中、食べ物を手探りで食べ始めた。まるで原始人にでもなったような気分になった。食料は減ることはなかった。気がついたら、食べた分だけ、補充がされていた。
 暗闇の中もだんだん目が慣れてきて、ぼんやりながらみえるようになってきた。何もない部屋だった。銀色っぽい壁の真ん中に食料がある以外何もなかった。さすがにトイレと風呂かシャワー室くらいほしいな、と思ったが、なかった。俺は平気だが、さすがに彼女は暗闇の中とはいえ、トイレをするのはいやだろう。紙も水もないのだ。
 何時間が、あるいは何日がたったのだろうか。感覚的には2日くらい経っていそうであった。調べる術はない。俺の時計はライトがついてないので、針をみることが、たとえ目が多少暗闇に慣れてきたからといって、見えるはずもなかった。
 突然、音がしだした。何の音だろうか。扉が開いた。まぶしい。扉の向こうに檻があった。その檻からおいでおいで、をする人物?もしかして宇宙人?が銀色の服を着てヘルメットをかぶって、こちらへと誘導した。
 俺は彼女の肩を抱きかかえながら、奴らの方へついて檻の中に入っていった。やがて俺たちが檻に入ると、奴らは檻から出て、檻のカギを締めた。
 そしてそのまま今度は自動車のようなものに、檻は引かれながら移動していった。
 これから何事が起こるのだろうか。どうやら宇宙人が俺たちを誘拐したようだ。人体実験でもされるのだろうか。それとも奴隷としてこきつかわれるのか。あるいは奴らの食料になるのだろうか。俺はいろんなことを想像し、どうやってここから逃げるか算段を始めた。彼女は何としても守らなければならない。
 やがて俺たちは工場のような場所へ連れていかれた。そして、檻の中に入ったまま、再び移動をはじめ、今度は別の檻に入るように促された。これまでの檻よりも数倍大きな檻だった。俺と彼女は移動すると、その広い檻の中にはすでに先客がいた。
 外国人だった。1人はブロンドヘアの女性、もう1人は褐色の肌の男性だった。言葉が通じるかどうか不安だったが、相手が英語でWelcomeといったので、何とか通じそうな気がして安心した。
 檻の外を見てみると、宇宙人の子供らしき者、大人、男性、女性と思われる者たちが、こちらをみて笑っていた。手を振っている子供もいた。
 もしかしてここは?俺は先客の2人の顔を見た。そのうちの彼女がひとこといった。
”zoo" "This is a zoo”
 

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