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大還暦(ショートショート)

 俺の婆さんは今日、大還暦を迎えた。120歳である。これまで世界で2人しか記録されていないが、そのうち、泉重千代さんは戸籍が不自然との疑惑があり、ギネスブックから外されたようだ。よって、大還暦を迎えたのはフランスのジャンヌ・カルマンさん唯一人である。
 もっともカルマンさんは還暦とか白寿とか、そういうことを祝う文化圏の人ではないので、俺の婆さんが事実上、唯一の大還暦達成者ということになるのではないか。
 TV局も放送しようと朝一番に取材にやってきた。新聞社もきた。ちょっとしたスター並みである。
 身体はいたって健康である。特に悪い所もない。介護体制も万全である。施設で手厚い看護を受けている。食事は120歳とは思えないくらい食うし、軽い運動もこなす。内臓も骨も健康そのものであった。このままいけば、世界最高齢を目指せる位置にある。
 婆さんの夫は勿論、子供たちも亡くなっていて、親戚は今はもう俺の家族だけであるので、TV局や新聞社は俺にもいろいろインタビューをしてくる。今日のためにわざわざ会社を休むことになってしまったが、日本全国民を元気にする嬉しいニュースなので、喜んで協力をした。
 世界記録は122歳と164日である。先程のカルマンさんである。この調子でいけば、軽く抜けそうな勢いではある。
「おばあちゃん、お誕生日おめでとうございます」
 TV局のキャスターがマイクを婆さんに向けてそういった。
「あい」
 ひとこと婆さんは返事をした。それだけで、周りは大興奮である。キャスターは続けて質問をした。
「長生きの秘訣は何ですか」
 婆さんは速攻で返事をした。
「SEXじゃ」
 ブッ。ディレクターがビックリして噴き出した。キャスターはどうしたらいいか、固まってしまった。俺は呆気に囚われ、婆さんの顔を見つめた。明らかに段取りとは違うことを喋っている。
 それだけではおわらなかった。とてもここでは書くことができない放送禁止用語炸裂である。120歳になろう婆さんが能弁にエロ用語を連発して、急遽カットになり、スタジオにカメラは戻された。俺の出番はなくなった。スタジオでは「元気で冗談の好きなお婆ちゃんですね。どうぞこれからも長生きして下さい」とフォローして、すぐに別の話題に移った。
「ひぇひぇひぇ」
 婆さんは腹を抱えて笑っていた。

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