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ディーラーにて(ショートショート)

 俺は車を買うことにした。今乗っている車は、もう12年乗って、10万キロ以上運転していたので、もういい加減買い替え時期であろう。
 まず目ぼしい車をネットで検索した。用途は通勤が主だが、たまにレジャーで家族で遊びに行くので、ある程度の広さもあったほうがいい。
 各自動車メーカー、それぞれにイイ感じの車はあったのだが、思っていたより高い。幾らか値引きをもらえるだろうが、それにしても高いなあと思ったので、中古車のほうも調べてみた。
 でもやっぱり新車がいい。中古車はなんだかんだとかえって高くついたりすると聞いたことがある。
 とりあえずディーラーに問い合わせに行くことにした。
「いらしゃいませ」
 若い女性の店員が迎えてくれた。
「試乗できますか」
 俺は聞いてみた。まずは乗り心地であろう。
「何になさいますか」
「ではこのタイプを」
 俺は展示してある複数ある車の内の1つを指さした。6人乗りのミニバンであった。
「申し訳ありませんが、この車は試乗車はありません」
「じゃあ乗ってみるだけは大丈夫ですね」
「それはかまいませんけど」
 俺はドアを開けて乗ってみた。クッションの感じやハンドルの感覚を確認してみた。
「試乗できるのはどれですか」
「あちらとあちらです」
 1つは2人乗りのもの、1つはファミリーカーであった。俺はファミリーカーを試乗することにした。
 助手席に女性店員が乗り、店の周りをぐるっと回ることにした。データは既に車に登録してあるので、ただ乗るだけでいい。なかなか乗り心地はいい。女性がスタートボタンを押すように勧めた。昔の車のエンジンキーを差す箇所にボタンがあり、俺はボタンを押した。
 車は自動で動き出し、店の外に出た。自動運転は相変わらず楽である。昔の自動ではない車はさぞストレスがたまったことであろうと思う。
「いいねえ。快適だ」
「それはよろしゅうございました」
「戻ったら見積もりを作ってもらおうかな」
「ありがとうございます」
 車の中でそういう会話をしながら車は一周して店に戻ってきた。
 その時である。店内側からトラックがまっすぐこっちにむかってくるではないか。ぶつかるっ、と思った瞬間、正面衝突した。俺が乗った車はふっとばされた。
 10mくらい車は宙を飛びそれから地面について、止まった。
「何だ、どうなっているんだ」
 俺は怒り口調で女性店員に聞いた。彼女はにっこり笑い
「お怪我はありませんか」と聞いた。
 そういわれて我に返り、自分の状態を確認してみた。何ともない。10mもとばされたのに、首も大丈夫だし、頭も大丈夫だった。おまけに車もどこも潰れていないようだ。
「すいません。驚かせました。車の安全性を確かめてもらうために、こういう演出をさせていただきました。ご不快な思いをされたのなら、謝ります」
 そういわれて俺は何ともなかったことではあるし、自動車の強度の確認もできたし、相手は女性だし、これ以上むきになって怒ることもないと判断して機嫌を直した。
しかし10m飛ばされた場所が悪かった。店舗の敷地から外へ出て、一般道路のど真ん中であった。幸い他の車にぶつかりはしなかったが、他の車もいい迷惑であろう。
 そこへまたしても、トラックがぶつかってきた。今度は演出ではなかった。グシャッという音がして、車はへこんで、数m引きずられた。
「どこまでが演出で、どこまでが本物の事故なんだ」
「申し訳ございません。まさか10mも飛ぶとは思わなかったもので」
 冗談ではない。危うく怪我をするところだった。続いてまた別のトラックがトラックにぶつかってきた。また数m引きずられた。また車がへこんだ。演出はやらせだったみたいだ。車がどんどんつぶされていく。
 そこへ何故かヘリコプターが墜落してきて、俺が乗っている試乗車に突っ込んできた。一気に火災が起こり、消防車がやってきた。
「ちょっといくらなんでも展開が無茶苦茶じゃないか」
 俺が叫んだ。
「申し訳ございません。でも見て下さい。2人は怪我1つしておりません」
 と彼女がいったが、へこまされて、隙間ができたところから、ポタリ、ポタリとオイルが漏れてきているのがみえた。俺は言った。
「ダメだこりゃ」
 瞬間、車は火の海に包まれた。

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